平成29年1月
トキソプラズマに対する免疫応答がうつ様症状の発症を誘導することを明らかにしました。
細胞内寄生原虫のトキソプラズマの感染は,ヒトにおける精神疾患の発症に関与することが考えられています。我々の研究室では,トキソプラズマ感染がうつ様症状の発症を引き起こすことをマウス実験モデルで明らかにしています(Mahmoud et al., Behav Brain Res. 2016)。
今回の研究では,トキソプラズマに対する免疫応答がうつ様症状の発症を誘導することを明らかにしました。トキソプラズマに対する防御免疫反応には,炎症性サイトカインのインターフェロン・ガンマ(IFN-γ)が必要です。トキソプラズマ感染により,IFN-γが細胞に作用することでインドールアミン酸素添加酵素(Indoleamine 2,3-dioxygenase: IDO)が活性化され,トリプトファンの代謝が亢進してキヌレニンが産生されることを確認しました。キヌレニンはうつ病をはじめ様々な精神疾患全般の原因として考えられています。トキソプラズマ感染は上記の経路を誘導し,宿主動物にうつ様症状が発症すると示唆されました。さらに,このうつ様症状は抗炎症剤やIDO阻害薬で抑えることができました。宿主免疫応答は病原体の排除に重要ですが,その副反応の一つとして精神疾患の発症に関与することに注意しなければならないと考えられます。
本論文発表は,最先端・次世代研究開発支援プログラム(日本学術振興会: 2011/LS003),挑戦的萌芽研究(文部科学省: 15K15118)の研究成果です。
Mahmoud ME, Fereig R, Nishikawa Y*. Involvement of host defense mechanisms against Toxoplasma gondii infection in anhedonic and despair-like behaviors in mice.
Infect Immun. 2017 Jan 30. PMID: 28138019. *Corresponding author
- 原虫病研究センター 准教授 西川 義文 (西川研HP)