帯広畜産大学

帯広畜産大学の紹介

小田六花亭製菓㈱代表取締役社長と長澤学長の対談
 - 本学に期待する地域貢献 -

 帯広畜産大学は、学生が中心となり帯広市中心部を舞台に、十勝地域の企業、住民などと連携し、世代や地域、国を超えて人々が出会い、学びあう「学びあいのコミュニティ」を創出し、地域の活性化を図ることを目的とする「十勝カレッジSILO(サイロ)事業」を平成27年4月にスタートしました。この取り組みの一つとして、地元には多くの市民に親しまれている美味しいジンギスカン店や焼き肉店があることを全国にアピールし、ジンギスカンを通して学生や市民、企業、生産者が交流を図り、地域の活性化につなげることを目的として、8月12日に、「十勝ジンギスカン会議」を開催しました。また、現在は帯広畜産大学と六花亭製菓のコラボレーションで「畜大あんぱん」を試作中です。
 今回は、このサイロ事業の運営協議会構成員でもある六花亭製菓の小田豊代表取締役社長と長澤秀行学長が対談しました。


長澤秀行学長 (以下「長澤」):
 本学は創立して74年の歴史がありますが、設立の経緯や地域における役割等について、大学の構成員も充分に理解していません。平成16年に法人化され学外の意見を取り入れる努力はしてきました。また、最近では、国立大学が地方創生の中核となるべきだという話も聞きますが、具体的にはこれからのような気がします。

小田豊六花亭製菓㈱代表取締役社長 (以下「小田」):
 大学の数も少なく、進学率が低かった時代は、地域における大学の役割について、特に考える必要もなかったでしょうね。少子高齢化やグローバル時代の到来など、社会情勢が大きく変化しているからこそ、高等教育機関である大学、特に国立大学の役割は今後、大きくなるし、十勝に唯一存在する4年制の大学である帯広畜産大学の役割は、ここのまちづくりに非常に重要だと思います。

長澤:
 六花亭は全国的に有名な菓子メーカーですが、地域に密着した社会・文化活動にも多くの実績をお持ちです。一昨年、まちづくりのお話をいただき、昨年からサイロ事業をスタートさせていただきましたが、小田社長が考える畜産大学の役割、あるいは大学への期待の中身について、お聞かせください。

小田:
 学長と話しをするきっかけとなったのは日本を代表する経済学者の宇沢弘文さんの著書でしたね。たまたま「経済学は人びとを幸福にできるか」という本を読んだ時、大学と街の関係について書いてあって、これは畜大に相談する値打ちのある話だなあと思いました。
 僕は、子供のころから街の真ん中に住んでいて、生業も中心商店街で店をやっている訳です。経済界の仲間からは、お前のところだけ良くなってもだめで、地域の商店街という単位で良くならないとだめだと言われ続けています。しかし、全国を見渡しても中々良い事例はありません。お祭りとかイベントで中心街に人が集まって一見活気が出たように見えても、イベント終了と同時に元に戻ってしまう。そこで、社会資本としての大学、そこにいる学生が街づくりに参加する可能性について、長澤さんの意見を聞きたいと思った訳です。その時の印象はどうでした。

長澤:
 以前から、大学における人材育成にとって、正課教育とともに正課外教育の役割の重要性は指摘されていました。社会情勢が変化し、学生が多様化していますので、教育の質を上げなければならないと指摘されています。道徳観、倫理観、応用力、コミュニケーション能力、行動力といった将来にとって必要な素養を培うためには、学生が社会との接点を持つ機会を多く設定しなければいけないと思っていました。キャンパス内だけでは無理で、街なかに出てきて、さまざまな取り組みを通じて学べる機会がほしいという思いは、ずっと持っていました。ですから、十勝カレッジ・サイロに関しては、有難いお話だなあという印象でした。

