これは、はじめて家畜(乳牛)の育種に触れる方、これから鈴木研究室で研究をしてみようと思う方のための内容です。 そのため、できるだけ専門用語を排し、簡単な言葉で書きました。 一方で、厳密ではない記述もありますし、基本的な理論ですら、登場しません。 これらの点について、あらかじめご了承ください。
突然ですが、目の前に3頭の乳牛がいます。酪農畜産業にたずさわるとき、かならず直面する問題があります。
家畜育種は、このような問題を扱います(もちろん、これら以外にも、数多くの問題を扱っています)。なお、今後は1頭の家畜のことを「1個体」と呼びます。
1個体から得られる生産物(乳や肉)は、できるだけ多い方が得です。 それでは、その生産量を増やすためには、なにを改善すればいいでしょうか。 ここで、生産量に影響する要因を考えてみます。
ここでの環境とは、飼料・管理方法・ストレス・けがなど飼養管理のほか、気候や地域性も含めた「家畜をとりまく全て」のことです。 環境を改善するには、エサを良くしたり、飼い方を変えればよいのです。
一方、ある個体の遺伝子は、生まれつき決まっているもので、これを改善することはできません。 でも、遺伝子は子供に伝わるものです。 そこで、生産量を高める遺伝子を子供に伝えることで、次の世代の遺伝部分を改善することができます。
家畜育種とは、家畜の能力を遺伝的に改善することです。 そのためには、「望ましい」遺伝子をもつ個体を選び(選抜)、上手にかけ合わせて(交配)、その子供の結果を調べる(検定)という手順が必要です。
ところで、「育種改良」という言葉も、まったく同じ意味で使われます。 また、最終的には「品種改良」にもつながっていきます。
さきほどの3つの問題について、家畜育種からみた解決例を挙げます(例ですので、必ずしも正しいとは限りません)。
・・・さて、遺伝的な能力を知るには、どうすればいいのでしょう。 常識的に考えると、分かるはずがありません。 でも「親子は似ている=親の特徴は遺伝する」という事実から、ある程度は推測できます。
家畜育種の大きなテーマは、いかに正確に遺伝的能力を予測するか、なのです。
家畜育種は、遺伝現象を利用するものです。 でも、この研究室では、DNAを直接のぞいたり、塩基配列を解明したり、精子や卵を触ることはありません。電子顕微鏡も実験器具も使わないのです(もちろん、遺伝子を直接調べている家畜育種研究者もたくさんいます)。
そのかわり、「親子は似ている」という事実、すこしの統計学、そして高速なコンピュータを活用しています。 一見、地味なようですが、畜産業には欠かせない分野なのです。