帯広畜産大学 特色ある研究の紹介 Focus

特色ある研究の紹介

畜産科学課程
Agriculture

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ゲノムを探査して世界中の食と健康の質を高めることに貢献

世界各地の圃場から遺伝子レベルまで
植物育種学の可能性を追究

加藤清明 教授

 Professor KATO KIYOAKI
加藤 清明教授

不可能を可能にするために
ゲノム探査が行われている

 北海道は寒冷地ゆえ、高温多湿が適した稲作はできないといわれていた。「Boys, be ambitious」という名言を残したクラーク博士さえ北海道での稲作は無理だと語ったそうだ。しかし、先人達の不屈の挑戦とたゆまぬ努力で約150年前、稲作に成功。その後の品種改良によって寒冷地に適したイネも開発されて、いまや北海道は国内トップクラスの米どころになった。

 品種改良は、異なる性質をもった品種を掛け合わせ、目的とした性質を組み合わせたもの、あるいは目的の形質を強化したものを選抜するという作業が何度も繰り返されている。ところが、2004年12月イネの全ゲノム配列が完全解読され、このゲノム情報がインターネットを介して公開され、品種改良の飛躍的な技術開発の基盤が整ったのだ。イネなどの植物もヒトと同様に、種々の細胞から構成されており、各細胞の中には植物の特徴を決定付ける設計図ともいうべきゲノムがある。冷害や病害虫に強い、あるいは栄養価を高くするなど特徴を発揮させる遺伝子の発見に弾みがついたという訳だ。

「イネは世界の三大作物のひとつで、イネのゲノム解析が終了したことで食糧問題の解決のための技術の選択肢が大きく広がりました」と語るのは、植物育種学・植物ゲノム科学を専門とする加藤教授。イネの遺伝子のはたらきがわかりはじめたことから、特定の遺伝子のはたらきを強化したり、逆に封じ込めることも可能である。

 加藤教授の研究室でも、お米を食べることで腸粘膜バリアを強化して、アレルゲン吸収を抑え、食物アレルギーの予防につながる米の遺伝子を発見し、品種改良技術の開発につなげる研究や、イネの低温鈍感力を強化して寒い年でも安定的にお米を生産できるような品種改良技術の研究などを手掛けている。耐冷性育種技術の開発では、イネのストレス耐性を強化するため、葉の表面構造も詳細に観察。安心で安全な食のため、日々研究に励んでいるのだ。

数億個もある巨大DNA分子から
ターゲット遺伝子をハンティングする

 ゲノム解析とは、ゲノムを構成するDNA分子の塩基配列を決めることからはじまるが、4種類の塩基ATGCの羅列に過ぎないため、それだけでは全ゲノム塩基配列中のどこに重要な遺伝子があるのかわかる訳ではない。目的のはたらきをする遺伝子を突き止めるためには、生物によっては10億以上もの塩基配列を解析する必要がある。イネゲノムについては3億以上の塩基配列の中から重要な遺伝子を発見する必要がある。それはそれはもう気の遠くなるような作業が繰り返されている。それゆえ「目的としている機能をもつ遺伝子を突き止めたときは、うれしくて思わず顔がほころんでしまいますね」と加藤教授は話す。

 しかし、目的の遺伝子を見つけて終わりではない。遺伝子組換え技術のひとつで、その遺伝子を単離して増やすクローニングという作業するのに半年、さらにクローニングした遺伝子を組換えたイネを栽培して目的の特徴を発揮するのかを確認するのに1年かかり、これで遺伝子ハンティングが終わる。遺伝子の機能を決定するまでは、研究者、そして志を同じくして集った若い学生たちの努力と情熱の賜物といえるのだ。

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ゲノム解析で農業の未来
世界の食料問題の解決をめざす

 帯広畜産大学は、研究成果を地域に還元することを本分としている。帯広のある十勝は、約1,100%の食料自給率を誇る食糧供給基地。酪農・畜産をはじめ、小麦、豆類、テンサイ、イモを中心とした畑作も盛ん。その中で加藤教授は国内生産量の3割を生産する十勝の名産アズキのゲノム解析に着手。十勝産のあんこを使った和菓子・洋菓子は大変評判がいい。「忘れてならないのは、普段意識することのない空気のように、例えばコンビニで目にする豊富な食材が永続的に供給されるよう、育種の果たすべき役割は大きい」と加藤教授。

 十勝は日照時間が長く、朝夕の寒暖差が大きく、広大な畑と輪作体系が確立していることからアズキ栽培に最適。しかし本来アズキは寒さに弱いため、加藤教授はアズキから、寒さに強くする遺伝子の発見に挑んでいる。

 加藤教授は「イネゲノム解析によりトウモロコシ、コムギ、サトウキビなどイネ科植物では、遺伝子がイネと同じ順番で並んでいることが判明したため、イネ科穀類間で同種の遺伝子がどこにあるか推定できます。これはイネ以外の植物にも考えられるので、すでに解読されたダイズゲノムを参考に、アズキのゲノムを研究しています」と。ちなみに、アズキの仲間であるVigna属は、寒さだけでなく乾燥地や酸性・アルカリ性土壌など過酷な環境に適応した野生種が多数存在するので、そのゲノムが解析されると環境適応性のメカニズムが明らかになり、ストレス耐性作物の開発ができるかもしれないのだ。

 1990年代からDNA分子の全塩基配列解析をめざしたゲノムプロジェクトが、さまざまな生物種を対象に実施されており、テクノロジーの進化も相まって、その解析は急加速で進んでいる。植物のゲノム解析が進むほどに、世界の食料問題を解決するための技術的選択肢は広くなるので、近い未来には飢餓のない世界が実現するかもしれない。

Professor
KATO KIYOAKI

加藤 清明教授

岐阜県出身。北海道大学農学部在学時に、世界の食料事情の改善に役立てる稲の研究をするために植物育種学を専攻。同大学院修士課程修了後、化粧品メーカーの研究所で植物工学の研究5年と化粧品開発研究1年に携わった。1995年より帯広畜産大学に赴任し、以来、植物研究一筋。

Data/Column

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左/目的の遺伝子のはたらきを検証するために遺伝子組換え技術で改良したイネを栽培している。ここで稔ったイネの子孫に目的の特徴が現れるイネが含まれていることを願いつつ

右/白や黄色がかったアズキ、大きな粒のアズキなど、さまざまなアズキの品種を並べたもの。これらの違いがそれぞれ異なる遺伝子によって制御されているが、その遺伝子のDNA配列はまだわかっていない