小田:
 ようやくスタート地点に立ったという感じですよね。正直、以前は大学をあてにしていませんでした。やっぱり大学は机上の学問が中心で実学じゃないと。机上と実学とをどう繋げているのか、遠巻きに見ていました。ところが、長澤学長とたまたま意見交換する機会があって、そこではじめて大学も変わってきているという事実を知り、地域と大学のつながりに街づくりの可能性を感じたので、ここまで進んできたという次第です。
 サイロ事業の一つに「あんぱん」の話があります。以前に、六花亭は「酒種あんぱん」を製造販売していましたが、ヒット商品にはなりませんでした。それで大学のもっている力を活用できないかと考えました。例えば、畜大牛乳とセットというコンセプトで学生さんに企画してもらうというのはどうかと思いました。美味しい牛乳は市場にありますが、おいしさはもちろんのこと、「畜大牛乳」という響き、安心感、これはもうどうしようもない事実ですよね。どこかに安心感がありますよ。
 商品に対する思いとか、商品に対するもっているポテンシャルというのはあると思います。それはやっぱり、畜大ブランドとは言わないけど、畜大が持っている力をね、どう地域が活用するか、これはやっぱり同じ生活圏に住んでいるひとりひとりが考える時期にきていますよね。

長澤:
 私は以前から「あんぱん」には「牛乳」が一番合うと思っていました。畜大牛乳は50年以上の歴史があります。美味しいって言ってくれる人もいて、愛飲してくれている市民の方もいますが、どこが違うのかと言われると、そんなに変わらないですけど、畜大牛乳とあんぱんという組み合わせが個人的には大好きだし、一緒にすることで価値が上がるというか、ただ2つを並べるだけではなくて、そこにストーリーが出来ればもっと価値が上がる。もちろん食べ物ですから美味しくないといけませんが、これにストーリーが加わると更に商品価値があがりますね。

小田:
 最近、どこでも産学連携が積極的に進められているようですが、単なる共同研究ではない形のものは畜大にありますか。

長澤:
 本学も、地域連携、国際連携とともに企業連携には力を入れています。10年以上前、産学連携を推進するために、地域共同研究センター(現在の地域連携推進センター)という組織を新たに作り、全国の国立大学が共同研究実績を競い合っていた時期があります。しかし、多くの場合が共同研究にとどまり、大学が人材育成の場であることをなおざりにしていた感があります。本学の企業連携の場合は、敷島製パンとの企業連携が、共同研究だけではなく、教育にも参画してもらった良い例だと思います。ただ、敷島製パンは名古屋に会社がありますので、帯広では認知度が低いようです。

小田:
 十勝は小麦の生産地として有名です。最近は、十勝産の小麦を使ったパンも多く出てきたように思います。十勝には敷島製パンの工場や店舗はありませんね。パン業界第2位のパスコとの企業連携はどういったものでしょう。

長澤:
 敷島製パンのスタッフが本学の大学院に社会人入学して、院生としての学術研究はもちろんですが、学生教育にも参加してもらっています。彼は敷島製パンで製品加工に従事していましたので、パン加工技術は熟知している訳です。大学院生として新製品の開発研究を進めていますが、学生に実務家教員として教えることもできます。大学院では本学の山内教授と共同研究を実施し、北海道産あるいは十勝産小麦を使った製法で特許を数件取得し、製品化もしました。その過程を他の大学院生や学部生が見ながら学んでいくということで、この学生グループに関しては教育効果が非常に高かったです。会社としても、特許を取って、新製品が開発できたということでお互いにメリットを享受出来ました。

         試作中の「あんぱん」を畜大牛乳と一緒にご馳走になりました。

小田:
 非常にいい例ですね。やはり大学は人材育成の場ですから、教員が共同研究により成果を上げても、それは研究所とか試験研究機関でもできるわけですから、大学ならではの企業連携を進めることが重要です。
 一方で、大学は地域の社会資本という役割があるのですが、その点についてはどうでしょう。帯広にも満寿屋さんというパン屋さんがあり、十勝の小麦を使っているようですが、お菓子にはダメです。ですから、六花亭と畜大であんぱんと牛乳というのは、いい組み合わせなんですよ。地元の小豆と小麦と牛乳という組み合わせですよね。

