生物リズムの意義は、この問題の最も熱狂的な研究者が期待し続けてきたよりも、はるかに超えたものとなるだろう。 それは、生物時計が物質の無機的機能と生物学的機能との間の明確な絆を構成するからである。
したがって、生物リズムの本性を理解することは、生命自体の創生をより深く理解することにつながる。
(JT Fraser, The Genesis and Evolution of Time,1982)
(自然界における5つの時間、道家達将・山崎正勝監訳を改変)
準備中 (7月中に完成予定に延期!)
ひとの概日リズム(Medline 検索)
(1)脊椎動物の概日リズム系
Evolution of circadian organization in vertebrates. Menaker et al. 1997 における要約
@概日系の枢軸:網膜・松果体・視交差上核(SCN)
A哺乳類を除き、多くの脊椎動物では松果体は光同調系(概日的光受容体)でもありペースメーカーでもある
B哺乳類を除き、すべての脊椎動物には、網膜外かつ松果体外の光同調系(概日的光受容体)がある
(2)ひとの概日リズム
神経活動や内分泌といった知覚することのできない基本的な生理活動から、それに依存して変動する心理状態、心理的能力、体力、運動力、、、といった自覚的な能力や状態に至るまで、ほとんどすべての現象が、概日リズムとして変動する。
ひとの概日リズムに関する知見は「よりよい暮らし」のための基本となるし、ひとが最も関心を寄せる生物もひとそのものであるから、ひとの概日リズムについては、あらゆる角度から研究されても不思議ではない。実際、最も多面的に研究されている概日リズムは、ひとについてのものである。
ただし、人体を扱うという、倫理上の制約が当然あるから、概日時計の解剖学的所在や分子メカニズムに関する情報の多くは、ラットやマウス、或いはサルやチンパンジーといった「実験動物」の知見による間接的なものに頼らざるを得ない。また、「実験動物」に対しては「過酷な」条件で実験するが、ひとに対しては心理的にも生理的にも「何か」あっては困るから、慎重な実験を行わなければならない。ただし、「実験動物」の場合にも、「ひと」の場合にも、社会的監視機構のチェックのもとで実験が行われている。
ひとの概日リズムを調べるためには、その目的に応じていろいろな環境条件が設定される。われわれの生活に直接的に関係してくるのは、日常生活を送っているときの概日リズムである。だが、現代における人工的な環境条件のもとでは、この日常的な概日リズム自体が、さまざまに変容されている。
(い)睡眠覚醒リズム群と深部体温リズム群
現象面から分類すると、ひとの概日リズムには二種類のものが区別される。一つは、睡眠覚醒の概日リズムであり、活動リズムとも活動休息リズムともいう。また、睡眠覚醒のリズムに誘発されて生ずる概日リズム(例えば、成長ホルモンの分泌)や、誘発されて生じているかどうかは不明であるが、どのような条件でも常に睡眠覚醒リズムと同調して動く概日リズムなども、大まかには睡眠覚醒リズムの一形態とみなすことが出来る。これらを一括して睡眠覚醒リズム群と呼んでおこう。血圧、心拍速度、成長ホルモンの分泌、皮膚温などの概日リズムがこれにあたる。
これに対し、健常な条件の下では、睡眠覚醒のリズムと同調して(一定の位相関係を保って;歩調を合わせて)動いているが、断眠しても(睡眠覚醒リズムを止めても)依然として動いていたり、時差ぼけを起こしたりしたときには、睡眠覚醒リズムとは異なった動きを示す概日リズムも多い。深部体温のリズムとメラトニン生産と分泌のリズムがこの代表である。睡眠覚醒リズムとは異なるメカニズムによって制御されているので、一括して深部体温リズム(またはメラトニンリズム)群と呼んでおこう。深部体温、コルチゾール分泌、メラトニン分泌、眠気や目覚めの傾向、レム睡眠の傾向、尿中カリウム量、注意力、認知能力、体力、運動能力などがこれに属する。
