西川 義文 教授 NISHIKAWA Yoshifumi

研究テーマ病原性原虫の感染により引き起こされる様々な病気の発症メカニズムをミクロ及びマクロな視点で解析し、ワクチン開発と創薬につなげる基礎研究を展開する。

研究分野 免疫学, 感染症学, 寄生虫学, 生化学, 細胞生物学, 分子生物学, 獣医学
キーワード 寄生虫, 原虫, ワクチン, 診断薬, 治療薬, 中枢神経, 繁殖, 病態

研究紹介

病原性原虫の制圧には、基礎研究と応用研究の融合が必要です。つまり、原虫が感染して病気が発症するメカニズムを理解、現実的な治療・予防戦略を開発し、現場での問題点の把握や有効性を評価することのできる体系的なアプローチが重要となります。そのため当研究室では下記研究を実施しています。

  1. 原虫の宿主細胞改変メカニズムの解明
    宿主細胞寄生性の原虫は、宿主の増殖メカニズムを巧みに利用することにより生存する事が可能です。例えば、トキソプラズマやネオスポラは様々な有核哺乳動物細胞に能動的に侵入し、宿主の免疫機構からの逃避と宿主細胞から栄養物質の強奪を行うために寄生胞を形成します。私たちは原虫の持つこれら宿主細胞改変メカニズムに着目し、原虫由来の責任因子の同定を進めています。
  2. 原虫病発症メカニズムの解明
    病原性原虫は宿主に感染すると様々な病気を引き起こします。例えば、マラリア原虫は重度の貧血、トキソプラズマとネオスポラは流産や神経症状、クリプトスポリジウムは下痢症が代表的な疾患です。私たちはこれら病気の発症メカニズムを解明するために実験モデルマウスや自然宿主動物を対象にした病態解析を進めています。(1)で明らかになった原虫因子については遺伝子編集技術を用いた遺伝子欠損原虫株を作製し、上記実験モデルマウスで検証実験を進めています。
  3. 原虫病をコントロールするワクチン開発と創薬
    細胞内原虫を殺滅するためには通常のワクチンで誘導される抗体では不十分であり、感染細胞を破壊するT細胞の誘導が必要です。私たちは、ワクチン抗原を封入した多機能性リポソームを作製することでT細胞誘導型ワクチンの開発を進めています。また、抗原虫病薬の開発を目指し、世界各地の天然生物資源や化合物ライブラリーを使って薬剤スクリーニングを行なっています。
  4. 社会実装可能な感染症診断システムの開発
    フィールドでの診断・疫学調査に適応可能な診断システムの開発を進めています。現場(農場、臨床獣医師、家畜保険衛生所)と連携し、社会実装可能な感染症診断システムを現場へ提供することで、日本や途上国の原虫感染状況の把握と、対策提言を行っています。
トキソプラズマのタキゾイトの電子顕微鏡写真。分裂途中の2虫体が認められる。
妊娠10日めのマウス胎児の様子。非感染マウス(Uninfected mouse)。妊娠3日めにトキソプラズマを感染させたマウス(Toxoplasma-infected mouse)。トキソプラズマ感染により胎児の発育不良(HE, ヘマトキシリン‐エオジン染色)とアポトーシスが認められる(赤色のシグナル、TUNEL)。
マウスにおけるネコの匂い(Cat odor)に対する嗜好試験。非感染マウス(Uninfected mouse)はネコの匂いを避ける行動を示すが、トキソプラズマ感染マウス(Toxoplasma-infected mouse)はネコの匂いに対する逃避行動が減少している。
マウスマラリア原虫感染マウスの腎臓を用いた蛍光染色。正常マウス(Normal)と比べて、マクロファージ除去マウス(Macrophage depleted)では肝臓の毛細血管中に感染赤血球の蓄積が認められる。
ネオスポラ感染マクロファージのRNAシークエンス解析。親株感染細胞(Nc1)、NcGRA7欠損株感染細胞(KO)、NcGRA7補完株感染細胞(Comp)、非感染細胞(NoI)。(左)NcGRA7の存在により変動する“サイトカイン、サイトカイン受容体相互作用”に関連した遺伝子発現変動をヒートマップとして表示した。(右)解析したサンプルの主成分分析結果。
ネオスポラ感染によるウシの流産

