3月9日(火)に開催された令和2年度日本環境毒性学会オンライン研究発表会において,大学院畜産学研究科博士課程獣医学専攻2年生(受賞時1年生)のJae Seung Leeさんが,若手奨励賞を受賞しました。
日本環境毒性学会は,1997年8月に化学物質等の生態系影響に関する研究の進歩と普及をはかることを目的として創設された学会です。
今回の学術集会では,研究者,実務者,学生など60名が参加し,15題の口頭発表が行われました。奨励賞にエントリーした研究発表の中から,書類審査及び口頭発表審査を経て,Jae Seung Leeさんが発表した「Developmental toxicity of organophosphorus flame retardant metabolites in zebrafish embryos」が若手奨励賞に選ばれました。
Leeさんは,難燃性可塑剤として製品に含まれるリン酸トリエステル類について,ゼブラフィッシュというモデル動物を用いて毒性評価と作用機序解明に関する研究に取り組んできました。ヒト疫学調査により,室内ダスト中のリン酸トリエステル類濃度が高いほど子どもの喘息やアトピー性皮膚炎のリスクが高まるという報告があります。Leeさんの研究では,リン酸トリエステル類だけでなくその代謝物も循環器毒性を示すことを明らかにし,RNA-Seq解析により毒性作用機序として酸化ストレスが関与する可能性を示しました。
今回のLeeさんの発表では,ヒト由来サンプルからの検出事例が報告されているもののこれまで毒性情報のほとんどなかったリン酸トリエステル類の代謝物について,毒性影響とその作用機序の一端を示唆した点が評価されました。こうした成果は,膨大な数に及ぶ化学物質やバイオマーカーの中から疫学調査で検討すべき対象物質やマーカーを提案することにもつながると期待されます。
Leeさんは,「今回の受賞を大変光栄に思うとともに,久保田先生をはじめご指導・ご協力いただいた先生方,関係者の皆様に深く感謝いたします。これからも研究に精進し,環境毒性学分野に貢献できるよう頑張りたいと思います。」と受賞の喜びを語りました。