淘汰圧と哺乳類の生命サイクルテンポ
(は)哺乳類の生命サイクルテンポに対する淘汰圧

本ページ内の図表(計四点)は、すべて下記論文からの無断借用です。
Read, AF & Harvey, PH (1989) J. Zool.,Lond. 219:329-353
Life history differences among the eutherian radiations

 

 

@二つのテンポの異質性
A老化の進化学説(究極要因)---基礎編
B生命サイクルテンポを決める生態学的死亡率
C老化の進化学説(究極要因)---洗練編

@二つのテンポの異質性:代謝テンポと生命サイクルテンポ

  • 第一に、代謝テンポは四分の一乗則に綺麗に随うのに、生命サイクルテンポの場合には顕著な例外が存在します(→(い)哺乳類の限界寿命と生命サイクルテンポ}。この事実は、二つのテンポが別の法則に随っていることを明白に示しています。

  • 第二に、(ろ)代謝テンポと生命サイクルテンポで考察したように、代謝リズムが可逆リズムであるのに対し、生命サイクルは不可逆リズムである、という点で異なっています。

    • 代謝リズムの反復(回転の繰り返し)に支えられて生命サイクルは位相進行しますから、代謝リズムは生命に不可欠です。しかし、生命にとっては生命サイクルの位相進行こそ「いのち」ですから、代謝リズムはいわば「生命の道具」となっていることに注意して下さい。

  •  

    A老化は進化的に不利な遺伝的形質である

      まずはじめに、繁殖成功度(適応度)と老化について用語を定義しておきます。

    A. 繁殖成功度(または適応度): 生命(個体)が次代に残す繁殖可能な子孫数の遺伝的期待値

    • その生命(個体)を取り巻く環境(単に、局地的環境と呼ぶことにする)に依存します。

      • 局地的環境は、物理的環境と生物的環境に大別され、生物的環境は種内関係と種間関係に大別されます。

        • 種内関係:なわばり、群がり、群れ内の親子・兄弟姉妹・順位関係など。

        • 種間関係:食物連鎖関係(捕食ー被食関係)や競争関係(同類どうしのニッチ分割など)

    • 人類は、技術活動を通じて局地的環境を人為的に改変します。人類も自然淘汰に随うことを免れていないことは「自然の掟」ですが、この環境改変を通じて人類は自然淘汰の方向性を改変している、といえます。

      • 例えば、免疫機能のある程度の低さは、現代社会においては繁殖成功度を落とす形質とはいえません。

      「適応度」に関連する「生命を考える」サイト内のページ

    B. 老化:加齢に伴う生存力や繁殖力の低下

    • 老化ゼロ(生存力低下や繁殖力低下ゼロ)=不老不死を仮定してみれば直ちに明らかなように、老化は繁殖成功度を低下させる形質です。

      • 加齢しても、子孫を生み出す能力が全く低下しない個体は、低下する個体に比べ(他の条件がすべて同じなら)、次代に残す繁殖可能な子孫数の遺伝的期待値が高いからです。

    • 繁殖成功度は、種内の値(量)です:同じ種の内部で繁殖成功度のより高い個体の子孫が残っていく、というのが淘汰原理です。。以上のことから、一つの種の内部では、老化は軽減される方向に進化していくはずなのです。しかし現実としては不老不死の個体は(非性的単細胞生物を除いて)存在しません。どうしてでしょうか?

    C. 老化によらずとも生物は必ず死ぬ

    • 被食・飢餓・病気・環境異変・事故・・・等々、さまざまな要因によって、生物は必ず死んでしまいます。

    • このため、繁殖齢に達した個体が仮に不老であるとしても、(他の条件がすべて同じであるとすれば{例えば、パートナーの探索能力の増大がないとすれば})繁殖機会の期待値は(成熟個体間で比較すると)低齢ほど高いことになります。年当たりの生存確率を50%(一年後に生きてる確率)とすれば、4年後に生存している確率は10%にも満たないのです。

