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Africa Veterinary Epidemiology Veterinary Communication

獣医コミュニケーション/Veterinary Communication

 

「共同研究者のちばNOSAI連堀北先生より事例報告がありました。」

「乳房炎防除(体細胞低減)に関するワークショップ」を終えて

            

ちばNOSAI連

堀北哲也(西部診) 天野はな(中央診) 天谷裕次(南部診)

2005年10月13日(木) PM1:30〜PM4:00
             千葉県A町

 秋晴れの1日,県内A町の小さな公民館,周辺の山々の景色よし,私たちが到着すると,すでに農家の方々によって,座敷の部屋に文机が教室型式に並べられ,机の上にはミカンとお茶と饅頭が丁寧に置かれていた。

 挨拶のあと机を片づけてみんなで車座に座り,後述する5つのゲームを実施した。

 

参加酪農家 13人(男性7人,女性6人,男女とも50〜60代が中心)

参加関係者 家畜診療所職員5名と家畜保健衛生所職員3名

○ 会を終えて

  •  全体にとても盛り上がり,楽しかった。
  •  楽しくワイワイを,どう生産性の向上につなげていくかが今後の課題。
  •  参加酪農家の評価

「今日は楽しかったですか?」    

楽しめた 11人,   ふつう 1人,     つまんない 1人

「何かやってみようと思いましたか?」 

はい 3人,      うーん・・・ 6人,   いいえ 4人

「またこんな集まりをやりたいですか?」

ぜひ! 6人,     どっちでも 5人,  もういや 2人

  • こちらから何も指導・教育していないが,ゲームを通じての農家同士の情報交換により乳質改善の行動を起こそうと思った人が3人「も」いた。(と評価したい)
  •  「うーん・・・」と答えた6人が行動をおこすようなゲームを考えていきたい。
  •  ワークショップ型式には,講習会型式に比べて酪農家を活性化させる大きな可能性を感じた。
  •  ゲームの間に,15分ほどのプチ講習会を挟んでみるのも一考か。
  •  今回実施したゲームは,一般的なワークショップの本などを参考にして作ったオリジナルのゲームが中心。今後いろいろなゲームを作って試して,生産者のエンパワーメント(元気づけ)に有効なゲームを取りそろえたい。

 

○ この集まりで実施した5つのゲーム

  • まず参加者に今日の趣旨説明
     今日の獣医師は指導も講習もしない。生産者のほうが、農場の問題点・解決法を良く知っている。その知識の共有を助けたい。
     楽しくゲームをするひと時にしたい。これからやるゲームは今日初めてやるのでどうなるかわからない。みなさんのご協力を。また,ゲームをしながら感じたことを大事にしたい。
  • 冒頭に,全体の趣旨説明をする必要あり。内容が普通の講習会と異なるので,最初に説明しておかないとみんな戸惑う。

 

アイスブレーキング(導入)

(1)「一番好きなところゲーム」+自己紹介

 全員(獣医師含む)が、名前と、自分の仕事・農場・職場の好きなところを一言紹介。

  • その場にあった饅頭を「トーキング饅頭」にして,饅頭をまわしながら饅頭を手にしたヒトが一言。
  • よく笑うおばちゃんあり,適度な茶化しありで楽しかった。
  • 好きなところの発言内容
    牛が好き,犬が好き,高いところのあって眺めがいい,社長なのでいい,時間が自由になる,人間関係に煩わされない,牛のお産が好き,昼寝ができる,など。
メインゲーム