現在取り組んでいる研究テーマ一覧

  • 先天性トキソプラズマ症発症機序の解明と新規治療法の確立に向けた基盤研究
  • 脳内寄生虫トキソプラズマの感染による記憶改変メカニズムの解明
  • 宿主中枢神経系を支配するトキソプラズマ由来ブレインマニピュレーターの解明
  • トキソプラズマ感染による宿主ハイジャック機構の解明
  • ネオスポラ病原性因子の同定とワクチン開発への応用
  • 家畜病原性原虫ネオスポラの感染による流産発症機構の解明
  • ネオスポラ感染に対する社会実装可能な診断方法の開発
  • ウシ腸内細菌叢のメタゲノム解析によるクリプトスポリジウム症の制御方法に関する研究
  • 食肉家畜における原虫感染症の血清診断法の開発と血清疫学的研究
  • 東南アジアの人獣共通原虫感染症に対する制圧方法に関する開発基盤研究
学位 博士(農学)
自己紹介

原虫とは単細胞の真核生物であり、その中には宿主に感染して病気を引き起こすものも存在します。私は宿主を支配する病原性原虫に着目し、その感染が中枢神経系や妊娠にどのような影響を与えるのかの謎に迫る研究を進めています。原虫病研究はその他のライフサイエンス研究に比べて研究が遅れていますが、診断方法や治療法、ワクチンなど研究成果を社会に展開していける可能性が多く残されています。世界中のヒトや家畜の原虫感染をコントロールすることで、社会貢献に繋げたいと考えています。

居室のある建物総合研究棟4号館
メールアドレス nisikawa atmark obihiro.ac.jp

所属・担当

原虫病研究センター創薬研究部門先端治療学分野グローバルアグロメディシン研究センター/獣医学研究部門
学部(主な担当ユニット)獣医学ユニット
大学院(主な担当専攻・コース)獣医学専攻
関連産業分野 医薬品, 畜産, 獣医学
所属学会 日本獣医学会, 日本寄生虫学会
学歴・職歴 2001年 東京大学 大学院農学生命科学研究科応用動物科学専攻 博士課程修了
1999-2001年 日本学術振興会特別研究員(DC2)、東京大学 大学院農学生命科学研究科
2001年 日本学術振興会特別研究員(PD)、帯広畜産大学 原虫病研究センター
2001-2003年 日本学術振興会特別研究員(PD)、エール大学医学部
2003-2005年 東レ株式会社先端融合研究所 研究員
2005-2007年 帯広畜産大学 原虫病研究センター 助教授
2007-2018年 帯広畜産大学 原虫病研究センター 准教授
2018年- 現職

卒業研究として指導可能なテーマ

  • 原虫の宿主細胞改変メカニズムの解明
  • 原虫病発症メカニズムの解明
  • 原虫病をコントロールするワクチン開発と創薬
  • 社会実装可能な感染症診断システムの開発

メッセージ

卒業研究で基礎研究をしてみたい!、大学院に進みたい!、将来研究者を目指したい!と思っている学生さんは、是非私たちの研究室で研究をしましょう。はじめは教官、先輩たちの親切な指導によりある程度の基礎的な手技、手法を修得していただき、その後は学生さんのアイデア、興味をもとに研究テーマを設定していきたいと思います。楽しく実験をして、自分で設定した研究テーマを学術論文にして卒業していただくことを目標にしています。英語でのコミュニケーション能力の向上にも力を入れていきたいと考えています。興味のある学生さんは、いつでも見学に来てください。歓迎します。