食品安全に関する国際的フードシステムの構築に関する研究

 

研究室 衛生経済学研究分野
Lab for Hygiene Economics
事業推進担当者 金山 紀久(Toshihisa Kanayama),伊藤  繁(Shigeru Ito),仙北谷 康(Yasushi Senbokuya)
耕野 拓一(Hiroichi Kono)

 

研究要旨

 本分野の研究では、飼養技術の拡充や家畜の疾病のコ ントロールを通した生産性向上を図るため、アジア諸国 を中心とした途上国及び我が国における家畜疾病や疾病 コントロールの社会経済的影響を明らかにした。途上国 を対象とした研究においては、マレーシアでʼ98~99年 に発生したニパウィルスによる養豚とその関連産業への 影響、スリランカの口蹄疫対策としてワクチネーション 対策が費用便益分析による有効性、ベトナムの屠畜場整 備対策の問題点と改善点を流通面と衛生面から明らかに した。また、日本については、農場レベルのHACCP 手 法の経営経済性、農家所得と家畜疾病の因果関係、乳房 炎対策等衛生管理の向上や飼養管理の適正化による疾病 の低下に伴う所得向上、畜産における抗生物質の不使用 の経営経済性、食品産業と消費者の食の安全性に対する 経済的行動を明らかにした。

人獣共通感染症がもたらす社会経済的影響 -マレーシアにおけるニパウイルスの事例-

 98年から99年にかけてマレーシア半島部で流行したニ パウイルスの社会経済的影響について,畜産物の需給構 造変化,畜産関連産業の産業構造変化,養豚産業の縮小 に伴う関連産業への影響を中心に分析した。ニパウイル スが人獣共通感染症であるために,一部の地域では養豚 が禁止され,生体豚の輸出も完全に停止した。養豚農家 はパーム油生産の労働者,酪農,肉牛などへの転業を迫 られた。養豚はマレーシアの主要畜産部門であっただけ に経済に及ぼす影響は大きい。そこで,マレーシアの産 業連関表を利用することで,ニパウイルス発生による養 豚産業の縮小が,他の関連産業へ与えた影響を明らかに した。分析の前提として,養豚産業においてニパウイル スにより110万頭の豚が処分され,その被害額である RM2.8億の生産額の減少が畜産部門で発生した場合の, 他産業への経済波及を計測した。畜産部門への一次波及 効果の結果が第1表である。畜産部門についで影響が大 きいのが,養豚産業へ飼料を供給する飼料部門で,約 RM6千万の生産額の減少であり,対国内生産額比では 畜産部門を上回る影響を受けている。次に豚の油を利用 する油脂部門が約RM4.2千万の縮小となっている。経 済波及はこうした養豚産業に直接関係する産業ばかりで なく,不動産,ホテル・レストラン,通信など,幅広い 経済活動に影響を与えていることがわかる。ニパウイル スがもたらした養豚産業におけるRM2.8億の生産額の 減少は,一次波及効果のみでもマレーシア全体でRM5.46 億,1.95倍の経済的影響を与えていることが明らかとな った。この波及倍率はマレーシアの主要輸出部門に同額 の被害が発生した場合の1.23倍よりもはるかに大きいも のである。

