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(は)哺乳類の生命サイクルテンポに対する淘汰圧
本ページ内の図表(計四点)は、すべて下記論文からの無断借用です。
Read, AF & Harvey, PH (1989) J. Zool.,Lond. 219:329-353
Life history differences among the eutherian radiations
@二つのテンポの異質性
A老化の進化学説(究極要因)---基礎編
B生命サイクルテンポを決める生態学的死亡率
C老化の進化学説(究極要因)---洗練編
@二つのテンポの異質性:代謝テンポと生命サイクルテンポ
第一に、代謝テンポは四分の一乗則に綺麗に随うのに、生命サイクルテンポの場合には顕著な例外が存在します(→(い)哺乳類の限界寿命と生命サイクルテンポ}。この事実は、二つのテンポが別の法則に随っていることを明白に示しています。
第二に、(ろ)代謝テンポと生命サイクルテンポで考察したように、代謝リズムが可逆リズムであるのに対し、生命サイクルは不可逆リズムである、という点で異なっています。
- 代謝リズムの反復(回転の繰り返し)に支えられて生命サイクルは位相進行しますから、代謝リズムは生命に不可欠です。しかし、生命にとっては生命サイクルの位相進行こそ「いのち」ですから、代謝リズムはいわば「生命の道具」となっていることに注意して下さい。
A老化は進化的に不利な遺伝的形質である
まずはじめに、繁殖成功度(適応度)と老化について用語を定義しておきます。
A. 繁殖成功度(または適応度): 生命(個体)が次代に残す繁殖可能な子孫数の遺伝的期待値
B. 老化:加齢に伴う生存力や繁殖力の低下
- 老化ゼロ(生存力低下や繁殖力低下ゼロ)=不老不死を仮定してみれば直ちに明らかなように、老化は繁殖成功度を低下させる形質です。
- 加齢しても、子孫を生み出す能力が全く低下しない個体は、低下する個体に比べ(他の条件がすべて同じなら)、次代に残す繁殖可能な子孫数の遺伝的期待値が高いからです。
- 繁殖成功度は、種内の値(量)です:同じ種の内部で繁殖成功度のより高い個体の子孫が残っていく、というのが淘汰原理です。。以上のことから、一つの種の内部では、老化は軽減される方向に進化していくはずなのです。しかし現実としては不老不死の個体は(非性的単細胞生物を除いて)存在しません。どうしてでしょうか?
C. 老化によらずとも生物は必ず死ぬ
- 被食・飢餓・病気・環境異変・事故・・・等々、さまざまな要因によって、生物は必ず死んでしまいます。
- このため、繁殖齢に達した個体が仮に不老であるとしても、(他の条件がすべて同じであるとすれば{例えば、パートナーの探索能力の増大がないとすれば})繁殖機会の期待値は(成熟個体間で比較すると)低齢ほど高いことになります。年当たりの生存確率を50%(一年後に生きてる確率)とすれば、4年後に生存している確率は10%にも満たないのです。
- これを集団としてみると、親が若齢のときに産まれた子どもの方が多い、ということです。
- これを生物個体のとるべき繁殖戦略としてみると、できるだけ若いうちに繁殖すべきである、ということになります。
- 一歳を初産年齢とし、毎年100匹ずつ子供を産む仮想的な「不老」の生物を考えます。老化しないので、齢別の死亡率(または齢別の生存率)は加齢とともに変わりません。仮に、一年当たりの生存率(齢によらず一定)を50%とすると、一歳まで生存する確率は50%、二歳までは25%、三歳までは13%、4歳までは6%、5歳までは3%、、、10歳までは0.1%、50歳までは10兆分の1%となります。
- したがって一匹の新生雌(花子)は、一歳の時には50匹、二歳の時には25匹、三歳の時には13匹、10歳の時には0.1匹の新生児を産むことが期待できます。突然変異(ほとんどの場合、有害)は避けられませんが、その効果は変異の生ずる齢によって全く異なります。