      • これを集団としてみると、親が若齢のときに産まれた子どもの方が多い、ということです。

      • これを生物個体のとるべき繁殖戦略としてみると、できるだけ若いうちに繁殖すべきである、ということになります。

        • 一歳を初産年齢とし、毎年100匹ずつ子供を産む仮想的な「不老」の生物を考えます。老化しないので、齢別の死亡率(または齢別の生存率)は加齢とともに変わりません。仮に、一年当たりの生存率(齢によらず一定)を50%とすると、一歳まで生存する確率は50%、二歳までは25%、三歳までは13%、4歳までは6%、5歳までは3%、、、10歳までは0.1%、50歳までは10兆分の1%となります。

        • したがって一匹の新生雌(花子)は、一歳の時には50匹、二歳の時には25匹、三歳の時には13匹、10歳の時には0.1匹の新生児を産むことが期待できます。突然変異(ほとんどの場合、有害)は避けられませんが、その効果は変異の生ずる齢によって全く異なります。

        • 花子が10歳の時に致死遺伝子を発現させても、すでに花子は50+25+・・・+0.1≒100匹ほどの子供を産んだ後であるのに対し、1歳で致死遺伝子が発現すれば50匹もの子供を産み残していますし、0歳で発現してしまえば一匹も子供を残せません。

    • 以上より、↓の命題が導かれます。

    D. 有害遺伝子は高齢で発現するものほど淘汰されにくい

    • 有害遺伝子:生存力や繁殖力を低める遺伝子、と定義しておきます。したがって、環境依存的です。したがってまた、何が有害であるかは時間的に変動するものであることに注意して下さい。ただし、老化のように、普遍的に「有害」である形質もあるわけです。

      • 果実食の霊長類の多くは、人間を含め、ビタミンC(アスコルビン酸)の合成能力を失っています。しかし、ビタミンCを豊富に摂取できるような環境に生息している動物たちにとって、この遺伝的欠損は繁殖成功度を下げる形質とはならないわけです。

      • 繁殖成功度は、あくまでも同一種内の個体たちの進化的運命を決める尺度であることに注意して下さい。

    E. 同じ強度の有害遺伝子なら、高齢に発現するほど繁殖成功度を低める効果が小さい。

    • この命題は、{有害遺伝子は高齢で発現するものほど淘汰されにくい}を言い換えたものですから、内容は同じです。あるいは、高齢個体ほど淘汰圧は弱い、といってもよいでしょう。

    • つまり、有害遺伝子は高齢に発現するものほど、集団の中に蓄積しやすい(進化的に除去しにくい)ということです。これで、老化が繁殖成功度を低下させる形質なのに、性的生物界に普遍的に残っている歴史的理由(進化的要因、究極要因)が明らかとなりました。

      • 全く同じことなのですが、低齢個体の方に視点をおいて表現すると↓のようになります。

    • 成熟齢以前に発現する有害遺伝子は子孫に伝えられない

      • この命題には誇張があります。正確には、有害遺伝子のところを、生存力をゼロにする致死遺伝子や、繁殖力をゼロにする不稔遺伝子としなければなりません。致死遺伝子や不稔遺伝子が成熟前に発現する個体は、子孫を残すことを期待することはできません。明らかに、繁殖成功度はゼロとなります。

      • 高齢になって有害遺伝子を発現させても、既にかなりの子孫数を残しています。したがって、その子孫には、{高齢になって有害遺伝子を発現させる}という形質まで伝えられていくことになります。

        • しかし、成熟前に致死・不稔遺伝子を発現させるなら子孫が残らないことは自明のことです。つまり、{成熟前に致死・不稔遺伝子を発現させる}形質は遺伝しないのです。

      • 致死・不稔遺伝子でなくとも、有害遺伝子が発現するなら、その発現が低齢であるほど不利です。なぜなら、高齢に発現する個体に比べ、残せる子孫数の期待値は明らかに低下するからです。

        • 例えば、有害遺伝子が繁殖力を低下させるものとします。この有害遺伝子が低齢において発現するほど、この個体は低下した繁殖力の持続期間が長くなってしまいます。有害遺伝子が生存力を低下させるものであれば、低齢において発現するほど死ぬ機会が増えるわけです。したがって、繁殖機会の低下の持続期間も、この有害遺伝子が低齢において発現するほど長い、ということになります。このため、下記のように結論づけることができます。

    • 有害遺伝子の発現を遅らすような淘汰圧がかかる

      • この命題は、{有害遺伝子は高齢で発現するものほど淘汰されにくい}とか{同じ強度の有害遺伝子なら、高齢に発現するほど繁殖成功度を低める効果が小さい}と全く同等ですが、「老化」のメカニズム(近接要因)を探る為に表現を変えてみました。

