帯広畜産大学 特色ある研究の紹介 Focus

特色ある研究の紹介

共同獣医学課程
Veterinary Medicine

ホーム  >  特色ある研究の紹介/宮原 和郎 教授

フィルムや現像液不要のデジタルX線検査

牛の臨床現場に有用なCRを普及させ
診断精度の向上に寄与したい

宮原和郎 教授

 Professor MIYAHARA KAZURO
宮原 和郎教授

牛のX線透視検査を全道で
世界に1台の総合画像診断車

 理系科目が得意で、特に生物が好き。興味のある分野だからと本学へ入学したが、馬術部に籍を置いたことから動物と触れ合える臨床獣医師を志す。以来、職員になって35年、学部時代を入れると40数年。宮原教授は本学とともに人生を歩んできた、畜大の生き字引ともいえる。その間、時代はアナログからデジタルへ。教授の研究分野である産業動物の医療現場でも、大きな変革が起きていた。「X線透視検査によってこれまで聴診器の音に頼っていたものが、画像を見ながら診断できるようになりました。例えば牛は針金など金属を食べてしまうことが多いんですが、それも透視画像で確認できます。本学ではそうしたX線透視検査ができる産業動物総合画像診断車を、1980年に導入しました。世界にただ1台、日本の高い技術でしか作れない車です。透視検査が優れているのは牛への負担が少なく、無駄な診療をしなくて済むこと。人間なら検査時にバリウムが必要ですが、牛は4つあるうちの一番大きい第1胃の内容物がバックグラウンドとなって、他の消化管が片側に寄せられることから造影剤が不要です。ちなみに胃に針金などを見つけた場合、牛に棒状の磁石を飲み込ませます。数日するとその磁石に金属がくっつくので、胃壁や心臓に突き刺さることがないんです。診断車ではこのほか超音波診断、X線撮影、心音・心電図、内視鏡検査等ができます。診断車には牛の健康診断を行うだけではなく、獣医師の大切な卒後教育を実践する場としての役割もあります。診断車をあらゆる疾患に日常的に利用することはできませんが、診断車で体験すると聴診器の音の意味や直腸検査の感触が画像と結びつきます。個々の診療現場でも、体内をイメージできるようになります。まさに『百聞は一見にしかず』です」と、宮原教授は説明する。1996年には2代目の診断車が導入され月に1回、3〜4日の行程で道東を中心に出動。獣医系大学の依頼により、道外で診断車による実習を行ったこともある。

鮮明な画像で診断精度を押し上げる
CRの導入拡大に尽力

 2008年から宮原教授が特に力を注いでいるのは、『CR』と呼ばれるデジタルX線撮影装置の導入拡大だ。もちろん診断車にも搭載され、メーカーとともにハード・ソフトの改良に努めている。これまではX線装置を獣医師が車に積んで農家で撮影を行い、そのフィルムを家畜診療所に持ち帰ることが一般的。撮影した獣医師自身が予め準備しておいた現像液を使用し、暗室内で現像するアナログ現像だった。しかし、農家まで出向いて牛の保定など多大な労力を掛けても、撮った画像が不鮮明で結果的に役に立たないことが多い。牛は産業動物なので費用は節減したい。そんな事情から、X線検査は次第に敬遠される代物になっていった。「CRはフィルムの代わりにIPという板状のものを使い、これにX線を照射してその画像情報をモニターに映し出すシステムです。現像液や定着液、暗室も必要としません。CRが素晴らしいのは多少の撮影条件の違いは問題にならず、鮮明な画像が得られることです。また1枚の画像で骨と軟部組織の両方を診断することも可能。CRはX線検査の需要を飛躍的に拡大し、臨床診断の精度向上に貢献すると考えています」

 CRは高価なため、牛の診療を行っている道内の農業共済組合で導入しているのはまだ5カ所程度。そこで宮原教授はより多くの現場を支援したいと、『乳牛の正常X線画像』を上梓した。これは本学卒業生の大村寛氏の卒論に用いた画像をまとめた共著。文章に加えて数多くの写真媒体があると、現場の獣医師が実際に撮影した画像と比較しながら農家に説明しやすい。さらに PCで示すこともできるようにDVDも制作。月齢別、撮影方向別に牛の四肢を156点の画像で示した本書は、日本初の価値ある1冊だ。

宮原和郎 教授

動物医療センターでの豊富な経験で
地域と本学の未来を牽引

 宮原教授は1999年から現在に至るまで、本学動物医療センターで活躍している。動物医療センターは全国の獣医系大学では唯一、高度な専門治療を行う2次診療に加え一般的な1次診療も実施。診療は産業動物と伴侶動物に分かれているが、宮原教授は飼主が直接持ち込む犬や猫を担当している。「1次診療は地域の開業獣医師の経営を圧迫しないことを基本に、教育病院という立場で行っています。難しい手術も行いますが、特殊な疾病ばかりでなく日常的な病気についても学生が体験できることが特徴です。臨床獣医師をめざす学生にとっては、動物や飼主への接し方も学べる場にもなっています」

 すでにペットを飼う地域住民にとって欠かせない存在になっている本センターだが、この秋の産業動物臨床棟完成にともない小動物診療施設もさらに充実。こうした獣医学教育のEU(欧州)基準認証取得に向けての本学の動きは、海外の視察団からも高評価を得ている。「ハード面の整備に加えて現在、本センターが検討しているのは伴侶動物の夜間診療。EU認証には、海外と同レベルの体制が求められているからです。地元獣医師からは『畜大が旗振り役になってほしい』との歓迎の声も上がっていますが、人員や運営方法など解決すべき問題が少なくない。救急医療の確立も、EU認証に向けての課題です。退官までに道筋を作って、後任にいい形で渡せればと考えています」。そう語る宮原教授の表情は、どこまでも穏やかで焦りがない。これまで動物と農家・飼主、地元の開業獣医師や学会などとのパイプ役を担ってきた教授だからこそ、現状を未来へとつなぐ糸口が見えているのだろう。本学と宮原教授が手を携えて、互いの歴史に新しい足跡を刻む日はそう遠くない。

Professor
MIYAHARA KAZURO

宮原 和郎教授

札幌市生まれ。獣医学博士。本学獣医学科卒業後、同大学院修士課程修了。本学畜産学部助手を経て1997年助教授に。1999年本学動物医療センター専任教授に就任。2003年から現在まで、国際獣医放射線学会で理事を務める。2012年から現在まで、日本小動物外科専門医協会認定試験委員長。2012年より日本獣医画像診断学会会長として、臨床現場での技術的底上げを図る検定試験の実施に向けても力を注ぐ。

Data/Column

  • column_photo-1
  • column_photo-2

左/世界でただ1台、牛のX線透視検査ができる産業動物総合画像診断車。牛を後部から入れて検査。X線撮影、超音波、心音・心電図、内視鏡検査も行える。

右/依頼を受け約18t、全長12mの“動く病院”が全国各地へ。稼働は春から11月いっぱい。以前は宮原教授が運転していたが、現在は専任者がいるため診療用乗用車で先導する。