畜大を選んだ理由を教えてください
食で世界を救いたいと考えたときに、まずは農業のことを学びたいと考え、都市部で机上の学問を学ぶのではなく、大農業地帯にある十勝という恵まれたフィールドで学べる環境にある帯広畜産大学を選びました。
この分野を選んだ理由は何ですか
農と食に携わっていこうとする中で、専門性とともに、農業をとりまく環境を俯瞰する力を養いたいと考え、農業経営学、農業経済学を専攻しました。
大学院時代、担当教官の樋口教授がこんな話をしました。
「今野君。農業経営学とは、経済学とは違うんだよ。決定的に違うのは、農業者の「意志」がさまざまな選択をすること。人の意思は、短期的に最も経済的な選択だけでは指向するのではない。特に農業経営学の面白いところは、単に粗生産額やGDPでは測り得ない、農村における共同体、多面的機能、文化、風土など、数字にならないもの、経済学の理屈に当てはまらない選択を、農業者はしてきた。私たちの学問は、経済学の指標だけでは片付けられない経営者の意思選択を支えていく学問なんだよ。」
2017年のノーベル経済学賞において、行動経済学を提唱するリチャードセイラーが受賞しましたが、農業経営学の考えは、まさに食と農業農村における行動経済学そのものです。現代社会は、効率性の追求、個人主義、即時に便益を求める新自由主義に基づく資本主義の限界に気がついてきたのではないかと思います。その追求により、助け合う社会、コミュニティは失われ、どれだけ身の回りが物質に充足されたとしても、常に不安に追い回された世の中があります。
いま、私たちが、刹那の自らの満足や快楽のため、未来のための資源、文化、コミュニティ、教育、それらを「消費」することで、私たちは将来に何を残していけるか。その探求の一歩として、農業経営学を学んでよかったと思います。
畜大で学んで良かったのはどんなことですか
都会の大学でなかったことから、「大勢」に巻き込まれずに、「自分の言葉」で話をすることが当たり前になったことです。
仕事について教えてください
大学院修了後、北海道庁に入庁。網走支庁、農政部での勤務を経て、農林水産省で勤務しました。
農業を取り巻く情勢が激変する中で、その変化のスピードに対応していくためには、このまま公務員でいることは間に合わないという危機感から、2015年5月に公務員を退職。食べ物の背景にある作り手、地域をしっかりと伝え、「100年続くものづくり、1000年続く地域づくり」に取り組むため、現在の会社を立ち上げ、同年11月、清澄白河に日本で初めてとなる北海道産ナチュラルチーズ専門店「北海道ナチュラルチーズコンシェルジュ チーズのこえ」をオープンしました。
現在は、地域活性化、地域ブランディングについて、全国各地で講演や地域コンサルティングを行っているほか、食べることと世界へのつながりのワークショップなど、きっかけづくりを幅広く企画、問題提起しています。
やりがいを感じるのはどんなことですか
自らの行動で、自らの資金で、自らの責任のもとですべてを行うことは、評論家ではなく、プレイヤーとしての緊張感、判断力が求められる一方、人と顔をあわせて正面から議論をするなかで、「生きていく」実感が得られます。
これからの目標を教えてください
農と食で世界平和を。
後輩となるあなたへ
強みを疑え、常識をぶち壊せ。
株式会社FOOD VOICE
東京都江東区平野1丁目7-7 第一近藤ビル1F
http://food-voice.com/
「農と食で世界を元気に!」をモットーに、「農家のこせがれネットワーク(REFARM)北海道」初代世話人として道内の若い農業者のネットワーク構築に、また農水省勤務時は、週末のたびに全国の農村を訪ね歩き、全国の生産者と消費者をつなぐ様々な活動を続けている。
震災後、北海道内の農業生産者、チーズ工房、ワイナリーとの協働で札幌市内にて開催している東日本大震災復興支援「命をつなぐチャリティ・マルシェ」を実行委員長として現在も継続。全国の災害被災地にいち早く足を運び、支援を行っている。2015年、起業し、チーズのこえを立ち上げる一方で、公務員時代に培った幅広い知識と、全国にまがる生産者とのネットワークを活かし、地域活性化やプランディグのための講演、コンサルティングの依頼を受け、全国を奔走している。
所属や肩書はインタビュー当時のものです。