背景は白系が好きよ
生物リズム学概論

B概日リズムと環境適応
(い)歴史的起源


生物リズムの意義は、この問題の最も熱狂的な研究者が期待し続けてきたよりも、はるかに超えたものとなるだろう。
それは、生物時計が物質の無機的機能と生物学的機能との間の明確な絆を構成するからである。
したがって、生物リズムの本性を理解することは、生命自体の創生をより深く理解することにつながる。

(JT Fraser, The Genesis and Evolution of Time,1982)
(自然界における5つの時間、道家達将・山崎正勝監訳を改変)

準備中
(6月中に完成予定に延期!)

 
ホーム(生命を考える)へ テーマ別入り口 生命とリズム(トップ) 前ページへ 概日リズムと生物的環境 メール頂戴ね

講義レジュメ(98年度はだいたい第8講目)

  • 概日リズムと生命サイクルにおいては、二つの生物リズムの基本的な相互関係について考察しました。生命サイクルを欠く生命はありえませんから、それは生命の基本リズム(または骨格リズム)といって良いでしょう。これに対し、概日リズムは、この生命サイクルを一日の内の特定の時間帯に起こるように制御するしくみですから、環境適応リズムと呼んでおきました。

  • 概日リズムと生命サイクルでは、生命サイクル事象の日内タイミングが概日リズムによって制御されていることについて説明しました。しかし、そのタイミングがどうして適応的なのか、については触れずにおきました。そこで、ここでは、どうしてそのタイミングが適応的なのか、について考察してみることにします。

  • 概日リズムは生命がまだ陸上進出する以前に獲得されたことは確実です。そこで、まず最初に、原始の海において、概日リズムを備えることにどのような進化的利益があったのかを考察します。このことを通じて、概日リズムの歴史的起源についての何らかのヒントが得られるかもしれません。

  • 生命が陸上進出を始めたのは今から約4億年前のことです。この上陸に当たって、最も重要な課題は、水分を保持することであったと思われます。そこで、次の問題は、生命の歴史的上陸に当たって概日リズムがどのように利用されたのか、について考察することにします。

  • 最後に、生物的環境に対する適応と概日リズムでは、生物的環境に対する適応の局面での概日リズムの利用問題について考察します。生命が概日リズムにしたがって生命活動を営むということは、他の生命にとっての環境はあらゆる側面で24時間周期で変転している、ということを意味しています。こうして、地球は、物理的環境としても生物的環境としても24時間周期のリズムとして変動しているわけです。

    「生きていることとは四季色とりどりの移り変わりにこの肉体がしたがうこと」といったゲーテの真情を、
    われわれは古代の知として思い起こさずにはいられないのである。こうしてみれば、
    われわれの生命感情とは、つきつめていえば、それは大小宇宙の共振によるものであることがうかがわれる。

    三木成夫、生命の形態学(1975)・・・人体解剖学総論・・・(生命の形態学序説 1992所収)より

    (1)歴史的起源について

    @光酸化と活性酸素障害

    光損傷に対する防衛と概日リズム

    @光を吸収するとはどういうことか

  • 私たちは昼行性で視覚に頼る動物です。このため、光はとても有り難いものとして感ぜられます。しかし、太陽を直接見つめれば目が「焼ける」ことは皆さんも経験したことがあるでしょう。また、皮膚の日焼けも日常的ですし、色素性乾皮症(については、例えば国立がんセンター、がん情報サービス、皮膚癌)と呼ばれる病気では、日光が病因です。

  • 光はエネルギーをもちます。生命にとって光は大きく分けて三つの作用をもつといえるでしょう。

  • では、物質が光を吸収するとはどういうことなのでしょうか?

  • 生命に対する光の損傷作用は、概日リズムの歴史的起源に深く関係しているかも知れません。「光からの逃走」によって概日リズムが発生したのだ、と最初に推測したのは、現在の生物リズム学を創始し普及させた CS Pittendrigh (1965) です。そこで、今しばらく、生命に対する光損傷について話します。過剰の光エネルギーが有害であることはすぐ上に説明しました。

    A光増感剤

  • ここでは、光→光増感剤→細胞成分の損傷、の過程を仲立ちする化合物のことを指しておきます。既に、クロロフィルに過剰吸収された光エネルギーが危険であることについて説明しましたが、光増感剤の作用も一点を除いて全く同じことです。つまり、クロロフィルによる光吸収には光合成電子伝達系を動かすという生命機能があります。で、その能力の範囲内なら吸収光は危険でありません。これに対し、光増感剤には、本来の生命機能は全くありません(全くないものを、ここでは光増感剤として定義しています)。したがって、光増感剤に吸収された光は、細胞成分を「焼く」以外に作用はないのです。

  • 以下、名著「光と生命」(LO ビョルン著、宮地重遠監訳、1973原著、理工学社)より引用します。著作権侵害かな?