- 花子が10歳の時に致死遺伝子を発現させても、すでに花子は50+25+・・・+0.1≒100匹ほどの子供を産んだ後であるのに対し、1歳で致死遺伝子が発現すれば50匹もの子供を産み残していますし、0歳で発現してしまえば一匹も子供を残せません。
- 以上より、↓の命題が導かれます。
D. 有害遺伝子は高齢で発現するものほど淘汰されにくい
- 有害遺伝子:生存力や繁殖力を低める遺伝子、と定義しておきます。したがって、環境依存的です。したがってまた、何が有害であるかは時間的に変動するものであることに注意して下さい。ただし、老化のように、普遍的に「有害」である形質もあるわけです。
- 果実食の霊長類の多くは、人間を含め、ビタミンC(アスコルビン酸)の合成能力を失っています。しかし、ビタミンCを豊富に摂取できるような環境に生息している動物たちにとって、この遺伝的欠損は繁殖成功度を下げる形質とはならないわけです。
- 繁殖成功度は、あくまでも同一種内の個体たちの進化的運命を決める尺度であることに注意して下さい。
E. 同じ強度の有害遺伝子なら、高齢に発現するほど繁殖成功度を低める効果が小さい。
- この命題は、{有害遺伝子は高齢で発現するものほど淘汰されにくい}を言い換えたものですから、内容は同じです。あるいは、高齢個体ほど淘汰圧は弱い、といってもよいでしょう。
- つまり、有害遺伝子は高齢に発現するものほど、集団の中に蓄積しやすい(進化的に除去しにくい)ということです。これで、老化が繁殖成功度を低下させる形質なのに、性的生物界に普遍的に残っている歴史的理由(進化的要因、究極要因)が明らかとなりました。
- 全く同じことなのですが、低齢個体の方に視点をおいて表現すると↓のようになります。
- 成熟齢以前に発現する有害遺伝子は子孫に伝えられない
- この命題には誇張があります。正確には、有害遺伝子のところを、生存力をゼロにする致死遺伝子や、繁殖力をゼロにする不稔遺伝子としなければなりません。致死遺伝子や不稔遺伝子が成熟前に発現する個体は、子孫を残すことを期待することはできません。明らかに、繁殖成功度はゼロとなります。
- 高齢になって有害遺伝子を発現させても、既にかなりの子孫数を残しています。したがって、その子孫には、{高齢になって有害遺伝子を発現させる}という形質まで伝えられていくことになります。
- しかし、成熟前に致死・不稔遺伝子を発現させるなら子孫が残らないことは自明のことです。つまり、{成熟前に致死・不稔遺伝子を発現させる}形質は遺伝しないのです。
- 致死・不稔遺伝子でなくとも、有害遺伝子が発現するなら、その発現が低齢であるほど不利です。なぜなら、高齢に発現する個体に比べ、残せる子孫数の期待値は明らかに低下するからです。
- 例えば、有害遺伝子が繁殖力を低下させるものとします。この有害遺伝子が低齢において発現するほど、この個体は低下した繁殖力の持続期間が長くなってしまいます。有害遺伝子が生存力を低下させるものであれば、低齢において発現するほど死ぬ機会が増えるわけです。したがって、繁殖機会の低下の持続期間も、この有害遺伝子が低齢において発現するほど長い、ということになります。このため、下記のように結論づけることができます。
- 有害遺伝子の発現を遅らすような淘汰圧がかかる
- この命題は、{有害遺伝子は高齢で発現するものほど淘汰されにくい}とか{同じ強度の有害遺伝子なら、高齢に発現するほど繁殖成功度を低める効果が小さい}と全く同等ですが、「老化」のメカニズム(近接要因)を探る為に表現を変えてみました。
- つまり、「不老」が生物にとっては進化的理想なのですが、有害遺伝子の発現が避けられないものとすれば、その発現を遅らすことによって、繁殖成功度の低下をできるだけ軽減するような淘汰圧がかかります。