なお、文献のなかには、睡眠覚醒リズムが持続するときにしか表れないリズムは概日リズムとはいえない、とするものがあるが、これは誤りである。概日リズムは、時刻シグナルから遮断された恒常的な環境条件の下で持続する約24時間周期のリズムのことである。リズムの駆動力(ペースメーカー)が体内にある約24時間周期のリズムは、すべて概日リズムなのである。ただし、リズム1がリズム2を生成し、リズム2がリズム3を生成するというように、ペースメーカー自身やそれに近いリズムから末端のリズムまでさまざまなリズムの間には階層的な序列がある。
(ろ)二つのリズム群を峻別するプロトコル
@時間隔離室
他の生物と同じようにひとにも概日リズムがあることを示すためには、ひとを時刻シグナルのないところに閉じこめて自由継続リズムを検出しなければならない。こうした実験はアショフやウェーバーによって1960年代に始められた。面白いことに、連続照明条件のもとに長期間おかれた被験者の内、約30%の人々の体温リズムと睡眠覚醒リズムの位相関係は乱れる。アショフが記載したグラフからは、体温リズムは25時間周期で、睡眠覚醒リズムは37時間周期で自由継続しているようにみえる。両リズム間の同調が自然に解体したわけであるから、この状態は自然発生的(内発的、自発的)内的脱同調と呼ばれる。
A断眠実験
このようにして二群の概日リズムが区別されることが明らかになってみると、さまざまな生理活性が覚醒時における活動状態に左右されて、その「真実の姿」が捉えられないのではないか、ということが懸念されるようになってきた。例えば、深部体温リズムは睡眠覚醒リズムとは異なった経路によって生成された概日リズムであることは、先の内発的脱同調のもとで睡眠覚醒とは独自のリズムを描くことから明らかなことである。だが、両リズムが互いに同調しているときには、睡眠覚醒リズムは深部体温リズムの振幅を増幅する方向に作用する。ひとが覚醒しているときには、深部体温リズムとして体温が高い状態にあるが、活動量が大きいことに伴って熱の生産も大きいから、体温はより高くなる。
こうして、1970年代の半ば頃より、断眠実験が始められるようになった。自由継続条件のもとで断眠したときにも持続するリズムであれば、それは睡眠覚醒リズムに誘発されたリズムではない、睡眠覚醒リズムとは独立なリズムであることが推論される。しかし、この場合でも、本来眠っているはずの時間帯には不活発になるし、おきているはずの時間帯には活発になるはずであるから、活動に伴う隠蔽効果を完全には除去できないものと思われる。したがって、断眠実験において持続するリズムは、睡眠しているという状態によって誘発されたリズムでもないし、覚醒しているという状態によって誘発されたリズムでもないことは明らかであるが、覚醒時における活動状態に依存して生成されたリズムである可能性は残る。
Bコンスタントルーチーン
そこで、1970年代の後半に始められ、80年代の後半頃より注目されるようになってきた方法が、コンスタントルーチーンと呼ばれる条件である。被験者は薄明の連続照明のもとで、約45度の傾斜角でベッドに横たえられる。食事は、サンドウィッチなどの軽食を、一時間毎に分けて食べなければならない。約30〜40時間の間、一睡もせず、この状態を続ける。こうすれば、活動量の大小や、三度の食事に伴う変化などの影響も取り除くことができるだろう。
(は)深部体温リズム群
@メラトニンのリズム
メラトニンリズムについては、成熟と老化との関係で生物学概論で少し説明した。メラトニンは松果体で生産されるホルモンであること、長日性や短日性、昼行性や夜行性などの違いに関わらず、すべての脊椎動物はメラトニンを夜に生産する点で共通していること、哺乳類以外の松果体は、光を直接に受容する器官であり、体外に取り出されても振動することのできるペースメーカーとして機能していることなど、を思い出して欲しい。
これに対し、哺乳類の松果体は、視交叉上核からの神経信号を通じて間接的にしか外界の明暗を識別することはできない。また、器官培養された松果体には自発的な振動機能はないから、ペースメーカーとはいえない。このように、哺乳類の松果体は機能的には低下したようにもみえるが、それは見かけだけかも知れない。つまり、例えば、視交叉上核との相互関係を強めることを通じて、光受容機能を網膜に譲り、ペースメーカー機能を視交叉上核に預け、自らはメラトニン生産機能に特殊化した、というようにも解釈できるからだ。
