バレイショ遺伝資源開発学講座

国立大学法人 帯広畜産大学
〒080-8555 北海道帯広市稲田町西2線11番地

2014年度次世代バレイショセミナー 発表要旨集


「グリコアルカロイド生合成経路の解明と含まない野生種の発見・再発見」

梅基 直行
キリン(株) 基盤技術研究所

    グリコアルカロイドはジャガイモに含まれるステロイドグリコアルカロイド(SGA)で、ソラニンとチャコニンに代表される物質である。ジャガイモ塊茎にSGAが低い濃度で蓄積する場合は、「えぐい」の不良味覚の原因となる。光照射等で緑化した塊茎表皮近傍と、塊茎からの萌芽にはSGAが特に高い濃度で蓄積するため、人を含めた動物に対して中毒の原因になる。SGAの成立過程に対する草食動物との共進化の仮説と、共同研究者との生合成経路の研究よる6つの生合成遺伝子の解明を報告した。現在、Tilling法による変異体取得やTALENを利用したNBT研究とともに、野生種の見直し・利用の可能性についても検討をすすめている。野生のジャガイモ類は約200種が知られ、北米の米国南西部からメキシコ、中米、南米のアンデス地帯、アルゼンチン、チリに至る広い南北に分布している。野生種に対する遺伝子解析や蓄積物質の解析を行ったところ、メキシコ、ボリビア、ペルーと分布を異にする野生種にSGAを含まない野生種を発見・再発見した。交雑可能な野生種を用いた今後の育種活用の見通しについて報告した。


「消費者が求めるポテトチップスの品質特性 〜 作り上げるためにはどんな馬鈴薯が必要か? 〜」

川崎 滋生
カルビー株式会社

    


「カルビーのじゃがいも栄養機能性研究」

須藤 麻里
カルビー株式会社 研究開発本部

    じゃがいもの塊茎にはビタミンC、葉酸などのビタミンB群、ミネラル、クロロゲン酸をはじめとするポリフェノールなど様々な栄養成分や機能性成分が含まれており、ポテトチップスにはフライ調理の脱水効果によりこれらの成分が濃縮されている。ヒト試験により、ポテトチップスに含まれるビタミンCは体内に吸収され血中に移行し、尿から排泄されにくいことを確認した。また、マウスにポテトチップスを摂取させたところ、臓器・組織中のビタミンCは増加し、活性酸素種は減少することを見出した。葉酸についても、ヒト試験により体内に吸収されることを確認した。さらに、ポテトチップス製造時に廃棄されている塊茎の皮に着目し、そのエタノール抽出物のマウス小腸パイエル板への影響を検討したところ、ThバランスをTh1優位にする作用を見出した。これは、皮に抗アレルギー成分が存在する可能性を示している。


「新規機能性成分探索に向けたじゃがいもフラクションライブラリーの作製」

野川 俊彦1・二村 友史1, 2・岡野 亜紀子1・長田 裕之1, 2
1理化学研究所環境資源科学センターケミカルバイオロジー研究グループ
2理化学研究所長田抗生物質研究室

    我々の研究室では、微生物からの有用代謝産物(バイオプローブ)の探索にフラクションライブラリーとオリジナルのデータベースNPPlot(Natural Products Plot)*を用いている。フラクションライブラリーとは抽出物をHPLCなどにより系統的に分画したもので、各フラクションにはLC/MS分析による含有成分の物性情報が付加されている。これを用いることによって新規化合物の発見効率を向上できることがわかってきた。この方法を植物、特にじゃがいもの新規機能性成分探索に応用した。じゃがいもサンプルはカルビー株式会社より提供頂き、品種、産地、部位(葉、茎、花など)で分類することで42種の抽出物を調製した。これらをもとに分配操作、MPLC分画により約1,300フラクションを作製した。これらは一部を溶液化し各種活性評価用に保管している。既に行った活性評価の結果からいくつかのフラクションに興味深い活性を見出した。今後、含有成分の同定を進めていく予定である。
*Current Opin. Chem. Biol. 2012, 16, 101-108; Pure Appl. Chem. 2012, 84, 1407-1420


