第71回畜産学部,第53回大学院並びに第60回別科草地畜産専修の入学式が,4月4日(木)午前10時から講堂において,関係者の列席のもとに挙行されました。
入学式では,畜産学部272名(編入学生10名を含む。)大学院畜産学研究科55名,別科草地畜産専修19名の計346名の入学者全員の呼名が行われ,入学が許可されました。
次いで奥田学長から告辞が述べられ,入学者を代表して共同獣医学課程の植村果穂さんから「学業に励み,学生の本分を尽くすことを誓います。」と宣誓が行われました。
その後,ご来賓の同窓会会長および役職員の紹介があり,本学マンドリンサークルによる帯広畜産大学逍遥歌の演奏が流れるなか,式は終了しました。
学長告辞
新入生の皆さん,入学おめでとうございます。希望に満ちてこの場におられる新入生の皆さん,また,これまで受験生を支えてこられた,ご家族をはじめとする関係の皆様に対し,帯広畜産大学を代表して,心よりお祝いを申し上げます。
皆さんは,さまざまな思いを胸にこの入学式に臨んでいることと思います。入学試験は長い人生から見ると,ある瞬間の限られた能力に対する評価に過ぎません。皆さんは,入学試験では量ることのできない,これまで自分も周りもが気づいていなかった能力を秘めていることを私達は知っています。
大学は,これまでの「与えられる教育」では見えなかった能力を開発する場へと大きく変化します。大学では,高度な知識を教授することは言うまでもありませんが,教授された既存の知識を身に付けることのみに満足することなく,自由な発想で自らの疑問を先生にぶつけ,先生達と議論し,学ぶことの深さを自ら拡げる自由があります。探究心を持って議論することこそが,大学における勉学の神髄です。そうした議論を通し解決しなければならない課題を見出し,課題の背景を自ら探求することによって,自分で考え解決策を見出す能力が開花していきます。実学を基調とする教育を実践する本学の特徴として,実習が多く,学生と教員の距離が近いことが挙げられます。本学は,皆さんの自己問題解決能力の開発を全面的にサポートしていきます。疑問を放置せず,自ら課題を解決する気持ちを強く持って,新しいスタートを切って欲しいと思います。
今年の冬は雪も少なく春の訪れが例年になく早いとは言うものの,昨日は十勝らしく積雪があり,一歩春が遠のいたかのようです。しかし,日に日に陽の光は暖かさを増し,間もなくすべての植物が一斉に芽吹き,生命感のあふれる季節になります。広大なキャンパスを歩くと,キツツキの奏でる音に気づき,またエゾリスの駆ける姿を見かけるでしょう。新入生の資料を見ましたところ,本年度も約65% が北海道外の出身者で,関東以西の入学者が58%でした。こうした北海道の自然環境へのあこがれも皆さんが本学を目指した理由の一つだったのではないでしょうか。
本学は,西には,サホロ岳から襟裳岬へと続く日高山脈,北には,北海道の最高峰である旭岳を有する大雪連峰を見渡せる十勝に位置しています。それらの山々のすそ野は,十勝川に沿って南へ太平洋沿岸まで広がる十勝平野を形成しています。この自然環境と気候は,十勝の基幹産業である畜産と畑作の発展に大きく寄与しており,十勝が日本の食料倉庫と言われる所以となっています。そして,何よりも大切なことは,地域の基幹産業と,本学の教育研究分野が一致していることです。つまり,本学は「獣医学・農学・畜産科学」を学ぶのに最高のロケーションにあることを意味しています。日本の食料生産の中心地として「生産から消費まで」一貫した環境が揃う十勝に位置する本学は,我が国唯一の国立農学系単科大学です。農学に関連する領域は生活の基盤であり,健康の基盤であることから,本学のミッションを「『食を支え,くらしを守る』人材の育成を通じて,地域および国際社会に貢献すること」としています。そして,創設以来,これまで約1万6千人余りがこのキャンパスから飛び立ち,国内外の「生命,食料,環境」の分野で多彩な活躍をしています。本日入学した皆さんも,本学の特徴を活かした目標に向かって勉学に励んでいただきたいと思います。
