SCS を利用した獣医技術講習会実施の意義
佐藤基佳1) 宮原和郎1)、山田一孝1)、柳谷源悦2)、横井耕一3)、岡田幸助4)
1)帯広畜産大学畜産学部獣医学科
2)釧路地区農業共済組合事業部 
3)横井家畜診療所       
4)岩手大学農学部獣医学科   
 はじめに(緒言)

 獣医学、特に産業動物の臨床教育は、地域特異性、産業形態により地域により教育内容が大きく異なる。また、産業動物の飼養頭数の多少により、その地域での診療行為が日時を重ねることによって自然と臨床の技術レベルに大きく差ができることは大いに理解できることである。獣医学教育における卒後教育の問題点は、対象動物が多彩にわたることとその対象動物の飼養環境が個体的、集団的あるいは地域的に著しく異なること、その上、地方病性の疾患が関与するとそこで培われた技術は他地域では理解されない特殊性を帯びることであり、その結果、すべての点での技術交流が必要のないものと理解される誤解が生ずることである。一方、臨床家にとって自己の技術に新しい学術的技術を導入したり、他界の情勢には認識を深めることに関心を持つ反面、具体的にそれらの方法を見いだせず地方的な勉強会で場をしのぐ結果に終わらせているのが現状である。最近の獣医医療についても、社会全体が農業の国際自由化あるいは市民生活の国際化の影響を受け、獣医診療の認識において幅広い知識と横断的連携を必要とする社会になりつつある。
今回、この獣医診療の横断的連携と卒後教育を目的にscsを利用して2次元講習会を実施し、獣医師の卒後教育と遠隔地での技術交流の具体的方法とその可能性およびその効果について実際例を用いて検討した。

写真集

 写真1  写真2  写真3  写真4  写真5  写真6  写真7  写真8  写真9  写真10  写真11  写真12  写真13  写真14  写真15  写真16  写真17  写真18  写真19  写真20  写真21  写真22

 方法および材料
 SCS利用による講習会実施の方法
 卒後教育実施の一つの方法としてスペース コラボレーション システム(以下SCSと略す)を利用した講習会を実施し、実施後その教育効果と問題点を考察するために講習会準備関係者および講師と受講臨床獣医師に感想文の提出を依頼した。
 SCSは衛星通信大学間ネットワーク(写真1-2)を整備することにより、遠隔地の大学、大学院、高専等との間で同時に双方向で画像等を通して、相互授業、合同授業を実施し新たな高等教育を推進することと、映像、音声、文字情報等の多様なメディアを活用した高度情報化社会にふさわしい教育方法、内容の研究開発を推進することを目的としている。
 事業内容として、全国の国立大学等に衛星通信による映像交換を中心とするネットワークを構築し、マルチメディア社会に対応できる高等教育システムを整備していくもので、このうち千葉県幕張にあるメディア教育開発センターを中心として構築するネットワークは、センターにHUB局(親局)を設置し、各大学にVSAT=very small aperture terminal(小局)を設置するVSATシステムである。ネットワークの構築は平成10年4月現在国立機関が73機関89局、私立大学10校11局の100局で運用が成されている。
 VSATシステムとは超小型地球局(小局)を集中的に制御するHAB局(親局)からなる衛星通信システムで、このため、電波法上、通常の地球局であれば各地球局には一定の資格を持った無線従事者が必要であるが、VSATシステムではVSAT局には無線従事者は必要ない。これによって送受信のための専門的知識は必要なく、煩雑な操作を必要なしで他大学との間に情報交換が可能となる。このシステムは通信手段として通信衛星(communication satellite)を利用し、この衛星は赤道付近上空36,000kmの静止衛星で、ディジタル技術により信号を圧縮送信する事により複数の大学による利用が容易となる。