  • 上の引用文中では、クロロフィルの分解産物とヘモグロビンの分解産物が「無関係」のように語られていますが、実は良く似た類似物質なのです。クロロフィルは植物や藻類、シアノバクテリアの「命」となる緑色の色素であり、ヘモグロビンは動物の「命」となる赤色の色素タンパク質です。ヘモグロビンはグロビン蛋白質にヘム色素(赤色)が結合したものです。

  • 光増感による細胞損傷を逆手にとると、例えば、がんの光力学的治療となります。光増感剤としてヘマトポルフィリンの派生物、フォトフリン Photofrin を投与するとがん患部に特異的に吸収される(らしい)。これに、赤色レーザー光を当てるとがん細胞が死ぬ、というわけです。患者はこの治療の後、6週間は強い日光を避けないと、皮膚(フォトフリンがまだ残っているから)をやられてしまいます。

    B核酸

  • この場合には、損傷を受ける分子が光受容体そのものです。水中を透過するすべての波長に対して透明であれば、光は危険でありませんが、少なくとも核酸と蛋白質は紫外線を吸収します。紫外線はDNA損傷の主な外的要因で、光回復酵素は、可視光線(320〜500nm、青)を吸収することによって、この傷害を修復する酵素です。哺乳類以外の殆どの生物に備えられています(有袋類にはあります)。

    C光損傷に対する防衛と概日リズム

  • Pittendrigh 1965 光からの逃走: 細胞分裂を夜に限定することに概日リズムの起源がある

  • 概日リズムが歴史的に誕生する原始の海において、紫外線や可視光による光損傷は、オゾン層が無いぶん、強かったはずである。このため、G1期やS期、或いはM期など紫外線に感受性の高い位相が昼に訪れるような細胞は自然淘汰されて行った:G1期、S期、M期は夜の相に強制的に押しやられて行った。紫外線に最も抵抗性の高いG2期を昼に過ごすような生命だけが生き残ったのである。

  • 初期の頃は、昼にG1期が来るような細胞からM期が来るような細胞までいろいろ存在したはずである。しかし、紫外線による淘汰圧のために、G2期が昼の相に訪れるような生命だけが生き残ったのであろう。細胞は、紫外線によるDNA損傷を受けるとG2期に抑制されて、DNA損傷を修復しようとする。したがって、例えば昼にS期が進行して(DNA損傷を受けて)も生き残る可能性がある。しかし、最も効率のよい方策は、紫外線に感受的な細胞周期相を初めから夜に行うようにする一方で、紫外線に抵抗性を示すG2期を初めから昼に行うようにするような時間配分を行うことである。主観的昼における概日的G2抑制は、この細胞要求を満たすメカニズムのなかで、現在まで引き継がれた唯一のもの、と考えることができる。


    活性酸素障害に対する防衛と概日リズム

    シアノバクテリアによって酸素発生型の光合成が行われるようになって、酸素毒(活性酸素、酸素ラジカル)が大きな淘汰圧になったと考えられています。過剰の光エネルギー(電子の運動エネルギー)は直接的にも細胞成分を損傷させますが、酸素の存在下では活性酸素を生ずることによっても有毒作用を発揮します。また、酸素呼吸においても活性酸素が発生します。

    @活性酸素障害とその防衛システム

    A活性酸素障害に対する防衛と概日リズム

  • アスコルビン酸(ビタミンC)レベルの概日リズム

  • SOD能の概日リズム

  • カタラーゼ能の概日リズム

    Bシアノバクテリアの概日的ニトロゲナーゼ能リズム

    まとめ

  • 以上の考察から、概日リズムを備えることの適応価値の一つが「光や酸素毒からの逃走」にあることが明らかであろうと思われます。この中で、概日リズムの歴史的創生に深く関与したと思われるのは「光からの逃走」でしょう。昼夜のサイクルのもとで、生命は光損傷をうける生命過程を夜にもってくることを余儀なくされたことは明らかだからです。もちろん、光損傷に対する完璧な防衛メカニズムが、概日リズムより(歴史的に)先に創生されたとすれば、この推測は当たりません。しかし、そのような完璧な防衛メカニズムは現存の生命にも実在しないことを考慮するなら、やはり、「光からの逃走」が概日リズム創生メカニズムの最も妥当なシナリオであると思われます。

  • こうして、外界との特定の位相関係を保つ24時間リズムが創生したことは明らかです。しかし、別の(短い)周期をもった生物リズムから、このような性質を持った概日リズムが派生してきたのか、或いは、概日リズムの祖先形となる生物リズムは全く存在しなかったのか、ということに関しては(少なくとも、現状の知識では)全くわからない、といって良いでしょう。

