第74回畜産学部,第56回大学院並びに第63回別科酪農専修の入学式が,4月4日(月)午前10時から講堂及び大講義室において,関係者の列席のもとに挙行されました。
入学式では,畜産学部266名(編入学生10名を含む),大学院畜産学研究科66名,別科酪農専修11名の入学が許可されました。
次いで長澤学長から告示が述べられたのち,北海道国立大学機構の長谷山 彰 初代理事長からの祝辞映像が放映されました。
入学者を代表して共同獣医学課程の成田 華奈(なりた かな)さんから「学業に励み,学生の本分を尽くすことを誓います。」と宣誓が行われ,式は終了しました。
学長告辞
新入生の皆さん,入学おめでとうございます。帯広畜産大学を代表して,心よりお祝いを申し上げます。
本来であれば,ご家族をはじめとする関係者の皆さん,および教職員の参加のもとに,皆さんの入学をお祝いするところですが,新型コロナウイルス感染症に対する危機管理上の判断から,今年度の入学式は入学生のみの参加とし,さらに畜産学部,別科,大学院の新入生を二会場に分散して開催する事としました。一堂に会して開催する事ができず大変残念に思いますが,どうぞ,ご理解ください。
さて,皆さんは,これから始まる大学生活について,不安と期待で一杯のことと推察します。皆さんは,一人一人違った能力を持って生まれ,異なる環境で育ち,今ここに,帯広畜産大学へ入学するという意思を同じくする仲間たちと共にいます。
皆さんが,これまで努力と研鑽を重ね,本学に入学するという目標を達成されたことに対して,心から敬意を表します。また,その志を支えてくださった,保護者,ご家族並びに関係者の方々に対し,心よりお慶び申し上げます。
本学の前身である帯広高等獣医学校は,今から81年前の1941年に,地域の多大な支援を得て設立され,第一回入学式は,全国各地から132名の新入生を迎えて挙行されました。その後,1949年に,国立学校設置法に基づき新制大学として,帯広畜産大学が設置され,2004年には,国立大学の法人化という大きな教育改革により,国立大学法人帯広畜産大学となりました。
この間,1960年には,地域農業の中核的リーダーを養成することを目的とした別科(草地畜産専修,現在の酪農専修)が設置されています。また,1967年には,獣医・農畜産分野における高度専門職業人養成を目的として,大学院畜産学研究科修士課程が設置され,2004年には,「食の安全確保に関わる人材育成」を目的として,大学院修士課程に畜産衛生学専攻が新設され,その2年後に,我が国で唯一,畜産衛生学の博士の学位を授与する大学院博士課程が設置されました。
今日,「農と食」に関わる問題は複雑に絡みあい,さまざまな課題を抱えています。これらの農学分野が直面する課題解決のためには,獣医・農畜産融合の教育研究体制の構築が必要となるので,これまで畜産衛生学分野のみであった博士課程は,大学院畜産学研究科となり,獣医・農畜産のすべての分野で学部から博士課程までの一貫体制となっています。そして,本年4月1日に,帯広畜産大学,小樽商科大学,北見工業大学の3大学経営統合による国立大学法人北海道国立大学機構が発足しました。本機構は農学,商学,工学を担う国立大学の結束と産学官金の強力な連携により,北海道経済・産業の発展と国際社会の繁栄並びに,SDGsに示された持続可能な社会の実現に貢献するために,北海道内国立大学の教育研究機能を強化し,国民の要請に応えるとともに,我が国の高等教育及び学術研究の水準向上を図るのを目標としています。
本学の人材育成目標は,農と食の大切さ,動植物の命の尊さを心得た素養を基礎として,いわゆるFarm to Tableの幅広い領域を学際的視点で捉える能力と,あらゆる現場に適応できる知識・実践力を有するとともに,国際的視野を備えた本学独自のグローバル人材を育成することです。
グローバルのグローブ(Globe)は球体としての地球を意味します。グローバル人材は,世界的な視点で活躍するために,コミュニケーション・ツールとしての語学力と同時に,文化的・歴史的な背景に基づく価値観を乗り越えた協調性,新しい価値を創造する力,すなわちイノベーション能力や,将来に向けた社会貢献の意識などを兼ね備える必要があります。
新型コロナウイルスのようなパンデミック感染症,現在,ウクライナで起こっている戦争という悲劇,他にも,海のプラスチック汚染や砂漠化などの環境問題,エネルギー問題とも関連する気候変動,民族間の紛争,開発途上国を中心とした飢餓や貧困の問題,人類史上延々とつづく感染症との闘いなど,地球規模課題が山積しています。従って,これらの課題解決に対応可能なグローバル人材の育成が急務とされています。
一方で,AI(人工知能)などの科学技術を中心に社会が発展し,機能性や効率性が重視され,物質的に裕福になり,人々の価値観や生活様式が変化してきました。そこで今,提唱されているのが「スチーム人材の育成」です。スチーム(STEAM)とは,科学(Science),技術(Technology),工学(Engineering),アート(Arts),数学(Mathematics)の頭文字をとった造語です。アートは文化・経済・法律・生活・政治など広い視野に立って物事を見ることができる教養(リベラルアーツ)ともいえる領域です。前例のない地球規模課題の解決に向けて,文系・理系の枠を超えて学問分野を横断して自由に発想し,創意工夫で答えを見いだす人材がスチーム人材です。
これまで,皆さんの多くは「生徒」と呼ばれていました。これからは職業欄に「学生」と記入し,学業に従事することになります。我が国における成年年齢は,明治9年以来,20歳とされていましたが,民法の定める成年年齢を18歳に引き下げること等を内容とする「民法の一部を改正する法律」が成立し,2022年4月1日に施行されました。6年前から,憲法改正国民投票の投票権年齢や公職選挙法の選挙権年齢などが18歳と定められ,国政上の重要な事項の判断に参加することになりました。成年年齢を18歳に引き下げることは,自己決定権を尊重するものであり,その積極的な社会参加が期待されます。
皆さんには学業の他に,クラブ活動やボランティア活動などの正課外活動にも積極的に参加していただきたいと思います。時間を惜しまずアクティブに活動すればするほど大学生活は豊かになります。十勝の開拓の歴史を知り,地域の企業の方々と交流し,多様な人々の考えや文化に触れることも大切です。そうした学業以外のアクティブな時間を送ることによって,多様性を受け入れる人間性が育まれます。
最後に,皆さんが,それぞれの目標に向かって,志を高く持ち,悔いのない学生生活を過ごし,生命・食料・環境分野の専門知識,社会に通用する教養,社会情勢の変化や諸課題に対応可能な応用力やコミュニケーション能力を身につけ,スチーム人材として人間的に大きく成長されることを祈念し,告辞といたします。
令和4年4月4日
帯広畜産大学長
長澤 秀行