11月25日(月),26日(火)に東京都墨田区にて開催された日本ウマ科学会第32回学術集会において,大学院畜産学研究科博士前期課程畜産科学専攻家畜生産科学コース1年の矢野琳太郎さんが,最優秀発表賞を受賞しました。
日本ウマ科学会は,獣医学や畜産学に限らず,ウマに関する人文科学や芸術なども取り込み,現場のニーズに対応した学術や技術の向上と普及を促進するという趣旨の下に設立された学会です。
今回の学術集会では,研究者,実務者,学生など300 人以上が参加し,50題の口頭発表が行われました。講演要旨の事前審査を経て選考された5名の優秀発表賞候補の中から,学術集会にて矢野さんが発表した「飼料設計の差異が重種馬の消化管内環境に与える影響」が最優秀発表賞に選ばれました。
ばん馬に代表される重種馬は,サラブレッドなどの軽種馬と比較して2倍近くもの体重を有する特徴的な馬であるにも関わらず,その適切な飼養管理方法や飼料設計の情報は乏しく,管理者各々が経験に基づいた飼養管理を行っている現状にあります。ウマは本来,下部消化管(大腸)内に共存する微生物の働きにより摂取した植物繊維を分解する栄養生理を持ちますが,高いパフォーマンスを期待してエネルギー価の高い穀物飼料を多給した場合,下部消化管内に共存する微生物のバランス異常,ひいては疝痛や食餌性蹄葉炎などの消化器由来の疾病を引き起こす可能性が指摘されています。しかし,重種馬では給与飼料と消化管内細菌叢の関係を調査した例は無く,現行の管理方法が適切かどうか十分に検討されていませんでした。
矢野さんは,重種馬が多数飼養されているばんえい十勝(帯広市)の,穀物飼料の給与割合の異なる二つの厩舎に着目し,重種馬の消化管内環境の差異を調査しました。次世代シークエンサーを用いて微生物遺伝子の網羅的な解析を行い,未消化デンプンや水溶性炭水化物の下部消化管への流入により食餌性蹄葉炎の起因菌の存在比率が高まる可能性を細菌種レベルで明らかにしました。これらの結果をもとに,重種馬において消化器由来疾病を未然に防ぐためにも,飼料組成だけでなく消化管内微生物の動態にも焦点を当てた飼料設計の確立が必要であると発表しました。
矢野さんは,「大好きなウマやウマに携わる人達にとって役立つ情報を残したいと思いながら研究を進めてきました。本学術集会は同じ思いを持つ人がたくさん集まる場所であり,その中で最優秀発表賞を頂けたことを大変光栄に思います。また,輓馬(ばんば)は十勝の産業において重要な家畜ですので,重種馬を題材にした研究で賞を頂けたことを一番嬉しく思います。これからもお世話になった方々や研究にご協力いただいた方々に恩返しできるように頑張ります。」と受賞の喜びを語りました。