        • つまり、「不老」が生物にとっては進化的理想なのですが、有害遺伝子の発現が避けられないものとすれば、その発現を遅らすことによって、繁殖成功度の低下をできるだけ軽減するような淘汰圧がかかります。

        • にもかかわらず、高齢で発現するような有害遺伝子は進化的に除去しにくいので、現存生物界に広く残ってしまうのです。

    • 老化とは成熟後における有害遺伝子の発現である:これが、老化の進化的要因についての考察から支持される、老化のメカニズムについての一仮説です。いわゆる、「老化の擦り切れ」仮説に沿った仮説です。

      • 有害遺伝子は生得的(先天的、遺伝的)なものもありますし、「健常」遺伝子が後天的に変異した結果生成される場合もあります。

      • 「老化のプログラム」仮説は、発生プログラムと同等なものとして老化を捉えている点で、老化の進化論とは相容れません。

      • 老化は遺伝的形質です。すべての哺乳類が老化します。老化を完璧に抑制するメカニズムを遺伝的に備えていないために、哺乳類は老化するのです。例えば、老化抑制遺伝子が生涯健常であるとすれば「不老」となるでしょう。

      • 代謝活動やDNA複製に伴って、DNAも傷害をうけます。このDNA傷害がある限界を超えれば、その遺伝子は「有害遺伝子」へと変異することになります。したがって、DNA傷害の修復能力が劣化すれば、生物の生存力や繁殖力は落ちることになります。言い換えると、修復能力の劣化を抑制する過程(の一つ)が老化抑制である、と考えることができます。

      • 生命活動に伴って損傷を受けるのはDNAだけではありません。細胞膜や蛋白質など、他の細胞成分も損傷を受けます。これを、繁殖最適齢期におけるように「若々しい」状態に保つ為には、DNA傷害の修復だけでは間に合いません。言い換えると、老化はDNA傷害の蓄積だけを伴ったものではなさそうだ、ということです。そこで、

    • 老化とは成熟後における(細胞機能)傷害修復能力の低下である、といってもよいかもしれません。

      • 老化抑制は、したがって、この傷害修復能力の遅延や向上によって達成されるでしょう。

        • で、遅延や向上が(老化の進化的要因のところで考察したように)完璧ではありえない為に、老化は性的生物界に普遍的なのです。しかしまた、この遅延や向上が、一つの種内での進化的方向である、ということも推論できるでしょう。有害遺伝子についてみるなら、その発現の遅延や、有害遺伝子への変異抑制(修復能力)の向上が、繁殖成功度を上げる道なのです。

    老化のメカニズムを巡って

    F. 生態学的死亡率の高い個体群ほど、早熟を強める淘汰圧を受ける

    • 前項までは、生態学的死亡率がゼロではないという基本事実から、老化の進化的要因を考察しました。

      • 死亡率がゼロではない為、不老集団であっても、低齢において繁殖するような淘汰圧がかかります。また、有害遺伝子の発現(或いは生物損傷)が避けられないものであるとすれば、それを遅延したり修復したりするような淘汰圧もかかります。

    • 生態学的死亡率が高ければ高いほど、早めに繁殖を済ませてしまおう、という淘汰圧がかかることは容易に推論できるでしょう。一年間の生存率(生存確率)がゼロであるなら、誕生して一年以内に繁殖を済ませなくては子孫を残すことを期待できないのです。

      • しかも、多産であることが予想されます。生存確率を1%とすれば、100匹の子孫がいれば1匹は生き残ることを期待できますが、10匹しか生まないとすれば10匹とも死んでしまうことが期待されるからです。

    • このことが、異説「ゾウの時間、ネズミの時間」やその他でさんざん触れたような「何故、霊長類やコウモリは例外的に限界寿命が長いのか」の一つの解答を与えることになります。次節では、ここで述べた理論がデータによって裏付けられていることを示しています。

