哺乳類の限界寿命
(い)哺乳類の限界寿命と生命サイクルテンポ

テンポ概観

@力学的時間から見た哺乳類の限界寿命

  • 哺乳類の限界寿命LT(年)≒ 7.5 × M0.29    ただし、Mは基準体重(1kg)に対する比率です。体重が60kgの種であればM=60となります。以下同様です。

      • 多くの書籍ではMを体重(または質量またはサイズ)と簡易的に表現していますが、これはあくまで便宜的な表現で、正確には誤りです。たとえば、体重の2乗とか平方根とかが全く意味を持たない量であることは容易に察しがつくでしょう。本ページでも便宜的に「体重の四分の一乗に比例して」というような表現を用いることがあるかと思いますが、より正確に表現すると「相対体重(または体重比)の四分の一乗に比例して」ということになります。

    • W.R.Stahl, Science 137:205-212 (1967)

    • 上式は、哺乳類各種の成体重(平均値)の常用対数に対し、その哺乳類の最長寿命記録の常用対数をプロットし、回帰直線を求めた(最小二乗法によって直線を求めた)ものです。

      • Y = αXβ ⇔ log Y = log α + βlog X

      • αをアロメトリ係数、βをアロメトリ指数といいます。

      • log M に対して log LT をプロットし、最小二乗法により近似直線を求めることによって、↑の関係式が得られます。今の場合、種どうしをを比較しているので、上式で示される関係を種間アロメトリといいます。

    • 上式による理論値 マウス25g 2.8年、ゾウ3.8トン 79年は、ほぼ実測値を表しています。

      • 因みに、本川達雄「ゾウの時間ネズミの時間」が依拠した Lindstedt & Calder (1981) によるアロメトリは、
        LT()≒ 6.1 × 106 ×M0.20
        ですが、これによると、マウス5.5年、ゾウ95年となります。

  • コウモリと霊長類はこの経験則の顕著な例外であり、どちらも、そのサイズの割には限界寿命が顕著に長いことに注意して下さい。。例えば、ヒト60kgの限界寿命は25年(Stahl)、26年(Lindstedt & Calder)と計算されるのです。本川達雄「ゾウの時間 ネズミの時間」が、この点について全く触れてないのはとても不思議なことです。

    アロメトリ指数が四分の一に近いので、この関係を四分の一乗則と呼びます。ただし、哺乳類の限界寿命の場合には、顕著な例外を含む四分の一乗則であることをお忘れなく。

    • 四分の一乗則にしたがう為、体重やサイズが16倍になると限界寿命は約2倍に延びる、といえます。くどいようですが、コウモリと霊長類は顕著な例外です。

  • この関係が種間アロメトリであることにも注意して下さい。つまり、種内の各個体を比較したときに、↑と同じ関係にあるということは一切言えないのです:同一種内(例えば、人間)では体重が大きいほど限界寿命が長い、ということにはならないのです。

    A力学的時間から見た哺乳類の代謝テンポ

  • 代謝テンポ: 代謝的時間領域において生ずる過程(いわゆる狭義の生理現象)つまり呼吸、筋肉の収縮、心臓の拍動、g体重あたりの代謝速度(g体重あたりの仕事率=固有代謝率 specific metabolic rate=固有仕事率 specific power)を哺乳類の種ごとに比較すると、種個体(成体)の平均的体重(より正確にはサイズまたは質量)の約4分の1乗に比例して周期が延びます(代謝テンポが遅くなります):つまり、サイズが16倍になるごとに代謝テンポは2倍遅く(半分に)なります。これを、テンポの逆数で表すと下記の通りです:サイズが16倍になる毎に(呼吸や心拍のような周期的過程であれば)周期は二倍に延びます。

  • 注意:本ページでは特に断らない限り、代謝テンポとは「安静時の代謝テンポ」のことを指しています。

    • 呼吸周期 BT (h/cycle) ≒ 3.3 × 10-4 ×M0.28 ≒ 1.22M0.28(s/cycle)
    • 心拍周期 HT (h/cycle) ≒ 8.3 × 10-5 ×M0.27 ≒ 0.30M0.27(s/cycle)
    • g体重当たりの酸素消費速度(代謝の比活性)の逆数 MT (g・h/μL) ≒ 1.6 × 10-3 ×M0.26

