マラリア:
マラリア原虫の細胞内寄生適応のメカニズム、すなわち、この原虫が宿主細胞内の環境に適応して、そこでの発育・増殖を可能にするために「どのような機構でどのような因子が働いて、どのような遺伝子が発現し、原虫細胞の生理にどのように影響するのか」を原虫が被る酸化ストレスの側面から調べています。私たちが着目している分子は、チオレドキシン系抗酸化タンパクのPeroxiredoxin(Prx)familyで、マラリア原虫はCatalase、Glutathione peroxidaseといった主要なperoxidaseを欠損するので、細胞内でのperoxideの還元は主にこのfamilyが受け持つと考えられています。Questionの前半「どのような機構でどのような因子が働いて、どのような遺伝子が発現し」の部分には、哺乳類赤血球内の発育ステージで発現プロファイルの異なる2種類のPrx(1-Cys Prx: stage-specific, 2-Cys Prx: constitutive)について、それぞれの発現調節メカニズムを調べることで答えを出そうとしています。Questionの後半部分「原虫細胞の生理にどのように影響するのか」には、Prxを熱帯熱マラリア原虫とローデント(ネズミ)マラリア原虫でknock outして、in vitroまたin vivoでのこれら分子の生理機能について調べることで答えを出そうとしています。
マラリアは最もよく知られた、そして同時に、最も被害の大きい原虫病です。不幸にしてマラリアで命を落とす人が年間200-300万人、その殆どがアフリカの子供です。2002年にマラリア原虫では、そのゲノム解読が終了していますが、その後4年経ってもマラリアのコントロールに繋がる創薬やワクチン開発など画期的な成果は未だ発表されていません。これは、それまでのマラリア研究があまりに応用研究を重視したため、マラリア原虫についての基礎生物学の知見が蓄積されていなかったことが一つの要因と考えられています。ゲノムを構成する約5400遺伝子の60%が現在に至っても機能未知のままであることからもこの指摘の妥当性がうかがい知れます。 遺伝子転写調節メカニズム、抗酸化システム、これらは共に全ての細胞に備わる極めて基盤的な生命維持の仕組みです。これらのうち、何が他生物と同じで、何がマラリア原虫にuniqueなのかを詳細に調べることで、マラリア原虫の生物としての特性を明らかにしつつ、それに立脚した新たなマラリアの予防治療法の開発に繋げていきたいと考えています。 また、これまでの経験を基に、タイレリア、バベシア等、家畜で重要な病原虫についてもknock outやover expression等、リバースジェネティクスによる遺伝子機能解析の手法を開発していきたいと考えています。
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