    B哺乳類の生命サイクルテンポ

  • サイズと生命サイクルのテンポ

    • 表2には、哺乳類各目の生活史がその目のからだの平均サイズと強く関係していることが示されています。

  • 妊娠期間(gestation:受精から誕生まで)、乳離れ齢 (age at weaning:離乳期、赤ん坊期の終わり)、母親の投資期間(maternal investment: 妊娠期間+乳離れ齢)、こども期間(離乳してから性成熟するまで)、性成熟齢、出産間隔(日数)(interlitter interval)、最長寿命記録、最長繁殖寿命(最長寿命記録−性成熟齢)などすべて、サイズが大きいほど長いことが分かります。

    これらの生命サイクル事象のタイミングが体重とともに遅れるのは、サイズが大きいほど成長に時間がかかるからいわば当然のことと言えます。ただし、アロメトリ係数βは0.25からずれています。この分析には、霊長目も翼手目(コウモリ)も含まれていることに注意して下さい。

    同様に、からだのサイズが大きい目ほど、一腹産仔数(number of offspring per litter)が少なく、年間出産数(annual fecundity:一腹産仔数÷出産間隔x365)も少なくなり、また新生児の体重(neonatal weight)や、新生児の総体重(litter weight:新生児体重x一腹産仔数)あるいは年間生物生産量(新生児体重x年間出産数)は大きくなっています。

  • サイズ効果の除外
  • 図1(a)では、哺乳類の15目について、横軸に妊娠期間(gestation period)、縦軸に性成熟齢が(ともに対数目盛で)示されています。総じて、妊娠期間が長い目ほど成熟齢は遅くなっています。このように、生命サイクル(生活史)事象のタイミングどうしの相互関係はだいたい決まっており、早く成熟するものは乳離れも早いし、妊娠期間も短い、という関係にあることがわかります。これを生活史の遅速系列と呼びます。

    • ウサギ、食虫目、ツパイ、げっ歯類などサイズの小さい仲間は生命サイクル全般のテンポが速い、ということです。ただし、(近似直線の下方にある)ツパイ Scandentia ですと妊娠期間の割には成熟齢が早いし(同じ妊娠期間の「標準的」哺乳類と比較すると、成熟が加速されているし)、また(近似直線の上方にある)ウサギ Lagomorpha では逆に、妊娠期間の割にはゆっくりと成熟しています。

  • 図1(b)では、サイズの効果を除外したときの生命サイクル事象相互のタイミングを示します。

  • 妊娠期間の対数を哺乳類各目の平均サイズ(体重)の対数に対しプロットし、最小二乗法によって一本の近似直線を求めます。この直線にぴったり乗る目は、哺乳類一般からして標準的な妊娠期間を持つことを示しますし、この直線より上側にずれていれば、そのサイズの割には(哺乳類一般の標準からすると)妊娠期間が長いことを示すのです。このずれを図では相対妊娠期間とか相対成熟齢とかで表しています。
  • つまり、この方法では、ある哺乳類の生命サイクル事象を別の(仮想的な)同一サイズの哺乳類のそれと比較していることになります。近似直線上に乗る、その仮想的な哺乳類を標準的哺乳類と呼んでもよいでしょう。このような形で(サイズ効果を除去することによって)比較することにより、生命サイクル事象に見られる特性(例えば成熟の遅さ)が、その哺乳類(例えば霊長類)の目(もく、Order)としての固有な特性であるのかどうかが判定できることになります。

    • 逆に言うと、もしすべての哺乳類がひとつのアロメトリ直線に綺麗に乗るとすれば、したがって、「ずれ」が全くないとすれば、サイズ効果を除去しても新しい情報は何も得られません。この(仮想的な)場合にはサイズだけが生命サイクル事象の特性を決めているということになるからです。

  • さて、図1(b)から明らかなように、サイズで標準化しても(サイズ効果を除いても)生命サイクル事象相互の遅速系列が顕著です。相対的に長い妊娠期間を持つ目(つまり、サイズの割に長い妊娠期間を持つ目)は相対的に成熟齢も遅く(つまり、サイズの割に成熟齢も遅く)なるのです。

    • ただし、生命サイクルテンポの遅速系列における各目の配置がサイズ効果の除去によって大幅に変化する点がに注目することが肝腎です。これこそ、その哺乳類の目としての固有な特性を示しているからです。本川達男「ゾウの時間、ネズミの時間」で啓蒙されている「サイズがすべてを決める」という法則は、この図によって見事に覆されている、といえます。