 実施のプログラム
 岩手県獣医師会では県下の県北支部三支会が岩手大学に参集しての講習会であるが、「衛星通信で岩手大学と帯広畜産大学の会場を結んで獣医技術講習会を実施します」というキャッチフレーズで写真のようなパンフレットを作成し、十勝獣医師会にも案内を行った。
 実施の方法は岩手大学会場の責任司会者として岩手大学家畜病理学講座岡田幸助教授、帯広畜産大学会場の責任司会者として地域共同研究センター佐藤基佳助教授により2次元相互送信による講習会を実施した。
 講習会実施のプログラムは写真3に示すが講習内容として以下のプログラムを実施した。
 1 SCSにおける帯広局の紹介
    X線車の画像転送
       帯広畜産大学 獣医臨床放射線学講座 
                助教授 宮原和郎
                 助手  山田一孝
   乳牛の病床診断:一般患畜に対するX線、超音波、心音心電図を
           利用した診断の臨床例をVTRで紹介
       帯広畜産大学 地域共同研究センター
                助教授 佐藤基佳
 2 公共牧場における育成牛の損害防止
       地域共同研究センター 客員教授
        釧路地区農業共済組合 診療課長
                    柳谷源悦
 3 総合討論
          司会 岩手大学 家畜病理学講座
                教授 岡田幸助   
 実施の方法として、1についてはVTRによる画像でSCSの概要と帯広局の状況を紹介し、ついで産業動物合画像診断車の構造と使用状況をこれも録画像で紹介した。乳牛の病畜診断では、その病傷の実体と診
断の実施状況が同年根室地区で実施した病傷巡回診断において採材したX線画像、超音波画像、心音心電図等のデータの録画像により紹介した。
 2については、釧路地区管内の家畜診療における実体と乳牛の損害防止に関する研究についてスライドと図表を用い講演した。
3については両会場を相互同時転送により質疑応答を含むた総合討論を実施した。
 乳牛の病傷診断の紹介に使用した臨床例材料
  平成9年4月から同年10月までの期間根室地区間内で実施した産業動物総合画像診断車による検診症例56例についてその概要と記録されたVTR像による所見の中から4例について詳細なデータを表示した。
実施成績
実施に当たっては、岩手大学会場が総合司会を行う形式で実施した。まず会に当たって岩手県獣医師会二戸支部横井耕一氏(写真4)より本会実施の経緯と実施の要領について説明が成された。ここでは、県北3支会(宮古、久慈、二戸)の合同研修会の世話役当番が二戸支会であり、かねてから帯広畜産大学教官に講習会講師の依頼をしてあったが時間的都合でSCSを利用しての講習会の可能性を提案され、岩手大学岡田幸助教授に相談したところ快諾が得られて本日に至ったこと等が説明された。
次いで、総合司会者である岡田幸助教授により各大学に設置されたSCSの概要と連合獣医学研究科での評価実験の概要および現在の使用状況について紹介がなされた。(写真5-6)
 次に、マイクが帯広畜産大学会場に渡され、岐阜大学院連合獣医学研究科代議委員である帯広畜産大学斉藤篤志教授(写真7)より開会の挨拶があり、この高等教育の設備の一つであるSCSが広く民間の団体にも利用される期待を述べた。次いで講習会に入り帯広会場の責任司会者地域共同研究センター佐藤基佳助教授により帯広会場の紹介と講師の宮原和郎助教授、山田一孝助手、柳谷源悦客員教授が紹介された。
