「北海道におけるBSEの現状と将来 ―サーベイランスに焦点をあて―」と題した獣医疫学セミナーを10月17日に本学で開催しました。帯広畜産大学の学部生、大学院生、留学生や教員、また、外部からは、家畜保健衛生所、食肉衛生検査所、農協連の職員の方々など、約60名が参加されました。このセミナーの様子は、翌日の土曜日にNHKテレビで放映されたということです。講演の内容(発表の際に講師が強調された点)と質疑応答に関して、その概要を下記のようにまとめてみました。
講演 I : BSE status, surveillance and food safety in EU
and Switzerland(Ulrich Kihm)

(写真1)報告されるKihm先生
- 結局のところ、牛肉は安全と言えるのか?という疑問に答えるべく、スイス、EUの経験・現状を述べる。
- BSE感染は極めて若い時期に起こり、検査では検出できない4−6年の潜伏期間を経て、発症の6か月前になって初めて検査で検出可能となるため、欧州では、検査を安全対策とは捉えていない。つまり、消費者を守るためには検査だけでは不十分。
- BSEの感染は筋肉に見られないので、肉は安全。感染牛のプリオンを接種した実験でも肉からは検出なし。
- サーベイランスは、パッシブ・アクティブの2システムを両方行うことが重要
- 症状牛、死亡牛などリスクの高いグループを中心に検査で監視する必要がある。
- 他のリスクグループとしては、BSE清浄国でない国・地域からの輸入牛、清浄国・地域以外の汚染飼料を消費した可能性がある牛、TSE感染の可能性がある汚染飼料を消費した可能性がある牛などが考えられる
- 家畜の安全対策として最も重要なのは、SRM除去(レンダリングによる感染の広がり排除)、交差汚染対策
- 飼料規制の効果について、フィードバン以降の飼料検査時の違反率データ(EU(当初15か国)とUK)を提示して説明。またスイスについては1991−2007年の検査サンプル数、動物蛋白汚染サンプル数を具体的に示し、2003年時点で汚染がほぼゼロになったことを具体的に提示。日本、北海道ではどうなのか、ということを議論する必要を示唆。
- 安全対策はセットで行うことが必須。牛から牛の感染は、輸入規制、反芻動物への飼料規制、SRM飼料規制、家畜廃棄物規制、検査。牛から人への感染は、SRM除去徹底を中心に輸入規制、検査、死亡牛検査などの全てのハードルで防ぐ
- サーベイランスを適正に実施すると、一旦発生数が増加する
- アクティブモニタリングでは、検査牛1万頭あたりの陽性牛の数は、対策の効果測定上、重要な指標となる
- 対策の効果について、UKでの感染例は2003年の1件発生以降2007年までゼロ。4−5年の潜伏期間があるため、現段階では判断は早いが、最後のケースとなるかも。
- 対策の効果が上がり、新しい感染が止まった段階では、感染牛がどれだけ残っているか、それにどれだけコストをかけて行うのが適切なのか、が議論の中心に。EU15か国における2つのシナリオを提示 →極めて少ない頭数。
- 最終的に、牛肉は安全か? SRMの適切な除去や飼料規制、トレーサビリティー、モニタリングの継続など多くの条件付きでイエス、と言える。
講演U : 日本のBSEの現状と問題点(小澤義博)
- 2000年以降の検査による監視開始後、自国では発生がないと思われていた多くの国で発生が明らかになったため、日本では国内の専門家のレベルが低かったこともあり、検査さえすれば発見可能との認識で、検査イコール安全対策の間違った認識が浸透した。
- 日本での感染牛の検出率は約20%で、実際の感染は4−5倍(約140頭前後)あったと考えられる。
- 多くの消費者が全頭検査によって「全ての感染牛が摘発され安全が確保された」と信じているが、考え直す必要がある。
- 本州のBSE発生をたどると、北海道から来たものを除くと3例ほどであり、既に収束しつつあるが、今後見つかるとすれば高齢の牛。主たるリスクは北海道。