メラトニンのリズムが、睡眠覚醒リズムに誘発されたリズムでないことは、様々な形で示されている。例えば、メラトニンリズムは断眠しても持続する。また、全盲のひとでは、メラトニンリズムが約25時間の周期で自由継続するのに対し、睡眠覚醒リズムは恐らく社会的な因子に同調してちょうど24時間の周期を示す。この場合、メラトニンリズムと睡眠覚醒リズムの位相関係は固定されていないので、内的な脱同調を起こしていることになる。
A深部体温(直腸温)の概日リズム
深部体温(直腸温)の概日リズムは、ひとに限らず恒温動物の多くの種類で記録されている重要なリズムである。睡眠覚醒または活動休息の概日リズムとは独立に動くばかりか、これらのリズムを誘発している可能性のあるリズムである。ひとの場合、約0.9℃の範囲で変動する。
B眠気の概日リズム
徹夜したことのある人なら、睡魔に抗いできない時間帯が明け方にやってくるが、睡眠に対する誘惑はやがて衰えてくることを知っている。ただし、徹夜に成功したとしても、全般的な能力の低下は自覚できるほどに明らかである。この「日常」的な経験を裏付けるのが、下のデータである。
このデータ(または日常経験)から、第一に、眠気の強さは断民(または睡眠不足)とともに増大していくことが明らかである。しかし、第二に、この増加は一様には起こらない。眠気が急増する時間と小康状態の時間帯とが約25時間の周期で交代するのである。つまり、眠気のタイミングは、睡眠しているか覚醒しているかという状態に関わらず発現している概日リズムである。
断眠を行うということは、睡眠覚醒のリズムを強制的に止めるということである。しかし、睡眠覚醒のリズムの背後にあって、このリズムを誘発しているもっと「深い」リズムまで止めている、という証拠はない。したがって、眠気のタイミングを決めているのが、、睡眠覚醒のリズムとは独立に動く概日リズムであることは明らかであるが、これら二つのリズムが、共通の「深い」リズムによって誘発されている可能性を否定することはできない。特に、眠気は深部体温が最低の位相で最高になり、このとき入眠するのがふつうである。
これに対し、ふつうのスケジュールで生活していると、昼食後に眠くなるのがふつうである。これは、満腹のためでも疲れのためでもない。なぜなら、満腹のためだとしたら、朝食後や夕食後にも眠気が来てもいいはずであるし、疲れのためなら夕食後に最も強い眠気が来てもいいはずだからである。今では、昼寝に関する眠気も睡眠覚醒のリズムとは独立に発現される概日リズムであることが明らかとなっている(後述)。昼寝の眠気は、深部体温が最高の位相で最大になる。昼寝をとらない現代日本の習慣は、からだには良くない、というべきなのだろう。
Cレム睡眠の概日リズム
睡眠相のサイクル
- 哺乳類の睡眠相はステージ1から4までのノンレム睡眠とレム睡眠とからなる。睡眠している間、この一セットがだいたい90分周期で繰り返される。
- ノンレム睡眠の内、ステージ3と4は深い眠りになっており、徐波睡眠という。また、ノンレム睡眠では、ステージ1の浅い眠りのときと同じような脳波パターンを示しながら、眼球はきょろきょろと、急速眼球運動(Rapid
Eye Movement, REM)と呼ばれる動きを示す。
- それぞれのレム睡眠相の後半に夢を見る、と考えられている。しかし、レム睡眠相では脳幹が抑制されているため、筋肉の緊張は完全に失われており、夢を見ている間に体を動かそうと思っても動かない。これに対し、徐波睡眠のときには、筋肉の緊張が少し残っており、このため、立ったまま眠ることができるわけである。
- Hobson JA et al. Neuroreport 1998 Feb 16;9(3):R1-R14 The neuropsychology of REM sleep dreaming.
