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講義レジュメ(98年度はだいたい第11講目)
生物学概論で勉強したように、より早期に誕生した種ほど「一般家」で、種の存続期間が長い。逆に、比較的最近に誕生した種ほど「専門家」で、存続期間が短い。種多様化の歴史とは、種の増大とともに狭くなっていく地球環境のなかで、特殊な「間隙」を専門的に利用する生物の出現の歴史としてとらえることができる。
言い換えてみよう。生物史の初期の頃、生存競争は主に物理的環境に対する適応を巡って行われていたと思われる。やがて、地球のいたるところに生物が分布するようになると、生存競争は、同一の物理的環境を巡る生物間の競争という側面を強くして行ったであろう。
(1)生態学の初歩
(2)珊瑚礁のイワヅタ目緑藻(アオサ藻綱)の概日リズム
イワヅタ目緑藻は葉緑体移動のリズムや配偶子の一斉放卵のリズムを示します。これらのリズムには、生物的環境に対する適応としての機能がありますので、以下、これについて考えていくことにします。
@珊瑚礁について
約2億2千年前に誕生した:古生代の末期(2.7−2.35億年前)のペルム紀大量絶滅のあと、つまり中生代の初めの三畳紀。現存のものは約250万年の歴史を持つ。
海洋の0.2%未満の領域を占めるに過ぎないが、海洋に流入するカルシウムの半分を固定し、炭酸カルシウムに変換する。熱帯雨林より種数は少ないが、海洋の全生物種の約(100万種以上)が生息する。また、門数は熱帯雨林より多い。発展途上国の漁獲量の25%、世界漁獲量の10%を占める。
これまでの人間活動によって珊瑚礁のうち5〜10%死滅した、と推定されている。また現在のペースが持続すると、今後の20〜40年の間に60%が死滅すると推定されている。堆積作用(土地利用、けた網漁)、富栄養化(化学肥料、汚水公害)、魚類の過剰捕獲、破壊的漁法(メッシュ漁、ダイナマイト、青酸カリ)アクアリウム用魚
珊瑚礁ホームページ
珊瑚礁に関する図書からの引用
- 珊瑚礁の夕暮れは劇的な時間帯だ。大さな魚食者が出動し容赦なく獲物を狩る。多数の昼行性の魚たちが眠りにつくこの時間帯は無防備の状態で魚食者たちにさらされるため致命的である。。。ホブソンは珊瑚礁から魚がほとんど見られなくなる一定の短い時間帯をタ碁れと夜明けに発見した。この(不気味なほどに静まり返った15分ほどの)時間帯には、昼行性魚類はもう休息場所に戻っており、また夜行性魚類も薄明活動性の天敵が一尾残らず姿を消すのを待ってじっと隠れ家に潜んでいる。フリッケ、1983、珊瑚礁の海から
- サンゴが(昼間は閉じた)ポリプをのばして動物プランクトンを狩るには夜の早いうちがよい。底生プランクトン(主に甲殻類)は昼間は海底の岩の隙間やサンゴの枝の間に隠れているが、夜になろと昇ってくるからだ。多くの底生プランクトンはボリプが開く直前に出発することによって捕食を免れているが、遅くでてきたものはサンゴの恐ろしい触手の間を通り抜けねばならない。シェパード、1983、珊瑚礁の自然誌
A葉緑体移動のリズム(サボテングサ Halimeda)
Chloroplast movement in Halimeda and related algae in Ed Drew's Halimeda banks of the Great Barrier Reef
(1)パターン
日没とともに白色化し、夜明けの2,3時間前より緑化して、夜明けとともに光合成を開始します。クロロフィル量は不変です。
白色化:体表面を覆う胞嚢 utricle から石灰質で覆われた内層へ葉緑体が移動
- 暗処理によって誘導され、一時間以内に胞嚢に含まれる150個の葉緑体がすべて消える。
- 胞嚢基部のくびれは葉緑体一個が辛うじて通れるほどの穴であるため、17μm/min の移動速度でくびれを通り、髄質フィラメント内を動かねばならない。同じイワヅタ目のオオハネモ属では30μm/minの速度が確認されている。
緑化:概日リズム (主観的夜明けの3時間ほど前から)
→Ed Drew's Fig.3
- 新生葉状片は真昼に白色隆起部として形成され、その夜のうちに(夜明けまでに)フルサイズに成長する
- 「親」葉状片と新生葉状片の緑化開始時は同じである。クロロフィル合成には光が必要であるから、夜明け前3時間ほどに始まる緑化は、クロロフィル合成に基づくものではない。つまり、「親」葉状片の内層から表層への葉緑体移動が起こっているのである。