(2)「ロールプレイ」

 農家が獣医師に、獣医師が農家になって、農家の人に自分の農場を訪れた獣医師のつもりで農場の問題点を指摘してもらう。

1) まず、天谷獣医師が農家に,農家のAさんが獣医師になった。Aさんは獣医師になったつもりでA農場の問題を指摘。

  • Aさん,かなりの役者。盛り上がる。自分の農場の問題点を指摘していた。

2) 次にもう一組,Bさん(女性)に獣医師になってもらい自分の農場の問題を,Bさん役のCさんに向かって指摘。

  • 少し戸惑いながらも,Bさん,B農場の問題を語る。
  • 途中から,話しやすくするために,研修生役で天谷さんを投入。

3) 盛り上がった。ゲーム終了後,生産者に感想を求めたところ,客観的に自分の農場をみるのに役立つとの声あり。以下に参加獣医師の感想を列挙。

  • ロールプレイ,難しいのでは。ロールプレイにならずに単に自農場の問題を指摘するだけになっていた。獣医師同士の実演必要では。
  • ロールプレイになっていなくても客観的に自分の農場をみていた。
  • 喋りやすくするために脇役を投入したが,返って役どころが複雑になったのでは。
  • ファシリテート(促進)する人を研修生役で投入し,獣医師役にいろいろ質問してはどうか。
  • 乳房炎多発農家に指導にきた獣医師役,などテーマを絞ってはどうか。
  • ロールプレイ変法:自農場の牛になってブツブツゲーム

    父母を入れ替える。

    親子を入れ替える。


立っている人は獣医役の農家さん、座っている人は天ヶ谷獣医

(3)「搾乳手順紹介ゲーム」

1) ゲーム内容

(1)5分間、床に大の字になって寝てもらい、搾乳時の手順を思い出してもらう(眠ってしまっても可)。

(2) 搾乳のはじめから終わりまでの手順・役割を絵・図・表・文字で描いてもらう。

(3) 描き終わったら、その図に、以下のシールを張ってもらう

青シール:ちょっと工夫したり、気をつけているところ。ここは良いというところ。

黄シール:そのうち改善したほうがいいところ

赤シール:すぐに改善したほうがいいところ

(4) お互いに紹介しあう

2) 全員が文字で搾乳手順を書いた。書いた紙をホワイトボードに貼り,一人一人説明。みんなとても上手に,かつユーモアを交えながら搾乳手順を紹介した。夫婦や親子で一緒に紹介した農場もあった。夫婦漫才を聞いているようなおもしろい夫婦もいた。きっとおもしろく喋ろうとしていないところがおもしろいのだろう。

3) 他人の農場の搾乳手順は知らないので参考になったとの声あり。また,メモを取っている人もいた。船橋の会で農場の役割分担を紹介しあったときもそうだったが,他人の農場の様子を紹介しあうのはみんな興味を示す。

4) シールが貼られた項目は以下の通り。 

青シール: 器具の消毒。缶の消毒。前搾り。前搾りでおかしいとすぐわかる。プレディッピング。ペーパーで拭く。一頭一布。乳房を布で拭く。4本同時にミルカーをはずす。適当なときにユニットをはずす。初乳・乳房炎のチェック。
黄シール:  前搾り。器具の洗浄。
赤シール: 後搾り(もみ搾り)をする。牛糞をかく

5) 一頭一布,注意して前搾り,ペーパーで仕上げ拭き,前搾りは専用容器にすてる,などを実施している農家の声が,未実施農家に好影響を与えることを期待。

6) 以下に参加獣医師の感想を列挙

  • 後半では,発表を終わった人たちが雑談していた。発表者は話を聞いている獣医師に向かって喋っていた。
  • 5分間寝るのはよかった。
  • 他の農家が実施していること,実施していていいことには興味を示す。それを紹介するゲームの考案を。
  • 手順をかいた図の説明が一巡したあと,その説明図を壁に貼りっぱなしにして,青丸を中心に振り返るのはどうか。青丸の利点などを質問しながら。
  • せっかく描いた図なので,この図を使ってのゲームを展開してはどうか。
  • 今後考えられるゲーム
    お薦めゲーム: 青丸をつけた項目などで,実施してよかったことを紹介しあうゲーム。
    ディベート  : 一頭一布実施派と非実施派にわかれてディベートする。実施派・非実施派は,実際の実施未実施と関係なくグループ化 or not。