- PETを用いた人間での実験から:REM睡眠中では、脳幹の脳橋や情動を司る辺縁系及び辺縁系周辺の皮質が活性化され、逆に認知記憶や実効に関係する前頭葉前野の背側部は不活性化される。また、ラットや猫での研究から:脳幹脳橋部では、ノルアドレナリン作動性とセロトニン作動性のニューロンが、コリン作動性ニューロンを抑制することによって、覚醒を高め、REM睡眠を抑制する。また、コリン作動性ニューロンのはたらきはREM睡眠にとって不可欠であるが、これは、セロトニン作動性ニューロンが抑制されている時のみ作用する。
- Allen R. Braun et al. Dissociated Pattern of Activity in Visual Cortices and Their Projections During Human Rapid Eye Movement Sleep. Science 1998 January 2; 279: 91-95. (in Reports) [Abstract] [Full Text]
- REM睡眠中は有線領(第一次視覚領)が抑制され「外界」を見ることはできない。その代わり、有線領外の視覚皮質が働いている。
- REM睡眠中に見る自発的な視覚イメージは外界視覚から遮断された有線領外視覚皮質による活動である。
- 多分、REM睡眠中は、有線領外視覚ニューロンの発火によって、有線領視覚ニューロンの発火が抑制されているのだろう。また、辺縁系と有線領外視覚ニューロン間の情報処理は行われているが、視覚と前頭葉前野を結ぶ視覚情報処理は遮断されているらしい。
- レム睡眠中は血漿メラトニンレベルが最小となるとともに、完全と言って良いほどの横紋筋麻痺が生ずる。レム睡眠時のメラトニン分泌抑制が横紋筋麻痺を誘発しているものと思われる。
- The
pineal gland, cataplexy, and multiple sclerosis.
Int J Neurosci 1995 Dec;83(3-4):153-163 Sandyk R
@メラトニンは脳幹セロトニン作動性ニューロン発火を促進
A脳幹セロトニン作動性ニューロンは横紋筋麻痺を抑制
Bしたがって、メラトニンは横紋筋麻痺に対し抑制的に的に作用する=メラトニン分泌抑制は横紋筋麻痺を誘発する。
- なお、カタプレキシー(脱力発作)はレム睡眠時麻痺と生理・薬学的に区別できないので、これにも松果体が関係している可能性がある。カタプレキシーはナルコレプシーの付随症状であるが、多重硬化症の人にもしばしば現れる。
- 成長ホルモン放出ホルモン(GHRH)は徐波睡眠と成長ホルモン分泌を誘発し、コルチゾール分泌を抑制するのに対し、コルチコトロピン放出ホルモン{CRH(ACTH放出ホルモン)}は全く逆の作用を示す。(→ Steiger A, Holsboer F Sleep 1997 Nov;20(11):1038-1052 Neuropeptides and human sleep.
レム睡眠の訪れる時刻とその持続時間も、断眠実験によっては変化しないことが明らかとなっている。
ナルコレプシーと概日リズム
Circadian
temperature and activity rhythms in unmedicated narcoleptic patients.
Pharmacol Biochem Behav 1997 Oct;58(2):395-402 Mayer
G, Hellmann F, Leonhard E, Meier-Ewert K
ナルコレプシー(睡眠発作)患者には、睡眠開始からレム睡眠までの潜伏期SOREMのあるタイプとないタイプがある。
SOREMをもつ患者は、他のグループに比べ睡眠中の覚醒状態が静かであるが(運動量が少ないということ?)、SOREMのない患者は他のグループに比べ日中における覚醒状態が静かである。SOREMをもつ患者は、睡眠中における体温の最大下降が他のグループに比べ早く起る。
どちらの場合にも、早朝における体温上昇は小さく、体温リズムの振幅は小さい。また、頂点位相は前進しているし、睡眠後に訪れる最小体温の位相も前進している。
体温リズムと睡眠リズムの関係が崩れているといえる。
Autonomic
function in narcolepsy: power spectrum analysis of heart rate variability.
J Neurol 1997 Apr;244(4):252-255 Ferini-Strambi
L
心拍速度の変動性のうち、低周波成分のパワー(交感神経により増大)は睡眠中に低下する(最小はステージ3、4のノンレム睡眠時、最大はレム睡眠時)。これは10人のナルコレプシー患者も10人の健常人も変わらない。
ナルコレプシー患者では、睡眠に入る前の覚醒時において、高周波成分のパワー(副交感神経により増大)及び高周波/低周波のパワー比率が高くなっている。
自律神経系の概日リズムが変容しているものと思われる。
Plasma
renin activity and sleep-wake structure of narcoleptic patients and control
subjects under continuous bedrest.