本学は,昭和16年に前身となる帯広高等獣医学校が創設され,今年で78年目を迎えます。新制大学としてスタートしてから70年が経過した現在,本学の教育研究環境は大きく進歩し,産業動物臨床施設群を始めとする教育研究施設,乳製品工場など国際認証基準に適合した実習施設など,世界に比肩できる教育研究が行える体制を整えています。また,昭和35年に設置された別科(草地畜産専修)は,地域に密着した農学を学ぶことにより,地域社会のリーダーとなる農業後継者の育成を目的としていて,これまで,1131名の有為な人材を社会に輩出しており,今年で59年目を迎えます。
現在,食料生産分野に限らず,多様な分野において農業が注目されており,21世紀最大の成長産業とも言われています。また,現代社会が抱えている地球温暖化,食料安全保障,環境問題,エネルギー問題,感染症などの地球規模問題と「農業」は密接に関連しています。農学,畜産学,獣医学の学術貢献による地球規模問題の解決方策は,人類にとって喫緊の重要課題であると言えます。農業という産業が栄えるための学問が農学であると考えるとき,私は東京農業大学初代学長,横井時敬(ときよし)先生が述べられた「農学栄えて農業滅ぶ」という言葉を思い出します。「実学主義」である横井先生が,「私達農学を研究する者が栄えても,農業生産者が栄えるとは限らない」ことを戒めた言葉です。「実学」とは,実証性に裏付けられ,実際に生活の役に立つ学問を意味します。食料生産だけでなく,先に述べた,現代社会が抱えている地球規模問題と「農業」は密接に関連していることを念頭に置き,皆さんには,「鳥の目のように全体を俯瞰(ふかん)しながら」,勉学に取り組んでいただきたいと思います。やがて,本学に入学したことの価値を見出し,「食の安全・安心」の広い観点からの農業に対する問題意識が生まれ,目的意識を持って勉学に励む事が出来るようになると思います。
本学が実学を基調としていることを強調してきましたが,基礎研究も重要であることは言うまでもありません。専門学校と異なり,研究を基盤とした高度な教育をするのが大学です。本学は,獣医学課程,畜産科学課程の上に,獣医学専攻と畜産科学専攻の2専攻からなる,博士課程まで有する大学院畜産学研究科を有しており,本学の基礎研究は,世界でも最先端を走っていることを申し添え,本学で研究者になる道も大きく広がっていることをお知らせします。
皆さんには本学で学修し,それを基に広がる大きな未来があります。入学した課程によって,学修する内容は異なりますが,アクティブな時間を送ることによって,自らの手で未来を切り拓いてもらいたいと思います。アクティブに活動すればするほど大学生活は豊かになります。勉学の他にも,クラブ活動やボランティア活動など課外活動にも是非積極的に参加してください。講演会や音楽会など文化的イベントにも積極的に足を運び,多様な人々の考えや文化に触れることも大切です。そうした考えから,三年前からリベラルアーツ(教養)講演会と銘打ち,本学の学生や地域の方々をも対象にノーベル賞受賞者にご講演いただいています。今年はノーベル物理学賞受賞者 天野浩先生に「世界を照らすLED」という題目で7月にご講演いただくことにしています。楽しみにしてください。
皆さんが,専門知識や技術を身に付けるだけでなく,志を高く持ち,課外活動など多くの事にチャレンジし,本学に身を置く間に「光り輝く人間に成長すること」を祈念しています。昨日の雪景色のような真っ白いキャンバスを皆さんにたとえるならば,本学在学中に個性溢れる作品になるよう,全面的にサポートすることをお約束し,告辞とします。
平成31年4月4日
帯広畜産大学長 奥田 潔