      • 例えば、海牛目(Sirenia)は生命サイクルテンポの遅い部類に属しますが、サイズの効果を除去すると(b)ほぼ標準の速さになっています。また、鯨目(Cetacea)も遅い代表の一つですが、サイズの効果を除去すると(b)標準より速い生命サイクルテンポをもっていることが分かります。

      • サイズが大きければそれだけ成長には時間がかかることは明らかです。海牛や鯨の見かけ上の遅さは単に彼らがサイズが大きいことを示しているだけで、海牛は哺乳類としては標準の、鯨は哺乳類としては速い生活史をおくっているとみるべきでしょう。ウサギ目(Lagomorpha)はどちらの基準から見ても、速い生命サイクルをおくります。

        • サイズが大きいということは細胞数が多い、ということでした。ですから、サイズが大きいということはそれだけ余計に細胞増殖を重ねなければならない、ということです。これだけでも、例えば成熟するまでの期間が延びます。しかし、それだけではありません。固有代謝率(固有仕事率)、つまり代謝テンポもサイズの四分の一乗に比例して遅くなるのでした。これら二つの効果により、サイズの大きいものたちは、生命サイクルテンポが遅くなるのです。

      • 面白いことに、サイズが予測するよりずっと長命なものの代表としてこれまでに何度もでてきた霊長目(Primates)と翼手目(コウモリ、Chiroptera)は、そのサイズの割に遅い生命サイクル(生活史)をおくるものの代表ともなっています。

        • サイズの割に生命サイクルテンポが遅くなっているのは、霊長類(霊長目 Primates)、翼手類(翼手目 Chiroptera: コウモリ)、イワダヌキ目 Hyracoidea、長鼻目 Probosidea(ゾウ)。

        • サイズの割に生命サイクルテンポが速くなっている典型は、ウサギ Lagomorpha、ツパイ Scandentia、鯨 Cetacea。
           また、げっ歯類 Rodentia(ネズミ)、偶蹄類 Artiodactyla (牛)、食虫類 Insectivora (モグラ)、ネコ類(食肉類 Carnivora)などもサイズの割に速い方に属する。

        • アロメトリ直線にちょうど乗っているような平均的な生命サイクルテンポを送るのは、鰭脚亜目(海生食肉目 Pinnipedia:セイウチ・アザラシなど)、貧歯類 Edentata (ナマケモノ)、海牛類 Sirenia (ジュゴン)、奇蹄類 Perrisodactyla (馬)など。 

  • 生命サイクル事象相互のタイミングと繁殖様式 

    • 表3対角線下側半分はサイズ効果の除外をしない場合の関係を示します。

      • 最長寿命記録(限界寿命)は、妊娠期間や母親の投資期間及び出産間隔やこども期間が長いほど、また乳離れ齢や性成熟齢が遅いほど、長いことが明らかです。最長寿命が長いほど新生児総体重は重く、一腹産仔数が少ないことも読みとれます。最長寿命と唯一関係していないのは新生児体重です。

    • 性成熟が遅いものほど最長寿命が長いのは、すでに述べたようにこれらの動物の体が大きいために、単に成長のための時間が物理的にかかるだけのことを示しているかもしれません。細胞の大きさ自体は、個体サイズにかかわらずほぼ一定でしょうから、サイズが大きいほど細胞数は多いのです。つまり、性成熟の遅さと最長寿命が長いことの間に深い生物学的関係はなく、単にサイズが大きいこと(細胞分裂回数の多さ)を示しているだけかもしれないのです。

      • このため、生命サイクル事象相互の生物学的関係(あるとしたら)を探るにはどうしてもサイズ効果を除去する必要があります。

    • 表3対角線の上側では、サイズ効果を除去した場合の関係が示されています。

        生命サイクル事象のタイミングや大きさの対数を、哺乳類各目の標準体重の対数に対しプロットし、アロメトリ(近似直線)を求めます。そして、その近似直線からの「ずれ」「偏差}自体に着目するのです。

