生物リズムの意義は、この問題の最も熱狂的な研究者が期待し続けてきたよりも、はるかに超えたものとなるだろう。それは、生物時計が物質の無機的機能と生物学的機能との間の明確な絆を構成するからである。したがって、生物リズムの本性を理解することは、生命自体の創生をより深く理解することにつながる。 (JT Fraser, The Genesis and Evolution of Time,1982) (自然界における5つの時間、道家達将・山崎正勝監訳を改変) 本ページでは概日リズム(狭義の生物時計)について考察します。 2001年度序論 @ 概日リズムは、原核生物のシアノバクテリアからわれわれ人間まで、広範な生物群に備わった生物リズムです。代謝テンポが生物体のサイズに強く依存しているのに対し(⇒哺乳類の限界寿命と生命サイクルテンポ)、概日リズムのテンポは生物体のサイズには一切関係なく、約24時間の周期をもっています。また、代謝テンポや生命サイクルテンポは温度に大きく左右されますが、概日リズムのテンポは温度変動に対して極めて安定です。
では、どうして24時間キッカリではないのでしょうか?実は、24時間より少しずれた周期のほうが柔軟性があるのです。第一に、24時間の昼夜周期に同調するためにも、少しずれている必要があります。また、日周期は季節的に変動していますから、これに対応していくためにも24時間周期から少しずれていることが不可欠なのです(冬至から夏至にかけて昼行性の動物は日毎に活動開始時間を早めていかなければなりませんね)。 以上の詳細は概日リズムの形式的特徴のページで説明します。 A 概日リズムの生物学的機能は、日周的にも季節的にも変動する地球環境に対する適応にあります。概日リズムと物理的環境においては物理的環境に対する適応としての概日リズムの機能について、また、概日リズムと生物的環境においては生物的環境に対する適応としての概日リズムの機能について説明します。
物理的環境は、光、温度、水などの環境のことです。生物的環境は一つの生物個体に関係する生物群の総体のことで、大きく分けて種間関係と種内関係があります。種間関係には、生態系の動力となっている食物連鎖関係または食物網と、同じ栄養段階に属するものどうしの「ニッチを巡る争い」つまり競争関係があります。 B こうした環境適応を達成するために、概日リズムは主に二つの様式で生命活動を制御しています:代謝テンポ領域の生命活動に対する制御と生命サイクルテンポ領域に属する生命活動の制御とです。 生命サイクルは不可逆的な生物リズムです(⇒生命とは何か) 。生命サイクルがなければ生命たりえないし、生命サイクルこそが生命の最高秩序(つまり、生命秩序)であったわけですから、生命サイクルは生命の骨格リズムと言ってよいでしょう。非性的な単細胞生物であれば細胞周期 cell cycle 時計、性的な生物であれば、発生・成熟時計がこの骨格リズムの発振源になっています。ある特定の生命サイクル事象が、どの季節に、一日のうち何時生じるのか、そのタイミングを決定しているのが概日リズムです。 概日リズムと細胞周期や時間、生命、生命リズムの統合においては、概日リズムによる細胞周期時計の制御について説明します。また、概日リズムと発生・成熟時計においては概日リズムによる発生・成熟時計に対する制御について説明します。 生命サイクル事象に対する制御においては all or nothing 則に従っています。生命サイクル事象は、一回限りの事象ですから、起きるか起きないかのどちらかでしかないからです。概日時計は、その事象が起こりうる時間帯を決定しているのです。言い換えると、一日は関門が閉じる禁止帯と関門が開く許容帯に分割できるということです。これに対し、代謝テンポ領域の事象は連続量です。例えば、光合成能力は概日リズム的に変動しますが、それが最小値になる時間帯でも決して0にまで落ちることはありません。このように、代謝テンポ領域の生命活動に対する制御においては、その活動能力を連続的に変化させるような形で制御しているのが一般的です。
C 例えば、生態系を理解するためには食物連鎖関係のネットワーク(食物網)を具体的に理解することが不可欠です。これと同じように、一つの個体(単細胞生物を含む)を理解するためには、生物リズムのネットワークを具体的に理解する必要があります。生命の骨格リズムとしての代謝テンポリズムや生命サイクルリズム、そしてこの骨格リズムを制御する環境適応的な概日リズム。その基本的で概略的な形式はすでに明らかになっていると思いますが、このリズムネットワークの具体像はまだまだ十分とは言えません。 ひとの概日リズムでは、私たちが最も深く関心を寄せている生物(つまり人間)の概日リズムについての知見を部分的にまとめてみました。恐らく、人間の概日リズムに関する研究者が最も多いはずです。そのため、その研究分野も多岐にわたるため、専門外の私には到底網羅することはできません。
D 老化を遅延し、限界寿命や平均寿命を延ばす一般的な(いろいろな生物に適用可能な)方法としてカロリー制限を紹介しました(⇒老化のメカニズムを巡って)。面白いことに、カロリー制限によって、一日を均した平均体温は低下するのですが、これは、休息期の体温が低下することが原因であって、活動期の体温は自由給餌のコントロールと殆ど同じなのでした。また、このため、体温リズムの振幅も増大することがお分かりでしょう(⇒無断転載の図)。
さて、全く別の趣旨の研究ですが、奈良女子大の登倉尋實によって行われたとても興味深い研究の一般的結論の一つを紹介しておきます。つまり、日中浴びる光の強さが強いほど夜間の最低体温が低下する、というのです。昼間の活動時の体温は日中に浴びる光の強さには左右されません。奇しくも、カロリー制限の効果の一つ(上述)と一致していますね。
2000年度序論 本科目の基本的目的
A本当の生態系保護とは何かを考える。 (⇒自然保護の理念)
生命サイクルと概日リズム
@骨格リズムとしての生命サイクルと代謝テンポリズム A環境適応リズムとしての概日リズム 生物リズム学の社会的意義
A生物リズム学の社会的応用 |