帯広畜産大学 特色ある研究の紹介 Focus

特色ある研究の紹介

共同獣医学課程
Veterinary Medicine

ホーム  >  特色ある研究の紹介/倉園 久生 教授

病原細菌学の視点から病気を解明

人獣共通の細菌感染症に
新たな診断法と予防・治療法の開発を

倉園 久生 教授

 Professor KURAZONO HISAO
倉園 久生教授

目に見えない細菌が人を倒す
そのしくみを見極めたいと研究の道へ

 父と従兄弟、弟も獣医師という環境で育った倉園教授。身近に見聞きする世界を「面白そう!」と感じ、自身も同じ道に進む。ところが進学先の日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)で学ぶうちに、「これは?!」と衝撃を受ける相手に出合う。それが食中毒で、倉園教授のライフワークとなる『病原細菌学』の道を拓く。病原細菌学とは細菌による病気がなぜ起こるのか、そのプロセスを探る学問。病気の診断と予防法の確立も目的としている。「学部生のとき食中毒を学び目に見えない細菌が人、ときには動物を倒していくことにショックを受けました。それで大阪府立大学大学院で公衆衛生学(細菌性食中毒)を学び、細菌性下痢を専門とする教授に師事するため東大医学科研究室の細菌感染研究部へ。研究者として最初に取り組んだのは、やはり食中毒です。なかでもボツリヌス菌を海外で研究したいと、統一前の西ドイツに行きました。ボツリヌス毒素は毒性が非常に強いため、その遺伝子を扱えるのは西ドイツだけだったからです」

 ボツリヌス菌培養液600 mlからは大阪府民の致死量にあたる約20 mgの毒素が精製でき、研究者は事前にワクチンを打って臨むほどだ。この菌は競争力が弱いため通常成人の腸内には定着しないが、体内の微生物がまだ少ない1才未満の赤ちゃんの腸内に定着して増えることが知られている。いわゆる乳幼児突然死症候群、SIDS(シッズ)だ。倉園教授は大学院時代に広島県の農家からある依頼を受ける。「キジの飼育農家からキジが次々死んでいくので、原因を調べてほしいということでした。疫学調査を行った結果、ボツリヌス菌を検出。キジやカモはニワトリと違って、菌に対する感受性が高い鳥類なんです」。倉園教授はボツリヌス菌の毒素をブロックするワクチンの作成に成功し、キジの感染を見事終息させた。

病気の確定は診断法があってこそ
日本初のO157食中毒事件に貢献

 食中毒では『O157』も有名だ。O157は1982年、米国のハンバーガーによる集団食中毒事件で初めて分離された。日本で確認されたのは1991年に発生した浦和の幼稚園の事例が初で、倉園教授は当初から診断に関わった。「病気は診断法がなければ原因不明の疾病になります。浦和の症例は米国での病原体の特定があったからこそ、O157と診断されたんです。O157は腸管出血性大腸菌の一種で、『菌の表面にあるO抗原(細胞壁由来)として157番目に発見された大腸菌』を意味します。症状は①大腸菌に感染したバクテリオファージの遺伝子情報に含まれる毒素遺伝子をもとに、タンパク毒素が大腸菌内で合成されて菌の外に分泌される②毒素が腸管壁を破壊して出血が起こり、吸収された毒素は血液に乗って臓器を破壊、というメカニズムで起こります。つまり食中毒の原因は菌ではなく、タンパク毒素なのです。診断法に菌の特定のDNAを増幅させるDNA検出法がありますが、タンパク毒素を直接検出することで、更に精度の高い診断を行うことができます」と、倉園教授は教えてくれた。

 教授の研究室でも病原細菌やタンパク毒素の迅速診断法を構築しているが、その情報は教授がセンター長を務める本学の動物・食品検査診断センターに反映される予定である。本学の動物・食品検査診断センターでは現在、主に道内で製造された乳製品をチェックしたり種々の動物の感染症診断を行い、道産食品の安全性向上に貢献している。

倉園 久生 教授

尿路感染症の病原因子を特定し
抗生剤に頼らない治療法開発へ

 倉園教授の研究を語るうえで外せないのが、『細菌性尿路感染症』だ。京大時代に泌尿器科の院生を預かったことから興味を持ち、研究者魂を動かされたという。この病気は膀胱炎や腎盂腎炎など、人とペットに発症する人獣共通の感染症と考えられる。「きっかけはコレラ菌の病原遺伝子と類似したものを尿路病原性大腸菌が持っていたことから、細菌性尿路感染症の発症機構を明らかにする手がかりになるのではと考え、研究を始めました。そして突き止めたのが『尿路病原性大腸菌(UPEC)に特異的な尿路病原因子、USP』です。尿路感染を起こす細菌のうちUPECが占める割合は80%以上。発見したUPECの新しい病原因子のひとつ、USPはUPECに特異的かつ高頻度に存在することから、USPに対するワクチンを作ることで尿路感染症の減少が期待できます。感染症は抗生剤で治りますが、強くなる耐性菌とのイタチごっこ。いずれ効かなくなる日が来る前に、抗生剤を使わない治療法を完成させることが着地点です。すでにその候補は見つけています」。また自然界に生息する抗生剤のソース(生物資源)が世界中でほぼ取り尽されている現状にも、教授は抗生剤治療の限界を感じている。

 倉園教授が管理する多くのラボの扉には、毒性の強い危険物を扱うバイオハザードマークが貼られている。そんな病原細菌を研究する人に求められる資質を倉園教授に問うと、「正直な人、健康な人、辛抱強い人、頭を切り替えられる人」という答えが返ってきた。危険物を間違ってこぼしたりしても、ごまかさずキチンと言える正直さは重要。被害の拡大を防げる。健康は菌に感染しやすい環境に身を置くからだ。そして研究とは、10のうち1つでも成功すればラッキーなのだとか。地道に続ける姿勢が必要だ。どうしてもダメな場合には別の方法を考える頭の切り替えも、研究には肝心だという。

 本学で複数組織のトップを務める立場上、煩雑な仕事も多くなる。しかし「研究にもっと時間を割きたい」という、倉園教授の意欲は変わらない。まだ治療法は開発段階だというが尿路感染症に悩む多くの人々、そしてペットと飼主に朗報がもたらされる日はそう遠くないだろう。

Professor
KURAZONO HISAO

倉園 久生教授

宮崎県生まれ。農学博士。日本獣医畜産大学獣医畜産学部獣医学科卒業。大阪府立大学大学院農学研究科の博士課程修了後1986年、東京大学医科学研究所(細菌感染研究部)助手に。旧西ドイツの研究所を経て1991年、京都大学医学部(微生物学教室)助手。岡山大学医学部教授、大阪府立大学大学院教授ほかを歴任後、2007年本学に。現在は副学長と国際認証担当を兼任。獣医学教育のEU(欧州)基準認証取得に向けて、東奔西走している。

Data/Column

  • column_photo-1

抗原抗体反応を利用した検査手法の一つであるイムノクロマトグラフィー法。主に、細菌やウイルスなどの病原体の検出に用いられる。