  • さて、光からの逃走が最も根源的な淘汰圧になったとしても、それ以外の要因も概日リズム創生(または定着)の淘汰圧として働いたことも十分に考えられることです。既にアスコルビン酸の概日リズムの項で指摘した通り、活性酸素障害に対する防衛能力は、光合成能力の最も高い状態(つまり、活性酸素発生が最大となる状態)に最高になります。つまり、活性酸素障害に対する防衛能の概日リズムは、光合成生物にとっては、太陽光エネルギーを最大限に補足する機能をももっているのです。

    A生物的エネルギー源としての光

  • 光合成能と光走性能は、光合成を営むプロチストにおいて主観的真昼に最大となるような概日リズムを示します。この位相関係の進化的メリットは自明です。自明でないのは、こうした能力が内因的な生物リズムであることには、どのようなメリットがあるのか、という点です。

  • 一つの答えは、こうした能力を保つためには自由エネルギーが必要である(コストがかかる)という点です。つまり、リズミカルに能力を変動させようと、一定の平均値に維持させようと、同じだけのコストがかかります。このため、実際に光合成や光走性の能力が必要となる時間帯に高く保つ方が、圧倒的に有利なのです。

  • 内因的であることのもう一つのメリットは、予知性(準備)です。光合成能力を高める必要があるときにあわせて高めている、ということです。実際、光合成装置の合成は主観的真夜中頃から始まります。言い換えると、強い光に反射的に応答することによって光合成装置を合成するのでは、間に合わない、ということです。

    B生理的対極の創出と概日リズム

  • 生命活動が環境周期に同調すること(外的同調)の淘汰利益は明らかです。同時に、一つのまとまった生命体として、個々の概日リズムが「適正なる」位相関係を保って動いて行くこと(内的同調)が要求されることも、ほぼ自明に近いでしょう。

    @内的同調=概日リズム的時空秩序

  • 第一に、互いに矛盾した過程は、時間的に分離しなければなりません(シアノバクテリアのニトロゲナーゼと光合成)。

  • 第二に、これの裏返しのこととして、互いに協調的な過程についてはこれを同一位相で進行するようまとめなければなりません

  • 第三に、同一の細胞成分を位相の異なる二つの概日リズムで共有する場合のように、もともと互いに異なった位相でしか進行し得ないような概日リズムがあります

  • こうして、生命は、主観的夜明けから主観的黄昏を経て再び主観的夜明けに戻るまで、時々刻々とその生理・活動状態をリズミカルに変動させています。主観的昼は、昼の活動に適した生理・活動状態であり、主観的夜は、夜の活動に適した生理・活動状態です。こうした諸々の概日リズムが一定の位相関係を保っている状態を、内的同調と呼びます。

  • 生命を生命サイクルの位相進行(時空秩序)として捉えることができたのと同じように、概日リズムを備えた生命を、概日リズムの位相進行(時空秩序)として捉えることができます。この局面で、生命は、概日リズムの一瞬前の位相によって作られ、一瞬後の概日リズム位相を準備するものとしてのみ存在します。これが、概日リズム的な時空秩序です。

  • 時差ボケや夜勤症候群での生理的変調の一つの原因は、ひとの概日リズム位相(内的位相)と外界の位相の不一致に由来するものと思われます。しかし、もう一つの原因として、ひとの諸々のリズムの間の位相関係が崩れることにもあると考えられます。内的位相関係の崩壊を、内的脱同調と呼びます。

    A生理的対極と生理的平坦

  • エネルギーの集中投与  光合成能力をリズミカルに変動させる場合も平坦に保つ場合にも、それに必要とされるエネルギーは等しいと考えられます。しかし、環境の光強度は日周的に変化しますから、獲得できるエネルギー量には格段の差が生まれてしまうのです(既述)。全く同じことが、動物の活動休息リズムや睡眠覚醒リズムについても当てはまるでしょう。平均的な活動能力を一日中保つよりは、それが要求される時間帯に一気に高められるようなリズムをもっていたほうが格段に有効です。特に、捕食運動や逃走運動のように、運動の成否が all or nothing である場合には、対極と平坦の差は致命的な差につながるものと思われます。

    B閾値現象と信号機能(関門制御)

  • 生理的対極はまた信号機能を担うこともできます。これについては、概日リズムによる関門制御(概日リズムと生命サイクル)において述べました。

    Cまとめ

  • 以上、概日リズムの歴史的創生と定着に関わりそうな事柄について考察しました。「光からの逃走を余儀なくされた生命」という視点からすれば、生命が24時間リズムを描きながら活動してきたという姿が無理なく浮かび上がります。これに、「光合成のエネルギー源としての光の恩恵」という視点を加えれば、生命の様々な活動が特定の位相関係を保ちながら24時間リズムを描いてきた、というシナリオもすぐ思い描けます。また、予知性のメリットを想定するなら、この24時間リズムが内因性のリズム、つまり概日リズムという生物時計としての形を整えたことも理解できるかと思います。

