バレイショ遺伝資源開発学講座

国立大学法人 帯広畜産大学
〒080-8555 北海道帯広市稲田町西2線11番地

2016年度次世代バレイショセミナー 発表要旨集


「日本農業の現実を知ろう: 研究者たちも凋落の共犯ですよ!」

松尾 雅彦
カルビー株式会社

    農業という産業は、1960年代から70年代にかけて、有史以来の歴史的変化が訪れた。供給不足社会が過剰供給社会に変貌したことと、それに伴う人々のライフスタイルの変化は、それまで加工食品や外食サービスにより供給されていたものが倍増して、家庭で調理されるものは半減した。この社会の変化に日本の農業に係る研究者や行政の当事者は適応を欠き、企業経営者はその機会を捉えて海外産の作物に依存した食料供給システムを日本社会に根付かせてしまった。
 研究者にとって新たな役割は、社会の構造的な変化に対して別のセクターとの連携の開発であった。地消地産、農工一体、耕畜連携の3つのコンセプトが提唱されたが、連携関係を適切にリードできるには研究部門の開発努力が必要で、それにいち早く取り組んだのは米国の州立大学や欧州の大学であった。しかもその連携はバレイショ産業で有効であった。従来野菜の類で取り扱われていたバレイショが、小麦や米と並んで穀物として重視されるばかりか、食料産業のグローバリゼーションの先頭に立っている。
 連携問題が特に重要なのは、農村は共同体を形成できて競争力となる。農家と加工業者、あるいはサービス業者や消費者との最適をめざす知の集積が農村の中核都市で進めば、農村は元気が出るのである。食料のグローバリゼーションとサスティナビリティの確執は、まだ始まったばかりと言って過言ではない。十勝は水田のない日本第一の農産地域である。次世代バレイショセミナーに期待する所以である。


「植物共生科学から考える循環的な農業・ジャガイモ栽培」

池田 成志
北海道農業研究センター

    近年の植物共生科学の発展は植物や動物を中心に議論されてきた従来の農業科学を見直す機会の提供につながると考えられる。21世紀初頭から始まったヒトの共生科学研究によりヒト共生微生物の重要性が医学的に証明されたように、植物共生科学の知見は農業や農学の発展につながる形で社会に還元されるべきである。特に、資源問題や環境問題を解決するために農業の持続性を考える場合は、共生科学の知見や共生微生物の機能の活用が必須であると考えられる。農業生産性を維持しながら物質投入量を抑制するためには、炭素や窒素などの主要な元素を農耕地生態系において循環させ、できるだけ系外への物質の流出を抑制する必要がある。この物質循環機能の重要な部分を担っているのが、植物共生微生物である。炭素や窒素、貴重なミネラル類の固定や循環を行うことで、肥料等の投入量を抑制できる。また、植物共生微生物は多様な病原微生物と拮抗することにより病害を抑制する機能も有している。さらに共生微生物は微生物自身が有する代謝機能を通して植物の物質代謝を改変し、害虫や益虫、病原微生物、動植物などの他の生物との相互作用にも影響を及ぼす力をもっている。これらの共生微生物の機能は必ずしも農業生産にとって都合の良いものばかりではないこと、即ち、共生微生物には有用微生物と有害微生物が存在することを認識する必要がある。近年開発された最新技術を活用して、植物共生系の多様性と機能性の網羅的解明を行い、農業的視点から多様な微生物についての有用性と有害性の地道な検討作業が必要である。
 化学農薬や化学肥料でもメーカーが指定する適切な使い方があるように、微生物資材・微生物農薬についても効果的な使い方や、効果が発揮しやすい農業環境などの条件があるはずであるが、従来までの植物病理学や土壌微生物学には、そういう生態的な視点に着目した農業微生物研究は皆無であった。いつでも、どこでも高い有用効果を発揮する夢の有用微生物を追い求め、ひたすら接種試験を繰り返してきた、というのが実情であろうと思われる。これらの研究を生態的視点から見直すと、そもそも試験に使用していた土壌の物理・化学的性質、肥料の施用量、光条件、栽培密度など、植物・微生物相互作用に大きな影響を及ぼすであろうと思われる環境因子に対しての考察はほぼ皆無のまま研究が進められてきたことは明らかである。結果として、このような視点に基づいた有用微生物の生態的情報の欠落が従来までの農業における微生物利用の停滞の一番大きな原因の1 つであったように思われる。
 北海道農業研究センターでは、上記のような反省から、植物に親和性の高い微生物群の中から有用微生物を選抜し、物理的・化学的環境な環境因子との相互作用も考慮した実用的な農業微生物の利用技術の開発を目指した研究を進めている。減肥料・減農薬や、「おいしさ」の持続的技術開発のためには、土着の有用微生物を効果的に活用することが重要であろう。


