食料の安定供給・食の安全確保・感染症の制御は、21世紀に解決すべき重要課題です。動物の感染症を制御できれば、動物の健康確保を通して動物由来食品の安定供給につながります。また、病原体の多くは動物から人へ感染します。動物の段階でそれら感染症を制御できれば、動物から人への直接感染のみならず、動物由来食品を介した感染も防ぐことができるのです。
食料の安定供給・食の安全確保・感染症の制御は、21世紀に解決すべき重要課題です。動物の感染症を制御できれば、動物の健康確保を通して動物由来食品の安定供給につながります。また、病原体の多くは動物から人へ感染します。動物の段階でそれら感染症を制御できれば、動物から人への直接感染のみならず、動物由来食品を介した感染も防ぐことができるのです。
動物の治療には痛みやストレスが伴います。これらを適切に管理するために必要となる様々な薬や、それが体に及ぼす影響について研究しています。また、非常に重症の症例をいかに早く回復させるか?など動物のケアについてもより深い研究を展開予定です。
原虫病、とくにトリパノソーマ原虫を追って世界各地を調査してきました。得られた情報や原虫を使って、いまだにワクチンや安全な治療薬のないトリパノソーマ症をいかにして封じ込めるか、新たな診断法や治療薬、ワクチンが開発できないか、研究しています。
「産業動物」と呼ばれる牛や馬たちは、人間のために牛乳や肉、娯楽を提供してます。彼らの生産寿命を伸ばすべく、疾病の詳細な情報の収集、治療に対する反応の評価などを通じて、より有効で安全な治療法の確立を目指しています。
雌牛に乳を出してもらうためには、妊娠と出産を安全に繰り返してもらう必要があります。そこで、効率良く妊娠が成立するための条件を知るために、出産してから次の妊娠までに起こる体の変化や異常について調べています。これらの研究成果を、ウシの子宮や卵巣の病気の診断や治療の方法や人工授精を効率よく行うための処置法などの改善に生かしていきます。
乳生産における最大の危害とは、牛乳に病原微生物や抗菌性物質などの異物が混入することです。病原微生物の感染によっておこる乳房炎は、これらの異物混入のリスクを格段に高めます。私達は乳房炎原因菌の簡便で迅速で正確な同定手法の確立や、抗菌性物質の慎重な使用法、また、乳房炎をコントロールする効果的な手段の開発に取り組んでいます。
バベシア原虫は世界中の家畜に多大な経済的被害を与えています。私達は新規治療薬・ワクチンの標的につながる重要な分子を見つける研究を行なっています。その他にも、マラリア原虫はヒトの病原体として有名ですが、家畜に感染するマラリア原虫というものもおり、私達はその世界的な分布や病原性について調査を行っています。
世界人口の2~3割が症状がないため気づいていないトキソプラズマ原虫の感染は、妊婦の場合、流産や死産、胎児の感染による障害化などにつながる可能性があり、特に十分な注意が必要です。私達は宿主防御機構の解明や病原性発現機序の解明等の基礎研究を推進しています。また、人間の身近にいるペットに着目し、問題となる寄生虫の感染状況調査を行なっています。
生きたままの組織や細胞を見る技術をライブイメージングと言います。この技術によってターゲットとなるタンパク質に印をつけることができ、感染の仕組みを詳細に観察できるようになりました。私達はバベシア症に感染した赤血球内や媒介者であるマダニ体内でのバベシア原虫の発育機構などをこのライブイメージングによって解明しようとしています。
家畜動物に発熱や貧血などの消耗性疾患を引き起こす牛ピロプラズマ病は、世界で深刻な経済的被害をもたらしています。制圧するために私達は、分子疫学調査による実態把握、媒介者であるマダニの調査、汚染国に合わせたワクチンの開発などを行っています。また合わせて国際的共同研究ネットワークの構築にも積極的に取り組んでいます。
私達は、マダニがどのようにして生存・発育し、吸血を行い、繁殖し、また、ヒトと動物に原虫などの様々な病原体を媒介するのか、それらの仕組みを解明するための基礎研究を進めています。新たなワクチンや殺ダニ剤の開発研究へと繋げることを目標に、マダニの「弱点」を一つでも多く発見し、畜産資源の確保、食糧の安定供給に大きく貢献したいと考えています。
ウィルスや細菌感染に比べて対策が遅れている病原性原虫の早期制圧には、基礎研究と応用研究の融合が必要です。私達は感染して病気が発症するメカニズムの解明から、診断薬、ワクチン開発、治療法の確立、さらにグローバルな情報共有と人材育成まで、総合的な観点から研究成果の社会実装を目指し研究を行なっています。
犬糸状虫はフィラリアとよばれ、蚊にうつされる犬で最も需要な寄生虫です。予防薬と呼ばれる薬を一生投与しなければ感染を防ぐことはできません。しかし、予防薬は犬に無害とは言えず、より本質的な対策が必要です。そこで蚊がこの寄生虫をうつさなければと考え分子生物学・ゲノム編集技術などを駆使して「犬糸状虫をうつさない蚊」を作るべく研究を行っています。
実はウシなどの反芻動物・草食動物は自身には草を消化する能力がありません。お腹の中に生息している膨大な数の微生物が食べた草を分解・発酵し、栄養素に変換しています。これらの微生物のバランスが崩れると代謝性疾患を起こし、消化や栄養の吸収が円滑に行えません。私達は動物の消化機能として微生物の最適なバランスを探求しています。