- 日本の発生例のうち、去勢オス、ホルスタインの21、23か月例は飼料規制後の生れで陽性牛であるという説明は不能。OIE定義にもあてはまらない。
- UKでの発生と異なる非定型型が、高齢の牛に発生。各国で見つかっている。カナダでは、高齢牛は食肉処理に持ち込ませない施策。高齢牛の検査を継続することが重要。
- OIE基準について、日本ではピッシングが残っていることから現状はリスク不明国。来年にはリスクが管理されている国になる見込み。
- 日本のBSE対策の問題点として、SRM除去について、と畜場、食肉処理場の外部監視員による調査・評価結果公開が困難な現状がある。汚染飼料の使用禁止については過去の対策が効果をあげているため、見直しも必要。いずれにせよ、外部監視をいかにすすめるかが課題。
- 検査の問題点。サンプルを適正に取り、保存することが重要。
- 日本では、今年か2−3年後には収束の見込みだが、さらに数年の監視は重要。
研究報告 : 北海道におけるBSE発生リスク要因(門平睦代)
- 市町村の酪農家密度はBSE発生に関連がある。つまり、家畜用飼料の流通量が発生に関与しているから。
- 北海道を清浄化するための提案として、発生地域に焦点をあててサーベイランスを行うことが有効ではないか
- BSE発生が収束に向かうときは、陽性牛の年齢が高くなる。若齢で見つかればまだ発生が続くというのがパターン。定期的に情報を分析し、その結果を活用したサーベイランスの改善が重要である。
質疑応答及びコメント
(感想) 小規模農家(肉牛)だが、再発防止のために、都合の悪いことを隠したがる現状から、データを提供するという重要性を実感。農協レベルで協力することが必要ではないか。
(質問)
96,96年の発生から次のピークまでは本当に曝露がないのか?また、北海道に直接入ったと考えられる材料はあるか?
- 本州経由で、海外から輸入された飼料の一部が北海道へ入ったと考えられる。飼料は短期間で消費される。代用乳、肉骨粉なのかは不明。オランダの代用乳との推測もある(門平)
- 代用乳を疑う意見もあるが、オランダでは発生していないのにオランダ産代用乳を疑うことに強い反論が出ている。欧州では肉骨粉とほぼ特定(小澤)
- 個人的には代用乳は感染源でないと思う。スイスでは代用乳に関する規制はないが、発生との関連はなかった(Kihm)
(質問)1、2年すれば本当に収束するのか?
- 高齢のコホートに特に注意が必要。非定型の高齢発生をどうするかが問題(小澤)
(質問)日本での検出率20%との引用は、確定検査のもの?
(質問)サンプル取得を適切に行う改善について?
- 3歳以上の牛に的をしぼってきちんと検査することが重要(小澤)
(質問)全頭検査は無駄とのデータを踏まえて、政策的に月齢を変えることの可能性は?
- 国際的状況を知って頭を切り換える必要がある。消費者に情報が浸透していないことが問題で、日本だけがいつまでも全頭検査を続ける状況になりかねない(小澤)。
(質問)と畜場での検査体制、SRM処理について、なぜ外部調査を強制できないのか?
- 行政的な問題がある。と畜場は地方自治体の管理下にある。政府の強制が困難。国の検査官を入れる必要がある。世界的にはダブルチェック体制が一般的だが、現場の抵抗が強く厚生労働省も足踏み。(小澤)
(質問) 高齢牛の食肉転売禁止が重要と思うがどう考えるか?
- カナダでは8歳以上には補助金を出さないという。日本でも同様の処置を検討すべき(小澤)
- スイスでも提案したが、業界等が強く抵抗し、却下された。2001年以降生れの感染牛で今も生きている牛の数を計算するとごくわずかだと思われる。全頭処分するのは適切ではないのでは(Kihm)

(写真2)会場風景
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