 SCSにおける帯広局の構築紹介:宮原和郎助教授(写真8)、山田一孝助手による帯広局のSCS構築状況と総合画像診断車のX線画像の転送についての紹介が成された。VTR画像により帯広畜産大学附属家畜病院の本館とSCS施設のある新館(写真9)およびその周囲の建物環境のうち地域共同研究センター、生物資源科学学科棟等が映し出され、SCS施設のある新館の内部とSCS施設のスタジオさらに講師卓(写真10)の状況が紹介された。次に画像診断車の大動物診療室脇に駐車したVTR像により診断車の内部の構造について説明し、乳牛が搬入され枠場内に保定されたX線室、操作卓の操作状況、モニターの観察状況と記録器材とその利用法について表示した(写真11-13)。説明中岩手会場からは講演内容の疑問点について随時質問が出され講師はリアルタイムに回答が成された。
 乳牛の病傷診断:佐藤基佳助教授が巡回診断による病傷診断症例について講演した。まず、平成9年の10月末現在までの巡回診断の概要とその目的、全頭数56例の概要の説明の後、食欲不振で加療している牛(写真14)のX線検査による第二胃所見(写真15)と検査の結果診断されたロープ塊の摘出所見により消化管疾患が紹介された。その後、肺炎症例、心内膜炎症例の超音波所見にみる肝臓の鬱血所見と疣贅性心内膜炎所見(写真16)および心音心電図所見(写真17)、心壁腫瘍による循環障害症例の呈示により、早期診断と早期の処理が酪農経営の経済的な損害防止につながることを講釈した。
 次いで10分間の休憩の後、2の公共牧場における育成牛の損害防止についての講演が柳谷源悦客員教授によって以下の抄録の内容について行われた。
 公共牧場における育成牛の損害防止(写真18-19)
 酪農専業地帯における公共牧場の使命は、預託された育成牛の健康を保ち、将来の牛乳生産に役立つ乳牛になるような発育を促すことである。しかし、各公共牧場には育成牛の発育を阻害する様々な要因が存在し、すべての育成牛が預託した酪農家の期待通りの発育を遂げているとは限らない。
 今回、育成牛の今後の接客防止の方向を探るために、個々の公共牧場に存在する発育阻害要因の究明と、その対策について検討した。
 音別町育成牧場における成績では、冬期舎飼育成牛群の発育は、預託期間中の平均体重の推移でみると、日本ホルスタイン登録協会
の正常発育範囲内で経過しており、牛群全体としては特に問題はないように思われた。しかし、X線透視検査によって 16.7〜27.4%の育成牛の第二胃内に金属異物の存在が観察された。これらの育成牛のうち第二胃壁を刺激、穿孔し易い形状の鋭性金属異物が観察された個体の体重および1日当たり増体重は、正常育成牛に比較して低い傾向がみられた。
 対象とした育成牛を、日本ホルスタイン登録協会の基準増体重を基にして、基準値以上と基準値以下の2群に分け、各様における第二胃異物刺入牛の存在率を比較したところ、基準値以下の群における第二胃壁異物刺入牛の存在率は、基準値以上のそれに比べて有意に高かったことから、鋭性金属異物は育成牛の発育を阻害する要因の一つであることが明らかとなった。
 また、預託開始時と預託終了時の2回のX線透視検査の結果、これらの金属異物は公共牧場に預託される以前に摂取されたものと判断された。
 この対策として、預託開始時に鋭性金属異物が観察された個体に、磁力の減衰の少ない稀土類マグネットを投与した結果、預託開始後120日には増体重が改善された。預託開始時にすでに金属異物が第二胃壁に刺入し、マグネットを投与した育成牛でも同様の結果が得られた。また、預託終了時のX線透視検査の結果では、刺入していた金属異物はすべて第二胃壁から離脱してマグネットに磁着し周囲を砂鉄で取り囲まれて、刺入のおそれのない状態になっていた。この成績より、鋭性金属異物によって発育が阻害されている育成牛の対策として、マグネットの投与は有効であると判断された[6]。
いっぽう、弟子屈町育成牧場における成績では、夏期放牧育成牛は白血球数の増加や感染症などの臨床的な異常が観察されないにもかかわらず、入牧後直ちにα1酸性糖蛋白(α1AG)値およびシアル酸値の上昇が認められ、入牧後2カ月で入牧前の値に復することが判明した[7]。