- にもかかわらず、高齢で発現するような有害遺伝子は進化的に除去しにくいので、現存生物界に広く残ってしまうのです。
- 老化とは成熟後における有害遺伝子の発現である:これが、老化の進化的要因についての考察から支持される、老化のメカニズムについての一仮説です。いわゆる、「老化の擦り切れ」仮説に沿った仮説です。
- 有害遺伝子は生得的(先天的、遺伝的)なものもありますし、「健常」遺伝子が後天的に変異した結果生成される場合もあります。
- 「老化のプログラム」仮説は、発生プログラムと同等なものとして老化を捉えている点で、老化の進化論とは相容れません。
- 老化は遺伝的形質です。すべての哺乳類が老化します。老化を完璧に抑制するメカニズムを遺伝的に備えていないために、哺乳類は老化するのです。例えば、老化抑制遺伝子が生涯健常であるとすれば「不老」となるでしょう。
- 代謝活動やDNA複製に伴って、DNAも傷害をうけます。このDNA傷害がある限界を超えれば、その遺伝子は「有害遺伝子」へと変異することになります。したがって、DNA傷害の修復能力が劣化すれば、生物の生存力や繁殖力は落ちることになります。言い換えると、修復能力の劣化を抑制する過程(の一つ)が老化抑制である、と考えることができます。
- 生命活動に伴って損傷を受けるのはDNAだけではありません。細胞膜や蛋白質など、他の細胞成分も損傷を受けます。これを、繁殖最適齢期におけるように「若々しい」状態に保つ為には、DNA傷害の修復だけでは間に合いません。言い換えると、老化はDNA傷害の蓄積だけを伴ったものではなさそうだ、ということです。そこで、
- 老化とは成熟後における(細胞機能)傷害修復能力の低下である、といってもよいかもしれません。
- 老化抑制は、したがって、この傷害修復能力の遅延や向上によって達成されるでしょう。
- で、遅延や向上が(老化の進化的要因のところで考察したように)完璧ではありえない為に、老化は性的生物界に普遍的なのです。しかしまた、この遅延や向上が、一つの種内での進化的方向である、ということも推論できるでしょう。有害遺伝子についてみるなら、その発現の遅延や、有害遺伝子への変異抑制(修復能力)の向上が、繁殖成功度を上げる道なのです。
⇒老化のメカニズムを巡って
F. 生態学的死亡率の高い個体群ほど、早熟を強める淘汰圧を受ける
- 前項までは、生態学的死亡率がゼロではないという基本事実から、老化の進化的要因を考察しました。
- 死亡率がゼロではない為、不老集団であっても、低齢において繁殖するような淘汰圧がかかります。また、有害遺伝子の発現(或いは生物損傷)が避けられないものであるとすれば、それを遅延したり修復したりするような淘汰圧もかかります。
- 生態学的死亡率が高ければ高いほど、早めに繁殖を済ませてしまおう、という淘汰圧がかかることは容易に推論できるでしょう。一年間の生存率(生存確率)がゼロであるなら、誕生して一年以内に繁殖を済ませなくては子孫を残すことを期待できないのです。
- しかも、多産であることが予想されます。生存確率を1%とすれば、100匹の子孫がいれば1匹は生き残ることを期待できますが、10匹しか生まないとすれば10匹とも死んでしまうことが期待されるからです。
- このことが、異説「ゾウの時間、ネズミの時間」やその他でさんざん触れたような「何故、霊長類やコウモリは例外的に限界寿命が長いのか」の一つの解答を与えることになります。次節では、ここで述べた理論がデータによって裏付けられていることを示しています。
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B哺乳類の生命サイクルテンポ
サイズと生命サイクルのテンポ
- 表2には、哺乳類各目の生活史がその目のからだの平均サイズと強く関係していることが示されています。
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