私の研究は,小学校図画工作科での工作教育と中学校技術・家庭科の技術分野の成り立ちを解明する歴史研究です。これらの教科の前身に,手工科という教科があります。教育史研究は,法制度の変遷を丁寧に追いかけ,当時の資料を読み解く方法が一般的です。しかし,そこには資料の限界が常に付きまとうため,当時のリアルな教育実践の姿に迫ることが困難です。そこで私は,その限界をうち破る「復元による教材解釈」という研究手法を試みています。当時,手工科の授業を担当していた教員が,どんなことを子どもたちに伝えようとしていたのかを,木材加工等の教材を復元することによって明らかにする手法です。復元をすることによって,図面や写真からだけでは気づくことのできなかった様々なことがわかります。例えば,のこぎり挽きでどのくらいの精度の加工を求めていたのか,その加工レベルに子どもが到達できるようにどんな工夫がなされていたのか等。教材の作り手の意図を明らかにすることで,無味乾燥な学校教育の歴史の流れではなく,その時代に確かに存在していた教師と子どもの教育の営みをリアルに感じ取り,今日の教育実践への示唆を得ることができます。
この文を書いた人 | 平舘 善明 教授 |
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所属 | 研究域/人間科学研究部門/人文社会学・言語科学分野/人文社会学・言語科学系 |