長澤:
 小田社長は、何でもかんでも地産地消というのに否定的ですよね。確かに、味よりも地元の農産物を優先させるということであれば、疑問ですね。ただ、ストーリー性とかエネルギー等の他の要素も加味すれば、考え方は変わってくるかもしれません。大学でそこまで教育できればいいですね。
 敷島製パンは、地元の企業ではありませんが、国産小麦を使用することで日本の食糧自給率を上げようとしています。そのためには、小麦の品種改良、育種やパンの製造技術を開発する必要があります。このようなことは、地元のパン屋さんにも充分適用できることです。直接ではなくて、間接的な地域連携ということが言えると思います。

小田:
 地産地消が良くて、無農薬が良くて、遺伝子組み換えがダメで、・・・という短絡的な考え方だと、進歩がないと思います。大学は人材育成の場だというのであれば、そこまで理解して、実行できる人材を輩出してもらいたいね。
 社内では、何事にも「なぜ?」と3回聞きなさいと言っています。いろいろな工程がなぜ必要なのか、今までやっていたからではなく、なぜ必要なのかということをいつも自問自答することがとっても大事です。私たちは食品を扱っているので、特にこのことは重要だと思っています。大学でもそうでしょう?

長澤:
 そのとおりです。例えば地産地消とか、いつも言われていますけど、それがどういう意味があるのかと、何でもかんでも良いということでは無いと思います。10年以上前に日本でBSEが問題になり、人にも感染する可能性があるということで大騒ぎになりました。日本全体の状況を調べようとゆうことで、全頭検査を実施したのですが、いつのまにか全頭検査が安全性を担保するものだと勘違いされて、長い間続けていました。でも、消費者が安心かどうかというのは重要な要素ですから、「なぜ?」という問い掛けは、万事、必要だと思います。

小田:
 帯広市は、北海道に数箇所しかない衛生基準をクリアしたと畜施設を作りましたよね。十勝は農産物も豊富ですが、畜産物も日本有数の地域です。畜大として、パンと同様の取り組みで肉関係はどうですか?

長澤:
 人材育成に協力してもらう企業として日本ハムがあります。日本ハムとのコラボで畜大ハムを作りたいと思っています。
 本学のユニークなカリキュラムで、全学農畜産実習というのがあります。新入生は北海道以外から約7割で、農業を経験している学生はほとんどいません。「いただきます」の意味も知らない学生に対して、フィールドでイモやトウモロコシの栽培、羊の毛刈り、乗馬、搾乳、アイスクリーム加工、豚の飼育、その豚をと畜して肉加工など、農業全般を体験してもらい、最終日に自分たちが育てた豚のソーセージとイモをいただきながら、命の大切さを学ぶというプログラムです。

小田:
 入り口は、その全学農畜産実習でいいかもしれませんが、学年が進み、進路を考える段階になると、企業側としては、物足りない気がします。大阪の小学校の実話を基にした「豚がいた教室」という映画があったし、「銀の匙」でもそういう場面がありましたよね。小学校や高校と違うところはどこですか?

