9月12日(日)、13日(月)にオンラインで開催された第23回環境ホルモン学研究発表会(大会実行委員長:石塚真由美教授(北海道大学))において、大学院博士課程畜産学研究科獣医学専攻2年のJae Seung Leeさん並びに同博士前期課程畜産科学専攻2年(動物医科学コース)の池本秀樹さんが、発表会で優れた口頭発表をした学生に授与される森田賞を受賞しました。環境ホルモン学会(正式名:日本内分泌撹乱化学物質学会)は、内分泌撹乱化学物質(環境ホルモン)の研究に関する情報交換や成果の発表の場として、1998年に発足した学会です。
Leeさんの発表演題は、「Assessment of developmental toxicity caused by organophosphorus flame retardants and their metabolites in zebrafish embryos」です。Leeさんは、難燃性可塑剤として製品に含まれるリン酸トリエステル類について、ゼブラフィッシュというモデル動物を用いて毒性評価と作用機序解明に関する研究に取り組んできました。Leeさんは、令和3年3月に開催された日本環境毒性学会研究発表会でも優れた発表者に対して授与される奨励賞を受賞しています。今回発表した内容は、バイオインフォマティクス解析をさらに発展させ、リン酸トリエステル類の循環器毒性に酸化ストレスや糖タンパク質代謝の撹乱が関与する可能性があること、また新たに機械学習の技術を取り入れることで、これら化合物の循環器毒性発症に寄与する物理化学的性質として化合物の脂溶性が重要である点を示した研究成果です。
Leeさんは、「3月の学会に続いての今回の受賞を大変光栄に思います。久保田先生、川合先生をはじめご指導・ご協力いただいた先生方、関係者の皆様に深く感謝いたします。これからも研究に精進し、毒性学分野に貢献できるよう頑張りたいと思います。」と喜びを語ってくれました。
池本さんの発表演題は、「ゼブラフィッシュを用いたネオニコチノイド系農薬の体内動態と発達神経毒性の解明」です。ネオニコチノイド系農薬(NNs)は、昆虫のニコチン性アセチルコリン受容体に選択的に作用し、脊椎動物に対して高い安全性をもつとして世界中で広く使用されている一方で、亜致死量曝露が非標的生物の神経系に与える影響が問題視されています。例えば、ヨーロッパなどで2000年代から発生している蜂群崩壊症候群の原因の一つにNNsが考えられています。最近の研究では、無毒性量以下の経口投与でも成獣マウスに不安様行動を引き起こすことが報告されています。さらに、新生児を含むヒトの尿中から農作物摂取が原因と考えられるNNsとその代謝物も検出されており、低濃度のNNsが与える発達神経毒性について懸念されています。今回発表した内容は、代表的なNNsであるアセタミプリドとイミダクロプリドについて、ゼブラフィッシュ成魚を用いた腹腔内投与により、これら化合物やその代謝物が脳移行・集積性を示すこと、ならびに稚魚を用いた行動試験により、低濃度で不安を表す行動異常を示すことを明らかにした研究成果です。本研究成果により、ゼブラフィッシュをモデル動物として用いる最大の利点であるメカニズム研究の進展が期待されます。
池本さんは、「この度はこのような素晴らしい賞を受賞することができ、大変光栄に思います。また、久保田先生、川合先生をはじめご指導・ご協力いただいた先生方、毒性学研究室の皆様に深く感謝いたします。これからも一層研究に励んでいきたいと思います。」と喜びを語ってくれました。