- リズムはDDの下では持続するが、内層への葉緑体移動を光が抑制するため、LLでは観察されない。
(2)機能(淘汰価値)
胞嚢基部のくびれに沿って微小管を配置することやこの構造によってオルガネラ移動させることは莫大な自由エネルギーを消費する。
@表面を食われても、内層のフィラメント内に移動した葉緑体(やミトコンドリアや核など)は保護される。
Aグレイザーに対する新生葉状片の防衛: 新生葉状片は最初の夜明けとともに光合成と石灰化を開始できる(化学防御は低下)
- 石灰化によって、グレイザーに目立ちにくくなるとともに非魅力的になる。
B一斉放卵のリズム
- 季節性と月日の同調性
- 受精によって新しく誕生したイワヅタ目(ハネモ目またはミル目ともされる)の「個体」は、約一年後に配偶子を大量放出すると、一時間内に死ぬ。したがって、一年毎に新しい「個体」によって、古い個体が置き換えられて行く。この交替劇は一年に一度、約36時間の出来事である。
- パナマ湾のイワヅタ目(ハネモ目またはミル目ともされる)の多くの種は、大部分(90%前後)が3月から7月にかけて繁殖する。
- 個体にとって繁殖は一年のうち一日だけの出来事であるが、日毎に繁殖する個体が異なる為、種個体群全体としては繁殖季(3月〜7月)ができる、ということである。同一日の同一時間帯に一斉放卵する個体の割合は、平均すると、種内の約3〜5%となる。
- 大抵の珊瑚は、種個体群全体として、一年のうちの特別の一日の、同じ時刻に一斉放卵することに注意。
- この場合、ほかの無脊椎動物と同じく、一斉放卵は夜に行われる。この場合には、概年リズム(または光周性)と概月リズム、概潮汐リズムが関係している。
(1)一日のタイミング
- Mark Hay, Enhanced: Synchronous Spawning--When Timing Is Everything .
Science 1997 275: 1080-1081. (in Perspectives) [Summary][Full Text]
- Kenneth E. Clifton, Mass Spawning by Green Algae on Coral Reefs .
Science 1997 275: 1116-1118. (in Reports) [Abstract] [Full Text]
イワヅタ目緑藻が珊瑚礁で繁栄している理由は Mark Hay によると次の三点です。
@草食者に対する有効な化学的防衛と構造的防衛を行っていること
A数時間のうちに原形質成分を移動・再配置できること
Bこうした活動が最も有利になる、特別な時間帯に行うこと
パナマ湾珊瑚礁のハネモ目Bryopsidales(イワヅタ目、ミル目ともいう)の5属17種の放卵リズムの日内タイミングには次の三点の特徴がある(Clifton 1997 (Science 275:1116-1118))。
@放卵時間帯は夜明け前後の5分〜15分の間にある。
Aこの放卵時間帯は種特異的である。近縁種はオーバーラップしないが、遠縁の種間では重なっているものもある。
B同一種内では、雄性配偶子の放出が雌性配偶子の放出より2,3分先行する。
サボテングサ Halimedaにおける配偶子形成・放出の経時パターン
- 配偶子は一夜にして形成され、「親」の原形質を吸収し始める(day 1 の夜 〜 day 2 の朝)。
- 次の丸一日かけて(day 2)この原形質転流が持続し、配偶子嚢に「親」の全てを吸収する。
- 夜明け前後(day 3)に配偶子を放出し、2〜3時間後に死ぬ。
- 配偶子の形成開始(day 1 dusk)から配偶子放出(day 3 dawn)まで約36時間
- 配偶子放出の過程については、Cryptogamic Botany Vol.1 (GM Smith, 1955, McGraw-Hill) Fig.60
配偶子形成開始のタイミングは、概日リズムによる細胞分裂タイミング関門制御と同様の過程であると思われる。
- 上記の配偶子形成と放出のタイミングは自然条件での観察であり、概日リズムであることを示す実験的根拠は一つも提出されていない。しかし、このタイミングが概日リズムであると考えるのは極めて妥当であると思われる。概日リズムによる生命サイクルのタイミング制御については概日リズムによる関門制御をご覧ください。
(2)淘汰価値