酪農経営における家畜疾病と所得形成に関する分析 -北海道A 町を事例として-

 これまで酪農経営においては所得向上のための一方策 として高泌乳牛化が図られてきたが、一方で周産期病な どの家畜疾病の多発や平均産次数の低下、分娩間隔の長 期化などが問題となってきている。酪農経営における家 畜疾病に対する予防や治療は、経営行為の一環としてと しておこなわれており、所得形成と密接に関係している。 ここでの研究では、北海道のA 町の一部の酪農家を対 象に実態調査を実施し、家畜疾病が所得形成に与える影 響を整理し、その背景にある酪農家の牛群管理との関連 を明らかにすることを課題とした。主な分析結果は、次 のとおりである。(1)酪農家の所得形成要因を探るため、 所得と乳量、乳量の標準偏差、分娩間隔、乳飼比、消化 器病・妊娠分娩前後の疾病の診療回数、泌乳器病の診療 回数について相関関係を調べた結果、所得形成に影響を 与えている要因は、分娩間隔を長期化させ乳量の標準偏 差を拡大させる消化器病、妊娠・分娩前後の疾病が強く 作用していた。特に消化器病の影響が大きかった。泌乳 器病については所得形成に強い影響を与えているて与え るとは言えなかった。この結果は、泌乳器病に対する農 家の考え方が異なり、早期発見早期治療タイプと乳量を 重視して治療を遅らせるタイプの違いにより、泌乳器病 の診療回数の頻度は異なり、必ずしも診療回数が多いタ イプが泌乳器病多発農家と言えないためであると考えら れた。(2)分娩間隔と乳量のバラツキの典型的に異なる2 戸の農家を調べた結果、分娩間隔の長期化や乳量のバラ ツキの拡大の背景には、疾病のほか、労働力や飼養管理 上の問題が大きく作用していることが示唆された。

肉牛経営における抗生物質の予防的投与中止の影響と経営対応

 抗生物質投与については、それによる耐性菌の発生が 懸念されており、EU では家畜福祉の考え方の浸透もあり、 成長促進目的の抗生物質投与が段階的に廃止され、2006 年1月にはすべてが禁止されている。今後わが国におい ても食品由来のリスク低減を求める世論が強まるとともに、抗生物質に頼らない家畜生産が議論されることも考 えられ、そのためにはまず、すでに取り組まれている成 長促進目的の抗生物質投与を行わない家畜生産方式や、 EU の先進事例について、その成果と課題の整理が重要 である。この研究では、現在の国内外における家畜生産 での抗生物質投与の動きを整理するとともに、わが国の 肉牛経営において特定の抗生物質投与を中止した事例を もとに、その課題と、抗生物質の削減が実現するための 条件を解明した。具体的には、肉牛牧場におけるモネン シンナトリウム投与は、大規模乳用種肉牛肥育牧場ほど 経済的効果が大きい。つまり、乳用種の牛肉は輸入牛肉 と小売市場で競合する食材であるため、低価格化圧力に さらされているため、それへの対応が多頭飼育であり、 その際、モネンシンナトリウム投与によって飼料給与を 含めた飼養管理を省力化できるメリットが大きかった。 粗飼料を多給することによってモネンシンナトリウムに 頼らない肉牛飼養は可能である。しかし現在わが国にお ける肉牛肥育経営の多くは、粗飼料も含めて飼料のほと んどを購入しているのが現状であり、収益性の悪化は避 けられず、収益性改善のための農場レベルでの努力が第 一に求められるが、将来的にはこれを肉牛フードシステ ム全体で負担する仕組みが必要であることを明らかにした。

発表論文

著者名
論文タイトル
掲載雑誌
ページ
発行年
細野ひろみ・耕野拓一・伊藤 繁・仙北谷康・金山紀久・H.M.Somarathna 口蹄疫ワクチネーションの経済効果に関する研究
日本農業経済学会論文集 2006年度 456-459 2004
細野ひろみ・耕野拓一・伊藤 繁・仙北谷康・金山紀久 人獣共通感染症がもたらす社会経済的影響ーマレーシアにおけるニパウイルスの事例ー 日本農業経済学会論文集 2006年度 472-475 2004
中川隆・仙北谷康・金山紀久・細野ひろみ・耕野拓一・伊藤繁 酪農経営における家畜疾病と所得形成に関する分析 -北海道A町を事例として- 日本農業経済学会論文集 2006年度 41-47 2006
仙北谷康・金山紀久・樋口昭則 肉牛経営における抗生物質の予防的投与中止の影響と経営対応 日本農業経済学会論文集 2006年度 48-53 2006
Nguyen T. Minh Hoa, Hiromi Hosono, Hiroichi Kono, Nguyen Tr. Dung and Shigeru Ito Development of the Live Pig Wholesaling Activity in Vietnam : A Case Study of Nghe An Province Journal of Agricultural Development Studies 18(1) forth coming 2007
養豚部門の縮小に伴う他産業への1次波及効果
図1
酪農経営における家畜疾病と所得形成要因の相関関係
図2