「革新的懐古的農産物貯蔵が切り開く、本物のフードバレー構想」

山道 弘敬
株式会社TOMTEN

    北海道は寒い冬のために一年一作というハンデがあるが、逆に低温外気や雪・氷といった冷熱がふんだんに利用できる。従来、雪や氷を利用するための貯蔵施設をわざわざ建造して農産物を冷熱で貯蔵する方法が検討されてきたがコスト高となり、思ったようなメリットが出ない。そこで2月までに順次出荷されて空いた貯蔵庫に雪氷を貯蔵して、それも低温外気が利用できる間はできるだけ雪や氷も解けないように保管して、低温外気が利用できなくなる時期がきて初めて冷熱利用を開始することで低温安価な長期貯蔵を推進することを提案する。しかも、熱交換効率が40%と低い従来型の換気システムを採用するのではなく、熱交換効率の高いバラ貯蔵(熱伝導効率100%)やアスパレーションシステム、プレッシャーシステム(熱伝導効率95%)などの作物と強制的に熱交換するシステムを採用して、できるだけ少ない冷熱で冷却保管する方式を採用すべきである。このような方式はジャガイモ・タマネギ・ニンジン・キャベツ・ニンニク・ナガイモその他の作物の低温安価な周年供給を可能にして、北海道への食品加工業誘致に有利な状況を提供することになる。冷熱の有効活用と高効率貯蔵換気システムの組合せは、貯蔵庫の空きスペースを冷熱保管庫として活用する方式の上に設計されれば、北海道のアジアの食糧基地としての価値をより一層高めることが期待されるし、温暖化防止にも貢献して、食品加工業を誘致しやすくして、さらには環境にやさしい農業を推進することにつながるものであり、必ず実現すべき目標として活動している。


「打撲耐性品種の選抜について」

五十嵐 俊哉
カルビーポテト株式会社 馬鈴薯研究所

    馬鈴薯を加工する上で、病障害のある原料が混入すると不良品の発生原因となりさまざまなロスが生じる。馬鈴薯に生じる病障害の中で「打撲」は、もっとも発生率の多い障害であり、「打撲」に強い品種が求められている。そこで「打撲」に対して耐性のある品種を育成するため、2008年より北海道農業研究センターから導入した試験方法を用いて検定試験を行っている。初期は、試験精度が低かった為、①サンプリング方法、②試験条件の予備試験実施、③打撲処理後の貯蔵方法について改良を行い高い精度の試験体制を構築した。本検定方法で、選抜した強打撲耐性品種CP09は、現在、北海道輸入品種等選定試験に供試中である。


「北見農試におけるでん粉原料用馬鈴しょ育種の現状と課題」

大波 正寿・青山 聡
北見農業試験場

    でん粉原料用馬鈴しょは「コナユタカ」(北見農試)や「コナヒメ」(ホクレン)等が育成され、ジャガイモシストセンチュウ(Gr)抵抗性のない「コナフブキ」に置き換わる予定である。これを機に、北見農試の近年の育成系統の特徴および今後の課題をまとめてみた。
    多収性については、Gr抵抗性育種の初期に用いた高でん粉母本「ツニカ」が「コナフブキ」より2割低い能力であったことから、収量性の向上に長い時間がかかることになった。D細胞質の「ムサマル」を母本利用することで多収化を実現したが、花粉稔性がない有望系統が増え、優良父本が一時的に不足した。
    耐病性について、Yウイルス抵抗性の付与には野生種 S. chacoense 由来の Rychc 遺伝子を用いており、多収品種にも抵抗性を付与している。疫病抵抗性の付与には「S. tuberosum ssp. andigena (W553-4)」、「リシリ」の圃場抵抗性を利用しており、有望系統を開発するレベルまで達している。
    今後の課題として、でん粉原料用の遺伝資源が限られており自殖弱勢の懸念を常に抱えているため、現在、帯広畜産大学が作出した多収遺伝資源を利用した高でん粉価・多収系統の選抜に着手している。


