国立大学法人帯広畜産大学農業土木系研究室では、農地防災研究協議会(十勝)の支援を受け、平成28年8月の北海道豪雨災害を契機とした、十勝地方における農地に関連した防災・減災の研究を行ってきました。令和3年度の農業農村工学分野講演会を11月8日に開催しました。「最近の気象変動における十勝地方の農地防災に関する研究」について報告し関係者約30名が出席しました。
なお、本講演会は農業農村工学会のCPD研修を兼ねて実施しました。主な報告内容は以下のとおりです。
近年、北海道の気象は温室効果ガスの影響により温暖化が顕著になっており、帯広も札幌と同程度に都市化の影響を受けて、特に、冬期間の最低気温の上昇が著しくなっています。降水量については気温のような増加傾向は見られませんが、十勝でも短期間に強い雨が降ることが増加傾向にあります。
平成28年8月の十勝地方の豪雨災害は、台風10号が1951年の台風統計開始から初めての進路をとったことにより、日高山脈東側の十勝管内に大雨を降らせました。気候変動が台風の進路に与える影響についてはまだわかっていません。
降雨状況は降雨量(Depth)だけでなく、降雨面積(Area)、降雨継続時間(Duration)を総合的に検証することが必要で、DA解析(※地上観測による降雨量とレーダー観測による雲のデータを組み合わせ、1kmメッシュ単位で降水量を解析したもの)によると、最大面積平均雨量が防災・減災対策をするうえで有効な指標となります。将来予測では、年平均気温は十勝管内で3~3.5℃、帯広などの中央部は3.5~4℃高くなることが予想され農業形態が大きく変わるとみられます。冬の日最低気温は北海道全体で4℃程度の上昇がみられ、特にオホーツク海側や十勝管内を含む太平洋側の上昇が大きくなり、冬期の土壌凍結深が浅くなり、掘り残されたジャガイモによる翌年の「野良イモ」の発生につながるなど、温暖化の進行が農業に与える影響はさらに大きくなることが予想されます。
法面緑化のための植生工は、景観・自然保護のみだけでなく、茎葉部の被覆による表土(客土)保持・侵食抑制、根系の緊縛力による土壌補強に効果が期待されています。外来草本植物・地域性種苗の生育期間を十分に確保することで、根系を含む土供試体のせん断特性に関する強度定数(c・Φ)をともに増大できます。緑化工技術の見地からは、外来草本植物がもたらす法面保全効果と生物多様性保全への配慮との両立が急務の課題となります。外来草本植物の適正管理と地域性種苗を含めた法面緑化への適用に関する❝北海道ガイドライン❞の構築に向けて、さらなる情報収集と有用な知見に基づく建設的な議論を進めていく段階にきています。
平成28年8月の台風では北海道全域で過去最大規模の被害がありました。十勝においても様々な被害があり、農業分野では農作物被害だけでなく、頭首工、排水路の氾濫による農地の洗堀などが発生しました。十勝管内で農地の侵食・洗堀被害を被った全66ヵ所の河畔林についても、減災効果が確認されましたが、より大きな流去水の力が加わると侵食被害は軽減できても完全に抑制することはできないこともわかりました。河川の水理学上、破堤を起こしやすい屈曲部(河川の侵食危険個所)を抽出し、河畔林の減災効果を検証した結果、無被災箇所河畔林の方が平均幅が広く有意な差が認められ、十勝川水系において、河畔林は減災効果を発揮したことが認められました。
今後も温暖化による気候変動が予想されるなか、気象データの活用と農業排水路や河畔林は、今後の十勝地方の農業施設や農地の防災・減災上その重要性はさらに増加することと思われます。