Sleep 1992 Oct;15(5):423-429 Schulz H
ナルコレプシー患者の血漿レニン活性は平均値では健常人と変わらない。また、レム睡眠または覚醒からノンレム睡眠への移行に伴って増加する点でも、またレム睡眠に伴って減少する点でも同じである。しかし、睡眠の顕著な分断のために、血漿レニン活性の睡眠進行に伴う(累積的)増加はおこらない。ナルコレプシーに特徴的な初発性レム睡眠(睡眠開始とともに始まるレム睡眠)Sleep
Onset REM Sleepにはノンレム睡眠が先行しないから、このタイプのレム睡眠では血漿レニン活性が減少しない(先行する増加がないから)。
結局、ナルコレプシー患者における睡眠相と血漿レニン活性の関係は、健常人と同じである。
Circadian
rhythms in narcolepsy: studies on a 90 minute day.
Electroencephalogr Clin Neurophysiol 1994 Jan;90(1):24-35 Dantz
B, Edgar DM, Dement WC
90分毎のサイクルを強制した:60分はベッドの外で覚醒、30分は眠るよう指示し、これを2〜3日間繰り返した。
8人のナルコレプシー患者は平均して1日当たり2時間余分に睡眠をとった。睡眠のうち、3分の2はレム睡眠である。
ステージ3と4の徐波睡眠の量は健常人と同じであった。眠気(睡眠潜伏期)のリズムは著しく弱く、健常人の覚醒度が最高になる時でもすぐに眠ることができた。しかし、主観的眠気や深部体温は正常なリズムであった。
ナルコレプシー患者では結局、概日時計自体は正常であるように思われる。時計からの「覚醒信号」を伝達する経路に問題があるようだ。
C糖質コルチコイド
神経系、免疫系、内分泌系は密接な関係にある。例えば、ストレス状態は、糖質コルチコイド分泌を促進することによって免疫反応を抑制する。鬱病の最良の生化学的指標は糖質コルチコイド(コルチゾール)の過剰分泌であり、最近、辺縁系−視床下部−下垂体−副腎皮質軸(LHPA)の乱れ(過剰活動性)が、視床下部のCRH(ACTH放出ホルモン)分泌過剰や辺縁系の糖質コルチコイド理セプター不足に関係していることがわかっている。また、この乱れは、免疫系の乱れや、セロトニン作動性やノルアドレナリン作動性の神経伝達の乱れとも関係している。
脳脊髄液のCRH(ACTH放出ホルモン)レベルは、夕方から夜にかけて(1830-2330 h)最高値、早朝 0730h 頃に最小値となるような概日リズムを示す。これは、血漿コルチゾールレベルの概日リズム (peak around 0800 h and nadir around 2000-2200 h) と殆ど鏡像的な関係にある。著者たちは、後者が前者のリズムの同調因子として働いているものと考えている。{Kling, MA et al. J Clin Endocrinol Metab 1994 Jul;79(1):233-239, Diurnal variation of cerebrospinal fluid immunoreactive corticotropin-releasing hormone levels in healthy volunteers.}
Mozzanica N et al. Int J Immunopharmacol 1991;13(2-3):317-321 Association between circadian rhythms of endogenous hypothalamic opioid peptides and of natural killer cell activity.
- ナチュラルキラー細胞活性と血漿βエンドルフィン濃度は早朝 (at 06.14 and 08.25, respectively)にピークを示す概日リズムであるのに対し、血漿メチオニン-エンケファリン濃度は鏡像的な(夕方にピーク)概日リズムである。血漿αMSH濃度の概日リズムはナチュラルキラー細胞活性リズムと直接的に関係していた。
- ナチュラルキラー細胞
adapted from 免疫について(AFA)
- エンケファリンはモルヒネ作用をもつ神経ペプチドで視床下部に多い:チロシン-グリシン-グリシン-フェニルアラニン-メチオニン(またはロイシン)
- βエンドルフィンもモルヒネ作用をもつ神経ペプチド(31アミノ酸)で下垂体中葉・後葉に多く、ストレス状態において血中に分泌される。メチオニンエンケファリンが多量に存在する線状体には殆ど含まれない。
- メラニン細胞刺激ホルモン(MSH)にはαとβの二種類ある。下垂体中葉で合成分泌されるペプチドで、メラニン細胞に作用して黒くさせる。また、マクロファージなどで産生されるインターロイキン1の作用を抑制するはたらきもあるので免疫系にも関係している。
- インターロイキンは、白血球によって産生される免疫系液性因子の総称で、発見順に番号がつけられている。IL-1は、視床下部に作用して発熱を促す事をはじめ、全身の炎症反応に関係し、視床下部CRH,下垂体ACTH,副腎糖質コルチコイドの産生を促進する。
- Rupprecht M et al. Psychoneuroendocrinology 1995;20(5):543-551
Cortisol, corticotropin, and beta-endorphin responses to corticotropin-releasing hormone in patients with atopic eczema.
