男権主義的セクシュアリティ--ポルノ・買売春擁護論批判

ポルノ・買春問題への誘い

 いま、ポルノが日本中に蔓延している。ポルノないしポルノまがいの写真や映像が、電車のなかは職場ばかりか、家庭にまで入りこんできている。ポルノ雑誌は、コンビニや一般書店に行けば小学生でも手に入るし、アダルト・ビデオも私たちのまわりにごろごろしている。外国を少しでも旅してみた人は、帰国後、日本社会の異常さをあらためて思い知るにちがいない。
 また、代の男たちは買春しほうだいである。ある調査では、実に半数に達する男性に、買春経験があるという。繁華街を歩けば客引きが男性につきまとい、ネオンサインは女性売買をそそのかしている。それどころか、買春を直接にあおる「ピンクチラシ」は家庭にまで宅配され、今や女子中学生・高校生までが買売春システムに大規模にまきこまれている。そして日本は、アジア諸国への買春者の最大の送り出し国である。
 70~80年代、女性たちは、ポルノ・買売春に反対する地道な運動をくりひろげてきたが、現在、もうどうにも手がつけられないと思わせるほどに、ポルノ・買春がはびこってしまっている。誰しもこれをおかしいと思うだろう。でも悪いことに、ポルノや買春に対して寛容であることが、あたかも進歩的であるかのように錯覚されてすらいる。各種メディアでも、ポルノを擁護し買売春さえ悪くないという論調ばかりが、幅をきかせている。
 そんな状況に対して、実際には多くの女性たちは――男性だって――強い違和感を覚えているにちがいない。けれども、それを批判する言説はとても弱いし(あるいは今日のメディア状況下で弱いものにさせられている)、また批判する側が、ポルノ・買売春の合理化論に対してなかなか有効に反論できないでいる。
 私は、どんな論理でポルノ・買春の蔓延状況を批判できるか を、この本で考えてみた。つまり本書は、ポルノや買売春に関わる諸問題を一般的に紹介する本であるよりは、ポルノや買売春 を、そしてそれを擁護する学者や理論家(そのなかには「フェミニスト」さえ含まれる)を、批判するための本である。現状をうれえる人たちに、現状を批判しつづける意思と論理をもってもらうための本である。本書がひとつのきっかけとなって、ポルノ・買売春に対する批判的な流れが強まることを、私は心から期待している。

目 次

ポルノ・買売春問題への誘い(上掲)
第1章 男権制と男権主義的セクシュアリティ
 1 男権主義的セクシュアリティとは何か
 2 男権主義的セクシュアリティの構造
 3 男権主義的セクシュアリティをつくるもの
第2章 ポルノ・買春と男権主義的セクシュアリティ
 1 ポルノ・買春・性暴力
 2 ポルノと男権主義的セクシュアリティ
 3 買春と男権主義的セクシュアリティ
第3章 ポルノ擁護論の批判
 1 ポルノ製作現場での性暴力〔バクシーシ山下および宮台真司批判〕
 2 ポルノが男の欲望を操作する〔小浜逸郎批判〕
 3 ポルノは性犯罪を学習させる〔福島 章批判〕
 4 ポルノはそれ自体が「体制」である〔リベラリスト・リバタリアン批判〕
 5 ポルノはセックスを貧しくする〔瀬土山角批判〕
 6 ポルノは絶えざる欲求不満を組織する〔上野千鶴子批判〕
第4章 ポルノ規制反対論の批判〔ストロッセン批判〕
 1 ポルノは言論・表現として保護されない
 2 ポルノ規制は検閲ではない
 3 ポルノ規制は平等の実現に資する
 4 ポルノ規制は批判力獲得のために不可欠
 5 ポルノの害は対抗表現や教育では防げない
 付論 ポルノ接触と性暴力との因果関係について
第5章 買春擁護論の批判
 1 買春の被害は女性全体に及ぶ〔橋爪大三郎・宮台真司批判〕
 2 売春組織は社会的抑圧を利用する〔鈴木水南子批判〕
 3 不適応者をつくったポルノの責任〔宮台真司批判〕
第6章 売春擁護論・合法化論の批判
 1 性的侵害を模したサービスは売買されてはならない〔セックス・ワーク論批判〕 
 2 性的自己決定権さえその行使は無制約ではない〔セックス・ワーク論批判〕
 3 <性=人格>原則こそ烙印をなくす〔上野千鶴子、セックス・ワーク論批判〕
 4 売春合法化は強制売春を大規模化する〔上野千鶴子、セックス・ワーク論批判〕

 結びに代えて――男権主義的セクシュアリティの変革可能性
 引用・言及論文一覧