バレイショ遺伝資源開発学講座

国立大学法人 帯広畜産大学
〒080-8555 北海道帯広市稲田町西2線11番地

2015年度次世代バレイショセミナー 発表要旨集


「十勝地域での種馬鈴しょ栽培について」

山中 功
十勝農業協同組合連合会 農産部農産課

    種馬鈴しょ生産の一番の特徴は、受粉によってできる真正種子を用いて増殖する米や小麦等の種子と異なり、栄養体(いも)自体を「種いも」として増殖に用いるため増殖倍率が低く(10~15倍程度)、一般馬鈴しょ生産者に種馬鈴しょを供給するのに数年掛かることである。種馬鈴しょに求められる品質で重要なのは、「ウイルス病等に罹病していない無病な種いもであること」、「形質が安定していること(男爵薯の種いもを植えたら間違いなく男爵薯が生えてくる)」である。また、日本の種馬鈴しょ生産において最大の敵は「ウイルス病」であり、ウイルス病はアブラムシによって伝播されるため、健全な種馬鈴しょを生産する為には周辺にある一般馬鈴しょほ場のウイルス病対策も重要である。十勝地区においても昭和48~50年に一般馬鈴しょほ場でウイルス病が大発生し多大な被害を受けた。それ以降、一般馬鈴しょほ場の種子更新推進の徹底や、種馬鈴しょ生産団地の集約化、旧国営(現在の独立行政法人)馬鈴しょ原々種農場周辺の馬鈴しょほ場の環境改善を目的とした農場周辺環境浄化協議会の設立等の対策を取る事によって、健全な種馬鈴しょ生産に努めてきた。


「北海道におけるばれいしょ栽培技術のあゆみ」

松永 浩
北海道立十勝農業試験場 地域技術グループ

    昭和26年以降北海道農業研究センターおよび北海道立総合研究機構(農業研究本部)で実施されたばれいしょの栽培に関わる試験成績を紹介した。部門別では病虫関連54課題、土壌肥料関連24課題、栽培法関連31課題、農業機械関連18課題の計127課題であった。病害虫関連では疫病、また種いも栽培に関連してウイルス関係の課題が多かった。また、疫病の発生予察システム(FLABS)は実用化され運用されている。土壌肥料部門では窒素施肥に関する課題が重要である。以前の収量重視の多肥傾向から、品質(でん粉価等)を重視した施肥が行われるようになってきている。また、施肥量を決定するための土壌診断法の開発も進んでいる。その他に消費者の安心・安全の要望に応えるため有機栽培関連の課題も実施された。種いも栽培関連では秋作の試験も行われている。栽植密度関連では品種ごとの茎密度の目安が示された。これからの課題としては、温暖化対策、農業就業人口の減少に伴う大規模化に対応した高能率な機械の開発等がある。講演後の論議の中で収量の年次安定性に着目した試験について重要性が指摘された。


「暖地二期作における栽培事例(マルチ、種いもの違いによる作型の多様化)」

森 一幸・坂本 悠
長崎県農林技術開発センター 馬鈴薯研究室

    長崎県のバレイショの暖地二期作の春作マルチ栽培における作型の多様化した背景には出芽時期の霜害の回避、出荷時期の単価、産地の輪作体系などが関係している。植え付けに利用する種いもは、温蔵処理による休眠打破や冷蔵処理により休眠明けを抑制するなど作型に適応した種いもを選択している。また、出芽時期の霜害、高温障害の回避のために、産地では、透明ポリフィルムや黒ポリフィルムなどを利用し、出芽時期の調整、収穫時期の調整を行っている。種いも選択とマルチ資材の利用により、収穫時期の前進化、収穫時期を労力分散でき、規模拡大や多品目との輪作体系が確立されている。暖地における栽培試験の一例として、「さんじゅう丸」の秋作普通栽培における出芽安定対策技術の開発について紹介した。本品種は、夏期の高温により、種いもの休眠明けや出芽が不揃いとなることがあることから、種いもの貯蔵時、種いもの切断時および植付け後のそれぞれの時期の対策として、貯蔵温度管理、切断面の乾燥処理および圃場灌水処理を行うことで、出芽の安定化が可能となった。


「暖地二期作におけるPVY抵抗性育種と方向性」

森 一幸・坂本 悠
長崎県農林技術開発センター 馬鈴薯研究室

    バレイショ新品種は国内の育種機関で調理特性や食味などそれぞれ特徴が異なるものが育成されているが、消費者がいもの外観、肉色などで見分けることが難しい。一方で、健康と安全志向の高まりとともに、農産物にも機能性といった付加価値を消費者は求める傾向がある。バレイショでも機能性成分のカロテノイドを含み極良食味の「インカのめざめ」が育成されているが、暖地二期作栽培で栽培すると、いもが小さく、少収で、国内で発生が問題となっているジャガイモシストセンチュウ(PCN)やジャガイモYウイルス(PVY)に抵抗性がなく、適応性が低かった。そこで、暖地二期作の主要品種「ニシユタカ」の外観と明らかに区別性があり、「インカのめざめ」より多収で、カロテノイドを含み、PCNやPVY、青枯病に強い複合病虫害抵抗性で良食味の「ながさき黄金」を育成した。
    バレイショは同質四倍体で、4つの染色体上に1つでも抵抗性遺伝子が存在すると抵抗性を発揮できる。しかし、抵抗性遺伝子の遺伝率は、抵抗性遺伝子を1つ持つ個体と感受性個体との交配による抵抗性個体の出現率は約50%である。一方、2つの抵抗性遺伝子を有する個体を交配親に用いると抵抗性個体の出現率は約80%となる。そこで、抵抗性品種の効率的な育成のために、リアルタイムPCRによる多重式判定技術およびDNAマーカー検定からPVY抵抗性遺伝子Rychcを二重式に有する「愛系230」を選抜・育成した。本系統は花粉親、種子親として利用でき、効率的にPVY抵抗性遺伝子Rychcを導入できることが明らかになった。