      なお、テンポそのものを変量としてアロメトリを表現すると、例えば、固有仕事率(固有代謝率)について次式が与えられています。

      *(kcal/day/kg) ≒ 70 M-0.25

      1 kcal/day = 0.0484 W (ワット=J/s)ですから、上式をW表示にすると、


    *(W/kg) ≒ 3.4 M-0.25 となります。

        また、酸素消費 1 ml = エネルギー消費 20.1 J ですので (1 J = 0.0498 ml O2) 酸素消費に換算すると、↓のようになります。
        *(ml O2/s/kg) ≒ 0.17 M-0.25 となります。
        この逆数をとり、上述のMTと同じ単位を用いると P*(g・h/μL O2) ≒ 2.1 × 10-30.25になり、上述のMTと係数や指数の点で若干異なりますが、これは著者によりアロメトリ式に微妙な違いがあるためです:生物学的内容は同じです。

  • 代謝テンポのアロメトリは限界寿命のアロメトリとは異なりコウモリや霊長類も例外なく当てはまる、という点に注意して下さい。

    本図はシュミット=ニールセン 動物の生理学(岩波書店)からの無断借用です。
    本図(↑)はシュミット=ニールセン 動物の生理学(岩波書店、原著1970年)からの無断借用です。 P=70M^(-0.25), 3.4M^_0.25)

    上表が示すように、サイズが1万倍になると固有仕事率は10倍低くなり(代謝テンポは10倍遅くなり)、仕事率は千倍になります。つまり、消費エネルギーとしては10倍だけ「得」していることになります(コストが10分の1ですみます)。0.1 kg の哺乳類を 1000 匹(つまり 100 kg)育てるのに必要な餌で、その1万倍 1000 kg の哺乳類を一頭育てることができる、ということになるのです。

    • 言い換えると、1000 kg の哺乳類一頭は 0.1 kg の哺乳類 1000 匹 (100 kg) 分のエネルギーしか消費しません。全く同じように、16 kg の哺乳類一匹は 1 kg の哺乳類 8 匹 (8 kg) 分のエネルギーしか消費しないのです。

    B代謝テンポから見た代謝テンポ

  • 異なる代謝活動(例えば、呼吸と心拍)相互のテンポの比率は、どの哺乳類も似たような値を持ちます。

      BTtoHT


      哺乳類では、種にかかわらず、呼吸周期は心拍周期の約4倍です。つまり、一呼吸する間に心臓は四度ほど打つのです。

      BTtoMT


      哺乳類の場合、一呼吸する間に体重1g(または60kg)当たり0.2μL(または12mL)の酸素を消費することになります。

  • 言い換えると、運動、循環、感覚、、、といった活動のテンポ、或いは諸器官相互のはたらきのバランスは、哺乳類2億年の歴史を通じて一定に保たれてきた、と言えます。つまり、哺乳類には、体重(サイズ)に応じた(四分の一乗則に随う)代謝テンポ(生理テンポ、生活テンポ)があるのですが、その関係を崩すことはできないのです。代謝テンポの哺乳類的制約(または特性)と言えるでしょう。

    • 一方、鳥類については ht ≒ 0.39M0.23(s/cycle) 、bt ≒ 3.49M0.31(s/cycle) が与えられていますので、bt/ht≒ 8.95M0.08 と、なります。一呼吸あたり約9回ほどの心拍が行われているようです。哺乳類に比べゆっくりと呼吸しているとも言えますし、哺乳類に比べ忙しなく心拍しているとも言えるでしょう。但し、哺乳類は上述のように、HT ≒ 0.30M0.27(s/cycle), BT ≒ 1.22M0.28(s/cycle)ですから、呼吸も心拍も鳥の方がゆっくりしているのですが、呼吸(BT)の方が心拍(Ht)より緩慢度が高い、ということになります:鳥類の心拍テンポは哺乳類に比べ約30%遅くなっているに過ぎませんが、呼吸テンポの方は3倍近くも遅くなっているのです。

    • 鳥類の固有代謝率についてもみておきましょう。スズメ目は、それ以外の鳥よりも有意に高い固有代謝率を持っています。

        スズメ目   P*(W/kg) ≒ 6.2 M-0.28
        スズメ目以外 P*(W/kg) ≒ 3.8 M-0.27
        鳥全体    P*(W/kg) ≒ 4.2 M-0.33