 α1AGおよびそれを構成する物質の一つであるシアル酸は、急性相反応物質として知られているが、α1AGは免疫抑制蛋白(IAP)との類似性により、近年は免疫抑制の指標として注目されている。入牧後のα1AGの上昇は、音更町育成牧場の冬期舎飼の預託開始時の育成牛にも軽度ながら同様の傾向がみられたことから、公共牧場に入牧した育成牛は、飼養環境や飼料の急変にともなうストレスによって、入牧後一定期間、免疫系に抑制的な影響を受けていることが強く示唆され、夏期放牧の育成牛では、この期間の1日当り増体重はきわめて不良であることが明らかとなった。
 育成牛において入牧後に免疫系が刺激されると、感染などの危険が増大し、この期間の1日当り増体重も不良であったことから、何らかの対策が必要と思われた。
 従来、入牧に伴うストレスを軽減するために放牧訓致の必要性が指摘されているが、釧路地方の入牧前の気候では、牧草の育成が不十分で放牧訓致は困難であることから、ストレスによって影響を受けやすい腸内細菌叢を安定させ、免疫系を強化する作用を有する生菌飼料添加物の投与を試みた。
 投与群のα1AGとシアル酸の入牧後の変動は、非投与の対照群に比較して軽度であり、特に入牧後2カ月では投与群のα1AGとシアル酸は、対照群のそれと比べて有意に低い値を示した。また、投与群の遊離脂肪酸は放牧期間を通じて変動が少なく、対照群のそれと比べて有意な違いを示した。また入牧後1カ月までの1日当り増体重は、投与群が対照群より有意に高かった。これらの成績から、放牧訓致が困難な育成牛への生菌飼料添加物の投与は、入牧後のストレスとそれに伴う免疫抑制を軽減し、放牧初期の増体重の低下を防ぐ効果があるものと判断された[8]。
 次いで岩手大学会場の岡田幸助教授による総合司会で総合討論に入り講演に基づく質疑応答が活発に成された。参加人数は岩手会場では約30名、帯広畜産大学会場では約15名で帯広会場には十勝獣医師会の会員が数名参加した。帯広会場より十勝獣医師会の会員で十勝農業共済組合の職員が3名参加があったので両獣医師会の今後の交流を期待して参加者の紹介を行ったが意見交換は時間の関係でできなかった。最後に岩手獣医師会大島会長よりこの講演会に関してのお言葉を賜りメディア利用の遠隔講演会試みの賛辞をいただいた。
 送および受信者側関係者の評価
 帯広畜産大学会場:佐藤基佳助教授の評価
 今回のこの試みは、以前から依頼されていた岩手県での講習会を、日程の調整の関係をCSCによって実施し容易化する事に端を発する。幸い岩手大学の関係者による寛容なご厚意により実現し、結果的にその目的は達せられたと評価している。今回は地域の離れた獣医師会同士の交流も期待されたが時間の関係で
参加者の紹介のみで終わってしまったが回を重ねることにより、今後このメディアを利用しての狭い国内での獣医師会間の交流が成されれば種々の点での発展が期待できるものと解釈される。
 講演内容と画像の転送の評価については以下に考える。通常の講演については最近のメディアを利用すればビデオ オン デマンドなる用語が出回るご時世ながらこれでも一応の成果(知識の習得)は予想される。しかしビデオをみての知識の習得には内容に関しての疑問点がある場合にはその解消の方法は多少難しいと考える。その点を考慮するならば今回のSCSを利用しての講習会は内容の疑問点を講義者に直接問うことができることは非常に有意義と考える。
 次に、画像の品質であるが今回VTRにより録画した受信画像を送付してもらい画質の検討を行った。X線画像は送信側の調節と受信側の受信モニターの調整によってその画質は大きく依存する。今回の受信画像の録画原画像は、送信画像と比較しても転送による画像の減衰は感じられず送受信側相互で行う検討時のX線所見データとし十分に情報を提供できる品質であると評価した(写真20、21上段受信画像、下段左送信画像)。