        • 横軸に体重の対数を目盛るとすれば、この近似直線より上に位置する目の場合には、サイズの割にその生命サイクル事象のタイミングが遅く訪れている、と言えるわけです。

        • 生命サイクル事象Aがサイズの割に遅い目は、別の生命サイクル事象Bもサイズの割に遅くなっているのかどうか、ということなどを見ようとするわけです。

    • 最長寿命記録(限界寿命)に注目してみましょう。サイズの割に限界寿命が長い目は、サイズの割に出産間隔も長いし、一腹産仔数や年間出産数と年間生産量も少ない、ということが明らかです。しかし、そうした目でも、新生児の体重や新生児総体重がサイズの割に大きいとか小さいとかいう関係にはありません。

      • サイズの割に限界寿命の長いものたちは、少ない子を大事に育てる戦略を採用しているのに対し、サイズの割に限界寿命の短い目は、子の保護に精力を使うよりはたくさんの子を産み、そのうち少しだけ残ればよいとする戦略を採用したものたちなのだ、というイメージが浮かびあがってきます。

    • サイズの割に限界寿命が長くても、他のタイミングとしては出産間隔だけが強い相関を持つように見えます。しかし、出産間隔の項をみてみると、サイズの割に出産間隔の長い目は、サイズの割に妊娠期間も長く、乳離れも遅く、したがって、一回の繁殖における母親の投資期間(妊娠期間+乳離れ齢)がサイズ割に長いわけです。また、サイズの割に性成熟齢も遅くなっています。

      • サイズの割に出産間隔が長いとサイズの割に一腹産仔数や年間出産数が少なくなる事情は、最長寿命の場合と同様です。

      • サイズの割に性成熟が遅いということは、サイズの割に(赤ん坊+こども)期間が長いということです。

      • 当然予想されるように、その子供たちにかける母親の投資量はサイズの割に大きくなっています。つまり、サイズの割に性成熟の遅い目は、サイズの割に妊娠期間が長く乳離れも遅いのです。(妊娠期間+乳離れ齢)がサイズの割に長くなっているということは、子どもに係りきりになっている期間がサイズの割に長いということですから、出産間隔も当然のことながら延長せざるを得ないわけです。また、一腹産仔も少なくするような淘汰圧がかかることもうなずけます。出産間隔がサイズの割に長く、一腹産仔数がサイズの割に少なければ、当然のこととしてサイズの割に年間出産数も低くなります。こうして、、、

      サイズの割に性成熟の遅い目は、サイズの割に母親の育児負担が重く
      子どもを少し産んで大事に育てる

      限界寿命もサイズの割に延びる傾向がある 

      とイメージできるでしょう。

  • 生態学的死亡率と生命サイクルテンポ
  • 表7には、サイズ効果を除去したときの生命サイクルテンポ(例えば相対的性成熟齢)や繁殖様式と死亡率との関係が示されています。Pは危険率で、一般的には0.05以下であると統計的に有意な関係にある、といわれます。

  • 死亡率の高い目は、サイズの割に生命サイクルテンポが速く、サイズの割に小さい新生児をたくさん産むことが明らかです。サイズの割に多産多死の目ほどサイズの割に生命サイクルテンポが速いのです。逆に、サイズの割に少産少死の目はサイズの割に生命サイクルテンポは遅くなっています。死亡率が高い目ほど限界寿命も短い傾向にあるとはいえますが、統計的に有意に短いと言えるほどには顕著ではありません。自然界では、限界寿命まで生きる個体がほとんどいないことを反映しているのでしょう。

  • どちらが原因でどちらが結果なのでしょうか。恐らく、両者は相互的因果関係にあるのでしょう。つまり、生態学的死亡率が高いと、生命サイクルテンポを速めたり、多産を推し進めたりするような淘汰圧が働く一方、親の保護が軽い分、死亡率は高くなるでしょう。

  • C老化の進化学説(究極要因)---洗練編

  • 前節A老化の進化学説(基礎編)では、老化は進化的に不利な形質であるにもかかわらず進化的に除去できないことの基本的な要因について考えました。

      (1)(老化するしないにかかわらず)高齢個体ほど残している子孫数は大きい。
      (2)高齢個体ほど淘汰圧は弱い【(1)と等価】。したがって、
      (3)高齢で発現する有害遺伝子は子孫に伝わりやすい。

  • この基本学説では、生物個体内における老化のメカニズムとは独立です。つまり、詳細なメカニズムはどうあれ、老化は進化的に除くことはできないのだ、ということだけに言及しているわけです。これに対し、老化の(形式的)メカニズムに踏み込んで提唱された学説が少なくとも下記の二つあります。

