十勝地域における耕地防風林の現状と問題点

帯広畜産大学  辻  修

1.はじめに

 十勝地域では、春先の強風により播種した種子が飛散したり、飛土による農作物の茎葉の損傷、根の露出、埋没など、その後の生育に大きく影響するような風害を被ることがある。このため入植当初より、風害防止を第一の目的とした耕地防風林が広く造成されてきた。しかし、近年の農業作業機械の大型化と共に、耕地防風林は農作業を妨げる存在と見られ、伐採されつつある。
 そこで、耕地防風林の減少の実態とその防風効果領域を検証するために、帯広市南部の畑作地帯に位置する耕地防風林の現況調査を行い、これを1987年の帯広市農務部による調査結果と比較検討した。

2.調査方法
耕地防風林の調査対象とした地区を図-1に示す。
 まず耕地防風林の現状を把握するために現在の耕地防風林の面積・延長の現地調査を行った。そして、8年前の1987年に帯広市農務部が調査した耕地防風林調査地図との比較を行った。
 防風効果領域の検討のために用いる地区別耕地面積は、帯広市農務部の資料を使用した。
 調査は、耕地防風林の樹種、列数、樹高、そして延長距離を調べた。樹高は、調査対象の耕地防風林から無作為に樹木を抽出し、スタジア測量によって計測した。耕地防風林の延長距離については、原則として1987年の耕地防風林調査地図(1/50,000)から読み取ることにした。つまり、その地図と比較して、当時のままと考えられるものは地図からそのまま読み取り、現地調査で耕地防風林が一部伐採されていたり、新たに植林されていた場合は、スタジア測量を行うとともに、地図に記載されている耕地防風林近辺の建造物等の位置関係を考慮して計測した。

3.植裁面積・延長・樹高から見た耕地防風林の実態
 前回調査と今回調査の耕地防風林の植栽面積の比較を行うと、調査地区全体での減少割合は81%だった。(図-2,3)減少割合の大きな地区は別府地区の51%を筆頭に、上帯広地区52%、広野地区65%、富士地区66%であった。しかし逆に、八千代地区102%、上清川地区107%のように現状維持ないし微増をしている地区もあった。
 また、耕地防風林の延長距離でも比較する(表-1)とこれからも、防風林が全体的に減少し、その全体の減少割合は82%だった。また減少割合の大きな地区は上帯広地区の56%を筆頭に、広野地区62%、別府地区67%、富士地区69%であったが、上清川地区は87年と比較して112%と増加していることがわかった。
次に、耕地防風林の更新状況を把握するため、地区全体における樹高の相対度数を算出した。(図-4)なお、樹高の比較に当たっては、樹種の違いによる要因を省くため、この地区で最も耕地防風林に採用されているカラマツのみを抽出して行った。
 この耕地防風林の代表的な樹種であるカラマツは、商品としての価値から樹高25m程度になると伐採される。通常約10年で5m成長するので、樹高20m以上の樹木は今後10年程度で伐採されることになる。今後とも現在と同じ水準を保つためには、伐採された防風林と同数を植林する必要がある。しかし、樹高20m以上の防風林の占める割合が大きければ、この期間で同数の防風林を植林するのは困難であり、減少する可能性が高い。
 図より、この地区の樹高20m以上の耕地防風林は全域の35%を占めることがわかった。また、近年植林されたと考えられる樹高10m以下の耕地防風林は17%であった。この結果より、今後10年程度で現存する耕地防風林の35%を新たに植林するのは困難であり、現状では、耕地防風林の減少に歯止めがかかっていないことがわかった。
 この結果より、帯広市の畑作地帯における防風林の減少は、数値的にも裏付けられることがわかった。しかし、この中には八千代地区や上清川地区のように現状維持ないし微増している地区も存在していた。このように耕地防風林に対して意識の高い地区もあり、各地区の耕地防風林に対する取り組みの違いがうかがえた。

  4.耕地防風林の樹種
 入植前の十勝地域における樹木の植生は、乾性火山灰土壌にカシワ、ミズナラ、湿性火山灰土には、ヤチダモ、ハンノキなど、落葉樹が主であった。現在ほぼ全てが伐採されており耕地などに姿を変えているが、中には入植当時の姿をとどめつつ防風林の役割をはたしている。耕地防風林の樹種としては商品価値の比較高いカラマツが帯広では広くみられるが、カラマツが耕地防風林の最適樹種であるという報告はない。現在、帯広市の畑作地帯で耕地防風林として最も有効であろうと思われる樹種は、その能力が最も期待される5月〜6月上旬の風害危険期に既に十分繁茂している常緑樹である。
 そこで、植栽延長で耕地防風林をカラマツ、落葉樹、常緑樹に分類し、その構成割合を地区別に算出し、防風林の実態を考察した。ただし、カラマツは、落葉樹であるが帯広における耕地防風林の代表的な樹種であるので、単独にあつかった。
 耕地防風林植栽延長について各地区の樹種構成割合を図-5に示す。
 これより、各地区ともカラマツ占める割合が最も多いことがわかった。そして、カラマツの占める割合が最も大きい地区は、美栄地区の85%で、最も割合が小さな地区は、別府地区の55%だった。
 落葉樹の占める割合が最も大きな地区は、別府地区の29%で、最も占める割合の小さな地区は、上帯広地区の0%だった。
 常緑樹の占める割合が最も大きな地区は、植栽面積では太平地区の30%で、最も占める割合の小さな地区は、広野地区の3%だった。
 全体では、カラマツが70%、落葉樹が18%、常緑樹が12%であった。
 以上の結果、調査地区全域で帯広の防風林の代表といわれているカラマツが最も大きな割合を占めていた。しかし、地区によってはカラマツが風害危険期の5月〜6月上旬にはまだ十分繁茂していないという報告もある。また帯広での防風林の最適樹種と思われる常緑樹の占める割合は小さい。これを考えると防風林の量的拡大が困難ならば、せめて常緑樹への転換による質的向上を目指すべきであろう。