長澤:
 本学の学生の入学目的はかなりしっかりしていて、農学、畜産学、獣医学に関する理解もかなりあると思います。でも、社会が求める人材像をどこまで認識しているかとなると、疑問符がつきますよね。全学農畜産実習は、導入部分だと思っています。
 日本ハムは球団も持つ大企業だからこそ、いろんな戦略をもって会社を経営しているわけで、畜産大学を名乗る限りは学生には、家畜生産や加工だけでなく、食品衛生、動物福祉、海外展開等の現状と課題も学んでほしいと思います。


小田:
 実は、六花亭には消費期限の短い「どら焼き」というのがありまして、本当にお客に喜んでいただけるかどうかという心配はあったけれども。今日店頭に出して、その日しかもたないのですよ。それで、日持ちがしなくてごめんなさいということで「ご容赦どら焼き」という名前を付けて売っていますが、消費期限の長い方のどら焼きと、半分半分くらいで売れています。それで何が言いたいかというと、保存が利かないハムを作ってくださいよ。日をもたせようとするから色々クリアしないといけない。ヨーロッパへ行ったら必ずローストハムを買って、帰りの機内で食べてきますよ。日がもたないですからここに来ないと食べられない。日ハムの技術を利用してもいいんだけど、発光剤とか色んな類のものは全部外して、そういうのを作りませんか。

長澤:
 良いですね。私も、一度ドイツへ行って、一般の家庭に招待されて、バーベキューでソーセージを食べさせてもらったのですよ。そのソーセージの中身は肉屋さんに行って、これとこれとこれと配合してもらって、腸詰めして、それを庭で焼いてくれて、それとパンだけですね、それが美味しくてね。未だに日本で食べたことがないです。

小田:
 生のですね。それですよ。消費者はそういうのが無いと思っていますよ。ハムは保存食でしょ。そうすることによってね、食べに来ざるを得ないですよ。
 サイロ事業の一つで、十勝ジンギスカン会議を開催しましたよね。帯広市の中心部の公園で、1500人の市民を集めて地域の焼肉屋さん14社の協力を得て、大盛況でした。学生が企画して焼肉屋さんにインタビューして、それぞれの店のこだわりをまとめてパネルにして発表して、参加者も大いに喜んでいました。学生のパワーをひしひしと感じましたね。
 他の地域に見られない、学生が参加する街づくりがどんどん進んでいるという感じですが、食べ物以外で何かないのですか?

長澤:
 企業連携としては、よつ葉乳業、カルビー、日甜、日ハム、敷島製パンから始まって、今、六花亭さんとサイロ事業もやらせてもらっています。大学は人材育成の場という同じ考え方で、馬の取り組みを進めています。子供からお年寄りまで、障がい者から健常者まですべての人びとを対象として、馬と触れ合うことで心と体の健康を増進させようとする取り組みです。そもそも、十勝は馬産地として有名です。本学が設置された経緯もそこにあります。地域にとっても、大学にとっても、メリットを共有できる取り組みだと考えています。
 本学は、今、獣医学教育の国際認証取得という使命をもっています。これは、日本にとって非常に重要なことなのですが、認証を受けるためには牛や豚などの家畜の臨床例数とともに、犬や猫、そして馬の臨床例を増やす必要があります。馬の取り組みが今以上に増えれば、結果として国際水準の獣医師がここから輩出されるということになりますし、畜産王国としての十勝にとっても必要な人材と言えると思います。

小田:
 そういう取り組みが出来るのはここしかありませんね。帯広には世界で唯一のばんえい競馬があり、となりの日高町は軽種馬の産地だし、昔は馬が生活するうえで日常的に存在していたので、この馬の街には腕のいい獣医さんが自ずと育ちますね。
 今後も、畜大は全国から意識の高い学生さんを受け入れ、地元に定着させる大学の機能をこれからも進めてください。学生を街づくりに参加させることで、社会資本としての役割も充分に発揮してもらいたいと思います。

長澤:
 本学のミッションである「農場から食卓まで」を理解し実践できる人材育成という部分で、今後もサイロ事業を中心に学生に高い付加価値をつけて大いに社会貢献していきたいと思います。本日は、どうもありがとうございました。


※ 日本ハム:日本ハム株式会社
   よつ葉乳業:よつ葉乳業株式会社
   カルビー:カルビー株式会社
   日甜:日本甜菜製糖株式会社
   敷島製パン:敷島製パン株式会社

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