淘汰圧と霊長類の生命サイクルテンポ
(に)霊長類の生命サイクルテンポに対する淘汰圧

本ページ内の図表は、すべて下記論文からの無断借用です。
Allman,J. et al.(1993), Proc Natl Acad Sci, USA 90:118-122
Brain weight and life-span in primate species

{Medline} for Allman et al. 1993 Proc Natl Acad Sci USA 90:118-122

  • 霊長類は、哺乳類の中で見ると、サイズの割に生命サイクルテンポを遅くしたグループ(目)です。

    • 哺乳類の中では、サイズの割に性成熟齢が遅く(限界寿命も長く)、サイズの割に出産間隔が長く一腹産仔数も少ないのです。

    • このことは、親の育児負担がサイズの割に大きいということでもありますし、サイズの割に子どもの学習期間が長いということでもあります。

  • 本ページでは、霊長類の内部で、各種の生命サイクルテンポを脳重と比較します。

    狭鼻猿ではサイズの割に脳の重い種は、サイズの割に生命サイクルテンポが遅い

    • 狭鼻猿(真猿類)と原猿類のどちらも、哺乳類一般のように、体重(サイズ)が大きいほど限界寿命も長く脳も重い。

    • 狭鼻猿ではサイズの割に脳の重い種は、サイズの割に限界寿命が長く、初産齢(成熟齢)も遅い。原猿の場合には、このような関係は認められません。

    • これに対し、どちらのグループにおいても、サイズの割に脳の重い種がサイズの割に代謝テンポが速くなったりすることもないし、サイズの割に初産齢の遅い種がサイズの割に代謝テンポが遅いというような関係にもありません。

  • Allman 1993 Figs 2 - 4
    {Medline} for Allman et al. 1993 Proc Natl Acad Sci USA 90:118-122
  • 上の図では、標準の種(霊長類のアロメトリ直線に乗る種)が1として表記されています。Brain Weight Residual が 1より大きい種は標準より脳の重い種、つまりサイズの割に脳の大きい種を表しています。また、LifeSpan Residual が 1 より大きい種はサイズの割に限界寿命の長い種を表しています。

  • 図2Aより、ひとはそのサイズからすると顕著に脳の重い種であり、またそのサイズから予想されるより限界寿命も顕著に長い。図4からひとは初産齢もサイズの割には遅いことが明らかである。霊長類が哺乳類一般よりネオテニーを起こしていることは上述の通りであるが、ヒトは霊長類一般よりもネオテニーを起こしていることが明らかであろう。

  • 図2Aと図4から、葉食の霊長類はサイズの割には脳が小さく初産齢も低い。また最長寿命もサイズの割に短い。逆に果実食の霊長類は標準的な種を多く抱えていると同時に、サイズの割に脳が大きく初産齢が遅れ最長寿命も長いことが明らかであろう。

  • また、図2Bには社会関係と脳の重さや最長寿命との関係が示されている。ハーレムをつくる一夫多妻型の群れでは脳はそのサイズが予想するより軽く、最長寿命も短い。単婚型の種は標準的なものからサイズの割に脳が大きく最長寿命も長いものまで分布する。同様のことは、複雄群をつくる狭鼻猿についてもいえる。

  • 真猿類の中で葉食のものやハーレムをつくる種は、標準より脳は軽く初産齢も速く最長寿命も短い。果実食やハーレム以外の社会形態が真猿類として標準であり、この中から標準より(サイズの割には)脳が重く、初産齢が遅く、最長寿命も長い種たちが分化したものと思われる。この傾向を極度に進め、最もネオテニーを起こした種がヒトである。

  • 霊長目を哺乳類一般から区別する生活史上の特徴については前述した。以上の分析からは、真猿類としての生活史上の制約が一つ指摘できる。すなわち、脳の相対的大きさである。サイズの割に脳が大きいほどサイズの割には初産齢が遅く(ネオテニーを起こし)、サイズの割には最長寿命も長い。真猿類各種の特徴は、ここでもアロメトリ直線からのずれに示されており、各種はサイズの割に脳が重いか軽いかに応じて、サイズの割に初産齢の遅速や最長寿命の長短を変化させたものとみることができる。

  • そして、各種を特徴づける脳の相対的重量が、社会関係や食性と密接に関係していることが示された。死亡率との関係も興味深いが、この著者たちは分析を加えていない:したがって、哺乳類一般からみた霊長目の特徴との関係において、霊長類一般からみた各種の特徴を分析することはできない。また、原猿類については脳重と生活史のあいだに有意な相関関係はなかった。