霜降りの画像解析ひと筋に30
めざすは新たなスタンダードとなる肉質評価法の確立

おいし“差”を数値化するために

口田 圭吾 教授

Kuchida Keigo

東京都生まれ。農学博士。東北大学農学部畜産学科卒業後,1992年同大大学院農学研究科博士後期課程修了。同年,仙台市衛生研究所に勤務。1995年,本学助手に。2007年より現職。枝肉の順位付けの正確さを競う『全日本大学対抗ミートジャッジング競技会』の実行委員会会長も務める。1996年,日本畜産学会奨励賞受賞。2002年,肉用牛研究会奨励賞受賞。2012年,日本畜産学会賞受賞。趣味はミニバレーと写真撮影。

開発したミラー型撮影装置で
霜降りの精密な横断面を撮影・解析

おいしい和牛と言えば,多くの日本人が思い浮かべる霜降り。口田教授はその霜降り(脂肪交雑)の客観的評価をテーマに,学生時代を入れると30年近くも同じ研究に勤しんでいる。

「PCのプログラミングを利用して,画像解析しようと思ったのが研究のきかっけです。当初は計算機センターでデータを解析し,画像は大型のドラムでスキャナーしたものをプリントアウト。いま思えば時代ですね。私の研究自体,光学機器の著しい発展なしに成り立ちませんでした」と,口田教授。

教授自身もより高感度な撮影機器の開発に取り組んでいる。その一つが2005年に誕生した,LED内臓のミラー型撮影装置だ。仕組みはペットボトル1本程の高さで角度をつけたフードの内側に鏡を取り付け,鏡の反射を利用して枝肉の横断面を真上から撮影するというもの。フードに角度があるため枝肉を傷つけることなくその切開面に先端を差し込めるので,安定した同じ条件で均一な画像が得られる。

「カメラ部分は初代が1,350万画素。現在は入れ替えて3代目ですが3,500万画素に。日本食肉格付協会では格付けを目視で行っていますが,これを活用するとより精度がアップすることに。格付けの補助ツールとなることを期待しています」と,教授は未来を見据える。ちなみに協会が実施している肉質等級のチェックポイントは脂肪交雑,肉の色沢,シマリときめ,脂肪の色沢と質の4点。人が肉眼で見える画素数は700〜800万画素と言われているだけに,ミラー型撮影装置の精度との差は歴然だ。

口田教授はこの装置を携え帯広市内の食肉処理場を中心に年に数十回出向き,数千頭の枝肉断面図を撮影している。さらに解析ソフトで霜降りの割合だけでなくその粗さや細かさ,ロース芯の形状等を数値化。膨大かつ詳細なデータを蓄積している。

なお日本食肉格付協会の霜降りの指標写真は,ミラー型撮影装置で撮った教授の写真が使われているという。

肉のジューシーさ,やわらかさは共通認識
食味性の客観的予測へ一歩前進

口田教授の研究の着地点は,日本を含め世界の食肉の評価に開発した機器を導入すること。ジューシー,やわらかい等の食味性を客観的に予測できる新しい肉質評価法の確立にある。

「食味性の評価法については十勝清水町のブランド牛,十勝若牛®で指標を確立しつつあります。ここでは企業側が毎日枝肉の写真を撮り,すべてを試食し食味を評価しています。2012年からは私たちの機器も導入し1万頭近くを撮影。さらに2014年から写真と食味評価,生産履歴等を組合せどういう肉がジューシーでやわらかであるか調べたところ,その関係性が明らかに。旨いという評価は千差万別で難しいですが,前述2項目はある程度共通した認識だと思います。また肉の色が濃いと食味性が良くないということも,十勝若牛®に限り分かってきました。今後は光センサーを導入し,枝肉の状態で食味性が分かるよう数値化していきたいですね」と,口田教授。

この方法が確立されると,肉質評価に革命を起こすことは間違いない。

食肉評価のスタンダード構築をめざして
枝肉の狭い切開面に対応するカメラを開発中

2014年,口田教授は本学内インキュベーションオフィスに『一般社団法人ミート・イメージジャパン』を設立した。その目的は食肉流通のグローバル化に沿った,食肉評価のスタンダードを構築すること。狭い切開面で枝肉を撮影できるカメラの開発,牛の生涯データを解析できる『畜産クラウド』の実施,十勝若牛®の食味性を利用した販路拡大を事業の三本柱にしている。

「カメラについてはJRA(日本中央競馬会)の畜産振興事業から補助金を得て開発。実は流通する牛枝肉の95%は切開面が狭く,それに対応する装置が切望されていました。この装置はフード角度が15度で重さはミラー型の約1/3。その場で撮ったデータをサーバーに転送するので,霜降り等の解析値が約20秒で分かります。いまは完成の一歩手前まできました。この技術は海外からも注目されており,霜降りで格付が決まるオーストラリア向けに3台のカメラを作製中。また韓国からも引き合いがきています」と,手応えを語る口田教授。

このカメラの完成で,食肉評価のスタンダード化に弾みがつきそうだ。

講義に研究,事業と多忙な口田教授だが,枝肉の順位付けの正確さを競う『全日本大学対抗ミートジャッジング競技会』の実行委員会会長も務めている。2017年は本学が大学対抗部門において優勝。日本一に輝いた。

仕事では牛肉と長く接している口田教授だが,プライベートでも牛肉から離れられない。食味性に対する探求心は尽きることがないようだ。メニューにあれば,レストランでも牛肉を選ぶという。これまで食べた牛肉で一番おいしいと思ったものはとの問いには,「霜降りはもちろん,ジューシーな赤身も好き。甲乙つけがたいですね」と,笑顔で答えてくれた。

Data/Column

東京食肉市場において,全国13大学から59名の学生が参加し行われた『第9回全日本大学対抗ミートジャッジング競技会』。大学対抗の部で優勝した本学は豚部門でも1位と2位,部分肉・精肉部門で3位に食い込む等,過去最高の成績を収めました。また個人総合で優秀な成績を収めた3名の学生が,オーストラリアで行われた世界大会にナショナルチームの一員として参加。精肉&部分肉審査部門で,みごと優勝を果たしました。

所属や肩書はインタビュー当時のものです。

掲載日: 2017年9月