@放卵期間の同調性が高いことの淘汰価値: 放卵期間が短いほど、また同調性が高いほど、水中における配偶子密度(生殖機会)は高い。また、接合に成功するや否や底に沈むので、接合が短期間であるほど食われる危険性は低下する。
A夜明け前後であることの淘汰価値: 黄昏時と夜明け前後が最も食われにくい時間帯である(プランクトン食性の魚はたいてい昼行性である)。また、夜明けとともに光合成を開始できる。
B雌配偶子が遅れることの淘汰価値: 夜明け前後であることにより、雌配偶子は、雄配偶子集団の暗がりの中を昇って行くことができる。
C近縁種間でタイミングがずれることの淘汰価値: 雑種不稔という非効率を避けることができる。
Cまとめ
葉緑体移動のリズムでは食物連鎖関係における防衛と個体の生理学的要求(光合成効率の最大化)という機能的意義を認めることができる。
配偶子の一斉放出のリズムでは、より多様な機能的意義が認められる。食物連鎖関係における防衛と種内関係(繁殖効率の増大)並びに、近縁種間の時間ニッチ分割。B(2)Cでは雑種不稔を避けることを挙げたが、繁殖時間帯の分割はまた、行動的種形成の要因にもなりうることに注意したい。
(3)食物連鎖関係と概日リズム
食物網は生態系の自由エネルギー変換を行う生物学的装置(実体)であり、自由エネルギー変換を通じてこの装置そのものを維持・再生していくプロセスであった。食物網ないしは生態系の、より長期的な変動(生態学的遷移)については多くの関心を集めてきていると思われるが、それが日周的にも季節的にも規則的に変動していることについては、それほどの関心を集めてこなかったように思われる。だが、夜と昼、あるいは黄昏や夕暮れ時とでは、食物網の「活動的」実体がその様相を一変させていることは余りにも明らかである。
⇒パナマ湾魚類生態系の夜と昼 Hobson 1965
- エネルギー変換装置の内実(ないしは過程そのもの)が概日リズム的に変動していることは、生態系レベルに限らず、細胞レベルや個体レベルでももちろん認められることである。細胞・個体レベルの概日リズムが生態系レベルの概日リズムを規定していることは当然予想されることであるが、同時に、生態系レベルの概日リズムが淘汰圧となって細胞・個体レベルの概日リズムのタイミング特性を進化させてきたことも忘れてはならないだろう。生理的には夜行性であることから解放される能力があるのに、捕食圧によって夜行性を余儀なくされた動物の典型は原始哺乳類であろう。
@鳥類の昼行性と哺乳類の夜行性
Aコウモリ(空を飛ぶ唯一の哺乳類で、鳥類の昼行的生活が障害)
- コウモリが毎夕日没から一定時間内にねぐらから飛び出す適応的な意味は、視覚で猟をするトビやコウモリタカのような捕食者を避け、黄昏時に活動する昆虫を多数捕らえることにある。。。最初に飛び出したコウモリが、夜のねぐらに最後に戻りつつあるトビに捕獲されるのを私は時々みている。 クラウズリー=トンプソン、1975、陸上の生態
- 気の早いコウモリは捕食者(トビやコウモリタカ)に食われる
B珊瑚礁の底生プランクトン
- のろまなプランクトンはポリプに食われる(多くのプランクトンはポリプが開く直前に上昇するが、おそめに昇ってきたプランクトンは食われてしまう)上記引用を参照して下さい。
Cウミガラスとカモメ {S. Daan, Adaptive Daily Strategies in Behavior (in Handbook of Behavioral Neurobiol Vol.4, 1981)}
⇒Daan's Fig.2
- 多数派に同調して滑空する雛ほど捕食回避の成功率が高い。
- 16時〜18時と24時〜4時に滑空する雛は少数派であるが、全部が捕食されてしまう。
- 最も生き残りやすい雛は、20時〜24時に滑空する多数派である。
まとめ
@食われやすい時間帯に現れる被食者は実際に食われてしまうし、食われにくい時間帯に活動する被食者は生き延びる。その結果、被食者の多数派は食われにくい時間帯に活動するものである。
A一方、捕食者は被食者の多数派の時間帯に捕食することを試みるが、実際にそれが成功するとその時間帯に活動する被食者の数は少なくなる。このジレンマのために、結局、長い目で見ると
B捕食者は被食者の少数派しか狩ることができない。
(4)種間競争と概日リズム
@ニッチの時間分割・季節分割
Aa 吸血昆虫の吸血時刻
Ab アフリカトゲネズミのフェロモンとニッチの時間分割
- Temporal segregation in coexisting Acomys species: the role of odour.
