JICA青年海外協力隊短期派遣制度に基づく海外実習 I

フィリピン酪農開発強化プロジェクトへの協力隊チーム派遣に
同行した引率教員としての報告

畜産科学科 教授
三好 俊三

はじめに

 全国で初めての試みとして、学生を協力隊員として海外に短期(3週間)といえど、派遣したことは、本学が長年にわたり、JICAとの係わりと、国際協力に資する人材育成に取り組んで来た成果の一つであると思われます。それ故、JICA−JOCVにすべてを委ねず、大学としての支援体制として、引率教員を同行させ、今後の海外実習の基礎を構築する目的があり、大学教育センター教育・学生支援部長の私が石橋副学長から指名されたものと理解していました。しかし、初めてのことでもあり、JICA側の考え(ボランティアとして扱う)と、私の考え(大学教育の一貫・海外実習として捕らえていた)とに、見解の相違があり、私の不用意な発言が大きな波紋となり、JICA−JOCVを始め、関係者に大変な御迷惑をかけてしまったことをお詫びせねばなりません。また、大学およびJICAの方々がすぐさま対応され、解決してくださったことに、お礼を申し上げねばなりません。

色合いの異なるハイビスカス

JICA青年海外協力隊短期派遣の概要について

 今回の派遣は、フィリピン政府が計画し、実行しているプロジェクトに青年海外協力隊員として学生を派遣したことになります。そのプロジェクトは、国家酪農局(NDA)による「フィリピン酪農開発強化プロジェクト」であり、JICA−JOCVマニラ事務所が中心となり、10名の学生協力隊員をチームとして派遣したものです。よって、プロジェクトを実際に実行しているのは、タランバにあるNDA事務所とロスバニョスにある酪農研究研修所(DTRI)が中心的に活動しており、研修と普及分野を加え、5つの分野で編制されていました。学生隊員は、育種・繁殖、濃厚飼料、粗飼料及び乳質の分野に2名ずつ配属され活動したことになります。また、学生隊員は、JICA−JOCVマニラ事務所に帰属し、JICAの調整員の方とフィリピンに1人おられるJOCVのシニア隊員が協力隊員を統括し、現地のCPや技術者と共に活動するシステムがとられていました。シニア隊員の事務所(JOCV事務所)もDTRIに隣接しており、連絡を密に取れる体制にありました。このようなシステムの中での学生隊員の活動であることから、あくまで国のプロジェクトを支援あるいは援助する立場であり、ある意味でのボランティア活動であると言えます。このことは、帰国後、改めて私自身が理解できたことでもあります。

住宅や公園でよく見かけた白い花を付けている木
 

JICA青年海外協力隊短期派遣を終えて

 今回のプログラムにおいてご迷惑をおかけした一つの問題は、学生と教員の立場が明確にされていなかったことにあったと思います。JICA東京本部での事前研修時から、学生は協力隊員であり、JICA−JOCVマニラ事務所および引場シニアの所属となり、引率教員は、大学から学生隊員を支援するオブザーバーとして位置付けられることを私が認識していなかったことが原因であろうと思われます。また、特に、シニア隊員が1名しかいないフィリピンでは、引場シニアの補助を行うことも、オブザーバーとしての引率教員の仕事であるように思われます。さらに、学生隊員の支援、特に、学業途中であり、専門も異なる学生隊員へのアドバイス等は、重要な役目となり、全期間を通して滞在する必要があると思われました。
 全期間、滞在して、今回のプロジェクトに対する協力であれば、畜産全般を理解しておく必要があると感じました。他の分野においても、それぞれの分野の原点についての協力であり、あまりにも、細分化した知識だけでは、オブザーバーとしての引率教員となれないと思います。幸いにも私は、今回のプロジェクトの基礎となる家畜育種(フィリピンの乳牛を作る)を知っていたことが非常な助けとなったことも事実です。すなわち、学生隊員は、一度も牛の改良、家畜育種の考えを聞いたこともなく、苦労したようです。また、応募が遅れ、選考が遅れたことに加え、現地での活動の大まかな内容が判明したのが、出発の1週間前であり、家畜育種学と家畜生産衛生学のレクチャーを各1度しか出来なかったため、各班毎に予備知識を教授することが不可能であったことも今後の検討課題と思います。

一般的な酪農家の牛舎
この毛色の乳牛が多い(小型)

