8月23日(水)~26日(土)に韓国のソウル大学平昌キャンパスで行われた,第13回Korea・Japan・China Joint Symposium on Rumen Metabolism and Physiology(日韓中合同ルーメンシンポジウム)において,大学院博士後期課程畜産科学専攻1年の安達一(まこと)さん(指導教員:福間直希助教)が,Best Oral Presentation Award(最優秀発表賞)を受賞しました。
このシンポジウムは,日本・韓国・中国の研究者を対象に,ウシなどの反芻動物が有する反芻胃(ルーメン)の機能についての知見を共有する目的で2年ごとに開催されているもので,今回,4年ぶりの開催となりました。
今回のシンポジウムでは,日本・韓国・中国の研究者,学生,企業関係者など170人以上に加え,アメリカ・オーストラリア・カナダ・イギリスからの招待講演者が参加し,23題の一般口頭発表・39題のポスター発表・3題の若手研究者発表・4題の招待講演が行われました。一般口頭発表の中から,招待講演者による審査を経て,6題のBest Oral Presentation Awardが決定され,安達さんの発表「Analyses of the antimicrobial properties of the natural compound betulin」がその中の1題に選ばれました。
ウシに代表される反芻家畜は,乳・肉などの生産効率を向上させるために,エネルギー価の高い濃厚飼料が多給される傾向にありますが,濃厚飼料の急激な増給はルーメン内の細菌叢バランスが破綻するきっかけとなり,ルーメン内環境に著しい変化が起きることで「ルーメンアシドーシス」と呼ばれる疾患を引き起こし,農家が経済的な損害を被ることが知られています。その予防に向けた取り組みが必要とされている中,シラカンバの外樹皮に含まれる天然化合物である「ベツリン」は,ルーメンアシドーシス発症のきっかけとなる細菌の近縁種を阻害するという報告があり,ルーメンアシドーシス起因菌に対しても同じように阻害効果をもつことが予想されました。
安達さんは,次世代シークエンサーを用いた微生物遺伝子の網羅的な解析と,ルーメン内から単離された菌株を用いたベツリンの投与試験を行い,ベツリンがルーメン内の全ての細菌に対して阻害効果を持つ訳ではなく,ルーメンアシドーシス起因菌を含めた限定的な菌種に対して特に強い阻害効果をもつことを明らかにしました。これらの結果は,北海道に広く分布するシラカンバに含まれるベツリンがルーメンアシドーシスの予防に寄与する可能性を示しており,今後のさらなる研究成果が期待されます。
安達さんは,「日本・韓国・中国の同世代の研究者が集まる中で,このような賞をいただけたことを大変光栄に思います。特に,今回発表した内容は道総研林産試験場と株式会社エースクリーンの皆様との長年に渡る共同研究の成果の一部であり,この成果が国際的な権威ある研究者に評価されたことが何よりも嬉しいです。」と受賞の喜びを語りました。