(4)「それは無理よゲーム」

1) このゲームは盛り上がらなかった。反応悪く発言とても少なかった。以下にゲーム内容。

(1) 今まで診療所・家保・関係機関に指摘された指導事項で、わかっちゃいるけど実施できなかったこと、実施しなかったことを列挙してもらう。

(2) 実施できなかった、または実施しなかった理由を列挙してもらう。

(3) 各自が青シール5枚?、赤シール5枚?を持ち、1)の列挙カードに貼る。

青:やらなくて良いでしょうシール。

赤:やったほうが良いでしょうシール。

(4) 赤シールの多い項目について、どうすれば実施できるかを話し合う。

2)(1)の問いかけによる農家の発言(指導されたのに実施できなかったこと)は以下の通り。

 牛の淘汰,一頭一布,牛床マットを敷くこと,あと搾りをやめること,前搾りをすること,

 長年やっているので聞く耳を持たない,乾乳前治療。

3) 発言はほとんどなく誘導してようやく話がでる程度だった。このゲームそのものに無理があるのか。または地域的特性か? またはみんな疲れたか?

4) このゲームはこちらの意図(正しい搾乳手順を実施してもらうこと)をかなえられるゲームとして考案しただけに残念。

5) 以下に参加獣医師の感想を列挙

  • 獣医師に対する遠慮があるのでは。
  • 都市部の酪農家だったらガンガン発言があるのでは。
  • はなから指導事項を聞き流していて,それは無理とも思っていないのでは。
  • ほとんど,指導事項は実施しているのでは。
  • これは今実施していないことを聞いているが,実施しないことで何か問題が生じているのだろうか。何か問題が生じてるかにまず焦点を当てて,それは何が原因か,どうすればいいか,という流れのほうがいいのでは。
  • 今後考えられるゲーム
    新それは無理よゲーム:プチ講習会によって推奨される搾乳手順を図示。その流れ図に,「それは無理よシール(赤)」と「やってるよシール(青)」を貼ってもらう。そして赤シールの項目についてなぜ無理なのかを考えてもらう。青シールの項目は実施してよかったことを答えてもらう。項目によっては赤・青が両方貼られることもある。双方の意見をよく聞く。

(4)+α 「乳房炎の原因は何だゲーム」

 前記ゲームがあまりに盛り上がらないので困っているときに,農家から「こんな時乳房炎が多いんだ」という発言があり,それを受けて急遽実施。いずれにしても急ごしらえのゲーム+時間もない,という中途半端なものだったが,農家の発言量は「それは無理よゲーム」より多かった。もう少しスタイルを練れば使えるゲームになるかも。

1) 「乳房炎の原因は何だと思いますか?」「どういうとき乳房炎になりますか?」と問いかけた。農家の発言を,メモ書きし壁に添付。発言内容は以下の通り。

  発情のとき,気を抜いて搾乳しているとき,湿度の高いとき,牛に抵抗力がないとき,高蛋白のエサを給与しているとき,搾乳機械の調子が悪いとき,過搾乳したとき,乳量とエサの量があっていないとき,牛床からうつる,

2) 実施しなかったが,このあとは,列挙したメモのグループ化,自分ちはここが悪いシールを貼る,どうすればいいかの話し合い,などがこのゲームの流れになるのか。

 

エンディング

(5) 「こんがらがりゲーム」

1) 残り時間少なかったが簡単にできるので実施。とても盛り上がり,かつ示唆に富んでいた。

 ゲーム後みんなに感想を聞きたかったが時間なかったので省略。ゲーム内容は以下の通り。

(1) まず、1人(獣医師役)を除いた全員(18人)が手をつなぎ輪になる。つないだ手を離さずに他人の手の下をくぐることを繰り返して「もつれた状態」を作る。この「もつれた状態」がこんがらがった問題を抱えた農場を現す。獣医師役の人が言葉で指示してそれをほどきもとの輪に戻す(1分20秒かかった)。

(2) 次に同じようにもつれた状態を作り、今度はもつれた18人だけで自主的にもつれをほどく(20秒ですんだ)。

2) ゲーム終了後,「ねっ,獣医師はあまり役に立たないんです。自分たちの問題は自分たちで解決する方が早いんです。僕たちはそのお手伝いをしますから何でも相談して下さい」と挨拶し,ワークショップを終える。