- アトピー性湿疹患者は、@症状が季節的に変動し、A軽症の鬱症状を示し、B鬱病患者と類似の免疫系の乱れを示す。
- コルチゾール概日リズムはアトピー性湿疹患者と健常者とで違いはない。
- CRH(ACTH放出ホルモン)投与(100μg静脈注射)に対する反応性のうち、コルチゾール分泌やACTH分泌が患者の場合弱められているが、βエンドルフィン分泌応答では顕著な差はない。
- この鈍感なコルチゾール分泌応答やACTH分泌応答は、鬱病患者のようなコルチゾール過剰性では説明できない。むしろ、アトピー患者の場合には@視床下部CRHによる曝露の長期的な不足、またはA糖質コルチコイドによるフィードバック抑制に対する感受性の増加が問題なのではないか。
パニック症患者の糖質コルチコイドリズム
- 米国では2,3%の人々が罹っており、一週間に一度以上の割合で突然、極度の恐怖状態に陥る。心臓の高鳴り、身震い、発汗または悪寒、と絶望感やコンロール喪失感を伴う。
- 夜間のコルチゾール分泌が高く、また、分泌エピソードのウルトラディアンリズムの振幅が大きいという特徴がある。また、発症頻度の高い患者の場合には概日リズムの位相がずれていた。
Role
of melatonin in mediating seasonal energetic and immunologic adaptations.
Brain Res Bull 1997;44(4):423-430Nelson RJ &
Demas GE
Seasonal
changes in immune function.
Q Rev Biol 1996 Dec;71(4):511-548 Nelson RJ & Demas GE
Circadian
temperature and cortisol rhythms during a constant routine are phase-delayed
in hypersomnic winter depression.
Biol Psychiatry 1997 Jun 1;41(11):1109-1123 Avery DH et al.
Interactions
between sleep, other body rhythms, immune responses, and exercise.
Can J Appl Physiol 1997 Apr;22(2):95-116 Shephard
RJ, Shek PN
Effects
of sleep and circadian rhythm on human circulating immune cells.
J Immunol 1997 May 1;158(9):4454-4464 Born J et
ak.
Circadian
immune measures in healthy volunteers: relationship to hypothalamic-pituitary-adrenal
axis hormones and sympathetic neurotransmitters.
Psychosom Med 1997 Jan;59(1):42-50 Kronfol Z et
al.
免疫活性の概日リズムを決める要因は健常人では概日的コルチゾールリズムである。
Twenty-four-hour
analysis of lymphocyte subpopulations and cytokines in healthy subjects.
Chronobiol Int 1996 Dec;13(6):423-434 Palm S et
al.
早朝におけるコルチゾール分泌の上昇は、多分、インターロイキン2の合成を抑制し、これによってリンパ球が血液から網内皮系に移動するのを高めていると思われる。
The
immune system and major depression.
Adv Neuroimmunol 1996;6(2):119-129 Anderson
JL
Circadian
rhythms in human performance and mood under constant conditions.
J Sleep Res 1997 Mar;6(1):9-18 Monk TH et al.
コンスタントルーチン法でパフォーマンス(作業能力)リズムを調べた(探索、言語的判断力、手の機敏性のスピードや正確性、視覚的監視作業の的中率や反応時間)。
パフォーマンスリズムは探索スピードを除き、直腸温の最小位相の近辺に最小となるようなリズムであった。作業記憶の負荷とほとんど区別できないリズムである。
パフォーマンスの高さは直腸温や自覚的覚醒度の高さとよく対応しているのに対し、メラトニンやコルチゾールの高さとは逆転した関係にある。ただし、自覚的覚醒度はパフォーマンスより直腸温の方に良く対応しているので、パフォーマンスリズムは自覚的覚醒度の直接的結果ではないと思われる。
Visible
light induced changes in the immune response through an eye-brain mechanism
(photoneuroimmunology).
