薬の“タネ”探しから臨床試験まで
抗がん剤開発の薬理研究に携わる
臨床の獣医師をめざし入学しましたが,脳・神経系をテーマとする石井利明教授の研究に惹かれ基礎獣医学分野の薬理学研究室に所属。そこで経験した基礎研究を続けながら「人の役に立ちたい」という思いがより一層強くなり,研究者の道を選びました。
所属するオンコロジーラボラトリーは抗がん剤を開発する部署で,入社当初から薬理研究に携わっています。従来の抗がん剤は正常な細胞にも作用するため,重篤な副作用が起こりがちでした。ラボで取り組んでいるのは特定のがん細胞のみにピンポイントで作用し,がんの働きを抑制する分子標的薬です。新薬の研究は薬の作用点となる標的タンパク質を探すことから始まります。そのため学会発表に赴いたり論文を調べたり,大学と共同研究を行うこともあります。次に培養がん細胞を使って,標的の制御ががん細胞の増殖や働きを抑制するかどうか検証。よい結果が出たら,薬のタネ(化合物)を探索します。得られたタネは弊社の化学合成研究者と連携し,化合物から薬になるように磨きます。さらに種々の動物実験で,薬効,薬物動態,安全性を検証。最終的には患者さんへの臨床試験を実施し,有効性や安全性の確認を重ねた後に薬が完成します。
研究はトライ&エラーの積み重ね
忍耐力と頭の切り替えが大切
新薬成功の確率は12,888分の1と言われています。タネががんに有効だと分かっても薬として育てることが難しく,プロジェクトが中止になったことも。研究は常に宿題を抱えていますがそれでも挑戦し続けるのは,「薬の効かない患者さんに,効く薬を届けたい!」という強い思いがあるからこそ。また目の前の課題で頭が一杯になったときは「これは本当に必要とされている薬なのか?」と自問し,目的を見失うことのないよう仕事に臨んでいます。研究者には粘り強さと同時に頭の切り替えも必要です。仮説通りに結果が出たときは小さくガッツポーズし,次のステップへ。大学時代の友人達とビデオ電話を通じ談笑することも,よい息抜きになっています。
新薬開発には膨大な時間と裏づけが必要ですが,患者さんの役に立つという喜びこそがこの仕事のやりがいです。
後輩になるあなたへ
畜大で得たものは数え切れません。新たな進路を示してくれた先生,社会人になっても気兼ねなく語り合える友人,自然や動物とのふれ合い。大切でかけがえのない出会いが,ここにはあるはずです。
品川研究開発センター
東京都品川区広町1-2-58
https://www.daiichisankyo.co.jp
医療用医薬品の研究開発,製造,販売等を手掛ける製薬企業。「がんに強みを持つ先進的グローバル創薬企業」を2025年ビジョンに掲げ,新薬メーカーとしてアンメットメディカル(治療法が見つかっていない疾患に対する医療)ニーズの充足に努めている。同時に医療サービス全体を視野に入れ,ワクチン・ジェネリック・OTC医薬品(市販薬)等,多様な医療ニーズに応える医薬品を提供している。
所属や肩書はインタビュー当時のものです。