西田 武弘 教授 NISHIDA Takehiro

研究テーマエネルギー・窒素循環に関する研究
家畜発生メタンの栄養学的制御に関する研究
家畜のエネルギー代謝に関する研究

研究分野 家畜栄養学, 資源循環型畜産, 地球環境
キーワード メタン, 温室効果ガス, 地球温暖化, 未利用飼料資源, エネルギー代謝, 飼養標準, ユーグレナ(ミドリムシ), 昆虫

研究紹介

ユーグレナ(ミドリムシ,Euglena gracilis)は,体長が約0.05mmという小さな微生物(藻の一種)です。動物と植物の両方の特徴を持つユーグレナは,淡水で育ち,緑色の体で植物のように光合成を行って栄養分を体内に蓄えるだけでなく,動物のように細胞を変形させて移動することもできます。動物と植物の両方の性質を備えているユーグレナは,ビタミン,ミネラル,アミノ酸,不飽和脂肪酸など,59種類の栄養素を持っています。2005年に株式会社ユーグレナは,世界初となるユーグレナの食品としての屋外大量培養に成功しました。

ユーグレナは,(1)BSE(牛海綿状脳症)の心配は無い,(2)植物としての性質,淡水で光合成によって増殖するので,高温環境である熱帯地域が培養に適している,(3)燃料を抽出した後の粕も,飼料資源として有望である,(4)(3)の場合,抽出した燃料を別途販売できるので,その絞り粕は安価になる可能性が高い,等のメリットが考えられます。

反芻家畜の第一胃(ルーメン)では,飼料の発酵分解過程においてメタンが生成されており,このメタンは高いエネルギーを持つため,飼料エネルギーの2〜12%を損失しているといわれています。さらにメタンは,二酸化炭素の約25倍の温室効果能を持つため,近年の地球温暖化に少なからず関与しています。つまり,反芻家畜のルーメンメタン生成を抑制することは,反芻家畜の飼料利用効率の改善と地球温暖化の緩和に貢献するといえます。

そこでまず培養試験でユーグレナ給与量とメタン抑制効果について,種々の投与量で検討を行いました(図1)。この結果から,メタン生成抑制効果は5%添加から観察され,40%以上でより大きくなることが確認されました。さらに,ヒツジの飼料中乾物当たり15%の濃厚飼料とユーグレナを置換しますと,無添加区と比べて添加区では有意にメタン発生量は低下しました(図2)。

ユーグレナの飼料化によって反芻家畜からのメタン抑制が可能となれば,新たな温室効果ガスの削減手法として世界に貢献できます。また,高温環境である熱帯地域の方が培養に適しているという点から,東南アジアやアフリカにおける普及が有望です。将来,海外現地に実験プラントを構築し,燃料資源,飼料資源,反芻家畜からのメタン抑制剤としての実用・展開することは,我が国の国際協力に資するものと考えます。

図1. ユーグレナの投与がウシ反芻胃液からのメタン発生量に及ぼす影響(培養実験)
図2. ユーグレナの投与がヒツジ反芻胃からのメタン発生量に及ぼす影響(動物実験)

現在取り組んでいる研究テーマ一覧

  • 昆虫の飼料化
  • ユーグレナ(ミドリムシ)抽出油脂とフマル酸給与がヒツジの飼料利用効率およ びメタン発生量に及ぼす影響
  • ユーグレナ(ミドリムシ)給与がウマの飼料利用効率や運動能力に及ぼす影響
  • ニンニクとフラボノイド混合物(Mootral,ムートラル社,スイス)添加がヒツジの 飼料利用効率に及ぼす影響
  • 木質飼料の飼料評価
  • 籾(モミ)米の発芽処理が飼料価値に及ぼす影響
  • ダチョウの最適な飼養管理方法
学位 博士(農学)
自己紹介

出身は岡山県倉敷市です。大学時代は京都で過ごし,農林水産省の研究機関に就職後は,茨城県のつくば市に住んでいました。その後,栃木県那須塩原市に転勤になり,その後1年間アメリカのコーネル大学に留学しました。再びつくばの国際農林水産業研究センターに転勤になり,タイ王国に3年間派遣されました。2008年に帯広畜産大学に着任しました。

元水泳部で,平泳ぎと水球をやっていました。今はジムで筋トレとトレッドミルで歩いています。ラグビー,野球,日本の2時間ドラマ,アメリカの刑事物の鑑賞をしています。健康に関する記事やテレビ番組も気になる年頃です。お酒は飲めませんが,宴会の雰囲気は好きです。

居室のある建物総合研究棟1号館
部屋番号2-E2206号室
メールアドレス nishtake atmark obihiro.ac.jp

所属・担当

研究域生命・食料科学研究部門/家畜生産科学分野/生産管理学系
学部(主な担当ユニット)家畜生産科学ユニット
大学院(主な担当専攻・コース)畜産科学専攻家畜生産科学コース
関連産業分野 畜産, 環境科学
所属学会 日本畜産学会, 北海道畜産草地学会, 栄養生理研究会, ルーメン研究会, 肉用牛研究会
学歴・職歴 昭和58年 岡山県立倉敷青陵高等学校卒業
昭和58年 京都大学大学農学部畜産学科入学
昭和63年 京都大学大学農学部畜産学科卒業
昭和63年 農林水産省畜産試験場企画連絡室研究員
昭和63年 農林水産省畜産試験場栄養部栄養第一研究室研究員
平成9年 農林水産省草地試験場 飼料生産利用部乳牛飼養研究室研究員
平成11年 科学技術庁長期在外研究員(アメリカ・コーネル大学)(兼任,1年間)
平成13年 独立行政法人農業技術研究機構 畜産草地研究所 家畜生産管理部乳牛飼養研究室主任研究員
平成16年 国立大学法人東京農工大学および宇都宮大学客員教授(兼任,平成17年3月まで)
平成17年 独立行政法人国際農林水産業研究センター畜産草地領域主任研究員
平成20年 国立大学法人 帯広畜産大学 畜産衛生学研究部門 准教授
平成30年 国立大学法人 帯広畜産大学 生命・食料科学研究部門 教授
現在に至る

卒業研究として指導可能なテーマ

  • 未利用資源の飼料化
  • 反芻家畜消化管からのメタン抑制による地球温暖化抑制

メッセージ

平成17年から3年間は,タイ王国で,牛のエネルギー要求量と飼料の栄養価の測定を行っていました。インドシナの牛の飼養標準と飼料成分表を作成するというプロジェクトの一環です。タイ,ラオス,カンボジアの大学と協力しての仕事で,大学の先生や学生と一緒に仕事をする機会が多かったです。ラオスやカンボジアは,ベトナム戦争や内戦の影響で,特に人材が不足しています。私の専門は牛の栄養学で,最先端の技術は持っておりませんが,大学が十勝(北海道)にあるメリットを生かして,地域密着と国際協力をうまくバランスを取って仕事を行っていきたいと思います。