帯広畜産大学

帯広畜産大学の紹介

米沢帯広市長と長澤学長との対談
 -地方創生は人材育成から-

長澤秀行学長(以下「長澤」):
 今、各国立大学が地方創生の中核となるべきであると言われています。でも、東京大学と帯広畜産大学では事情がかなり違います。道内にあっても、総合大学である北大と単科大学である本学では地域との関わり方は大きく違います。同じ単科大学でも北見工業大学、小樽商科大学と本学では、それぞれのミッションが大きく異なるということで,それぞれの大学が地方創生への役割を考えるべきだと思います。
 その中で、十勝帯広における地方創生の方向性、そして大学と帯広市の連携、今後の課題等についてお聞きしたいと思います。
 まず、帯広畜産大学を帯広市としてはどういうふうに捉え、どのような役割を期待しておられるのか、連携できるとしたらどういったところを更に深めるべきなのか、ということをお聞かせください。

米沢則寿帯広市長(以下「米沢」):
 地方創生は、「まち・ひと・しごと」と言われていますが、その中でも、働いて収入を得て、生活をしていける地域でなければ人は集まりませんから、やはり、仕事をつくらないといけないと考えています。では、どんな仕事をつくっていくのかというと、地域にある資源をどう使っていくか、ということから考える必要があります。
 十勝・帯広は、開拓して130数年の中で、畑作・酪農・畜産など、農業を基幹産業としてきた地域です。その農業の周辺の仕事が、特に競争力を持っている部分だと思います。その中で、帯広畜産大学がどう仕事づくりに関わっていただけるか、ということと、この地域の産業をはじめ、色々な分野における人づくりの部分で、どれだけお力を借りられるか、ということが重要だと考えています。
 今、人づくりと言いましたが、学長から見る人づくりは、学生をしっかり教育するという意味合いがありますよね。でも、私が話している人づくりは、帯広市で働いている人たちとの何らかの共同研究、製品開発という形の中で、人も育ててもらえないかという期待も含まれています。これから、地方創生に向けて取り組むにあたって、もっと大学と深い議論をして、どんな形で一緒にお手伝いいただけるか、どんなことが出来るのかを考えなくてはいけないと思います。
 人づくりということで、都合のいいことを言えば、将来、大学からこの地域を良くしてもらえるような、活躍してもらえるような、地域の発展に資する人材を輩出していただきたいと思います。そのためにも、十勝・帯広に来た学生は定着率が高い、という状況を目指していけたら良いと思います。我々も大学のことが分からない一方で、学生さんたちも実はこの地域のことをあまり理解していないのではないでしょうか。そのことを認識した上で、学生に対して、「自分はこの地域に残る」という意識を持ってもらうといった目標をお互いが持てば、今までと違ってくると思います。
 まちづくりに学生の力を借りたいとよく言いますが、それは学生には柔軟な発想があるし、若い行動力もあるということだと思います。街の中へ学生たちに来てもらい、活動してもらうことも大切ですが、「自分はこの地域で人生をかけてみよう」といった具合に、帯広畜産大学で学んだことをベースにして、4年間で練った構想を十勝・帯広で実現してみようとする人材を、是非、輩出して欲しいという想いがあります。

 

長澤:
 地元定着率というのは全国的に問題になっています。関東地区の大学では、学生は地方から集めて就職先は関東へという,いわゆる地元定着率が非常に高いです。例えば九州の大学では就職先は関東や関西の都市へ行ってしまいます。北海道もしかりですが、北海道大学は北海道内外から学生を集めて関東に輩出もしますが、札幌にも就職しますので、定着率がある程度高いです。ところが、地方にある大学の中でも、帯広畜産大学は全国から学生を集めて地元に定着するという地元定着率が飛び抜けて良いです。
 飛び抜けて良いといっても北海道は広いし、札幌もあるのではないかということになりますが、十勝からの入学者に限定しても、ここ3年間の平均は8%ですが、就職率を見ると十勝に就職しているのは25%と、非常に高い割合です。本学の学生は北海道や十勝が好きで入学してきて、学生生活を過ごしてみると、やっぱりここは良い地域なので、出来ればここで就職したいと思っている学生が非常に多いということだと思います。

