日本の獣医学教育が欧米の認証を取得する必要性
- 獣医学教育における知識偏重教育から技能教育への転換
欧米の獣医学教育では大学を卒業した獣医師の知識だけではなく技術や技能を客観的に判断する(First-day Skills)。日本の獣医学教育を,国家試験に合格するための知識教育から技術と技能も付与する教育へと転換しなければならない。
- 欧米に通用する獣医学教育の構築
欧米に通用する獣医師養成を目標とする獣医学教育改革を真に推進するため,共同獣医学課程を設置した獣医大学は,欧米の獣医学教育評価機関であるAVMA(北米)またはEAEVE(欧州)の認証評価を受け,改革の先導的役割を果たさなければならない。
- 欧米の獣医学認証評価と同等の分野別第三者評価システムの構築
日本の獣医師国家試験には獣医師としての素養や技術を評価するという視点に乏しく,欧米の評価基準とは大きく異なっている。新たに我が国でも分野別第三者評価を構築する検討が始まったが,それは欧米の認証評価と同等なものでなければならない。欧米のシステムを念頭に置いた日本独自の第三者評価機関およびそのシステムをつくることが必要不可欠である。
欧米の認証を取得しないことによる不利益
- 獣医学教育の国際的なハーモナイゼーションからの脱落
EAEVE,AVMA,RCVS(英国),オーストラリア獣医学協議会,南アフリカ獣医学協議会が加盟した国際認証ワーキンググループが作られ,世界的な評価モデルシステムが検討されている。また,AVMAやEAEVEは共同視察評価を行なおうとしている。このような世界の動向から日本は取り残される。
- アジアの獣医学教育を先導できない
アジアの獣医学教育は(ソウル大学,中国香港市立大学),欧米の大学を模して著しく改善されてきている。我が国より先に欧米の認証を取る可能性があり,アジアにおける日本のリーダーシップが発揮できなくなる。
- 畜産物の輸出入制限の可能性
獣医学教育は,その教育内容が欧米と比較し易いライセンス教育である。医師,歯科医師とは異なり,獣医師は畜産物の輸出入では国境を越えた交渉をしなければならない場合がある。畜産物等の輸出入規制は,国の政治的判断であり,国際関係が悪化すれば,獣医学教育の欧米による質保証がないことを理由に,畜産物の輸出入を制限される可能性がある。
社会的メリット
- 国際機関OIE提示のカリキュラムを実行していることを欧米に示す
平成22と23年,OIE(国際獣疫事務局)は獣医学部長国際会議を開催し,行政獣医師養成に必要なコアカリキュラムを提案することで,世界の防疫体制の強化には,各国の教育サービスの高度化が重要であることを提示した。欧米の認証を受けることで,我が国の獣医学教育が欧米に通用性のあることを国外に発信することが可能となる。
- 産業動物医師と行政獣医師の不足の解消
日本の産業動物獣医師と行政関連獣医師の職場教育は充実しているが,大学におけるこれらの教育,特に実務教育(Hands-on Experiences)は極めて不十分である。産業動物医療,畜産行政や食肉衛生行政において魅力ある教育ができていないことが,獣医師の職域の偏在化の一因となっている。畜産行政や畜産生産に関連した分野の欧米認証を目指したFirst-day skillsの教育強化は,畜産業における国際的かつ国内的視点を学生に植え付けることができる。また,欧米の教育を実施することで,OIE,WHOやFAO等の国際機関を目指す魅力的な教育を組むこともでき,多くの学生をこの分野に誘導できる。