第73回畜産学部,第55回大学院並びに第62回別科酪農専修の入学式が,4月4日(日)午前10時から講堂及び大講義室において,関係者の列席のもとに挙行されました。
入学式では,畜産学部260名(編入学生10名を含む。)大学院畜産学研究科76名,別科酪農専修9名の計345名の入学が許可されました。
次いで奥田学長から告辞が述べられ,入学者を代表して共同獣医学課程の寺 天海(てら そらみ)さんから「学業に励み,学生の本分を尽くすことを誓います。」と宣誓が行われ,式は終了しました。
学長告辞
新入生の皆さん,入学おめでとうございます。また,これまで受験生を支えてこられた,ご家族をはじめとする関係者の皆様に対し,オンラインではありますが,帯広畜産大学を代表して心よりお祝いを申し上げます。本来であれば,全学の教職員に加え,ご家族をはじめとする,これまで皆さんを支援してこられた方々のご参加のもとに,入学をお祝いするところですが,新型コロナウイルス感染症に対する危機管理上の判断から,入学生のみの参加とし,さらに学部生と大学院生を二会場に分散して開催する事としました。一堂に会して開催する事ができず大変残念に思います。苦渋の決断ではありましたが,皆さんの健康を最優先しての判断であることをご理解ください。
十勝・帯広は雪解けの季節を迎え,雪の消えた大地からは福寿草の黄色い花が力強く春を告げています。皆さんは,受験という言わば閉ざされた環境から解放され,独自の花を咲かせる扉の前に立っています。長い人生の中で独自の花を咲かせるのには多くの準備が必要です。都会の雑踏から隔離され自然に恵まれた本学の環境は,自分自身を見つめ直し,自分の将来のあり方をじっくりと考え,人間性を育み,将来花を咲かせるための準備をするのに最高の場所です。清んだ空気を胸一杯に吸い込み,夢を膨らませてください。現在真っ白な皆さんのキャンバスに,自身の夢を力強いタッチで描けるよう,教員だけでなく事務・技術系職員など大学の全スタッフが控えています。
さて,皆さんの勉強と言えば,高校までは期末試験や入試に備えて,教科書で覚えることが中心だったのではないでしょうか。大学は,これまでの「与えられる教育」では見えなかった能力を開発する場へと大きく変化します。皆さんには,教授された知識や技術を身に付けることだけに満足することなく,自由な発想で疑問を先生にぶつけ,先生達と議論し,学ぶことの深さを自ら拡げる自由があります。探究心を持って議論することこそが,大学における勉学の神髄です。オンライン講義においても先生と意見交換する場は用意されています。そうした議論を通して解決しなければならない課題を見出し,課題の背景を自ら探求することによって,自分で考え解決策を見出す能力が開花していきます。本学には自ら調べ学ぶための素晴らしい図書館があります。疑問を放置せず,自ら課題を解決するために大いに図書館を利用し,そして先生に疑問をぶつけてください。本学は,皆さんの自己問題解決能力の開発を全面的にサポートしていきます。
冬が長く寒さの厳しい十勝ですが,日に日に陽の光は暖かさを増し,間もなくすべての植物が一斉に芽吹き,生命感のあふれる素晴らしい季節になります。学内の至るところで春の訪れを喜ぶリスたちの姿を見ることが出来ます。新入生の資料を見ましたところ,今年の入学生の69.6% が北海道外の出身者で,関東以西の入学者が60.4%でした。こうした北海道の自然環境へのあこがれも皆さんが本学を目指した理由の一つだったのではないでしょうか。
本学は,西には,サホロ岳から襟裳岬へと続く日高山脈,北には,北海道の最高峰である旭岳を有する大雪連峰を見渡せる十勝に位置しています。それらの山々のすそ野は,十勝川に沿って南へ太平洋沿岸まで広がる十勝平野を形成しています。この自然環境が織りなす気候は,十勝の基幹産業である畜産と畑作の発展に大きく寄与しており,十勝が日本の食料倉庫と言われる所以となっています。そして,何よりも大切なことは,地域の基幹産業と本学の教育研究分野が一致していることです。つまり,本学は「獣医学・農学・畜産科学」を学ぶのに最高のロケーションにあることを意味しています。日本の食料生産の中心地として「生産から消費まで」一貫した環境が揃う十勝に位置する本学は,我が国唯一の国立農学系単科大学です。農学に関連する領域は生活の基盤であることから,本学のミッションを「『食を支え,くらしを守る』人材の育成を通じて,地域および国際社会に貢献すること」としています。本学は,昭和16年に前身となる帯広高等獣医学校が創設され,今年で80年目を迎えます。創設以来,これまで約1万7千人が本学で学問を修め,国内外の「生命,食料,環境」の分野で多彩な活躍をしています。皆さんも,本学の特徴を活かした目標に向かって勉学に励んでいただきたいと思います。
今日本学に入学された皆さんに,私が学生の時に心を揺さぶられた「農学栄えて農業滅ぶ」という言葉を紹介したいと思います。この言葉は,東京農業大学の初代学長横井時敬(ときよし)先生が述べられた言葉として紹介されることが多いようです。農業という産業が栄えるための学問が農学であるはずですので矛盾した言葉と言えます。「私達農学を研究する者が栄えても,農業生産者が栄えるとは限らない」」と言うことを,「実学主義」である横井時敬(ときよし)先生が戒めた言葉と考えれば大変分かり易いです。「実学」とは,実証性に裏付けられ,実際に生活の役に立つ学問を意味します。本学には様々な先進的な教育研究施設,また,乳製品工場をはじめ国際認証基準に適合した実習施設を備えており,まさに実践的な教育をする大学と言えます。また,大学周辺の広大な十勝平野には,「実学」を学ぶフィールドが広がっています。大学の内外で,自ら汗して「実学」を学んでいただきたいと思います。また,「木を見て森を見ず」という言葉もあります。「農学栄えて農業滅ぶ」という言葉の意味を考えながら,問題意識・目的意識を持って勉学に取り組んでいただきたいと思います。
実学を強調してきましたが,基礎研究も重要であることは言うまでもありません。専門学校と異なり,研究を基盤とした高度な教育をするのが大学です。本学は,獣医学課程,畜産科学課程の上に,獣医学専攻と畜産科学専攻の2専攻からなる,博士課程まである大学院畜産学研究科を有しており,本学の基礎研究は,世界でも最先端を走っていることを申し添えます。
皆さんには勉学の他にも,クラブやボランティアなど課外活動にも積極的に参加していただきたいと思います。時間を惜しまずアクティブに活動すればするほど大学生活は豊かになります。講演会や音楽会など文化的イベントにも積極的に足を運び,多様な人々の考えや文化に触れることも大切です。そうした学業以外のアクティブな時間を送ることによって,多様性を受け入れる人間性が育まれます。そうした考えから,(昨年はコロナ禍で開催できませんでしたが,)五年前からリベラルアーツ(教養)講演会と銘打ち,本学の学生や地域の方々をも対象にノーベル賞受賞者にご講演いただいています。今年はノーベル物理学賞受賞者 梶田隆章先生に「神岡の地下から探る宇宙と素粒子」という題目で6月18日にご講演いただくことにしています。楽しみにしてください。
最後になりましたが,皆さんが,専門知識や技術を身に付けるだけでなく,真っ白な皆さんのキャンバスに,人生の夢を力強いタッチで描けるよう,教員だけでなく事務・技術系職員など大学の全スタッフが全面的にサポートすることをお約束し,告辞とします。
令和3年4月4日
帯広畜産大学長 奥田 潔