米沢:
 これから一番にやらないといけないのはもっと学生にこの地域を好きになってもらうことと、今25%就職してもらっているようですが、もっと増やしてもいいと思いますし、就職した人たちの定着率も大切なことで、数か月で辞めたりしないというケースを増やしていくと良いと思います。
 また、新卒だけではなく、帯広畜産大学のOBに十勝で起業して欲しいという思いがあります。全国に散らばって色々な企業や研究所に就職した人たちが、ある程度の年齢になったときに、「昔愛したフィールドに帰って、人生をかけてやってみたい」という想いを抱きながら、帯広に戻ってくるといった形になればと思います。母校があって、先生たちとの関わりもあって、仲間もいるという環境のもと、ここで起業してくれると素晴らしいですね。その際、起業しやすい仕組みを私たちの方でしっかり整えることができれば良いと思います。
よく、外から人を持ってきたいなどと話すことがありますが、それでは不十分だと、最近感じています。「面白いから十勝にいらっしゃい」と、十勝のことをあまり知らない人に勧めても、まずは十勝の説明をして興味を持ってもらわないといけませんが、一方で、帯広畜産大学のOBという、ここの地域のことをすでに分かってくれている1つのカテゴリーがあるわけです。今の学生さんについても、4年間の学生生活の中で、十分にこの地域を見て、知って、好きになっていただきたいと思います。
この地域には、そもそも仕事が溢れているわけではありませんが、仕事をつくらなければならないからといって、ただ闇雲につくろうとしても非常に困難です。こうした中、帯広畜産大学のOBで戻って来てくれる人達が、凄く重要な人材のリソースなのではないかと考えているところです。

長澤:
 本学の特色として、新入生の9割以上が初めて帯広で生活する学生です。留学生も今年は24カ国から80名の学生が在学しています。全学生の約6%が留学生です。地域の情報を如何に伝えるかということは、今後の方向性に非常に重要ですね。初めて見聞きする帯広に対して、色々な感想や意見をまちづくりに反映することも期待できるかもしれません。
 大学は人材育成が目的の組織ですから、まちづくりに参加することも人間形成に重要なことだと思いますが、肝心の農学分野の教育研究を進め、社会に貢献できる人材を育成することが社会への説明責任として大事なことだと考えています。農学分野においてフィールドは大事な要素になりますから、十勝・帯広に帯広畜産大学が存在していることは大学にとって非常に有利な点です。学生には、大学キャンパスだけではなく、畑や企業で色んな人たちとコミュニケーションを取りながら、人間形成も含めて地域に出て行って学んでもらいたいということで、あのSILO(サイロ)事業(※1)を始めました。大学のミッションでは「食を支え、くらしを守る」人材の育成、「農場から食卓へ」広い視野をもった人材の育成を掲げていますが、大学の中だけだと消費者の視点の部分が欠けています。ですから、街に出て視野を広げるのが、あのSILO(サイロ)事業です。
 この取り組みを通して十勝への理解が深まって、地域が好きになって,出来れば就職したいといった時に、自分が学んだ技術が活用できるかもしれないということになればと思います。もう少し長いスパンで学生がまちづくりに参画するというのを考えていただければ良いと思います。

米沢:
 おっしゃるとおりだと思います。学生さんは、この地域、帯広畜産大学で学べることについて関心を持って、ここへ来たわけですから、それが実際に面白かったと感じられて、なおかつ、学んだことを一番実践できるのがこの地域であれば、残ってくれるのではないかと思います。または、この地域に何か可能性があると思ってもらえれば、残って貰えるのではないでしょうか。
 SILO(サイロ)事業のように、学生が地域と関わる取り組みを進めていただくというのは素晴らしいことだと思うので、これは本当に続けていきたいと思っています。この事業は非常に面白いものになるでしょう。