5.畑圃場に対する耕地防風林の減風効果面積
  畑地に対する減風効果面積を知ることは耕地防風林の機能、今後の対策を考える上で非常に重要である。そこで調査地区を対象に耕地防風林による畑圃場に対する減風効果面積を算出した。なおこの調査対象とした耕地防風林は民有林のみであるため、保安林は含まれていない。しかしこの保安林の延長は当然防風林の基準となるものであり、この計算上欠くことのできないデータである。そこで、この計算にはこの保安林の延長も含めて計算を行った。
 この算出に必要な耕地防風林の主方向については、耕地防風林の現況調査の結果、北から時計方向に31゜偏向した向きに全体の74%があり、残りの26%がその直角方向に走っていることがわかった。また風向については帯広における風害危険期である5月〜6月上旬の最大風速時風向の西北西を使用した。これより、耕地防風林の列方向は帯広の風向特徴を反映していることがわかる。
その地区毎の減風面積の計算結果を表-2に示す。
 なお、ここにおける減風効果面積とは耕地防風林風下方向に対して樹高の10倍を指し、その距離と耕地防風林の延長距離に風向を考慮した。
 これより、全体の耕地面積に対する防風効果面積の割合はわずか29%であった。減風効果面積の割合の最大は八千代地区の63%、最小が富士地区の14%であった。
 次に、本調査年における防風効果を比較検討するために87年耕地防風林図から減風効果面積を算出した。しかし、この耕地防風林図には樹高のデータが記載されていないため、調査年と87年の耕地防風林延長の比が、耕地防風林の減風効果面積に比例すると仮定しその概算値を計算した。
 この結果、87年相当の防風効果面積の割合は、調査地区全域で34%だった。減風効果面積の割合の最大は八千代地区の73%、最小が富士地区の20%だった。これから、既に87年には、耕地防風林の減風効果の及ぶ面積が少なかったことがわかる。すなわち、7年前の87年にはもはや耕地防風林の減少は顕著であったことがうかがえ、しかも、前述の耕地防風林の実態で耕地防風林の更新を考察した結果から、八千代地区と富士地区はその防風効果面積の急激な減少が予想される。また、調査地区全域でも耕地防風林の減少が予想されているので、今後、耕地防風林の減風効果面積も減少することと思われる。しかし、太平地区については、今後その防風効果面積の増大が見込まれる。

6.まとめ
  軽少な火山灰土が広く分布する十勝地方では、4月から6月にかけて吹く強風が過去、畑土壌の飛散や農作物に多大な害を与えてきた。このため、入植当時より、風食の防止を第1の目的とした耕地防風林が広く普及してきた。しかし近年、農作業機械の大型化と共に、防風林は農作業を妨げる存在とみられ伐採されつつある。
 そこで、耕地防風林減少の実態とその防風効果領域を検証するため、帯広市南部の畑作地帯に位置する耕地防風林の現況調査を行った結果、以下の見知を得ることができた。
 耕地防風林の実態調査より、帯広における防風林は減少の一途をたどっていることがわかった。しかし、この中には八千代地区や上清川地区のように現状維持ないし微増している、防風林に対して意識の高い地区もあり各地区の防風林に対する取り組みの違いがうかがえた。
 防風林の更新状態調査より、地区別では、別府、上帯広、美栄、上清川、太平地区は、若木の植林がみうけられ今後、現状維持の可能性があるといえる。特に太平地区の防風林は増加基調であると思われる。基松、広野、八千代、川西、豊西、富士、清川地区は、今後の防風林減少が懸念される。特に、八千代地区と富士地区は防風林の急激に減少する可能性が大きいものと思われる。
 防風林の畑地に対する減風効果面積を算出した結果、この地域における耕地面積に対する防風効果面積割合は29%だった。この値は、この地域における耕地の約70%もの面積が風食の危険にさらされることを示しており、先人の知恵である防風林をもう一度真剣に考え直す時期に来ていることを示唆している。
 しかし、調査当初、耕地防風林は衰退の一途をたどっていると考えていたが、地域によっては耕地防風林の重要性を認識し、耕地防風林が増加している地区があることを考えると、方法によっては、今後の地区全体に対する耕地防風林の増殖も可能性のあるものと考えられ、今後一層の耕地防風林の重要性の啓蒙が必要であろう。
 また今回の報告は、帯広市という十勝地域の中でも一部の地域の耕地防風林の調査であることや、土地利用・土壌といった耕地防風林と密接な関係にある要素についての調査が抜けているのも事実である。そこで今後は、現在、広域的に耕地防風林の現況調査を行っている十勝支庁と協力し、十勝地域全体における耕地防風林の現況を解析すると同時に地理情報システムを利用した耕地防風林のデータベース構築を行い、土地利用や土壌図などの他のリレーショナルなデータベースとのリンクを軸に、現在の農業形態に最もマッチした耕地防風林の回復に寄与していく研究を推進していくことが重要であろう。
                        1997.01.02


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