 また、語学(英語)については、当初、能力を問わないとされていました。それは現地で、正規の協力隊員が各班に1名付く予定であるためと聞いていましたが、学生隊員が活動する地区には、1ヵ月前に赴任した女子隊員のみで、学生隊員とほとんど変わらない(少し英語とタガログ語が出来る)ほどで学生隊員と同じ活動をすることになりました。実際、任地では、現地のCPや技術者と英語でコミュニケーションをとらねばならず、中間発表、最終発表も英語で行うこととなり、学生隊員には、かなり動揺があったように思われます。このように、学生の選考が、終わった後で条件が種々変更されたにも係わらず、学生隊員は、それを乗り越え、それぞれの能力以上の活動がなされたように思われます。本当にすばらしい学生を選考したと思っています。
 さらに、条件が変更されたことで注意を要することの一つに学生隊員の任地での滞在場所のことがあります。事前打ち合わせにおいて、学生隊員の安全面からまた、生活に少し慣れることが必要であろうことからホームステイは、当初、半分ぐらいと聞かされていました。大学としても、同様の意見と隊員と教員の話し合いが持てるようにホームステイを少なくするように要望しましたが、任地に入って2日目からホームステイとなり、私としては、各班のホームステイ先を訪れて、家族の方々のお話を聞き、隊員の様子を見るまでは、非常に不安でした。特に、女性隊員の宿泊先が一番心配でしたが、再度、訪れた時には、きちんと整備されており、安全にホームステイが出来るだけの準備がなされていたことに後で気付いたしだいです。しかしながら、引率教員としては、それぞれの宿泊先を確認し、学生隊員の不安がないことを早めに確かめる必要があると思います。

ホームステイ先の子供達
ホームステイ先で学生隊員と

 学生隊員の活動は、農家に出かけることが多くなります。また、ホームステイ先では、英語での会話が難しいことが多くあったように聞いています。また、英語が理解できたとしても本音のことが解らなかったとも聞いています。現地での中間発表や最終発表等での細かいことは、私についている通訳のエルモさんや引場シニアがタガルゴ語で聞いていただき議論が出来たこともありました。英語が出来ない私のため、通訳を無理にお願いし、車も大学として用意してくれたことは、今回の活動に非常に有用でした。通訳のエルモさんは、通訳兼ドライバー兼ガイドをしてくれました。政府機関を訪問した時には、英語での説明を彼が私に所々を通訳してくれ、それを私がサマライズして学生隊員に伝える方法をとりました。また、現地で活動中も学生隊員からの質問をタガルゴ語で通訳をしていただき理解を深めた場面も数多くありました。車を借上げていたことも良い結果をもたらせたと思っています。学生隊員や他の協力隊員の移動等は、JOCVの手配となるところですが、都合のつかない時や余裕のある時には、双方でうまく調整して活動が出来たと思っています。また、休みの日や買い物に出かける場合の移動とガイドを快く引き受けてくれました。これらのことからも通訳と共に引率教員が期間中、滞在していたことは、意味があったと思っています。車のことは別としても英語と現地語が出来る通訳を付けることが必要であろうと思います(英語が出来ない私だから言うのではないと思って下さい)。ともあれ、語学にしても、専門にしても、その準備期間が短かったことが、学生隊員に非常な不安を抱かせたことと思いますが、逆に、やる気を起こさせたことも確かであろうと思います。そして、相乗作用として期待以上の成果が得られたと思うしだいです。

通訳のエルモさん(左)と
ドライバー兼任のエルモさん

 今後、同様なプログラムが組まれるならば、早い時期から人選を行い、多くの予備知識を持って、派遣出来るように立案したいものです。これは、引率教員に対しても言えることであろうと思います。また、立案にあたり、JICA帯広を通さず、せっかくJICAと包括協定を締結しているのであれば、東京の本部(JICAとJOCV)を通し、海外の事務所とプログラム作成した方が、スムーズに行くように思われました。その理由は、JICA帯広での話は、まず本部が何と言うかを聞いてから解答するという場面が多かったように思います。また、マニラと、直接、連絡したくても、なかなか思うように行かなかったと記憶しています。

JICAマニラ事務所から
マニラ湾を望む
事務所から学生隊員の任地
であるロスバニョスを望む

 次いで、連絡網の整備を行う必要があると痛感しました。大学および学生隊員、さらにJICAマニラ事務所と引率教員との連絡は、私が借りうけた国際用の携帯電話のみでした。学生隊員には、マニラ事務所でプリペード式の携帯電話が、各班に1台ずつ渡されましたが、私へ電話した場合、すぐに料金が無くなり、連絡が取れなくなったことや、また、私の不手際で電池切れや、使い方を熟知していなかったこともあり、連絡が取れない時が度々ありました。国際用携帯は個人で持つものと大学が用意するものとを区別する等、学生隊員との連絡用にも何らかの方法を考えるべきかと思います。
 細かい打ち合わせや問合せには、メールが一番良い方法であると思いますが、携帯電話のメールでは、細かいことがやり取りしづらく、ノートパソコンで行うことが良いと思いますが、ホームステイ先では、ほとんどメールは使用出来ません。電話回線への接続も出来ない場合が多いようでした。パソコンでのメールや携帯電話に詳しい方々に検討してもらいたいものです。そして、その使用方法とその時々の対処法も含めて事前に熟知しておく必要があろうと思います。この場合、今回、開設したような本学HP上の掲示板の活用が考えられますが、派遣隊員、引率教員と大学だけのパーソナルな掲示板を開設する必要があると思います。全国に発信するのは、その中から厳選して(検閲にならないように)、あるいは、投稿者の希望に任せるような方法を検討する必要があろうと思います。ともあれ、個人的な連絡と区別出来る何か良い連絡網の整備をしなければならないでしょう。

