大学教育センター
授業における板書プレゼンテーション留意点

大学の授業は指導要領等に拘束されるものではなく,その内容や方法について担当教員の多様な思想や姿勢,方法等が反映されることが,授業効果の基礎になっています。したがって,大学教育では授業の方法等について狭い規範を定めたり,特定の授業方法だけを推奨するようなことは,教育効果の面から言っても好ましくありません。

しかし一方で,一定の授業効果をあげるための最低限の留意点,授業内容を学生に確実に伝達するための最低条件といったものは確かに存在し,それを満たしていない場合には,いかに個性的で内容豊かな授業を計画しても授業効果が上がりにくいことも事実です。そうした点について教員がそれぞれ問題意識を持ち,自発的に授業効果の改善を図ることが,授業をより有意義なものとし,学生の授業満足度を向上させるために必要です。

そこで,授業改善支援室では,そうした基本的な授業改善の視点についての資料を学内教員に提供し,授業改善を支援していきたいと考えています。

「学生による授業評価」の結果や,評価用紙の自由記述内容をみると,多くの学生が,多くの授業で教員の板書やプレゼンテーション・ソフト利用の方法に不満を持っていることがわかります。逆に,板書やプレゼンテーションへの評価が高い授業は,全般的な学生の授業満足度も高くなる傾向があります(注1)。ここでは,授業における効果的な板書のしかた,プレゼンテーションソフトの利用法,それらとノートとの関係等について考えます。

注1: 渡邊 芳之(2003)学生の授業評価を規定するものは何かー平成13年度後期・学生による授業評価の分析
帯広畜産大学学術研究報告・人文社会科学論集,11-2,27-31

板書・プレゼンテーションの目的と最低条件

板書とプレゼンテーションの目的は,以下のように整理することができます。ここでは「授業中に教員が話す内容」のことを「授業」と呼んで,それと板書・プレゼンテーションとの関係を明確にしたいと思います。

  • 授業の大きな流れを学生に提示する
  • いまなにについて授業しているかを学生に示す
  • 授業内容の要点を強調する
  • 授業内容の理解に必要な情報を示す(図や表,数値,術語の原綴等)
  • ノートを取るべき情報を学生に示す

では,これらの目的を達成するための板書・プレゼンテーションの最低条件はなんでしょうか。それは,以下の2点に集約することができます。

  1. 板書・プレゼンテーションの内容がすべての学生から見え,判読可能であること
  2. 学生が内容を理解し,必要ならノートを取るために充分な時間にわたって板書・プレゼンテーションの内容が提示されていること

それでは,この最低条件を満たすために留意すべき点を,板書とプレゼンテーションのそれぞれについて検討してみたいと思います。

板書

上で述べた最低条件を満たせるような板書を実現するためには,以下の点に留意する必要があります。

黒板の使い方

「黒板を消すのが早すぎる」というのが,授業評価でもっともよく見られる苦情です。これを解決するには,黒板はなるべく広く使い,黒板の一部だけを使うことを避けるべきです。これにより,板書の内容を充分な時間にわたって残しておくことができるだけでなく,字を大きく書くことができます。

大講義室等黒板が移動式で4面ある教室では,4面を全て使ってください。1面を使い終わったら,それを消さないで次の面に移り,2面が終わっても1面を消すのではなく3面を使います。4面使い終わった時に初めて1面を消し,続きを書きます。これにより,板書の内容は最低でも10分程度は残ることになり,学生は授業の流れを比較的広く把握しながら聴講できるとともに,余裕を持ってノートを取ることができます。

黒板またはホワイトボードが1面しかない教室では,黒板を分割して使うことができます。慣れないうちは板書を始める前に黒板の中央部に縦線を引いて2分割し,まず左から使いはじめます。左半分を使い終わったらそれは消さないで右半分に移ります。右半分も書き終わってから初めて左半分を消し,続きを書きます。これを数回やれば縦線を引かなくても黒板を分割して使えるようになります。