J Photochem Photobiol B 1995 Jul;29(1):3-15 Roberts
JE
Clinical
aspects of the melatonin action: impact of development, aging, and puberty,
involvement of melatonin in psychiatric disease and importance of neuroimmunoendocrine
interactions.
Experientia 1993 Aug 15;49(8):671-681 Waldhauser
F
Effects
of meta-chlorophenylpiperazine infusions in patients with seasonal affective
disorder and healthy control subjects. Diurnal responses and nocturnal
regulatory mechanisms.
Arch Gen Psychiatry 1997 Apr;54(4):375-385
Schwartz PJ et al.
季節性うつ病患者の光療法による気分改善は夜間深部体温の低下によるものらしい。冬季鬱病では中枢神経系におけるセロトニン伝達に欠損があるとの見解に矛盾はない。
Diurnal
activity and pulsatility of the hypothalamus-pituitary-adrenal system in
male depressed patients and healthy controls.
J Clin Endocrinol Metab 1997 Jan;82(1):234-238 Deuschle
M et al.
mean 24-h cortisol (315.9 +/- 58.5 鬱病男性(22〜72歳の15人) vs.
188.2 +/- 27.3 nmol/L同年齢の22人) and mean ACTH (7.82 +/- 1.94 鬱病男性vs.
5.79 +/- 1.28 pmol/L)
The frequency of cortisol (2.6 +/- 0.7 鬱病男性 vs. 1.3 +/- 1.0 pulses/6
h) and ACTH (2.6 +/- 1.6鬱病男性 vs. 1.6 +/- 1.4 pulses/6 h) pulses during
the evening were higher in patients
鬱病男性では、コルチゾール分泌の停止期は短縮し(140 +/- 116 vs. 305+/-
184 min),リズムは平坦化している。
Seasonal
variation in core temperature regulation during sleep in patients with
winter seasonal affective disorder.
Biol Psychiatry 1997 Jul 15;42(2):122-131 Schwartz PJ, Rosenthal
NE, Turner EH, Drake CL, Liberty V, Wehr TA
鬱病患者の場合、鬱期には睡眠中の夜間深部体温が軽減期に比べ高い。冬季鬱病患者(季節性感情障害患者)でも、冬季における夜間深部体温は、光療法による回復期に比べ高い。
22人のSAD患者の夏季(回復期)における夜間深部体温の最小は、冬季に比べ低い。これは、健常者の最小と似たようなレベルである。
Circadian
rhythm abnormalities of deep body temperature in depressive disorders.
J Affect Disord 1992 Nov;26(3):191-198 Daimon K,
Yamada N, Tsujimoto T, Takahashi S
62人の鬱病入院患者の深部体温リズムの位相は正常であるか後退している。健常者に比べ振幅は小さく、平均体温は高い。周期もやや長くなる傾向があるが、有意なさではない。また、ウルトラジアン成分の数が増えている点に特徴がある。
Increased
nocturnal activity and impaired sleep maintenance in abused children.
J Am Acad Child Adolesc Psychiatry 1997 Sep;36(9):1236-1243
Glod CA, Teicher MH, Hartman CR, Harakal T
虐待(肉体的and/or性的)を受けた思春期前のこどもは、健常なこどもや鬱病のこどもに比べ夜間の活動量が2倍ほど高かった。また、一日の内で夜間に活動する割合も高かった。睡眠潜伏期も長くなる傾向があるし、睡眠の質も低下しているようだ。睡眠の質の低下については、肉体的虐待の方が性的虐待の場合よりも顕著である。
Daily
melatonin intake resets circadian rhythms of a sighted man with non-24-hour
sleep-wake syndrome who lacks the nocturnal melatonin rise.
Psychiatry Clin Neurosci 1997 Jun;51(3):121-127
Nakamura K, Hashimoto S, Honma S, Honma K
非24時間睡眠症患者(視覚健常)は、メラトニンの夜間上昇がないが、深部体温とコルチゾールは健常な概日リズムを示す。
毎日21時にメラトニンを摂取すると、睡眠は24時〜8時の間に集中するようになるとともに、睡眠時間が長くなる。直腸温の最低位相と早朝のコルチゾール増加は変化しなかった。
Restoration
of detectable melatonin after entrainment to a 24-hour schedule in a 'free-running'
man.