「細胞質型から見たヨーロッパのバレイショ遺伝資源の多様性と農業形質への影響」

實友 玲奈
帯広畜産大学 バレイショ遺伝資源開発学講座

    母系遺伝をする細胞質ゲノムはバレイショ栽培種において6つのタイプ、T型(普通バレイショ型)、D型(S. demissum型)、P型(S. phureja型)、A型(ssp. andigena型)、M型(祖先種型)およびW型(野生種型)に分類することができる。この分類体系に基づいて日本、ヨーロッパおよび国際バレイショセンター(CIP)の遺伝資源における細胞質型を決定しそれら3ヶ所の集団を比較することで細胞質の多様性を評価した。すると日本ではT型が7割以上を占めるのに対して、ヨーロッパとCIPの集団では細胞質雄性不稔を起こすD型とW型中のW/γ型が集団中の約半数を占めていた。このことから、現在の育種では花粉親として育種に利用できる遺伝資源が限られてしまっていることが判明した。
    また、ヨーロッパの遺伝資源とそれぞれの形質データを用いて細胞質型の違いが農業形質へ及ぼす効果について調べた結果、デンプン価、打撲耐性、塊茎形および収量について細胞質型と高い相関が見られた。さらに、疫病抵抗性とD型細胞質との間で非常に強い相関が見られた。ことから細胞質の影響が強く農業形質および抵抗性に関わっていることが明らかになった。一方、細胞質ゲノムは常に核ゲノムと相互作用していることから、今後さらに厳密に細胞質のみの効果を明らかにする必要も示唆された。


「病害虫抵抗性遺伝子数の迅速推定法の開発」

浅野 賢治
北海道農業研究センター 畑作基盤研究領域

    同質四倍体であるバレイショでは、最大4つまで同一の抵抗性遺伝子を持つことが出来るが、抵抗性遺伝子の数によって後代における抵抗性個体の出現頻度は大きく異なる。同一の抵抗性遺伝子を多くもつ方が、交配後代での抵抗性個体の出現頻度が高くなるため、多重式個体を親として用いた方が効率的な育種が可能となる。これまで抵抗性遺伝子数の検定は後代検定により行われてきたが、後代検定には多大な労力を必要とする。そこで後代検定に代わる効率的な検定法として、定量PCR法によるジャガイモシストセンチュウ抵抗性遺伝子H1数の検定法の開発を行った。8つのハウスキーピング遺伝子について、32品種・系統での増幅を比較した結果、aprtが最も品種間での差が無く安定的に増幅することが明らかとなったため、内部標準遺伝子としてaprtを用いた。H1に連鎖するマーカーN195及びaprtを用いて定量PCRを行った結果、相対増幅量は遺伝子型間で明確な差が見られ、抵抗性遺伝子数を判別することができた。また、Rychcに連鎖するマーカーRY364を用いることでRychcでも多重式遺伝子型個体の選抜が行えることが明らかとなった。


「バレイショの新しい品種改良法について」

原田 竹雄
弘前大学 農学生命科学部 育種・遺伝学研究室

    我々が開発した新育種技術(NBT; New Plant Breeding Techniques)、「接ぎ木を介してサイレンシングシグナルを輸送して接ぎ木相手にTGS(transcriptional gene silencing)を発動させるシステム」をジャガイモで試みた。先ず、モデル実験として、35S:GFP導入ジャガイモの培養シュートを台木として、その35SプロモーターをターゲットとするsiRNAsを伴細胞で特異的に産生するCoYMV:35SIR導入タバコを穂木(siRNAドナー)としたヘテロ接ぎ木を行った。その結果、台木ジャガイモの根にGFP蛍光の弱化が現れた。また、この台木より形成された塊茎(MT; Micro Tuber) においても同様の結果が観察され、さらに、このMTからの発芽シュートにもターゲット領域のメチル化、GFP遺伝子の転写抑制があったことから、安定したエピジェネティックの変化の維持が確認された。
    実用化に向けた実験として、ジャガイモVacuolar Invertase(StVinv)遺伝子のプロモーター領域(-1042 ~ -37 bp)のInverted Repeat(IR)構造35S:StVinvproIRを導入したジャガイモを作出したところ、ターゲット領域のsiRNA産生と同領域のメチル化度の上昇が確認された。また、StVinvは低温貯蔵により発現上昇するため、4℃で貯蔵したジャガイモでのmRNA量を解析した結果、35S:StVinvproIR導入ジャガイモはWTに比べ5割ほど減少していた。この形質転換体を穂木、WTジャガイモを台木とした接ぎ木を行い、台木の根からの再分化体を獲得した。これらの再分化体に導入遺伝子が存在しないことを確認しメチル化解析をした結果、StVinvターゲット領域のメチル化度が上昇していた。現在、有望な系統を特定してその増殖を図っている。