長澤:
 SILO(サイロ)事業の1つである、今年の夏に開催されたジンギスカン会議(※2)は、結果的には成功裏に終わりましたが、実行委員の学生は色々と苦労したようです。
 私は学生中心の大学づくりを掲げていますけど、決して学生をお客さん扱いするということではありません。学生を中心にしていかに学生に付加価値を付けるかという意味で、学生中心と言っているわけです。

米沢:
 地域住民あるいは事業者の皆さんと関わる中で、色々と大変な経験をされた学生達は、もし十勝・帯広を離れても、絶対に思い出すでしょう。そういうことは、きっと嬉しかった部分も大きいのではないかと思います。やはり、人と接したときの感動や驚きがないと駄目で、就職活動のように予め用意された場所ではそれが出てきません。実際に物が動いたり、お金が動いたりする場所に入っていくと、大人たちも厳しいですが、その分、得るものも大きいと思います。ですから、学生が地域と接点を持てるという機会を、もっと我々もつくっていけたらと思います。
 学生だからキャンパス内で勉強していなさいというのではなくて、街に出てきてもらって、学生と仕事をやっている人間たちとの接点が増えることで、また新しい街の雰囲気が出てくるはずです。
 若い人がなかなか入って来ないところに、学生という切り口で若いジェネレーションが入ってイベントなりを一緒にやっていくと、欠けていたものが補填される。そういう面では、学生さんにまちなかに出てきてもらうのは嬉しいと思っています。

長澤:
 そうですね。もう1つ、ジンギスカン会議の話ですが、ある焼肉屋さんに協力のお願いに行ったら、社長さんが先代から畜大が来たら全面協力するようにと言われていますということでした。どうしてですか?と聞いたら、うちの店は創業時、人出が無くて、畜大生に助けて貰ったという訳です。先代の社長が大学に来て、肉食べさせるから手伝わないかと言って人を集めて、ずっと畜大生のバイトが店を手伝って今に至っているそうです。それでジンギスカン会議は手伝っていただけることになりました。地元定着率が高い理由は、このような要素もあるかもしれません。

米沢:
 地元定着に関連して言えば、帯広市は移住・定住を推進していますが、帯広畜産大学のOBの方々にもアプローチできればと思っています。繰り返しになりますが、ここに縁があった人の方が、より十勝・帯広のことを分かってくれているので、地域の即戦力になると思います。もうひと仕事出来るぞ、という方々に対して、少し若いタイミングで勧めていけたらと思います。
 40歳、あるいは50歳くらいになった時に、セカンドキャリアは十勝で起業して、たまたま飲み屋に入ったら昔一緒に飲んだ人が偶然いたりして、久しぶりに話をしたら何か一緒にやってみようという流れになる。こういうのが面白いと思います。

長澤:
 大学はグローバル人材を育成するという目標を掲げていますが、やはり一旦社会に出て、色々な経験を積んだ上で、大学にフィードバックしてもらう手段を用意しないと、同窓生との連携は難しいかもしれません。最近は、各地にある本学の同窓会支部に参加して、大学の近況報告や大学に対する要望を聞き取り始めたような段階です。先日はブラジル支部に出席してきました。グローバル人材の育成には同窓生の協力も必要ですね。

米沢:
  「グローバル人材」という言葉は私たちもよく使いますが、なかなか定義が曖昧ですよね。英語を使うことができればグローバルなのかといえば、そういうことでもない。
 この点で言えば、卒業生の方たちの経験値が、帯広畜産大学にとって貴重な財産になると思っています。ベースは農林漁業であることが多いと思いますが、地理的にも、分野的にも様々なところに出て行っているように思えます。
 例えば、卒業生の皆さんが、国内外で経験したことや知見を蓄えて、この地域に集まってきて、その方々たちと学生やこの街の人たちが接点を持つことができれば、グローバル化が達成されるのではないでしょうか。
 こうした形でグローバルな思考が畜大さんの周りに集まれば、より具体的で面白い活動が出来ると思います。

