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本稿では、クローン人間作成について、本学学生がどのような意見を持っているか、また、朝日新聞論壇時評がこの意見をどのように変えたかを、明らかにする。 この目的の為に、本学97年度新入生(生物物理概論受講者)にこの「論壇時評」を読んでもらい、「クローン人間作成について考える」というレポート課題を提供した。その一週間後に、論壇時評を読む前と読んだ後の賛否の立場について無記名アンケート調査を行い、180名の有効回答を集計した。もちろん、この間、私の主張は学生に伝えていないし、アンケートの趣旨についても一切説明していない:このアンケート回収が、本受講者に対する私の最初の授業であった。なお、クローン人間作成について「論壇時評」は原則容認論の立場で書かれている。 なお、本学は生物系・農学系の大学ではあるが、新入生6月初旬といえば、まだ殆ど生物学関連科目を学んでいない時期である。平均的国民の生物学知識に若干毛の生えた程度の水準(高校卒の平均水準よりやや上)にあるといってよい。 アンケート結果からみる畜大生の意見とその変化様式 クローン人間作成の是非について 「論壇時評」を読む前と後とで、クローン人間作成に関する賛否の比率は殆ど全く変わらなかったが、その内訳を分析すると、意見を変更した学生は、180名の内90名、ちょうど50%に達する。また反対論の立場にあった学生B107名の内、B72名はこの立場を維持した。こうした事実は、「論壇時評」を読むことやレポートを書くことを通じて、学生がこの問題をよく考えたことを表している。 なお、質問は下記の4つの選択枝の中から1つを選択する方式をとった。
変化パターン(内訳)の一部は次の通りです。 B107(53)⇒@4(2) A8(7) B72(27)C23(17) C36(25)⇒ @5(5) A3(1) B23(17) C5(2) (括弧内は女子数) これに対し、反対論の立場にあった学生B107名の内、残りの35名(107-72)(@+A+C)はもともとの意見を修正している。このうち、23名(C)は賛否の立場が分からなくなっている。残り12名(@+A)は賛成論に回ったわけだ。 一方、もともとはっきりとした賛否の意見をもっていなかった36名(C)の内、8名は賛成論(@+A)に回った。こうして、合計43名(23+12+8)が、「論壇時評」の方向に同調するか動揺したわけだ。これは約25%である。 また女だけでみると(括弧内数値)、反対論53名(B)の内26名が意見修正しているし(@+A+C)、わからない派25名(C)の内6名が賛成論(@+A)に回った。つまり、合計32名(26+6)が「論壇時評」の方向に同調するか動揺したわけだ。実に62%である。したがって、男の方は反対派とわからない派65名の内、10名しか「論壇時評」の方に動いていっていない。これは15%に相当する。 男女で顕著な差が出たことは予想外のことである。男は頑固?女は柔軟?
クローン人間の誕生と一卵性双生児の誕生は同一か 「論壇時評」では、クローン人間の誕生が一卵性双生児の誕生と本質的に異ならないことを説明し、これをクローン人間作成に関する原則容認論の一つの論拠としている。 質問は、上記課題について、1.そう思う、2.そう思わない、3.わからない、の三つの選択枝から選ぶ方式を取った。結果は次の通りである。
変化パターン(内訳)の一部は次の通りです。 A99(41)⇒ @24(14) A67(22) B8(5) B57(36)⇒ @21(13) A31(21) B5(2) 括弧内は女子数
「論壇時評」を読むまで、「本質的に異ならない」とする学生は24名(読前1)に過ぎなかったが、読んだ後には63名(読後1)に増加した。読む前まで「わからなかった」学生57名(男21、女36)(読前3)の内、21(男8、女13)名が「本質的に異ならない」という理解に達し、また読む前まで「異なる」としていた学生99名(男58、女41)(読前2)の内24名(男10、女14)が「異ならない」となり、8名(男3、女5)が「わからなくなった」。つまり、180名の学生の内、53名が「論壇時評」の論拠に動揺または同調したことになる。約30%である。動揺率は男79名中21名で27%、女77名中32名で41%となり、若干ではあるが女の方が動揺率が高かった。 一つの矛盾 クローン人間の誕生と一卵性双生児の誕生が本質的に同一であるとする学生は63名であるが、クローン人間作成に全面的に賛成するのは9名に過ぎない。また、11名は代替臓器の提供の為のクローン人間作成を容認している。27名は反対論の立場にあり、16名は態度を決めかねている。つまり同一論の学生の約3分の2が、クローン人間作成に賛成していないのである。この比率は、「論壇時評」を読む前に同一論をとっていた24名の学生についても全く同じである。 本当に、両者の誕生が全く同一のこととみなせるならば、クローン人間作成を全面的に賛成してもよいはずであるが、そうはならないのは、本当はどこか違うのではないかと感じている為としか言いようがない。 事実、同時に提出してもらったレポート(記名)を読むと、「論壇時評」で書かれている「本質的に同一」という結論を、異なって解釈していることがよく分かる。つまり、「本質的に」ということが問題の本質ではない、というように捉えているのだ。言い換えると、「本質的」でない側面が本質なのだ、というわけの分からぬとらえかただ。うまく表現できないが、クローン人間の誕生と一卵性双生児の誕生を「本質的に同一」とみなしても、それがすべての関係ではなく、その他の関係のほうが重要なのだ、という点を指摘しているわけである。 結局、この捉え方は、「本質的」という概念の誤解に基づくものである。同時に、「論壇時評」が、両者の関係を遺伝的関係だけに解消した還元論であることを、直感的に見抜いているわけである。 レポートにみる畜大生の意見 また、レポートで特に興味を引く点は、多くの学生が、クローン人間作成は「何の役に立つのか」、その有用性に疑問を示していることである。このことは、作成されるクローン人間が最初から作成する側の道具とみなされていることを如実に物語っており、「親」になるべき人にとっても、まわりの人々にとっても、誰かの道具(モノ)である、としかみなされないであろうことを十分に予想させる。 私は、有用性に対する疑問を発する発想自体がとても新鮮であった。というのは、この疑問を発した瞬間に、クローン人間作成は直ちに否定されるべき行為となることは、人格尊重の視点からは自明のことであるからだ。 世論誘導という言葉について 05/15/98付け補足: 本稿では「世論誘導」という挑発的な言葉を用いました。この場合の「誘導」という言葉には「意図的な世論操作」という響きがありますが、本稿ではそのような意味では用いていない、ということをお断りしておきたいと思います。本稿の基本的主張は、マスメディアという媒体を握っている人たちの主張が現実に世論を動かす力をもっているんだという点をアンケート調査とその分析によって実証した、という点にあります。
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