      上述のように、哺乳類の固有代謝率はP*(W/kg) ≒ 3.4 M-0.25です。スズメ目は哺乳類の約2倍の固有代謝率(代謝テンポ)をもつようですが、スズメ目以外の鳥ですと哺乳類とほぼ同じ代謝テンポですね。以上のことから、鳥はゆっくりと呼吸する割には、一呼吸あたりのエネルギー消費は哺乳類に比べ大きいことがわかります。また、代謝テンポからみた呼吸テンポを両者で比較すれば、鳥の方が3倍近くも遅い、ということでもあります。

      • なお、鳥の限界寿命は同サイズの哺乳類に比べると約2倍です。

    C代謝テンポから見た限界寿命

    LTtoBT


    哺乳類は限界寿命の間に、約2億回の呼吸を行うことが分かります。ただし、コウモリや霊長類はサイズの割に限界寿命が顕著に長いのですから、限界寿命中における呼吸回転数もずっと多くなります。

    • ヒトの限界寿命を110年とし、平均して毎分15回の呼吸を行うとしますと、
      110 × (365 × 24 × 60) × 15 ≒ 8 × 108 回転数/(限界寿命)となります。

    LTtoHT


    同じようにして、哺乳類は限界寿命の間に約8億回、心拍を打ちます。やはり、コウモリや霊長類はこれよりずっと多くの心拍数を打つわけです。

  • 哺乳類には限界寿命があります。その間に行える生命活動の総量に自ずと限界があることは自明のことです。しかし、大体、2億回転の呼吸、8億回転の心拍、というのが哺乳類的な「限界」であることは、自明のことではありませんし、むしろ、その理由は全くの謎であると言っておいた方が良いでしょう。

    • 「限界」と括弧付きで示したのは、代謝テンポ間の比率の「固定性」(つまり、哺乳類的制約)に比べると、ずっと緩いからです。後ほど議論するように、この「大まかな目安としての限界」を、哺乳類的な標準であるとみなすことも難しいように思われます。

    • 言い換えると、約2億年前に誕生した原始哺乳類の限界寿命が、約2億回の呼吸・約8億回の心拍であったということを窺わせるような証拠は一つもないのです。

    D代謝テンポを巡る諸問題


    tempo_power

    生体反応素子の回転数

    迅速テンポ領域

    Da. 代謝余裕

    上述の代謝テンポや固有代謝率は安静時のものでした。これと、その動物が発揮できる「最高」の固有代謝率とは異なります。が、哺乳類では一般に、安静時固有代謝率の約10倍まで固有代謝率を上げることができます。この比率のことを代謝余裕と呼びます。

    最高固有代謝率  Vmax(O2)*=1.94M-0.21 (ml O2/s/kg)=39M-0.25 (W/kg)

    安静時固有代謝率 Vstd(O2)*=0.188M-0.25 (ml O2/s/kg)=3.8M-0.25 (W/kg)

    哺乳類の代謝余裕:Vmax(O2)*/Vstd(O2)*≒10

    • ただし、この「標準的」代謝余裕に対し、ヒトやウマは2倍、コウモリは2.5〜3倍、イヌ科は3倍の代謝余裕をもちます。(つまり、代謝余裕はそれぞれ 20, 25 〜 30, 30 です)。

    Db. 耐久時間

    外部からの栄養補給なしに生命をどれだけの時間維持できるのか、つまり「耐久時間」は体内に貯蔵する脂肪が消費し尽くされるまでの期間です。脂肪率はサイズに関わらず殆ど同じなので、耐久時間は代謝率がが高いほど短くなります。すなわち、

    耐久時間=備蓄脂肪量/代謝率∝M/M0.75=M0.25

    つまり、耐久時間は代謝テンポとまったく同じように四分の一乗則にしたがって延びます。言い換えると、小型の動物ほど年がら年中食べていないと餓死する危険にある、ということです。また、大型の動物は備蓄脂肪だけで長期間生存できます。クマは、代謝率や体温を下げることなく冬眠できますし、クジラは季節ごとにその採餌地で餌を補給したあと、ほとんど餌をとることなく外洋の旅を長いこと続けることができます。