長澤:
 企業連携、地域連携、国際連携を重視して本学は人材育成を進めていますが、ここ帯広市でないとできないような教育プログラムを確立したいと思っています。現在、帯広市とフードバレーとかち人材育成事業(※3)を一緒にやらせてもらっていますが、これを基本に、どこでも学べないような、本当に社会に役に立つ、海外にも注目されるような人材育成コースあるいは組織を作っていければ面白いですね。

米沢:
 面白いと思いますね。無いから出来ないのではなくて、つくれば良いですよ。今まで、連携事業と言っても、1年経ってみると形だけつくって終わった、というものもある感じがします。もう一味違った、十勝・帯広ならではの人材育成をしていきたいと思います。

長澤:
 帯広畜産大学がこの十勝・帯広に設置されていた強み、利点は他のどの大学にもないと思っています。このありがたい立地条件を、どう生かせるのかというのは課題になっています。十勝・帯広に立地していて良かったというのをもっともっと生かした形で、帯広市とも色んなところで連携させてもらいたいし、人づくりにそれぞれどう役割をはたせば、もっといいものが出来るかというのをぜひ一緒にやらせていただきたいと思います。

米沢:
 是非よろしくお願いしたいと思います。
 学生さんたちが卒業して十勝・帯広を思い出した時に、胸の中に良い雰囲気が湧くような学生生活を過ごして欲しいと思っています。
 帯広畜産大学の学生さんたちに期待しているのは、「ぶら下がらない」人材です。自分でものを考えられる人材になってもらいたいと思います。学生生活には限りがありますが、困難を乗り越えたらこんな良いことがあるのだ、といったことを色々なやり取りの中で学んでくれればと思います。時間的ゆとりや、考える能力がある今だからこそ、様々なことを受け止められるので、是非、相手の気持ちも忖度(そんたく)できる、力強い人材に育って欲しいです。
 これからも帯広畜産大学にはどんどん、十勝だけではなく、世界に人を出していって欲しいと思います。私たちが、卒業生の皆さんにとって、この地域に再び何らかの接点を持ちやすい環境さえつくれば、恐らく皆さん、貢献しよう、参加しようと動いてくださると思います。一番多感な学生時代を過ごしたこの場所は、人生の宝物だと感じてくれていると思いますので。

長澤:
 そうですね。
 全国の大学生協が学生にアンケートをとっていて、約2万人の回答があった中で、自分の大学が好きかという設問に「好き・大好き」と答えた学生が全国一位でした。という話を同窓会に出席したときに話したら、「我々も大好きだよ!」と言われました。

米沢:
  それは紛れもない財産ですね。
  これからも、多くの学生さんにそう思っていただければ何よりです。

長澤:
  本日はどうもありがとうございました。

(注1)十勝カレッジSILO(サイロ)事業:本学学生が中心となって帯広市中心部を舞台に,十勝地域の企業、住民などと連携し、世代や地域,国を超えて人々が出会い、学びあう「学びあいのコミュニティ」を創出し、地域の活性化を図ることを目的とする事業。

(注2)十勝ジンギスカン会議:地元において多くの市民に親しまれている美味しいジンギスカン店や焼き肉店があることを全国にアピールし、ジンギスカンを通して学生や市民、企業、生産者が交流を図り、地域の活性化につなげることを目的として平成27年8月12日開催(十勝カレッジSILO(サイロ)事業の一部として実施)。

(注3)フードバレーとかち人材育成事業:自身のスキルアップ、企業の体力強化を通して、地域経済を活性化させたいと考えている方々を対象として、企業戦略、マーケティング、衛生管理の向上、最先端の農業技術について講習を行う。平成24年度から帯広市と共同で実施している事業。


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