ごあいさつ

原虫病研究センター センター長
 井上 昇

 帯広畜産大学原虫病研究センターは1990年に学内共同利用施設として設置され,2000年に全国共同利用施設,2009年には共同利用・共同研究拠点に認定されて現在に至っています。また,関連国際機関との連携活動では2007年に当センターに所属する専任教員2名が国際獣疫事務局(WOAH)リファレンスラボラトリー専門家に任命され,その翌年には原虫病研究センターが原虫病分野では世界初となるWOAHコラボレーティングセンターに認定されるなど,家畜原虫病分野に特化した国際的研究組織としても認知されています。2017年にはWOAHリファレンスラボラトリーが提供する診断検査にISO/IEC17025認定を取得することで,国際標準の診断検査体制を整備しました。これからもWOAHなどの関連国際機関と連携し,地球規模での原虫病の監視・制御に対して学術研究および国際的な人材育成を通じて貢献し続けます。その一例として当センターでは1995年から現在に至るまで,国際協力機構(JICA)の支援を受け,原虫病を主体とする人獣共通感染症対策に携わる新興国・途上国の専門家を招へいし,集団研修コースを実施して参りました。これまでに約243名の研修員がこのコースを修了し,各国において獣医畜産行政や感染症研究・教育の中核を担っております。当センターがこれまでに輩出したJICA研修員を含む留学生は420名以上に達し,これらの修了生からなる国際研究者ネットワークは,当センターはもとより,本学の教育・研究活動国際化において重要な人的リソースとなっています。
 私達が日々研究を続けている原虫病が人類や動物に与える被害には計り知れないものがあります。ウイルスや細菌よりも高等な真核生物である原虫は,宿主細胞との類似性が高く,抗原変異、免疫攪乱、複雑なライフサイクルなどの巧妙な生存戦略を有する強敵です。残念なことに未だ予防ワクチンや安全な特効薬はほとんどありません。したがって,世界の畜産現場で実用可能な安価な診断法・予防法・治療法の開発が地球規模で喫緊の課題となっています。原虫病研究センターは,これまでの研究成果とグローバルな原虫病研究者ネットワークを最大限活用し,国際連携研究を積極的に推進することで,世界唯一の原虫病に関する国際的な共同研究拠点としてOne Healthの課題解決と推進に貢献します。関係者各位からのご指導・ご鞭撻に心より感謝申し上げます。