「ジャガイモシロシストセンチュウの海外情報」

守屋 明博
ホクレン農業総合研究所

    2015年に国内でジャガイモシロシストセンチュウ(以下、Gp)の発生が初めて確認された。しかし、国内で育成されたGp抵抗性品種は存在せず、抵抗性が期待される遺伝資源も少ない。そこで、Gp抵抗性品種の導入や蔓延防止対策などGpに関わる様々な情報入手するため、イギリス(スコットランド)とオランダを訪れた。イギリス(スコットランド)ではCygnet PBを通じてGp抵抗性品種やシストセンチュウの変遷・対策について情報を入手した。実用的なGp抵抗性品種の数は少なく、ジャガイモシストセンチュウ(以下、Gr)にも抵抗性を示すものとなると「Arsenal」や「Eurostar」の2品種を挙げられた。Gpのみに抵抗性を持っている「Innovator」は交配用母本として活用しており、後代でも抵抗性の強い系統が育成されているとのこと。1960年代のイギリスではGpよりもGrの発生が大半を占めていたが、1980年代になると馬鈴しょの連作が多くなり、一気にセンチュウの発生が拡大した。イギリスではGr抵抗性品種の普及が進んでおり、現在最も作付されている「Maris Piper」をはじめ、Gp抵抗性品種の作付割合は67.5%(2015年主要トップ10から算出)である。しかし、このGr抵抗性品種の普及がGpの発生拡大にも繋がっており、徹底したセンチュウの蔓延防止を考える上ではGpとGrの両方に抵抗性を持つ品種の育成・普及が必要不可欠であると思われる。オランダではAgricoを通じて情報を入手した。オランダは国が輪作体系を徹底管理しており、種苗会社の出資で開発されたセンチュウ防除プログラム「NemaDecide」が2006年から使われている。このプログラムでは、品種情報はもちろん、純利益計算、収量損失やセンチュウ密度を予測することなどができる。現在、AgricoからGp抵抗性品種「Arsenal」と「Energie」の導入を進めており、北海道での地域適応性確認や交配用母本としての活用を目指しています。


「ジャガイモ疫病抵抗性育種への取り組み」

Meki Shehabu Muktar・保坂 和良
帯広畜産大学 バレイショ遺伝資源開発学講座

    Phytophthora infestans is an oomycete pathogen most damaging on potato and tomato causing late blight disease wherever the crops are grown. The yield losses caused by and the cost to control the pathogen estimated in billion dollars every year worldwide. In the project, we aimed to detect diagnostic DNA markers for resistance to P. infestans in candidate genes and genome wide association studies (GWAS). Diagnostic DNA markers facilitate breeding processes and improve selection precision. Fifteen candidate genes and four SolCAP SNP markers were selected based on their association and or linkage with resistance to P. infestans in previous studies on German tetraploid potato populations. A total of 237 single nucleotide polymorphism (SNP) markers derived from the candidate genes and the SolCAP SNP markers were tested for their correlation with resistance on Japanese tetraploid potato genotypes. A simple correlation analysis showed the reproducibility of three SNP markers from each of AspS (asparagine synthetase) and MTF (methyltransferase) loci and detected a new Indel marker from AspS locus. For GWAS, novel association panel population composed of 330 tetraploid potato genotypes including most of Japanese known varieties, cultivars, and breeding clones was assembled and phenotyped for resistance to P. infestans under field (AUDPC =Area Under Disease Progress Curve) and controlled conditions in detached leaf assay (DLA). GWAS was employed on a subset of 62 genotypes for which the SolCAP SNP data have been already available. Genome wide markers-trait analysis that corrected for population structure and relatedness among genotypes detected eight SolCAP SNP markers associated with resistance to P. infestans in AUDPC and another eight markers in the DLA phenotyping analysis. Four SolCAP SNP markers were associated with resistance to P. infestans both in AUDPC and DLA evaluations. The markers detected by candidate genes and genome wide SolCAP SNP markers association analysis can be used in and or verified by marker assisted selection.


「ジャガイモ疫病と塊茎腐敗に関する最近の話題」

上堂 陽葉・大澤 央・秋野 聖之
北海道大学大学院 農学研究院 植物病理学研究室

1.長崎県で発生した秋作の欠株の病原および北海道で発生した貯蔵腐敗の病原を分離・同定した。形態学的観察・DNA塩基配列解析から、これらの病害はFusarium属の複数種によるジャガイモ乾腐病である可能性が示唆された。本病原菌は長崎県・北海道の土壌中に普遍的に存在している可能性がある。
2.2016年の日本で採集されたジャガイモ疫病菌の一部を用い、メタラキシル-M (Met-M) 感受性と系統分布を調査した。北海道ではMet-M感受性菌株のJP-4が高い割合で確認され、長崎東部ではMet-M中間耐性菌株のJP-3が約半分ほどの割合で確認された。
3.無傷の塊茎に疫病菌を接種し土壌に埋没しても発病することなく維持されたが、これを1週間ごとに回収して付傷培養すると8週間目まではその10〜40%で発病することが確認された。疫病菌は好適条件下では無傷の塊茎表面で2ヶ月以上生存できることが示された。