 講習会実施の容易さについて述べると、種々なデータを用いての講習会としては、書画カメラ、VTR、スライド放映機が自由に取り扱えるこのSCSを利用することによって講習会のための材料を作成する上では非常に簡便であったことが高く評価される。また、これによって放映された内容は簡単に録画でき、その材料を学部学生の講義に利用できることは大きく評価される。
 さらに、この種の講習会を他地域の獣医師会および関連団体へと広げ、また、回を重ねることにより社会人教育および卒後教育の実施を容易なものとするため、その継続により一層の効果が期待できるものと判断される。
 岩手大学会場:岡田幸助教授の評価
 講師が遠隔地にいて、講習会に来ていただくことが困難な場合でも講習が実現するという、今回の方法は非常に画期的であった。このシステムは元来、学生の教育を目的として構築され、その費用も文部省が負担している。今回のように学生が対象でなく、社会人が対象の場合、その利用に多少遠慮があるが、大学も広く開かれた大学として、社会人教育、社会貢献をはたす必要もあるのではないだろうか。その点、今回は関係者が柔軟に対応してくれたお陰で、この講習会が実現したことは真に喜ばしい。
 「喰わず嫌い」と言う言葉があるが、今まで使用したことの無い人にとって、SCSの利用は大変なためらいがあると思う。通信は相手があって初めて可能で、当たり前のことだが一人相撲では通信は出来ない。また実現のためには、お互いが積極的に取り組もうと言う意欲が必要で、通信相手の責任者と面識があり、気持ちが通じあってこそ初めて実現する。これは実現のために周到な打ち合わせが必要であることを意味する。聴衆をたくさん集めて会を成功させるためには、電話、FAX, e-mailなどで準備を周到にしなければならない。時には面会、下見さえ必要である。今回はお互いに面識があり十分な打ち合わせができたことが成功した鍵であろう。このシステムの最大の欠点は相手と酒を酌み交わすことの出来ないことである。送信してくださった講師の先生方に心から感謝する。
受講者の評価
 二戸支会支会長横井耕一氏の評価
 三支会の講習会、先ずは初めての体験で皆さん良く理解できたかどうか少し不明です。帯広出身以外の人達はX線のビデオを初めて見た人たちが殆んどで中味に関する理解度は低いと思いました。2〜3回継続して行えば自分の診療に役立つと思います。
 当日の話の中で良い点を書きますと
 1.忙しい講師の先生に2日とか3日の時間を取ってもらわなくても良いこと
 2.講師の先生が材料を運ばなくても良いこと
 3.質疑応答がその場でできること
 等が揚げられると思います。心配な点としましては
 1.費用がどのくらいかかるのか?
 2.岩手大学会場が40人前後と狭くもう少し広い場所、たとえば(これは贅沢な戯言)ホテルとか会議場で可能になれば。
などマイナス部分は少なかったですが岩大の岡田先生に何回も打ち合わせに参加していただき申し訳なく思っております。
 卒後教育として年度始めにテーマを話し合って年間計画で岩手県獣医師会、NOSAI等の若い先生方とこの方法での講習を行って行きたいと思っておりますのでよろしくお願いします。
 二戸支会大池祐治氏の評価(”支会だより”として岩手県獣医師会雑誌に掲載文を転載)
 「通信衛星で結ぶ獣医技術講習会」東北新幹線盛岡以北の開通を平成13年に控え、二戸駅周辺の再開発や新幹線関連の道路整備事業が着々と進められてます。自然景観に恵まれた折爪馬仙峡県立自然公園、夏期には牛、馬が放牧される西岳、高森高原や国民保養温泉地に指定された金田一温泉などの観光拠点をかかえている等地域は経済圏を青森県に持つとともに防疫上は北の関所的意味合いを持っています。当支会は二戸市、一戸町、軽米町、浄法寺町、九戸村の1市3町1村に40名の獣医師で構成され、人数的にまとまりがあります。講習会や懇親会をはじめお互いの情報公開の機会を多く持つことに心がけ、地味ながら着実な活動を進めております。
