中馬 いづみ 准教授 CHUMA Izumi

研究テーマ植物病原菌の病原性変異がどのようにして起こり、伝播していくのかを解き明かすことで、より確実な作物病害防除を実現する

所属・担当

研究域人間科学研究部門/自然科学・体育学分野/自然科学・体育学系
研究分野 植物病理学, 遺伝学, 生物学
キーワード 植物病害診断, 植物のお医者さん, 作物病害, いもち病, 白さび病, 樹木病害, 菌類, カビ, 非病原力遺伝子, 染色体, 分類, 形態学, 疫学

研究紹介

私が植物病原体の病原性変異に興味を持ち始めたのは、畜大の3年生の時でした。卒論では、トマト半身萎凋病菌をひたすらトマトカルスに接種し、病原性変異を再現するという実験に取り組みました。これがうまくいったかはさておき、この経験は、「もっと変異について知りたい!」という原動力となり、私が未だに菌の変異の研究を続けているルーツになりました。以後、神戸大学でいもち病研究をはじめましたが、「いもち病おたく」と自他共に認める病原菌好きになりました。菌の変異を知るために何をやればよいかを考え、修士課程で与えられた「イネ科植物いもち病菌の遺伝地図を作る」研究を発展させ、いもち病菌属全体の核型解析(染色体構造の違いをあぶり出す研究)を行いました(その過程で博士学位を取得しました)。その中で、いもち病菌の病原性エフェクター遺伝子が、進化の過程で染色体上をダイナミックに動き回っていたという現象を見つけました。それによって、いもち病菌が自然界で今までどのようにして宿主植物の抵抗性を回避してきたかという新しい概念を提唱することができました(図1)。いもち病菌の分類にも興味を持ち、そこから、菌そのものの生態を知ろうと、フィールドワークを始めました。国内外の水田に行き(写真1)、イネや畦畔植物からいもち病を分離し、分類学的に珍しいいもち病菌を見つけたことも何度かあります(写真2)。いもち病菌の第三の胞子とよばれる「小分生子」と出会い、菌の形態学の魅力に取り憑かれました(写真3)。これらの研究は、今も少しずつ続け、発展させていますが、やはり「病原体の変異の謎を解き明かす」ことは一番大切にしているテーマです。このように、「カビおたく」をやっていると、カビに困った人やカビ好きが集まってきて、研究の幅が広がっていきます。今は、いもち病だけではなく、アブラナ科植物の白さび病(卵菌によっておこる病害)や、沖縄県花であるデイゴのフザリウム病(写真4)の研究チームの一員として、世界を広げています。白さび病菌も、デイゴ菌も、いもち病菌と同様「なぜ今ここで病原性を発揮できるようになったのか」という不思議を秘めた生物です。病原体と宿主植物を好きでいることが、作物病害防除を実現すると信じて、日々わくわくしながら植物病理学に取り組んでいます。フィールドワークが大切という気持ちから、植物病害診断の教育(=植物のお医者さんの育成)にも力を入れたいと思っています。

図1 いもち病菌非病原力エフェクターのいもち病菌集団内での維持機構モデル
写真1 イタリアの水田で稲刈りを体験(トラクター運転席の向かって右側に座っているのが私です)
写真2 ギニアグラスいもち病の病徴
写真3 いもち病菌の大型分生子と小分生子
写真4 沖縄県でのデイゴのフザリウム病調査風景

現在取り組んでいる研究テーマ一覧

(1) イネ科植物いもち病について

  • いもち病菌Pyricularia spp.の病原性変異機構
  • いもち病菌属全体の分類と染色体構造進化
  • いもち病菌の小型分生子・完全世代の自然界における役割
  • いもち病菌の疫学的研究(既知・未知のいもち病の探索と、病原菌の生態の解明)

(2) 白さび病について

  • アブラナ科植物白さび病抵抗性遺伝子の探索と菌の分類学的位置の再認識

(3) デイゴ枯死について

  • 沖縄県・アジアのデイゴ枯死の新規病原体Fusarium sp.の分類と病原菌の生態の解明

(4) 植物病害診断について

  • 圃場等で発生した病害診断と防除方法の提案
  • 四季折々の植物病害(野生植物、樹木等を含む)の探索
関連産業分野 作物病害診断, 作物病害防除, 植物病理学, 農薬, 樹木医
所属学会 日本植物病理学会, 日本菌学会
学位 博士(農学)
自己紹介

生まれも育ちも兵庫県西宮市で、学部時代を畜大で過ごし、その後は神戸大学で学位を取り、ポスドク、教員として植物病理学の研究・教育を行ってきました。2018年4月、畜大に着任し、生物学を担当することになりました。学生のみなさんが、入学から専門分野を決めるまでの助けになるような授業を展開して行けたらと思っております。

小さな娘がおりますので、仕事時間は他の先生より短いのですが、学生たちや先生方、事務職員の方々にご理解とご協力をいただきながら、なんとかやっています。育児をしながら元気で楽しく仕事ができる職場づくりを、母校のためにやっていきたいと思います。

趣味はカメラで、散歩しながら接写レンズを使って植物(の病徴写真)を撮ると、心が癒やされます。それともうひとつ、音楽(クラリネット:B管、A管、バスクラリネット)も心の支えです。

居室のある建物総合研究棟I号館
部屋番号N1302-4
メールアドレス chuma atmark obihiro.ac.jp

卒業研究として指導可能なテーマ

上記研究テーマについて、興味等に応じて相談します。

メッセージ

私は人間科学研究部門で基盤教育の生物学を担当していますが、実際の専門分野は植物病理学です。植物病理の教育や研究指導を行う過程で、1,2年生の間にサイエンスに取り組むための基礎体力をつけておくことがとても重要とだということを実感しました。それは生物学だけではなく語学や法律等も含む全ての科目に関してです。基盤教育は、スポーツでいえば基礎となる筋トレやランニングのような位置づけになると思います。専門分野がより見えやすくなるよう、その選択の助けとなるように、生物学の講義や実験授業を展開していけたらと思っています。そして基礎トレーニングに真摯に取り組んだ後、皆さんに思いきり専門分野の世界に羽ばたいていただき、その中の何名かの方とは、植物病理の世界でまた会えたらいいなと思います。