      (1)拮抗的多面効果説 antagonistic pleiotropy theory
      (2)体細胞使い捨て説(ディスポ体躯説)disposable soma theory

  • 拮抗的多面効果説では、低齢においてエッセンシャルな働きをする形質が、高齢においては逆に有害作用を及ぼすという拮抗的な多面性をあらわす遺伝子群を仮定しています。

  • 体細胞使い捨て説では、個体維持と繁殖の間の資源分配を巡るトレードオフを仮定しています。つまり、体躯の維持・修復に費やすエネルギーと繁殖に費やすエネルギーの最適なバランスをとるような淘汰圧がかかる、と考えます。言い換えると、体躯の維持・修復をぎりぎりまで犠牲にしても繁殖率を高めるのが生物だ、ということです。体躯がボロボロになるまで繁殖せよ、という淘汰圧です。

  • 両学説ともトレードオフを仮定している点では同じです。拮抗的多面効果説では、トレードオフは低齢と高齢との間にあります。

    A. 人為淘汰による検証

  • キイロショウジョウバエの繁殖を高齢時に人為的に制限する実験が行われた結果、当然予想されるように、この人為淘汰で残った個体群は限界寿命が長くなりました。同時に、この老化遅延個体群は一般に低齢における繁殖率が低下してしまったのです。同様な結果は、長寿命個体だけを残すという人為淘汰実験によっても得られています。

    • 生存か繁殖かが秤にかけられている点で、この結果はどちらの学説をも支持するものです。

  • 一方、外的死亡要因を上下することによる進化実験も行われ、外的死亡要因が低い条件で飼育しつづけると、発育時間が遅延し、低齢時の繁殖率は低下し、寿命は延びる、という形質が進化することが分かりました。

    • この進化実験は、人為淘汰とは異なることに注意してください。人為淘汰では「形質」を人為的に(意図的に)選別しますが、進化実験ではそのようなことは行いません。進化実験では環境条件を人為的に制御します。今の場合では外的死亡率を上下する条件です。その結果、進化してきた「形質」は当初にそうなるように意図した形質ではありません。上述の人為淘汰では、例えば「長寿命」によって選抜し、それに付随して「低齢時における低繁殖率」という形質が進化したことになります。 特に重要だと思われます。

    B. 比較による検証

    • 低外的死亡率条件を課したキイロショウジョウバエの進化実験で得られた形質(発育遅滞・老化遅延・寿命延長)は、まさに野外の哺乳類の生活史形質を外的死亡率を基準に比較した場合とそっくりです:哺乳類の生命サイクルテンポで詳しく説明した通りです。

    • 鳥類は同サイズの哺乳類に比べ約2倍ほど長生きします(鳥類は飛翔能力をもつため生態学的死亡率が低い)。また、亀が長寿なことはよく知られています(甲羅が生態学的死亡率を低めます)。

    • 鳥類の中でも、低齢死亡率の低い種ほど老化が遅延します。

    • 社会性のアリの中でも、やはり、最も防御された巣の中に棲む種が最も長寿です。

    • また、同一種内でも、例えばオポッサムでは、哺乳類に捕食される機会のない島に生息する個体群は、哺乳類の餌食になる機会が高い大陸性の個体群よりも老化が遅延していることが報告されています。

  • こうした事実は、どちらの学説とも抵触しません。もちろん、基本学説だけで予想できるものであることはA老化は不利な遺伝的形質であるにおいて説明した通りです。

    C. 老化メカニズムとの符号性

  • 活性酸素障害の加齢に伴う蓄積が老化メカニズムの一大要素になっています:老化のすべて、とはいえないようですが。 体細胞使い捨て説によれば、この障害蓄積が大きい生物ほど短命であることが予測されますが、事実その通りです。

    • ただし、他の進化学説によっても同じ予測がなされうるものでありますので、この事実が体細胞使い捨て説を証明することにはなりません。詳しくは、⇒老化のメカニズムを巡って

  • また、当然予測できることではありますが、長寿命変異あるいは進化実験や人為淘汰による長寿命個体群では、環境ストレスに対する抵抗性も高まっています。キイロショウジョウバエ、線虫、あるいはマウスを用いた実験で示されていることです。
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