西川研究室の研究テーマ (Research subjects of Nishikawa Lab.)    [English]

 

細胞内寄生原虫の細胞内寄生戦略と宿主免疫反応との攻防の解明を目指して研究を展開しています。

 

 

最近のプロジェクト: 最先端・次世代研究開発支援プログラム

 

 

トキソプラズマ原虫とネオスポラ原虫とは? 

トキソプラズマ原虫(Toxoplasma gondiiによって引き起こされるトキソプラズマ症は、世界的な広がりを見せる重要な人獣共通感染症です。ヒトでは妊婦が感染した場合、流・死産や先天性トキソプラズマ症を引き起こすほか、エイズ患者や免疫抑制剤の投与を受けている患者にトキソプラズマ性脳炎を起こすことが知られています。また、トキソプラズマの家畜への感染は直接的損耗による経済的被害だけではなく、食肉を介してヒトに感染するリスクがあることから、公衆衛生上きわめて重要な問題です。

ネオスポラ原虫(Neospora caninum)は、トキソプラズマ原虫に形態上極めて類似した原虫で、牛・羊・山羊、鹿などに感染します。特に牛には流産、死産或いは子牛の神経症状を主徴とする異常産を高率に引き起こします。ネオスポラ原虫の感染例が世界中で報告されており、子牛と搾乳量の損耗などによる獣医・畜産領域での経済的損失は極めて大きいとされています。

 

トキソプラズマ感染による動物の行動変化(原虫はエイリアン?)

 トキソプラズマ感染による宿主の行動の変化は以前から知られており、この行動変化がトキソプラズマの生活環を活性化しているという推測は興味深いと思われます。迷路学習の実験モデルで、トキソプラズマ感染マウスは学習能力や記憶に劣ることが示されました。さらに、感染マウスは未知のものに対する警戒感が希薄となり、ネコの匂いにも鈍感になります。感染マウスあるいはラットのこのような行動変化は、補食動物であるネコから逃げるのには致命的でありますが、原虫側から見ればより効率的に終宿主に到達できることになります。

 トキソプラズマ感染によるヒトの行動変化の研究も歴史があります。トキソプラズマに感染している人は、統合失調症、性格の変化、交通事故のリスク増加に関与しているという報告もあります。男女間で多少の差はあるものの、精神運動に支障をきたし、不安な状態になりやすく、幻覚、認知障害などを示す場合もあります。

 トキソプラズマ感染による宿主動物の行動変化に関するメカニズムについては一定の見解が示されているものの、その多くは謎のままです。私たちは脳内に寄生する原虫に着目し、宿主の行動変化を引起すメカニズムの解明と生態系に与える影響に関する研究を進めています。

 

トキソプラズマ原虫の感染ダイナミクス

宿主細胞寄生性の原虫は、宿主の増殖メカニズムを巧みに利用することにより生存する事が可能です。トキソプラズマ原虫は様々な有核哺乳動物細胞に能動的に侵入し、宿主の免疫機構からの逃避と宿主細胞から栄養物質の強奪を行うために寄生胞を形成します。

これまでに、宿主細胞への接着や侵入に関わる原虫側の因子が研究され、MICROPGRAなど数多くの分泌蛋白質の存在が明らかにされてきました。私たちは、この感染ダイナミクスを詳細に解明するために、新規原虫由来因子の探索を進めています。

また、トキソプラズマ原虫が宿主細胞の栄養物資を取り込む機構としては、宿主細胞がLDL受容体依存的に取り込んだコレステロールを原虫自身の生存に利用していることが報告されています。しかしながら、トキソプラズマ原虫の感染に関与する宿主細胞由来の分子、あるいは宿主細胞のタンパク質や遺伝子と相互作用する原虫由来の分子については不明な部分が多いのが現状です。私たちは、原虫の持つ宿主の栄養を強奪するメカニズムの解明を進めています。

トキソプラズマ原虫が感染した宿主細胞は、原虫自身が宿主細胞で分裂・増殖するために宿主のシグナル伝達経路を巧みに変化させ、宿主側のストレス応答に対して抵抗性になります。さらに、原虫にとって有害な免疫担当細胞を自殺に追い込む機構が存在すと考えています。私たちは、原虫のストレス回避機構の研究を進めています。 これまでに、トキソプラズマ由来の免疫活性化分子を同定し、トキソプラズマの生存戦略への関与を明らかにしてきました。

ネオスポラ原虫の感染・増殖メカニズムについて分子レベスでの解析はほとんど進んでいません。私たちは、ネオスポラ原虫の完全長cDNAデータベースの構築を目指し、この研究の突破口を切り開いていく予定です。

 

流産メカニズムと病原性因子

 ネオスポラ原虫は 、牛に流産、死産或いは子牛の神経症状を主徴とする異常産を高率に引き起こします。 私たちは、この原虫の垂直感染マウスモデルを確立し、母子免疫とワクチン開発の基礎的な研究を展開しています。また、生化学的アプローチによるネオスポラ原虫の持つ病原性因子の探索も進めています。

 このような基礎データを現場に還元することが重要です。現場(農場や家畜保険衛生所)と連携し、日本におけるネオスポラの汚染状況の把握と、ネオスポラ感染による流産リスクの解析を行っています。

 

新しい生物資源としての原虫の活用

 原虫は、ウイルスや細菌と比較して極めて複雑な生活様式を持っています。さらに、宿主由来のストレス反応を巧妙に制御する原虫の生存戦略は、薬剤やワクチンの開発を困難にさせています。私たちは、原虫の持つ生存戦略に着目し、原虫ライブラリーから新規の生理活性物資のスクリーニングを行っています。ヒトや動物を対象とした疾患治療への応用を目指しています。

 

抗原提示細胞

 抗原提示細胞は、自然免疫と獲得免疫に極めて重要な役割を持ちます。この種の細胞は異物を認識して貪食し、異物の抗原ペプチドを自身の細胞表面へ提示し、獲得免疫を成立させます。私たちは、この一連の反応に関わるサイトカインの反応、細胞内消化機構、糖鎖の相互作用に注目し研究を進めています。また一方で、抗原提示細胞における代謝バランスの崩壊により様々な病態が出現することに注目し、細胞内の脂質代謝と糖代謝について研究を進めています。