  • 環境適応の遺伝的プログラム:環境応答パターンの歴史的刻印(環境情報の遺伝的同化過程)

    何代にも亙って同じ環境条件(環境の規則性)に晒されていると、生物はその環境に対する応答パターンを遺伝的なプログラムとして組み込んでいくように思われます。例えば、光走性の進化を想像してみましょう。光走性は、三つの過程に分解できます:光受容系(光スペクトルや光強度の認識系)、情報処理系と運動系(反応系)です。光走性がない状態というのは、各々三つの過程が存在しないということではなくて、結合していないという状態であろうと思われます。何故なら、それぞれ三つの過程に関与している分子(蛋白質)はありふれたものであるからです。したがって、光走性の遺伝的プログラムの創造とは、この三つの過程をうまい具合に結合することにあると考えることができるでしょう。つまり、最適な色や強さに対しては正の走性を、害のあるものに対しては負の走性を固定するような形での結合の創生ということです。例えば、強光に突入するような生命は焼け死んでいきますから、この結合は自然淘汰プロセスによって容易に説明可能です。

    概日リズムの創生の原動力も、生命が何代にも亙って同じ昼夜のサイクルに晒され続けてきたことにある、と思われます。いってみれば、生命が環境情報を遺伝的に同化する(取り込む)のです。この歴史的同化過程を通じて、生命は、環境適応の為の遺伝的プログラムを備えていくのである、と考えられます。ただし、実際の環境は、予期せぬ「雑音」を含みます。臨機応答もまた必要になるわけです。この部分は、少なくとも学習能力を持たない生物の場合には、反射的応答に頼る以外には方法がないでしょう。例えば、光合成回路の律速酵素の一つ Rubisco の場合には、光によって活性化されます。光の強さに応じて光合成速度を高めることができるのです。もちろん、「雑音」に対する反射的応答もまた、遺伝的同化によって創生されたはずです。


    (2)陸上生活と概日リズム

    生物の陸上進出と概日リズム
    耐乾性と生理的夜行性
    からだのサイズの問題
    小さいほど表面積の割合が大きくなる(径が半分になれば体積は8分の1に減少するが、表面積は4分の1にしか減少しない:単位体積当たりの表面積は2倍に増加する)。
      からだのサイズが小さいほど水分損失、熱損失が激しい。

    無脊椎動物の生態的分類
    耐乾性(不透性クチクラの発達度)と生理的夜行性からの解放
    水中: 環形動物(ミミズ)
    土壌: 等脚類(ワラジムシ)、唇脚類(ムカデ)、倍脚類(ヤスデ)
        ワックスなし→夜行性
    ワラジムシの概日リズム
     明暗周期に同調する概日リズム(温度周期や湿度周期には同調効果なし)
      夜に活動するために:
        湿度に対する反応性は夜になると低下するため活発に動き回る。一方、負の光走性は夜の進行とともに増大するから、夜明けとともに湿地へ埋没することが可能になる。このため、昼における乾燥を避けるとともに、捕食を回避できる。
      昼に干からびないために:
        湿度に対する反応性が昼に増大するとともに、低湿では正の光走性、高湿では負の光走性をしめす。
        このため、昼、埋没していた住処が乾燥してくると光を求めて活発に動き回り、高湿のところで負の光走性に転じてじっとするようになる。
    移行型(土壌→陸生):無翅類昆虫(トビムシ、カマアシムシ、ハサミコムシ、シミ)とワックスを欠く有翅類昆虫(カゲロウ、カワゲラ)とクモ形類の一部
    陸棲:有翅類昆虫の多くとクモ形類(ダニ、サソリ、クモ)
        生理的夜行性からの解放(約4億?3億年前?)昆虫の適応放散は石炭紀(3.5-2.7億年前)からペルム紀(2.7-2.35億年前)
        ただし、幼虫は土壌生活者=夜行性
      ショウジョウバエの羽化リズム(湿度の高い時間帯)
       D. pseudoobscura  夜明け直後
          D.persimilis      夜明けから4時間後 (ウスグロショウジョウバエよりも高地で涼しく湿ったところに生息)

    外温性脊椎動物
    両生類は夜行性
      太陽コンパスの話
    爬虫類は昼行性
      温度嗜好性(温度選択)の概日リズム
      体温の概日リズム
         体温上昇のオンセットは活動オンセットに先行する。
      生理的昼行性?(高い活動レベルを維持するために、昼間の高温時に活動時間帯を選択?)
        石炭紀(3.5?2.7億年前)後期に出現(木性シダの繁栄、高温多湿)
    CAM植物
    C3、C4、CAM植物
    乾燥に対する適応
    気孔の開度
    光合成電子伝達と光燐酸化