「SNPマーカーを利用したバレイショの品種識別」

佐々木 晴充
帯広畜産大学 バレイショ遺伝資源開発学講座

    品種の正確な識別と多様性を明らかにすることは、遺伝資源の管理や育種において重要である。わが国では、RAPD法を用いた品種識別(Mori et al. 1993)や類縁性の評価(保坂・小川 1994、Hosaka et al. 1994)、およびSSRマーカーを用いた育成品種や在来バレイショの識別(朝野ら 2008、野口ら 2009)などがこれまでに報告されている。しかし、RAPD法では再現性が低く、SSRマーカーでは普通バレイショが同質四倍体であり、かつヘテロ接合性が高いことからバンドパターンの判別が難しい。そのため、より簡便で正確な識別方法が望まれる。 一塩基多型(single nucleotide polymorphism, SNP)とは、ゲノム配列中で、あるひとつの塩基が他の塩基に置換することで生じる多型である。本研究では、SNPを利用してバレイショ品種の識別を試みた。
    104品種・系統(62農林認定品種、18育成品種、17海外品種、4在来品種、3育種系統)を用いた。SNP部位における塩基構成比の調査は、サンガー法と比較して一塩基の違いをより正確に判別することができるパイロシークエンサーを用いた。
    まず、代表となる8品種において、12遺伝子領域のSNPをサンガー法により調査し、既報を含む102SNPsを見つけた。次に、104品種において、12遺伝子領域に設定した18シークエンスプライマーを用いて53SNPsを調査したところ、104品種中、「春あかり」と「さんじゅう丸」、および「インカのめざめ」と「北海98号」を除く、100品種を識別することができた。さらに、これらの識別には、最少7シークエンスプライマーを用いて検出される12SNPsを利用して100品種を識別することが可能であった。また、一部の品種では、DNA抽出日が異なるサンプルを用いて再現性を調査し、これら12SNPsを含む少なくとも43SNPsにおいて同一の結果が得られた。
    したがって、パイロシークエンスを用いたSNP検出による品種識別法は、再現性が高く、識別能力の高い手法であると考えられる。


「バレイショ細胞質ゲノムに関する最近の知見」

保坂 和良
帯広畜産大学 バレイショ遺伝資源開発学講座

    北米産バレイショ品種153品種は、日本、ヨーロッパ、および国際バレイショセンターの品種・系統に比べ、T型細胞質ゲノムを持つ品種の割合が高く(84.3%)、逆にD型(12.4%)、P型(0.7%)、およびW型(2.6%)を持つ品種の割合は低かった。これは歴史的に病害による切迫度が低かったことを反映していると考えられる。
    メキシコ産野生4倍種Solanum stoloniferumに由来するジャガイモYウイルス抵抗性遺伝子の利用に伴い、本種が持つ雄性不稔を引き起こすW/γ細胞質ゲノムが欧州品種に広がっている。全てのS. stoloniferumの細胞質ゲノムが雄性不稔を引き起こすのか、それともW/γ細胞質ゲノムに限られるのかを明らかにするため、S. stoloniferumの細胞質ゲノムの多様性を調べた。W/γ型の細胞質ゲノムを持つものは10系統(25.6%)に過ぎず、W/α(10.3%)、D/γ(46.2%)、およびD/α(17.9%)型を持つものがあることが明らかとなった。
    T型細胞質ゲノムとP型細胞質ゲノムの農業形質に及ぼす効果を明らかにするためAtlantic(T型)と10H17(P型)の正逆交雑集団を比較した。草丈、イモ収量、およびイモの肉色には有意差は認められなかったが、T型細胞質ゲノムを持つものは、開花率が低く、花粉稔性も有意に低かった。


「ジャガイモ疫病菌のレースと塊茎腐敗に関する最近の話題」

福江 由佳・大澤 央・秋野 聖之
北海道大学大学院 農学研究院 植物病理学研究室

1. 2012 - 2014年の疫病菌の遺伝子型構成はオホーツク沿岸地域ではJP-4が多く、十勝地方ではJP-3からJP-4へ、道央地方ではJP-4からJP-3へと変化している傾向が認められた。2014年に上川および道南地方で分離されたものはすべてJP-4であった。今後もその変化に注意する必要がある。
2. 2013 - 2014年の北海道由来の29菌株(旧型および新型JP-3とJP-4)には抵抗性遺伝子 R2・R6・R9 を持つジャガイモ系統を発病させるものはなく、R5・R10・R11に対しては3つの遺伝子型菌株で発病頻度に差があった。さらに供試菌株数を増やしてこれらの特徴を明らかにしたい。
3. 疫病菌の遊走子のうは土壌を透過しにくく、また無傷の幼若塊茎は疫病菌に接触しても容易に感染・腐敗しなかったが、傷のある塊茎は容易に感染した。菌が存在する場合には栽培中だけでなく収穫時の塊茎感染にも注意を払う必要があると考えられた。