ピンクの花が美しい
引率教員から見ての学生の活動等に対する感想  
派遣学生の選考について

 具体的な活動内容が知らされない状態での選考でありましたが、専門に拘らず、協力隊員として、その意欲の程度を主な基準としたことが最終的に良い結果を招いたと思われます。また、5つの班に分ける場合も、小論文の内容を参考に少しでも興味を持つ分野を学生自身に選ばせ、調整して決めていったこともチーム派遣の場合には、必要で重要なことであったと思われます。すなわち、自ら、問題を捜し、行動し、解決できる力を発揮できる結果を招いたと考えられます。また、2名で班を構成したことにより、発表会の打合せや報告書の作成、また、毎日の打ち合わせ等が出来たと思います。しかし、男・女となった場合、1人ずつ別のホームステイ先となり、連絡が取りづらかったと思いますので、選考の場合、男女とも偶数人とすることが望ましいと感じました。

育種班の二人は、苦労したようです
現地での歓送会に置いて
現地での活動について

 応募時点での条件が大きく変更されて来た中で(例えば、英語の能力、ホームステイの期間、正規の隊員がついていないこと等)、学生隊員は、出発前から不安でいっぱいであったと思われます。しかし、前述したように、協力隊員としての意欲がそれを上回り、すぐに現地の方々に打ち解け合うことが出来たようでした。活動の1週間目の中間発表においても、英語での発表もまずまず成功させ、引場シニアおよびジョバウさんを初め、現地の方々から合格点がいただけるほどになっていました。私から見ても、一回り成長したと感じた次第です。その一番の理由は、学生隊員が現地の方々とすぐにコミュニケイションをとる努力がなされていたことにあったようです。また、健康に留意し、一人も欠けることなく、元気に活動したことも高い評価となったようです。さらに、現地での最終発表会では、CPとの打ち合わせを行い、問題点や解決策なども盛り込んだ発表となっていました。引場シニアを知る人達の話では、あの人が高得点を与えることは、まずないとのことですが、ほぼ満点を付けて頂きました。短期にも係わらず、それほど学生隊員諸君の活躍が素晴らしかったことを物語っています。ジョバウさんを初め、現地のCPの方々等から、このまま、隊員として残ってもらいたいと言われた学生隊員もいたほどです。引率教員として、本当に素晴らしい学生を選考し、派遣したものと自画自賛する次第です。

中間発表会にて
濃厚・粗飼料班の打合せ
教育的効果について

 今回の派遣(海外実習)は、フィリピンの国家酪農局が企画した「フィリピン酪農開発強化プロジェクト」へJICAマニラ事務所およびJOCVの隊員が協力する型を取っている所へ、青年海外協力隊短期派遣制度により、学生隊員を参加させたことになります。学生隊員の具体的な活動内容が本当に明確となったのは、マニラに着いて、2日目に行われた各班別のミーティングの時であったと思います。大まかなフィリピンの酪農の実状や活動内容は、事前研修で分かっていましたが、乳牛に対する知識がほとんどない学生を選考したことになりました。しかしながら、現実のフィリピンの酪農は、その原点にあるといって過言でないと思われました。私達の研究室で乳牛の遺伝的評価を行い、その必要性を唱えた頃(約30年前)よりも遅れている状況に見えました。そのような状況の中で、学生隊員らが何を感じとったかを発表会の報告から推測してみますと、全体的に、日本では当たり前の事が、ここフィリピンでは、新しい技術であり、それを普及させる重要性を自分達の持つ乏しい知識からも感じとったものと思われます。そこに開発国への協力(ボランティア)の重要性を学んだと信じています。また、これから専門の科目を受講していく中で、その知識がどのように国際貢献に係わっていくのかを考えてもらいたいと思います。
 いずれにしましても、現地のCPと十分な会話も出来ない状況で、言われたことだけを行うのではでなく、自分で考え、行動する勇気と情熱を得たと思われます。以上のように非常に大まかなことですが、派遣された全員が出国の時と帰国の時の顔付きや行動の違いが私が感じとった教育的効果と思っています。さらに、この経験をこれから続くであろう後輩に伝えてもらいたいものである。

公園等でよく見かけた木々の花


  最後に、全国で初めての試みであったことからも、種々、問題点等があったことは事実ですが、関係した方々の支援の結果でその時々に応じて問題点を解決し、全員無事に帰帯出来たことは、今回のプログラムが成功したといっても過言でないと思います。さらに今後、同様なプログラムが継続されることをお願いし、私の報告とさせていただきます。