字の大きさ

つぎに多い苦情は「字が小さすぎる」というものです。大講義室でいちばん後ろの席に座ってみればすぐにわかりますが,大きい教室で最後列の学生にも判読可能であるためには,われわれが普通に想像するよりもずっと大きい字で板書する必要があります。

大講義室では最低で8センチ角程度の文字を書かないと全員が判読することは困難です。その他の教室では必要な大きさは教室の大きさに依存しますが,字が大きすぎるという苦情が出たことはありませんから,大きめに書くに越したことはないようです。むしろ,つねに8センチ角以上の文字を書くように心掛け,慣れておいた方がよいでしょう。

文字の書き方と種類

「字が汚くて読めない」という苦情も少なくありませんが,字の上手下手は一朝一夕には変えられないものです。しかし,ちょっとした配慮でかなり読みやすくなります。たとえば,上述のように字を大きく書くことが効果的ですし,板書するときはいつもより少し落ち着いて,ゆっくりと書くようにするだけでもかなり違います。

また,「学生に読めない文字」を書くのを避けることも重要です。漢字の旧字体は読めませんし,漢字の略字(「闘」を「斗」と書く,「機」を「桟」に似た字体で書く等)もまず読めません。またアルファベットについても筆記体を読めない(習っていない)学生がかなりたくさんいます。漢字は新字体で略字はできるだけ用いないこと,術語の原綴等を書く場合はブロック体(活字体)で書くことを心掛けてください。

色チョークの使用について

男子学生の5%程度には色覚異常があります。こうした人たちには黒板に色チョークで書かれた文字が読み取りにくく,とくに赤チョークで文字が書かれているとほとんど読めない場合があります。色チョークは文字の強調や図表内での線の区別等特別の目的のために使うにとどめ,板書の本文は必ず白のチョークで書いてください。そのために,授業に行く時には白チョークを一本ポケットに入れていくことをおすすめします。

一般の学生にとっても色チョークの文字は読みにくいばかりでなく,最近の学生は板書が色チョークで書かれると,ノートも色ペンで書こうと筆箱を開くので,授業への集中が妨げられます。色チョークは「学生がノートにも色ペンで書く必要がある」時にだけ用いるにとどめた方がよいでしょう。

プレゼンテーション

授業におけるPowerPoint等のプレゼンテーションソフトの使用は,視聴覚教材の有効な利用による授業改善というイメージがあると同時に,板書に煩わされずに授業に集中できること,同じ内容を繰り返し授業するのが容易であること等から教員には人気が高く,年々多用されるようになっています。しかし意外なことに,プレゼンテーションソフトの利用は学生にはかなり不評で,ほとんどの学生はプレゼンテーションより板書による授業を好みます。

このことはプレゼンテーションソフトを使用すること自体の問題というよりも,教員が作成し使用するプレゼンテーションの内容が,上述の「最低条件」を満たしていないことが原因です。学生に嫌われないプレゼンテーションの利用について考えてみましょう。

部屋の明るさ

プレゼンテーションを使用する際に部屋全体を暗くすることはできるだけ避けてください。ノートが取れませんし,学生の集中力や授業効果も劇的に低下します。大講義室等では前の電灯を消すだけで十分にスクリーンが見えますし,最近の小型プロジェクターもスクリーン近辺を暗くするだけで十分です。必要に応じてカーテンを閉める際にも,学生の手もとが暗くならないように注意するとともに,部屋の温度が上がり過ぎないように気を使ってください。

プレゼンテーションの量

授業でのプレゼンテーションに対する学生からの苦情のトップは「量が多すぎて理解できない」「スライドの切り替えが早すぎてノートが取れない」というものです。教員は板書の負担がない分,プレゼンテーションには板書による授業よりもたくさんの文字や情報を盛り込もうとします。しかし,学生にとって,理解するために必要な情報処理量,ノートを取る時間的負担等の面で,板書とプレゼンテーションには本質的な違いはありません。