3) 当初はこのゲームを冒頭で実施する予定だったが最後に実施。盛り上がるので最後に実施したほうが有効か。あるいはなじみのない人同士の参加者を対象にするワークショップでは,最初に実施しみんなの緊張をほぐすのも手か。

 

評 価

 5段階の評価表を3枚作り、自分の思うレベルにマジックで丸を書いてもらった(質問内容と結果は冒頭に記述)。

1) 男性は黒,女性は赤,の区別くらいはしてもよかったかも。

2) 他にどんな質問があるか?  「参考になる情報は得られましたか?」など

 

フォローアップ

 この地区担当の獣医師には診療の合間に,このワークショップがどうだったか,何を思ったか,何か変わったか,何か要望はあるかを,農家に聞く。また,搾乳手順紹介ゲームで知った情報を活用し,個々の農家の搾乳手順のさらなる向上をめざす。

 

○ まとめ

 生産者のみなさんは極めて好意的にゲームに参加してくれた。大いに盛り上がり楽しいひとときを過ごした。それ故に「それは無理よゲーム」での発言が少なかったとも考えられる。

 ワークショップを計画した上で留意したことは,第1に楽しいこと,第2に生産者の自主的な生産性の向上へ向けての活動を引き出すこと。この会を終えて自己評価すると,第1に関しては90点,第2に関しては40点か。今後は,第1の条件は押さえつつ,情報の共有をすすめるゲーム,いいことを実践したくなるゲームなどを考案し試行していきたい。

 

 上記のようなワークショップに興味のある方,自分の地域でやってみたい方,

こんなゲームはどう? という方,現在仲間づくり実施中!


天谷獣医師が事後に聞き取ったワークショップ参加生産者の感想・意見

2005年11月

○ 内容についての生産者の感想

  • 講義形式でなかったのが良かった。乳質の悪い人にとってはやんわり・じんわりと
    した伝わり方ができて良かったのでは。
  • 搾乳手順をいきなり書けと言われても多少とまどった。
  • 主催者側の意図は理解できたが、いまひとつ何をやっているのか理解できなかっ
    た。(この意見も多少ありました)
  • 最後に乳房炎になる原因はなにかとの質問に対しわれわれが答えていたが、そのこ
    とに関連したことについて、家保の先生方もいたのでなにかコメントがほしかった。
  • 皆さんの搾乳方法が知ることができてよかった。(ほとんどの人がこの意見でした)
  • ゲーム自体があまり理解できなかった。
  • 他所の農場の搾乳方法を知ったところで意味がないと思いました。
  • せっかく飲み物とお菓子を用意したのでお茶の時間もほしかった。

○ 今回この集まりで得たことを自分の農場に何か取り入れましたか?

  • ミルカーの能力が低下してきているので検討したい。
  • 搾乳時のライナースリップに注意したい。
  • 個人的には役立つものはなかった。
  • 搾乳方法を改善するように言われているがまだ実施していない。
  • 前搾りについて意見がでた。要注意な牛のみに前搾りをしているがとりあえず継続
    していきたい。
  • 現在のところ非常に悪い状態でないかぎり、自分の搾乳方法を変えることはないの
    では?
  • 最近、自分の農場の現在の問題点を牛舎のボードに書き出した。また、併せて過去
    の乳量も書き出してみました。
  • 搾乳に関して新たに取り入れたり改善した農場は1農場のみ(酪農協指導対象農場の
    ため)。

○ 天谷獣医師のコメント
現在、体細胞が悪い農場に対して南部家畜診療所ならびに南部家保により搾乳立会いを実施しているが、それと平行して少人数による(今回のような地区単位)参加型手法をもちいた講習会を展開していけるかどうか?展開していけたらよいのではと考えていましたが、A町を見るかぎりでは、なかなか簡単にはできなかったな(セッティングと乳房炎防除対策)と思いました。しかし、このくらいの人数で酪農家と楽しく過ごすことができたのはお互い有意義だったのでは。頭の片隅にはこちらの意図したことが少なからずインプットされたような気がします。これを機会にそのレベルを下げないように日頃の診療の合間に農家とコミュニケーションしていければ良いなと考えています。

以上。

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