    Dc. 筋肉の最大パワー

    ここでのパワー(仕事率)は、筋肉が「外に対して行う」仕事の仕事率のことです。これは、筋肉のもう一つの仕事率、つまり代謝率と密接に関係していますが、代謝率そのものではありません。代謝率の方は筋肉が消費するエネルギーの消費速度(変換速度)を表していますが、その消費エネルギーの約50%が「外に対して行われる仕事」に変換するからです:エネルギー効率は50%ということです。生物のエネルギー変換で述べたように、生体内ではATP生産効率が約50%、ATP消費効率が約50%なので、生物としての(全体の)エネルギー効率は約25%なのです。

    さて、筋肉としてのエネルギー効率は約50%ですから、筋肉が「外に対して行う」仕事の仕事率は、筋肉の代謝率の約半分ということになります。代謝率は四分の三乗則にしたがって大きくなりますから、筋肉が「外に対して行う」仕事の仕事率も同様に四分の三乗則にしたがって大きくなります。全く同じように、同じ大きさの筋肉(単位体積あたりの筋肉)が「外に対して行う」仕事の仕事率、つまり固有仕事率はサイズが大きくなるにつれ四分の一乗則にしたがって小さくなります。テンポの側面から見れば、サイズが大きくなるにつれ四分の一乗則にしたがって遅くなる、ということです。

    以上を「仕事量」(単位体積の筋肉が外に対して行う仕事の総量)としてとらえると、サイズによらずほぼ一定という事実が導かれます。なります。というのは、仕事量(J)=仕事率(J/s)×収縮時間(s)ですが、サイズが大きくなるにつれ「仕事率」は四分の一乗則に応じて小さくなるのに対して(一回の収縮に要する)「収縮時間」の方は逆に四分の一乗則に応じて大きく(遅く)なるからです。

    「仕事量」のこの不変性は、メカニズム的には筋肉要素の哺乳類的普遍性に由来しています。

    Dd. 概日リズム

    深部体温が概日リズム(⇒生物リズム学概論 科目序論) を示すことはよく知られています。全く安静にしていても(実際に活動するかしないかに関わらず)活動期(α期)は休息期(ρ期)よりも高い体温を示します(ヒトで最も注意力が鈍る「危険な」状態は明け方の最低体温のときです)。

    全く同じように、固有代謝率もα期(昼行性の動物であれば昼、夜行性の動物であれば夜)の方がρ期よりも高くなるような概日リズムを示します。アショフたちが鳥類で調べたところ、スズメ目でもそれ以外でもα期の固有代謝率はρ期より25%ほど高いようです。哺乳類ではどれほど高いのでしょうか?

    面白いことに熱コンダクタンスもα期に高まるような概日リズムを示します。

    • 熱伝導度(熱の通しやすさ)のことで、断熱度の逆数になります。

    哺乳類もスズメ目の鳥もα期の熱コンダクタンスはρ期の約1.5倍、スズメ目以外の鳥では約2倍になります。活発な活動に伴って発生する熱を逃がしやすくしている、ということなのでしょう。

    なお、固有熱コンダクタンス(単位体重あたりの熱コンダクタンス)C*はサイズの約0.5乗に比例して減少します。また、単位体重あたりの体表面積S*はサイズの三分の一乗に比例して減少します(S∝L、M∝Lより、S*=S/M∝L−1=M−0.33)。この二つの効果はともに、大型の動物の方が熱損失を防ぐ上で有利であることを示しています。

    • 両者の比は体表面積あたりの熱コンダクタンスを表しますが、それは体サイズの0.17乗(-0.5+0.33)に比例して減少することになります。体の断熱度は体サイズの0.17乗に比例して上昇するわけです。

    • 一方、熱産生と熱損失が釣り合って体温は一定に保たれます。前者は固有代謝率(消費エネルギーの約75%は熱になります)に比例しますから、体サイズの四分の一乗に比例して減少します: H*∝M-0.25。固有熱コンダクタンスC*の方は、これよりも速く(サイズの約0.5乗に比例して)減少するのでした。

      • 固有熱損失はC*凾s=C*(Tin−Tout)∝M-0.5ですが、これが固有熱産生H*∝M-0.25と釣り合うよう体温は調節されています。このとき、凾s=H*/C*∝M-0.25/M-0.5=M0.25となります。

      • つまり、この温度差凾sは体サイズの四分の一乗に比例して拡大していくことになります。言い換えると、大型の動物ほど外温の大きな低下に対して内温を一定に保つ機能、つまり耐寒性が強いということです。