授業で用いるプレゼンテーションに盛り込んでもよい情報の量は,基本的に板書による授業で板書によって伝えている情報の量と同じです。また,前に書いたことを残しておける板書と違って,プレゼンテーションでは前のスライドは見ることができませんから,スライドの提示時間はノートを取るのに充分なものでなければなりません。

板書による授業と同じ情報量,という基準で考えると,授業1コマでプレゼンテーションしてよいスライドの枚数は標準的な内容で十数枚,せいぜい20枚程度までです。それ以上の枚数を使っている場合はかなり高い確率で情報過多です。もしプレゼンテーションを利用することで以前よりたくさんのことが教えられるようになったとか,以前より授業が早く進められるようになったと感じているなら,その授業は学生にとっては情報過多で理解困難となっている危険があります。

授業は学会発表ではありません。自分が伝えたいことの量よりも,学生が理解可能な量を優先してください。

ハンドアウト

プレゼンテーションの内容を印刷したもの(ハンドアウト)を配ることは,プレゼンテーションの情報量を増やすための補助になりますが,学生はノートを取らなくなるため,かなりの確率で寝ますし,授業内容の理解度も低下します。ハンドアウトを配るよりは,プレゼンテーションの内容を減らし,ハンドアウトなしでも学生がきちんとノートを取れるようにする方が授業方法としては優先されるべきでしょう。

プレゼンテーションの読みやすさ

「プレゼンテーションの文字が小さすぎて読めない」という苦情も少なくありません。プレゼンテーションの文字についても板書と同じ基準で考える必要があります。スクリーンに投影された状態で5センチ角程度が最低の大きさです。また,1枚のスライドに図表と文字がてんこ盛りになっているのも読みにくいものです。1枚に掲載できる図表や写真の数は1枚ないし2枚,文字の量は「5センチ角」から考えればごくわずかです。これで上記の「十数枚」という基準を守れば,文字の数は自然と板書と同程度かそれ以下にならざるを得ません。

プレゼンテーションのデザインや色

プレゼンテーションソフトではスライドの色やデザイン,アニメーション等の効果を自由に使うことができます。しかし,こうした効果は授業で使う限りはあまり意味をなさないばかりか,往々にして読みにくいスライドを作り,授業効果をむしろ低下させます。

スライドのバックグラウンドに模様や画像を使うことは文字を読みにくくしやすいので控えめにしましょう。バックグラウンドの色は原則としてその日の授業で使うスライドすべてに共通としましょう。以前のフィルム式のスライドからの名残か,バックグラウンドを暗色に,文字を明色にしたプレゼンテーションが好まれますが,最近のCRT型のプロジェクターではバックグラウンドを明色に,文字を暗色にしたほう(端的には白地に黒)が読みやすいと考える人が多くなっています。

プレゼンテーションを作成する場合にも,色覚異常者への配慮は欠かすことができません。暗色のバックグラウンドに色文字で書かれた文字等は,色覚異常者にはまったく読めない場合もあります。また,バリアフリーなプレゼンテーションは,ほとんどの場合一般の学生にとっても見やすく,読みやすいものになります。プレゼンテーション作成における色覚異常者への配慮については,以下のウェブサイトが非常に参考になります。

色覚バリアフリープレゼンテーション法

板書・プレゼンテーションとノートとの関係

先にも述べたように,板書やプレゼンテーションの目的の中には,「学生にノートを取らせる」ことが含まれます。では,ノートを取らせることを前提にした時には,板書やプレゼンテーションはどうあるべきでしょうか。

ノートを取らせる目的

  1. 大学の授業でノートを取らせる目的は,以下のように大別することができます。
  2. 授業の内容を記録させ,復習や試験準備を可能にする
  3. 授業に集中させ,眠気を醒ます(書いていれば寝ない)
  4. 授業内容の記憶を補助する(字に書くと覚える)
  5. 授業内容を自分で構成してノートに取る力を身に付けさせる