「バレイショの根系改良:耐乾性と収量性の両立にむけて」

出口 哲久
北海道教育大学札幌校 総合学習開発専攻

    北海道大学では根系改良によるバレイショの耐乾性向上を目指し、根量の多い“根優”品種を育成した。根優品種が乾燥条件下で収量を維持することはすでに報告されているものの、根系機能に関する生理的な知見が不足しており、今後さらなる根系改良を進めていくうえでの課題となっていた。そこで根優1,2,4号および根量の少ない対象品種コナフブキを潅水および乾燥条件下において栽培し、根量、深根性、土壌水分吸収などを評価すると同時に、それらが生育および塊茎収量におよぼす影響を検討した。コナフブキと比較して、根優品種は根量、深根性、土壌深層からの水分吸収に優れており、乾燥の強い年次において生育終盤の塊茎肥大の維持に寄与していた。しかし、深根性の品種間差異は根の伸育速度ではなく伸育日数によるものであることも明らかとなり、地上部最大期に至るまでは深根性の耐乾性への寄与は期待できないと推察された。また、根は塊茎と強い生育競合を示すため、コナフブキと比較して根優品種は早期肥大性が低く、収量ポテンシャルはコナフブキよりも低かった。以上の知見から、今後の根系改良については早期肥大性の減少を回避しつつ耐乾性を向上させることが望ましく、根/茎葉比の向上などの乾物分配の合理化や、根伸長角度などの根量とは独立した根形質の改良などが重要であると示唆された。


「ジャガイモ疫病菌に関する最近の知見 - 系統の性質や圃場での生態 -」

福江 由佳・鈴木 宣之・大塚 美幸
北海道大学大学院 農学研究院 植物病理学研究室

1.ジャガイモ疫病菌の旧型JP-3、新型JP-3およびJP-4系統の生育適温と病原力を比較した。生育適温は3系統とも15~20℃であったが、10℃ではJP-4は旧型JP-3よりも生育しやすいことから、気温の低い時期にはJP-4が有利になると考えられた。またJP-4の中にはJP-3よりも病原力が高い菌株があることが認められた。これらの性質の違いが優占系統の遷移に関与している可能性がある。
2.実験室内でジャガイモ植物体に疫病菌を接種し28〜30℃で栽培すると通常とは異なる病斑が形成された。これを「高温型病斑」として実験室内と圃場の病斑を用いてその性質を調べた。その結果、一部の高温型病斑は培養によって遊走子のうを形成し、疫病菌が分離されたもの、疫病菌DNAが検出されたものがあったことから、これらがその後の疫病の発生に関与している可能性が示された。
3.一般圃場において枯凋剤散布前〜収穫時に罹病植物体直下の表層土壌、塊茎周辺土壌、塊茎を採取し、疫病菌特異的プライマーを用いたPCRで菌の存在頻度を調査した。その結果表層土壌でもっとも検出率が高かったが、収穫時にはほとんど検出されなくなった。また土壌カラム実験では疫病菌の遊走子のうはほとんど土壌を透過しないことが確認された。これらのことから、疫病発生圃場においても収穫前の適切な防除によって土壌での疫病菌密度を大きく低下させることが可能であることが示された。


「ジャガイモ疫病菌と塊茎腐敗についての2、3の実験」

秋野 聖之
北海道大学大学院 農学研究院 植物病理学研究室

    土壌混和接種法による塊茎への疫病菌接種試験の結果、塊茎は傷がなければ疫病に感染しにくく腐敗せず、傷があっても疫病菌がなければ腐敗しない傾向が認められた。このことは疫病菌が塊茎内における細菌の増殖(腐敗)に関与している可能性を示している。また塊茎の内在性細菌は塊茎の状態(健全・疫病罹病・腐敗)に応じて変化することが確認され、疫病感染に伴い腐敗前でも塊茎内での密度が増加する場合があることが認められた。これらの内在性細菌が貯蔵中の塊茎腐敗に関与している可能性がある。