抗PrP モノクローナル抗体パネルの作製と ヒツジスクレイピーおよびBSE 病原体の性状解析

 

研究室 特定疾病研究分野
Emerging and Re-emerging Disease Research Unit
事業推進担当者 堀内 基広(Motohiro Horiuchi),前田 秋彦(Akihiko Maeda)
異動先(異動先ポジション) 北海道大学大学院獣医学研究科プリオン病学講座
(教授,助教授)

 

研究要旨

 プリオン病の病原体であるプリオンの主要構成要素は 異常型プリオン蛋白質(PrPSc) である。PrP 分子上の様々 なエピトープを認識する抗体はプリオンの性状解析およ びプリオン病の診断に有用である。そこで,まず,PrP 分子の様々なエピトープに対するモノクローナル抗体 (mAb) パネルの作製を行った。得られたmAb パネルは 少なくとも10種の異なるエピトープを認識するmAb か ら構成されており,これまでに作製したポリクローナル 抗体と合わせると,PrP 分子上の大部分をカバーできる 抗体パネルが出来上がった。これらのmAb はPrP 分子 の生化学性状の解析に威力を発揮するだけでなく,ヒツ ジスクレイピーやBSE の識別などにも応用可能であった。 また,今回得られたmAb のうちBSE 由来PrPSc を高感 度に検出可能なmAb は,BSE の確認検査等にも使用さ れる等,我が国のBSE 対策にも貢献している。

プリオン蛋白質に対する 抗体パネルの作製

 プリオン蛋白質(PrP)に対する抗体は,動物プリオ ン病の高精度・高感度診断法の開発,病原因子の解析, およびプリオン病の病態解析に不可欠な道具である。そ こで,PrP の種々のエピトープを認識するモノクローナ ル抗体(mAb)パネルの作製を行った。組換えPrP(rPrP) およびプリオン感染マウス脳から精製した異常型プリオ ン蛋白質(PrPSc)およびを免疫原としてmAb を作製 した。rPrP 変異体およびPepspot 膜を用いた詳細なエ ピトープ解析から,作製したmAb は少なくとも10のグ ループに分類可能であった(表1)。これまでに作製し てきたポリクローナル抗体をあわせると,PrP 分子のほ ぼ全域をカバーする抗体パネルが得られたことになる。 これらの抗体はPrP の性状解析の有用なツールとなる ことが期待される。また,PrP これらmAb のうち,BSE 由来PrPSc と反応性が高い抗体は,我が国のBSE 確認 検査およびBSE 迅速検査用ELISA にも使用されており, 我が国のBSE 対策に貢献している。

抗PrP 抗体パネルによるスクレイピー およびBSE 由来PrPSc の性状比較

 我が国では,1970年代にヒツジの輸入に伴いスクレイ ピーが侵入したと考えられている。しかし,侵入後25年 程度の間に,我が国では複数の野外スクレイピー株が存 在することが明らかとなった。我が国でもBSE が発生 したことから,我が国に存在する野外スクレイピー株の 性状を知ることは,BSE との鑑別を含め,重要である。 そこで,PrPSc に対するパネル抗体の反応性を指標に, ヒツジスクレイピー野外株およびBSE の識別を試みた。 PrP のC 末端側を認識する抗体と,蛋白分解酵素で消 化を受ける部位の近傍を認識する抗体を組み合わせて使 用することで,スクレイピー野外例とBSE を区別する ことが可能であった(図1)。この結果から,我が国で 発生したBSE(7例目まで),同一の病原体によるもの と考えられた。一方,ヒツジスクレイピーには複数の株 が存在し,抗体の反応性はBSE と同等のスクレイピー が一例存在した。しかしこのスクレイピー株は,PrPSc の分子量などの生化学性状から,BSE と異なることも 判明した。プリオン病では,病原体に対する免疫応答が ないことから,血清学的な診断は応用できない。また, プリオンは診断等の標的となる病原体特異的な核酸を持 たないことからPCR による病原体ゲノムの増幅による 診断法が適用できない。今回作製したパネル抗体の反応 性によるプリオン株の識別は,プリオン株の迅速な識別 に有用と考えられる。

各種の新興・再興輸入ウイルス感染症に対する類症鑑別法の 開発-Padlock-probe を用いた高感度 PCR 法の応用-

 近年,流行した多くの感染症は人獣共通感染症(動物 由来感染症)であり,獣医学や医学においても各種感染 症の診断体制を確立することが急務である。本研究では, 我が国に存在しないが,将来的に輸入される危険性のあ る新興・再興の輸入ウイルス感染症について簡便で迅速 な検査法を確立することを目指した。そこで,Padlock probe を用いた RT-PCR 法による,病原ウイルスの検 出について検討した。Padlock probe は,その両末端に 相補的な遺伝子配列を有するウイルス核酸が存在する場 合,環状化する。次に,環状化された部位をはさむ様に 設計したプライマーを用いて PCR を行うことで,当該 遺伝子を増幅し,高感度に検出することが出来るものと考えられた。実際に,野生げっ歯類からヒトに感染し腎 症候性出血熱を引き起こすハンタウイルスや,蚊媒介性 に脳炎を引き起こすウエストナイルウイルスの遺伝子 RNA を,それぞれのウイルスに対するPadlock probe を 用いて検出したところ,塩基配列特異的にウイルス核酸 を増幅することが出来た。この結果は,Padlock probe を用いるRT-PCR 法は,各種ウイルス感染症の臨床診 断に応用できることを示している。また,各種のウイル ス核酸に対するPadlock probe のカクテルを用いること により,一度の反応で,多くのウイルスをmultiplex に 検査することが期待できる。

発表論文

著者名
論文タイトル
掲載雑誌
ページ
発行年
Horiuchi, M., Nemoto, T., Ishiguro, N., Furuoka, H., Mohri, S. and Shinagawa, M. Biological and biochemical characterization of sheep scrapie in Japan.
J. Clin. Microbiol. 40 3421ー3426 2002
Gombojav, A., Ishiguro, N., Horiuchi, M., Serjmayadag, D., Byambaa, B., and Shinagawa, M. Amino acid polymorphisms of PrP gene in Mongolian sheep. J. Vet. Med. Sci. 65 75ー81 2003
Kim, C-L., Umetani, A., Matsui, T., Ishiguro, N., Shinagawa, M., and Horiuchi, M. Antigenic characterization of an abnormal isoform of prion protein using a new diverse panel of monoclonal antibodies. Virology 320 41ー52 2004
認識するエピトープによる抗PrPモノクローナルの分類
図1
作製した抗体が認識するエピトープを詳細に解析した結果、今回作製した抗体パネルは、少なくとも10異なるエピトープを認識する抗体から成ることが判明した。
ヒツジスクレイピーとBSE由来PrPScの性状解析
図2
mAbによるヒツジスクレイピーとBSE由来PrPScの検出。アミノ酸119-127を認識するmAb132は全てのスクレイピーおよびBSE由来PrPScと反応するが、アミノ酸56-90に存在する繰り返し配列を認識するmAb110はBSE由来PrPScとは反応しない。また、ヒツジスクレイピーSBもmAb110とは反応しない。このように、抗PrP抗体パネルを用いることで、野外に存在するスクレイピーやBSEの性状解析が可能になる