ウシの子宮内に放たれた凍結精子、母体の自然免疫によって攻撃され、ほとんどが膣側に排出されます。この免疫システムは上皮細胞が病原体を認識して排除する方法と共通であることがわかってきました。私達はウシにも酪農家にも負担をかけないより高い受胎率を目指し、凍結精液技術と受精卵作出方法の開発を行っています。
動物の自然発生疾患であるアミロイドーシスとウシの神経変性疾患に注目し、発生するメカニズムを明らかにする研究をしています。2つの疾患の共通点は、ヒトを含めた様々な動物にも起こる疾患であり、病理診断ができても有効な治療法がまだありません。目指しているのは難治性疾患の病態解明と、診断・治療法の開発に有用な知見を見つけることです。
トリパノソーマ症という総称で呼ばれているトリパノソーマ原虫の感染による動物や人の疾患は、主に発展途上国で多く、未だ治療薬のない感染症です。私達は有効な対策を確立することを目指し、トリパノソーマ症に対する鑑別診断法や疫学調査、新規治療薬開発を研究しています。
ウマの生殖機能調節やホルモンの作用、診断法の開発に関する研究を行なうとともに、繁殖牝馬の生産管理上の諸問題について調査、研究に従事しています。地域に密着した馬産業への貢献を目指すとともに、馬を通じた教育・研究・社会貢献を推し進めることが今後の課題です。
1軒の酪農家で家畜伝染病が発生した場合、地域経済全体に影響を及ぼす可能性があります。このような事態になる前に、緊急時の行動指針を地域で話し合っておくことで、実際に被害が起きた時に迅速かつ円滑な対応ができ、被害を最小限にできると考えています。では、どのような取り決めや訓練が必要なのか、私達は地域単位から産業単位まで包括的に研究しています。
飼育環境や飼料、母体の栄養状態は、子の発育や大人になった時の繁殖性に関係しています。これは後天的な要因によって、発現する遺伝子に差が生じるからで、この研究分野を“エピジェネティクス”と呼んでいます。私達は家畜とヒトに共通な遺伝子発現調節メカニズムに着目し、特に周産期の母親の環境と子供の発達の関係を解明を目指しています。
生殖工学とは体内で起こる複雑な受精現象を体外で人為的に制御する技術です。これにより、多くの動物種で体外受精卵の作出が可能になり、効率的に産仔を得られるようになりました。しかし、この技術には受精卵の染色体異常を誘発するリスクがあることがわかってきており、私達は作出する胚の遺伝的安全性の確保を目指した研究をしています。
反芻動物は反芻胃をもつことが特徴で、単胃動物とは消化・吸収の仕組みが違い、そのため代謝ホルモンの作用などメカニズムも大きく異なります。そこで各種代謝ホルモンの測定技術を開発して代謝メカニズムの違いを把握することで、家畜の成長促進をはじめとした効率的な飼養システムを構築しようとしています。
卵子から排卵に至る卵巣機能などに副腎皮質ホルモンの影響は無いと長年思われ、未解明のままでした。しかし、私達はウシをモデルに卵子の形成、受精、胚発生において副腎皮質ホルモンが関与していることを明らかにしました。この研究から得られた知見を体外胚の生産に反映させ、家畜の生産性向上を目指しています。
乳牛は分娩後に乳生産を開始しますが、乳中に大量のカルシウムが流れ込むため、母牛の血液中のカルシウム濃度が低下します。これが原因で北海道だけでも年間4万頭の牛が消化管運動の低下や立ち上がれなくなるなどの症状を起こし、そのうち4千頭が死亡しています。そこで、血液中のカルシウム濃度の状態を誰でも簡単にチェックできるよう、心電図波形から計測するシステムを開発しました。
家畜の病気を診察・治療した現場の長年の経験から言えるのは、農家さんが牛や馬にちゃんと手を掛けてあげれば、長生きし、生産性も上がり、結果的に恩返しをしてくれるということです。それを理解してもらうには獣医師と農家さんとの信頼関係が必要!現在は、牛の予防獣医療や子牛の健康と疾病、乳牛の蹄病などの研究を行っています。
多くの人や家禽に致死的な病気を起こすH5N1亜型高病原性鳥インフルエンザウイルスは渡り鳥によって感染が広がりますが、鳥自体には病原性を示すことはありません。家禽や哺乳動物に感染した場合に遺伝子変異が起こり、病原性変化につながるのです。このような仕組みを理解することで、感染症を制御し、パンデミックの発生を防ぐための研究をしています。
哺乳動物は、出産後に母親の乳腺で作ったミルクを子に与えます。この乳腺機能は、乳腺発達、乳産生、射乳という3つの異なるイベントが複雑に関係して獲得されます。その様子を多面的に明らかにし、乳腺機能の仕組みの全体像に迫ろうと研究を進めています。将来的には乳腺に関連する疾病の病因解明に役立て、獣医療や畜産分野に貢献したいと考えています。
草の葉や茎、乾燥した穀物などを食べる反芻動物の唾液腺は、他の動物と比べ、非常に高い唾液分泌能をもちます。ウシでは一日に分泌される唾液量は90〜180リットルにも達します。この唾液分泌を可能にする細胞内分子メカニズムの解明を目指し、電気生理学、分子・細胞生物学的手法など様々な手法を用い総合的に研究しています。
野生動物、家畜、動物園や水族館の生き物など、死んだ動物を解剖して、細胞、器官、骨格などの機能的な働きを分析しています。特に繁殖に関する生殖腺と胎盤の発生を研究中。また、臨床解剖学的データの蓄積を行い、現場の獣医師や獣医師を目指す学生をバックアップするプロジェクトを始めています。生物は死してなお多くを語ってくれます。