Psychoneuroendocrinology 1997 Jan;22(1):39-52 Oren DA, Giesen HA,
Wehr TA
37歳男性、非24時間睡眠症 テストステロン量は低く、チロトロピン変動は不規則。メラトニンは、大抵の場合、昼夜とも低い。毎日7時〜9時に2500ルックスの光を浴び、18時〜23時の間に光を避け(dark
gogglesをかける)、23時〜7時の間は完全暗黒にすれば、24時間周期に同調する。この同調によって、メラトニンリズムは正常となるが、甲状腺刺激ホルモンや生殖腺刺激ホルモンに対する反応は異常のままである。
Disruption
of endocrine rhythms in sleeping sickness with preserved relationship between
hormonal pulsatility and the REM-NREM sleep cycles.
J Biol Rhythms 1996 Sep;11(3):258-267 Brandenberger
G et al.
アフリカトリパノソーマ病(眠り病)では昼夜に関わらず睡眠が散発的に起る。15人のうち一人を除いて概日的コルチゾールリズムが減弱していた。しかし、徐波睡眠は、正常人と同じように、コルチゾール分泌の減少期と連動していた。プロラクチンと血漿レニン活性は、正常人の場合には夜睡眠している間に上昇するのだが、この上昇は認められなかった。
レム睡眠は正常人と同じように、プロラクチンパルスの下降期に始まった。同じように、血漿レニン活性は睡眠相と良く対応しており、血漿レニン活性振動(パルス頻度?)の上昇期にノンレム睡眠、下降期にレム睡眠が行われた。しかし、睡眠の顕著な断続のために、血漿レニン活性は十分には高まらないのである。
Circadian
cortisol rhythms in healthy boys and girls: relationship with age, growth,
body composition, and pubertal development.
J Clin Endocrinol Metab 1997 Feb;82(2):536-540 Knutsson
U et al.
2.2-18.5歳(235人)の概日的コルチゾールリズムは、性別、年齢、成長、部位に対応した位相や平均値の違いは認められなかった。日中の平均値は個人差があり、100-510
nmol/L の範囲である。
Diurnal
rhythm of 17 beta-estradiol secretion throughout pubertaldevelopment in
healthy girls: evaluation by a sensitive radioimmunoassay.
J Clin Endocrinol Metab 1996 Nov;81(11):4095-4102 Norjavaara E,
Ankarberg C, Albertsson-Wikland K
思春期は、生殖腺刺激ホルモン(ゴナドトロピン)分泌の夜間上昇とともに始まる。これは、男子ではテストステロン分泌の夜間上昇を伴う。
女子では思春期の進行につれて17βエストラジオールの夜後半から朝にかけての分泌が次第に上昇する(振幅の増大)。このリズムは初潮後1年で消滅する。
Hypoleptinemia
in women athletes: absence of a diurnal rhythm with amenorrhea.
J Clin Endocrinol Metab 1997 Jan;82(1):318-321 Laughlin GA, Yen
SS
よく訓練された運動選手の血清レプチン量は一般女性に比べ低い。これは、BMIを基準にした体脂肪率の低さと良く対応しているが、インシュリン量が低いことやコルチゾール量が高いこととも関係している。一般女性と月経正常の運動選手のレプチン量は概日リズムを示し、最低位相は9時、最高位相は1時である。最高値は最低値より50%高い。しかし、無月経症の運動選手には、このリズムが認められない。最低から最高への増加の絶対量は、食事に伴うインシュリン分泌の増加に直接的に影響を受ける。また、コルチゾールリズムの振幅が大きいほど、この増加は小さい。
Individual
differences in the diurnal cycle of cortisol.
Psychoneuroendocrinology 1997 Feb;22(2):89-105 Smyth
JM et al.
[Performance
and personality of patients with hypersomnia].[Article in German]
Wien Med Wochenschr 1996;146(13-14):298-303 Mayer G, Leonhardt
E
過剰睡眠症のうち、概日リズムの乱れによるものは、パーソナリティが最も乱れていたが、これはその病傷による後遺症である可能性が強い。
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