Haim A & Rozenfeld FM (1993) Physiol Behav 54(6):1159-1161
- ゴールデンアフリカトゲネズミ Acomys russatus はアフリカトゲネズミ A.cahirinus {common spiny mice} から隔離されているときは夜行性である。
- リフト渓谷(イスラエル)の暑く乾燥した地域に同所的に共存する。この同所的共存は、アフリカトゲネズミによるゴールデンアフリカトゲネズミの排除、つまり昼行性への強制によるものである。
- ゴールデンアフリカトゲネズミの活動時間帯は、同種内の異性の糞尿によってはシフトしないが、異種(つまりアフリカトゲネズミ)の糞尿によって約7時間前にシフトし、昼行性となる。
Ac 概日リズムとフェロモン(昆虫外)(Medline 検索)
(5)種内関係と概日リズム
@個体間の時間的同調
- なわばりや群れは、種内の個体が同じ時間に活動することを一つの基礎としている。
A集団の多数派でいることの利益 ⇒Daan's Fig.2
B雌雄の関係
- 昆虫の交尾時間帯と性フェロモン
- 雌の放出リズムと、雄のフェロモン反応性リズム
⇒千葉「生物時計」図61
- 近縁種ほど、フェロモンの化学構造が一致または類似
こうして、被食確率と不稔雑種形成確率を低下させるような、最適時間帯と種内同調性が進化してくるものと思われる。
C同所的種形成(種分化)と概日リズム
D>霊長類の「群れ」の進化
- 霊長目の社会構造の進化の上には、古代中国人が考えた陰と陽の対照が大きな影を落としていたということに注目しておく必要があるように思う。夜間に活動するか昼間に活動するかという対照は、森林とオープンランド、樹上と地上、湿潤と乾燥、といった対照よりも、より本質的なもののように思われる。そして、霊長類は陰から陽へという進化の道を歩み、その社会も同様の歩みの中で進化を遂げて行ったのである。伊谷純一郎 1987、霊長類の社会
- (昆虫食の原猿類に対し)植物食が主になると、アレロケミックスを含む有害な果実、葉、樹皮などを避け、可食植物を選択するためには、物の形状を見分ける鋭い視力とともに、色覚が必要になってくる。ということは、夜の世界よりも昼の世界の方が、はるかに採食活動に好適だということに他ならない。。。。夜行性の原猿が昼行性に移行した理由は、以上のように、食生態の拡大という点から理解できるが、闇の世界から光の世界への脱出こそ、サル類の進化において革命的な事件であった。。。
(革命的なことの第三は)単独社会から集団社会への発展を促したことである。このことによって、サル類は、はじめて真の社会性を獲得し、社会性の進化の原動力を内包するに至ったのである。河合雅雄 1992、人間の由来
- ツガイへの発展は、夜行性や昆虫食とは関係なく、、、。明らかに育児期間の延長と関数関係をもちながら、徐々に両性間の個体的傾向を乗りこえる新しい習性群が発達してきたと考える。オスについては父性の誕生である。 川村俊蔵 1985、霊長類学入門(江原他編集)
生物系における自発振動のメカニズム
個体群変動の周期性とリミットサイクル
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