宮本 明夫 教授 MIYAMOTO Akio
My Dreamより高い受胎率を生み出すウシ凍結精液技術と受精卵作出の開発:受胎率40-45%を55-65%へ!
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メッセージ
現代では、先進国でのウシの繁殖は凍結精液を子宮内に投与する人工授精によって成り立っています。その受胎率は50%を下回ってきており、特に乳牛では低い受胎率になっています。牛乳の生産は、母ウシが出産して始まります。ですから、受胎率の低下は酪農家にとって深刻な経済ロスです。現在の受胎率を55%〜65%程度に向上させることができれば、その経済効果は国内外でとても大きなものとなります。
私たちは、ウシの母体が精子や受精卵を攻撃せずに受け入れてゆく免疫システムに切り込み、多くの新しい発見をしてきています。基本的に、精子は母ウシには異物であり、攻撃されますが、受精の場にたどり着いた数少ない精子たちは、今度は免疫システムに守られることを示しました。さらに受精卵も、母ウシの免疫システムに認知され、子宮に降りて着床し、妊娠します。しかし、様々なリスクが、この免疫システムのバランスを崩してしまって、受胎がうまく進まないことがわかってきています。こういった免疫システムをうまく利用することで、受胎率を向上させることができそうです。免疫はあまりに複雑で、臨機応変に変化するので、とても難しい研究ですが、日夜、7−8カ国から博士号取得のために多くの留学生たちを中心に、研究が進んでいます。英語での会話が原則です。日本人学生も、もちろん英語です。最初は喋れなくても、3ヶ月すると誰もが英語(カタコト英語でも)で喋っています。科学では英語が共通のツールなので、誰にとってもとても効果的な体験になっています。
学位 | 博士(農学) |
自己紹介 |
さいたま市(大宮)出身です。高校までサッカーばかりやっていました。バイエルン・ミュンヘンの大ファンです。趣味はスポーツジムでのジョギングや水泳、夏はサイクリング、山のハイキングなど。研究室では、7カ国からの8名の留学生が博士号取得のために日夜、研究に明け暮れているので、様々な議論と雑談もたいへんですが楽しいです。 |
居室のある建物 | 総合研究棟1号館 |
部屋番号 | E2202-4 |
メールアドレス | akiomiya obihiro.ac.jp |
所属・担当
グローバルアグロメディシン研究センター/センター長研究域/生命・食料科学研究部門/家畜生産科学分野/生命科学系研究紹介
高泌乳牛と肉牛の受胎率を10%向上させることを目標に、現在の凍結精液による人工授精技術と、受精卵移植技術について、母体が精子と受精卵を受け入れる免疫システムを活用する技術開発を目指しています。
ウシの子宮内に放たれた凍結精子ほとんどは、母体の自然免疫によってほとんどが免疫細胞に攻撃されたり、膣側に排出されたりします(図1)。それらの基本的な免疫応答メカニズムを、培養細胞系で実験的に示すことができました。さらに、このメカニズムは、上皮細胞が病原体を認識して排除するTLRsを介した経路を使っていることがわかってきました。子宮が、病原体と精子を認識する基本メカニズムが共通していることは、生理的にも極めて効果的で、かつフレキシブルなシステムであることが伺われます。さらに興味深いことに、子宮での攻撃と排除を逃れたごく少数の精子たちは、卵管に入ると、今度は逆に強い抗炎症性の環境で守られることもわかりました(図2)。
同様に、卵管での受精後の発育を続ける受精卵も、母体の免疫システムと会話を始めていることを初めて示しました。その主要なツール分子として、インターフェロン・タウ(IFNT)が16細胞期の分割卵からすでに分泌が始まっていることを発見しました(図3)。4日後には受精卵は子宮に降りてゆき、IFNT分泌を活発にして子宮内の免疫システムを寛容性に変化させて、1週間後の着床に向けた環境整備を迅速に進めることもわかってきました。
このような一連の母ウシの免疫システムと精子・受精卵のクロストークのメカニズムを活用して、より高い受胎の成功率に結びつけるような技術開発に着手しています。今後、免疫調整に効果的な、安定して、且つ安全な分子を活用して、応用試験に進んでゆく予定です。
現在取り組んでいる研究テーマ一覧
- 公益財団法人 全国競馬・畜産振興会:自然免疫受容体を活用した高受胎性牛ET法事業(代表)(2023年度~2026年度)
- 科研費(基盤研究(B)(一般)):精子と受精卵の自然免疫受容体TLR2によるウシ母体の受胎に向けた免疫寛容増幅機構(2023年度~2026年度)
- 科研費(特別研究員奨励費):精子と子宮の自然免疫受容体TLR2活性化によるウシ受精卵移植後の高受胎性の基盤(2023年度~2024年度)
関連産業分野 | ウシ凍結精液(X/Y精子を含む)技術の改善, 畜産学, 獣医学, バイオテクノロジー |
所属学会 | アメリカ生殖学会(SSR), 日本繁殖生物学会, 日本畜産学会 |
Editor | Domestic Animal Endocrinology |
Editorial Board |
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学歴・職歴 | 1982年 帯広畜産大学 畜産学部 家畜生産科学科 卒業 1987年 東北大学 農学研究科 畜産学専攻 博士課程修了(農学博士) 1987-1988年 日本学術振興会 特別研究員 (東北大学農学部) 1988-1990年 ドイツ学術交流会 博士研究員 (ミュンヘン工科大・生理学研究所) 1990-1992年 日本学術振興会 海外特別研究員 (ミュンヘン工科大・生理学研究所) 1992-1993年 帯広畜産大学 助手 1993-1996年 帯広畜産大学 講師 1996-2003年 帯広畜産大学 助教授 1997-1999年 フンボルト財団 博士研究員 (ミュンヘン工科大・生理学研究所) 2003年- 現職 |