 平成9年11月13日、岩手大学の施設を利用させていただきスペースコラボレーションシステム(SCS)を利用した県北3支会(宮古・久慈・二戸)合同研修会を当支会の当番で開催いたしました。SCSは衛星通信による映像交換を中心とした大学間ネットワークであり、現在、全国にある98の国立大学のうち55大学、高専8校、又10カ所の大学共同利用機関で平成8年10月から開設されています。
 当初、本研修会は帯広畜産大学から講師を招き大動物X線車を用いた臨床的な話題について講演をしてもらう計画でした。
 ところが昨年2月に仙台で開催された年次大会終了後、新幹線の車中で交わした二戸支会長と岩手大学岡田教授との会話が縁でSCS利用の方向性が打ち出され、3支会長の合意のもと開催に向けた準備が始まりました。
 当日は13時から16時30分までの間、宇宙を飛んでいる通信衛星JCサット3号機を介して岩大と帯畜大を映像と音声が飛び交いました。帯広側から放射線教室の宮原助教授、山田助手により、ハンディカメラで家畜病院や周辺の建物を映したあと観光バスと同等の大きさで、しかも常時18tもの重量がある大動物X線装置や操作室の設備紹介をしていただきました。又、地域共同研究センターの佐藤助教授から根室地区の酪農家で行っているこの診断車を用いた診断例と病状の関連について具体的な説明がありました。それは動くX線透視所見であり第2胃のロープ塊、第3胃に貯留したガス、第4胃の拡張、あるいは心臓壁の腫瘍などが鮮明な映像と共に、適切なコメントも送信され、大変興味をひくものでした。毎月第3週の木金土曜日はX線車とともに農家を巡回し、健康牛の潜在病変を摘発する集団検診と共済が診断できない症例や長時間の診療でも好転しない症例などの病傷診断を行っているとのことでした。
 次に釧路地区農業共済組合の柳谷診療課長から公共牧場における育成牛の損害防止についてスライドを用いた講演がありました。「X線透視検査により育成牛の第2胃内に金属異物が16〜27%と高率に発見され、発育阻害の一因となっている。入牧前のマグネット投与が有効であった」という内容に岩手側から質問が出され、帯広側で返答するというように活発な質疑応答がくり広げられました。
 今回は開催場所がやや遠かったにもかかわらずSCS会場がいっぱいになるほどの33名の参加を得て、大島会長を来賓としてお迎えし盛会裡におわることができました。SCSの利用はただ受講するだけでなく、すぐ質問することで意味が出てきますし、リアルタイムでやり取りのできる点がメリットです(写真22)。遠方にいながら多数の講師を目の前にして話を聞けたことは意味深く印象的でした。ただ、こちらの開示用の映像が相手側に映っていないと思っていたものが実はそうではなく、落ち落ち居眠りもできないことが欠点のように思われました。
 最後に3支会による本企画はマルチメディア社会にふさわしい多様なメディアを活用した実践的な内容でありフィールドにいる立場では初めての試みであったようです。このSCSは将来は大学以外でも幅広く普及することが望まれています。
 このような貴重な経験ができましたことは、ひとえに岡田教授のご協力によるところと感謝を申し上げます。
 考察
SCSを利用して遠隔教育あるいは遠隔医療を実施する試みは近年数多く報告されている[1-5]。現時点においては通信衛星を利用した放送手段と機材の性能は向上の途を辿っている最中であるので、これらの品質はこれから大いに期待されるところである。
