
河津 信一郎
2020年は原虫病研究センター設立の30周年の年となります。私達,帯広畜産大学原虫病研究センターは1990年に学内共同利用施設として設置され,2000年には全国共同利用施設として,また2009年には共同利用・共同研究拠点として文部科学省に認定され,現在に至っております。私達はこれまでに,日本で唯一の原虫病研究拠点として,3つのミッション「先端研究」「国際協力」「人材育成」達成のため,原虫病の監視・制御に関する基礎・応用研究を牽引するとともに,国内外に多くの原虫病専門家を輩出してきました。
世界の人口は,21世紀半ばに現在の約1.5倍(90億人)に達すると見込まれますが,特に新興国・開発途上国では,家畜感染症による食料生産阻害の現状を早急に打開することが懸案となっています。一方,これら感染症のほとんどは人獣共通感染症で,食料問題のみならず,直接に人々の健康ならびに安全な社会活動を脅かしているのが現状です。このような課題を解決するために,私達センターでは,医学・獣医学において重要な病原原虫および,これら原虫を媒介する節足動物について,独自のゲノム・トランスクリプトームデータベースを構築して世界に発信するとともに,自らもこれらを活用して,原虫病の基礎・応用研究を精力的に進めております。
また,2007年には,私達センターの二つの研究室が国際獣疫事務局(OIE)リファレンスラボラトリーに認定され,その翌年には原虫病研究センター全体がOIEコラボレーティングセンターに認定されました。2018年には,OIEレファレンスラボラトリーが国際規格ISO/IEC17025: 2005の認定を取得いたしました。今後も,OIEならびに関連の獣疫機関と連携して,地球規模での原虫病の監視・制御に一層の貢献を果たせるよう努力いたします。
さらに,原虫病研究センターでは1995年から20余年にわたり,人畜共通感染症対策に携わる新興国・途上国の専門家を招へいして,約10ヶ月間の国際協力機構(JICA)集団研修コースを実施しています。これまでに約200名近くの研修員がこのコースを修了し,各国において獣医畜産行政や感染症研究・教育の中核を担っております。JICA研修員や大学院修了者ら(約300名)により構築された国際ネットワークは,私達センターはもとより,大学全体の教育・研究活動発展の原動力になっています。今後は,私達がこれまでに蓄積した国内外の人的リソースを関連学会でもご活用いただくことで,アカデミアの発展に一層の貢献を果たしていきたいと考えております。
あわせて,これからの共同利用・共同研究拠点には,先人がこれまでに築き上げた国産の英知と技術を継承することで,関連の学会とアカデミアの発展に貢献する役割も期待されていると認識しております。
私達原虫病研究センターは,原虫病の監視・制御に関する「先端研究」「国際協力」「人材育成」の3つのミッションに,日々真摯に向き合うことで,私達がその時代の社会から求められる役割を着実に果たしてゆく所存です。どうぞご支援の程よろしくお願い申し上げます。