1についてはいうまでもないことですが,実際の授業技術としては2や3も重要です。ノートを取るためには目を覚ましていなければならないばかりか,板書やプレゼンテーションを読み,教員の話を聞かなければなりません。1講目等,学生が寝てしまうことで授業効果が低下しがちな時間帯でも,ノートを取る必要を増やすことで学生を起こしておくことができます。また,ノートを取るために手を動かすこと自体も神経や脳に適度な刺激となり,眠気を覚まします。また,ただ話を聞いただけの事柄よりも,自分でノートに書き取った事柄のほうが確実に記憶することはいうまでもありません。

そうした点で,学生にノートを取らせることは教室での授業効果を大きく高めます。したがって,授業資料やプレゼンテーションのハンドアウトを配る時には,ノートを取る必要をなくしてしまわないような配慮が必要です。

自分で構成してノートを取る能力

問題は4です。長い間大学では,教員は黒板に断片的で構成度の低い板書を行い,それを学生が自力で構成して,あとで読んでわかるノートを作成する,ということが常識になっていました。そこで学生が用いる能力や技術がとても大切なものであり,大学でそれを身に付けることが有意義であることには現在も変わりはありません。

しかし,現在それができる学生はごく一部になりました。その原因は高校までの教育の変化,学生が接するメディアの発達等多様ですが,少なくとも,以前のように教員が断片的な板書をしてノートを取らせていれば,学生が自然と自分でノートを構成できるようになる,ということはもはやほとんど期待できません。

いまの学生に自分で構成してノートを取る能力を求めるのであれば,それを系統的に教育する必要があります。授業の中でノートの取り方,まとめ方について指導するとともに,定期的にノートをチェックし,赤を入れて,学生がノートの取り方を改善していく支援をしなければなりません。もしなんの指導もしなければ,学生は役に立たない断片的なノートを取り続けるだけですし,多くの場合はノートを取っても無駄だとわかってノートを取らなくなります。このことが授業効果に大きなマイナスになることは言うまでもありません。

ノートを取りやすい板書・プレゼンテーション

教員が上記のような特別な指導や配慮を行わない限りは,板書やプレゼンテーションは基本的に「それをそのまま写せばノートの骨格が完成する」ものであった方が授業効果は確実に上がります。授業中の学生の動きとしては,板書等をノートに写しながら授業を聴き,教員の話の中でノートにない部分を書き加えていく,という形になります。そうしたノートであれば,学生は能力に関係なく熱心にノートを取ってさえいれば,後でそのノートをもとに復習したり,試験準備をしたりすることができます。

こうした学生の動きに適合した板書をするためには,板書の下書きを作っていくことが最も効果的です。授業しながら思いつきで板書していくのではなく,事前に準備した下書きに基づいて板書していくと,しっかりとした構成を持った板書をすることができます。授業準備をきちんとしているなら下書きを作るのは簡単なことですし,逆に授業準備をあまりしていない場合は,下書きを作ることが非常に有効な授業準備になります。

おわりに

よい授業を行うためには,教員が自信を持って教えることがとても大切です。自分の教育能力や授業技術に自信を持っていないときは,不思議と学生からすぐに見抜かれてしまうものです。しかし,その一方で私たちは「授業がうまくいっていないのではないか」「理解していない学生がいるのではないか」という恐れも,常に持っていなければなりません。

教員が自信を持って教育するということは,自分の教育能力を疑わないことではなく,逆に自分の教育能力を疑い,自分の教育の欠点や問題点を客観的に認識した上で,必要な努力や研鑽を十分に積んでいるという事実から自信を得ていくことではないでしょうか。そうした努力のための基礎資料として「学生による授業評価」の結果が活用されることを期待します。