 今回の講習会では、画像情報の提示が中心となる講習会であるので、その情報の品質と正確さおよび説得性が注目される。今回使用した画像情報は、X線透視画像,超音波画像、心音心電図画像および臨床マクロ所見である。X線画像については透視画像であるので、元来撮影所見に比べて解像力は低下しているためそれだけに36,000km離れた衛星を介することによって画像の劣化があってはならない。その点についてはモニター画像にみる送信前後の画像の比較では両者に遜色のない画像が表示されていたことは、転送画質について高く評価された。転送による画像と音声の遅延は衛星ー地球間の距離によるタイムラグで、双方の会話については自分の声が相手に届くまで1、2秒を要することを認識して会話することが慣れればスムースに応答が可能である。超音波画像は白黒の2値画像であり、今回のシステムではX線画像の転送に耐えるため転送画像として問題はなかった。心音心電図所見は、記録紙の所見を静止画として扱ったためこれも今回のシステムでは問題がないものと判断した。臨床所見のマクロ所見については、対象動物の外貌については問題はなかった。剖検所見については画像の質は申し分はないが立体感がなく剖検所見の割をいれる様子については情報的に不満があったが、これは記録方法及び再現法についてさらに新しいメディア(バーチャルビュアー等)による解決が必要であると考えられた。
 両会場の責任司会者あるいは受講者の感想より、開催時の準備方法、講習内容の理解度、質疑の即時性、授および受講の容易性、システム利用の稼金費用、会場の収容人数の問題点が提示された。
 開催時の準備にはメディア教育開発センターへの申し込みを含め、三者が同時に都合のよい時間を決定するには単純に容易とは言いがたい。現在の使用状況からは、まだ余裕があるが将来利用層の増多により同時多回線が用意されるべきと考える。
 講習内容の理解度については、特に今回の講演の内容から「乳用牛の損害防止に関する研究」についてはその場で理解納得が得られる講演と考えるが、X線透視画像を利用した「乳牛の病傷診断」については画像の理解に時間を要するため今後定期的な講習会を必要とする内容と考えられる。
 質疑の即時性、授および受講の容易性、システム利用の稼金費用については高い評価が関係者の間で下されたことは本システム利用の講習会の特徴といえる。
 会場の収容人数の問題については、この解決には様々な問題があると推察されるが学内LANのATM化に対応したリアルタイム画像配信を視野に入れたSCSの改善が待たれるところであり、移動中継車等の開発配備も特殊な教育機関には必要と考える。
 平成10年5月29日発行の文部省広報に掲載されている「教育改革プログラムの改訂」では、マルチメディアの活用とその推進を掲げている。高等教育におけるマルチメディアの活用は、研究成果の活用あるいは広域教育について不可欠な教育方法として今後更に発展するものと確信している。今回マルチメディアを利用しての獣医学卒後教育を目的とした2次元遠隔講演会は相対的に十分な効果が発揮できたものと解釈されこれを高く評価する。

参考文献
1 浅井紀久夫, 大西仁, 田中健二, 林善士, 結城きよひろ, 近藤喜美夫 : 情報処理学会研究報告、97、  80、25〜30(1997)
2 黒岩崇, 横山節雄, 桐ケ谷光子 ,中村直人,松居辰則、永岡慶三、鈴木龍太郎 、炭野重 雄 :電子情報  通信学会技術研究報告、97、82、65〜70(1997)
3 NAGURNEY F K,BURGE C D:IEEE Int Conf commun 1/3 ,35,3,1〜4(1980)
4  田中健二, 近藤喜美夫 、山本成人:日本教育工学会研究報告集、97、2、59〜63(1997)
5 田村武志 、佐藤文博, 上西慶明:電子情報通信学会技術研究報告、92、234、49〜54(1992)
6 柳谷源悦、佐藤基佳、宮原和郎他:日本獣医師会雑誌、47、9、663〜665(1994)
7 柳谷源悦、佐藤基佳、宮原和郎他:日本獣医師会雑誌、48、11、845〜847(1995)
8 柳谷源悦、佐藤基佳、宮原和郎他:日本獣医師会雑誌、50、2、80〜84(1997)
写真集
      ホームページに戻る