帯広畜産大学 特色ある研究の紹介 Focus

特色ある研究の紹介

畜産科学課程
Agriculture

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DNA解析から種の起源や系統、進化の過程を探る

研究成果はパズルの1ピースに過ぎない
全体像を想像することにこそロマンがある

押田龍夫 教授

 Professor OSHIDA TATSUO
押田 龍夫教授

系統地理学の研究に適した『飛ぶリス』
ムササビは森のバロメーター

 大きな瞳が愛くるしいモモンガ、絵本から抜け出たようなふさふさ尻尾のリス、滑空する姿が雄々しいムササビ。この『樹上のアイドル』ともいえる動物たちが、押田教授の研究対象だ。教授はサイエンスとしての生物をより深く追究したいと、臨床ではなく研究の道を志した。ではなぜ、多種多様な生物がいるなかで彼らが選ばれたのだろう?「私の研究は『系統地理学』といって、野生動物の進化を地理と歴史の観点から探る手法をとっています。人間の地理と歴史は現在の状況と過去の事例から読みとることができ、未来予測も可能。しかし動物は地理と歴史を記録する術を持たないため、DNA解析や形態学を用いて代わりに私が彼らの地理と歴史を記録します。これによって現在の種はどこから来たのか?その地にどのように適応していったのか?などを推測することができます。特に森林に適応して生活しているモモンガ、ムササビ、リスは、森林の変化によってその分布域が大きく左右され、『森と動物の関係』を考える際に恰好の研究対象です。それが彼らに惹かれた理由です」

 押田教授はムササビやモモンガを含む、『飛ぶリス』のパイオニアともいえる研究者だ。リス類の生態学的な研究をしている専門家は少なくないのだが、教授のように系統学・分類学・形態学・細胞遺伝学など多角的な視点からアプローチしている研究者は世界でもほとんどいない。その背景には彼らの生態が関係。樹上生活者なので捕獲や観察が難しく、調査が困窮を極めるからだ。

「ムササビはアジアにしかいないので、欧米の方が調査しづらい点も影響しているでしょう」と、押田教授。日本でムササビは本州・四国・九州に生息し、その種類は世界で10数種。押田教授によるとムササビは、『森林環境のバロメーター』になる大切な生物だという。モモンガより体の大きい彼らが巣を作る場合、木の洞を利用するため樹齢を経た大木が必要だ。また食物となるさまざまな広葉樹、針葉樹の存在も欠かせない。ムササビが棲んでいることが、豊かな自然の指標となる。

希少種が集中するインドシナ北部
ベトナムリスを国際研究

 

 押田教授が現在取り組んでいる研究テーマは、『狭小性分布性固有種を多数含む大陸部動物相から大陸における固有種創出の普遍則を探る』。分かりやすく言えば、「なぜこの地域に限り、珍しい種がこんなに多いのか?」という疑問を解き明かす研究だ。期間は2014~2017年の3年間を予定。対象地域はインドシナ半島北部だ。「中国のジャイアントパンダをはじめ、1992年には『アジアのユニコーン』と呼ばれるウシ科の動物サオラがベトナムで発見されるなど、この地域は希少種・固有種の宝庫なんです」と、教授は興奮を隠さない。対象動物はもちろんリス。主なターゲットはベトナムの固有種、ベトナムリスだ。この研究はベトナムの研究機関と共同で進められている。その手法は生息するリスのDNAを解析するというもので、カウンターパート(現地の協力機関)の存在が重要になってくる。ベトナムのカウンターパートとは10年来の絆があり、細かな説明がいらないほど意志疎通はスムーズ。研究は順調に進行中である。教授によるとこうした信頼関係は、『飲みニュケーション』で築いたと笑う。「最初は警戒されるのが当たり前。でも地酒なんかを飲み交わすうちに、気心の知れた間柄になるんです」。ミャンマーでのリス研究も昨年から開始。今後の展開が期待される。

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研究成果はベトナムと共有
外来生物法の制定にも貢献

 押田教授の研究手法は仮説を立てて、それを調査により検証するというもの。インドシナ半島北部に希少種が集中している特殊性の一因として、教授は『川による分断仮説』を立てた。泳いで渡れないような隔たりが、独自の進化につながったのではと予測している。ベトナムリスのDNA解析はまだ途中だが、いつこのリスが出現したのか、他の種と近いのかなどがいずれ解明されるはず。「ベトナムリスの進化過程が分かっても、それはジグソーパズルのひとつのピースが埋まっただけ。追い求める全体像は生涯かかっても分からないでしょう。でも集めたピースがたとえば風景画の一部なのか、肖像画になるのかが分かっただけでも研究者として幸せです」。サイエンスという世界をキャンバスに、教授は壮大なロマンを描き続ける。こうした夢をカタチにするベトナムとの共同研究の成果は、押田教授だけのものではない。「リスの標本は、すべてベトナムに寄贈しています。そのためエアコン付の標本室も設置。私も見たいときはあちらへ出向きます。共同研究は学術調査だけではなく、相手国の発展につながることも大切ですね」と、押田教授。現地研究者の貴重な資料としてはもちろん、勤勉なベトナム人の知的好奇心をも刺激するに違いない。

 押田教授は本学に来てから、エゾモモンガの研究も続けている。エゾモモンガは、ユーラシア大陸北部一帯に広く分布するタイリクモモンガの一亜種である。手つかずの自然が残る富良野の東大演習林に230の巣箱をかけ、学生とともに月に1度観察。データ数がまだ少なく検証は先だが、貴重な生態学的データが蓄積されている。教授はエゾモモンガを「北海道の特有な天然林に適応した興味深い集団」と考えている。そんな彼らは調査のために巣箱から取り出すと、掌で眠ってしまうこともあるのだとか。教授のこうした基礎研究は、2005年に施行された外来生物法にも影響を与えている。自ら選んだサイエンスの世界にどんな絵を完成させるのか、これからも目が離せない。

Professor
OSHIDA TATSUO

押田 龍夫教授

神奈川県出身。理学博士。北里大学獣医学科卒業後、研究畑を志し弘前大学理学部生物学科の研究生に。北大大学院理学部研究科単位取得退学。北大理学部研究機関研究員を経て、2000~2004年まで台湾東海大学生物学系助理教授。2004年、本学畜産科学科助教授に就任。2012年より本学畜産生命科学研究部門環境生態学分野教授。

Data/Column

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左/ベトナムのジャングルに設置したモモンガ調査用巣箱。樹上をねぐらとするリス科の動物は調査が大変。捕獲をはじめ巣箱をかけ定期的に観察する、食べた植物やフンを調べるなどいろいろな作業が派生する。研究には忍耐と根気が肝要だ。

右/DNAがパッケージされているリスの染色体。生物の進化を地理と歴史的観点から探る『系統地理学』では、DNA解析が重要な役割を果たす。種のルーツをはじめ、その動物がその地域にどのようにやって来て、どう適応していったのか。DNAは多くを語ってくれる。