(ろ)代謝テンポと生命サイクルテンポ

@生命活動の四つの時間領域

→生物リズムのスペクトル図

  • 代謝テンポ 1秒〜5分。哺乳類の場合、サイズの四分の一乗にしたがって遅くなる(サイズが16倍で、テンポは2倍遅くなる)。蛋白質の重層的作用ネットワークのパターン変化は、蛋白質の質的変化を通じて行われ、蛋白質量の変化が無視しうるような「短い」時間領域。

    • 迅速領域 1ピコ秒〜1秒。個々の反応素子(生体分子)レベルの速い現象。生物の種類に依らないような、反応素子固有の特性値と考えるべきである。神経インパルスの発火速度とか、酵素一分子の反応速度(分子活性)など。

    • 迅速領域の反応の時空的な統合が、代謝・生理(感覚と運動)である。

  • 後成テンポ 5分〜3時間。遺伝子発現の調節(蛋白質の量的変化)を通じて蛋白質の重層的作用ネットワークのパターン変化が起きる「長い」時間領域。

  • 細胞周期テンポ 15分〜30時間。細胞が複製する時間領域。以上のすべての時間領域のテンポは、環境依存的である。

    • 細胞周期:分裂によって誕生した細胞が、成長して再び細胞分裂するまでの過程

      • 細胞分裂によって一般的には新たな細胞が二つ生まれるが、4、8、16個の細胞を生むような細胞もある

    • 非性的単細胞生物の場合:細胞=生命(個体)。細胞は細胞周期(cell cycle)の一位相としてのみ存在し、一瞬前の位相によって生まれ、一瞬後の位相を生む。このような単細胞生物の場合、細胞周期=生命サイクルであるから、三つの時間領域のみもつことになる。

      • 性的な多細胞生物や、ゾウリムシのような性的単細胞生物の場合、細胞=生命(個体)ではなく、細胞集団=生命(個体)である。このため、細胞周期テンポ領域の事象は、生命サイクルにより統合されている。

    • 細胞周期は周期過程(位相進行)(リズム)であるから、位相進行の果てに元に復帰する。しかし、この復帰は、「完全」復帰ではないことに注意しよう。分裂直後の位相を0とおく。細胞周期が回転して(位相進行して)360゜まわる(一周する)と、細胞分裂がおこって、細胞の位相は0に戻る。しかし、「復帰」したのは細胞周期の位相だけであり、細胞自身は元の細胞ではなく、新たに誕生した二つの細胞に生まれ変わっている。この意味で、細胞周期は不可逆な過程である。

      • この点、代謝テンポ領域のリズム、例えば心拍や呼吸とは本質的に異なっている。呼吸や心拍などのリズムの場合には、位相復帰すると、完全にもとの状態に戻るからである。もちろん、こうしたリズムも、加齢に伴って不可逆的に変化するが、この変化は位相復帰に内在する変化ではないことに注意しよう。

  • 生命サイクルテンポ いわゆる世代時間(ヒトの場合、約23年)。生命サイクルテンポ=(世代時間の逆数)。卵(接合子)から卵(接合子)へ。性的生物が卵として誕生し、発生・成熟して、再び二つの卵を誕生させる過程の速度。

    • 生命は生命サイクルの一位相としてのみ存在し、一瞬前の位相によって生まれ、一瞬後の位相を生む。

      • この位相進行は、細胞周期と同じように、遺伝的にプログラムされた過程である。

      • 生命の最高次の時空秩序(動的秩序)は生命サイクルである。

    • 受精卵サイクル(ゾウリムシなどだと接合体サイクル)は、非性的単細胞生物の細胞周期に対比される。受精卵サイクルの一巡は、位相復帰としては完全であるが、位相復帰した受精卵は、元の受精卵とは異なり、新たに創造された生命となっており、この意味で細胞周期の場合と同じように「不可逆」的過程となっている。

      • ゾウリムシの場合、性的成熟、老化、老衰死など、生命サイクル事象のタイミングが、細胞周期の回転数によって決められている。細胞周期テンポは環境依存性であるから、生命サイクルテンポも環境に依存する。つまり、これらは、力学的時間経過とは独立である。